04年に三重、京都、兵庫などを襲った記録的な大雨災害の背景を探ったルポを、琵琶湖総合開発差し止め訴訟の元原告団長、辻田啓志(ひろし)さん(77)=大阪府高槻市=が出版した。タイトルは「水害大国 天災・人災・怠慢災」(柘植書房新社)。戦後の林業政策の失敗で山が荒れ、水害を大きくしたと断じた。三重県が始めた民有林の間伐支援策も不十分と、辛口で論評している。(伊藤智章)
■行政の対策不足批判
取材には友人の愛知大学の渡辺正教授(64)が同行し、写真を撮った。
「水害の時、テレビで泥水に埋まった人家ばかりが映る。あの泥水はどこから来たのか」。こんな疑問から三重の宮川や兵庫の円山川の上流を歩いた。そこで見たのは、手入れされず、か細いままのスギやヒノキの森だった。
さらに山が大雨で崩れ、岩や土砂が飛ぶように転がった跡。木が根元から押し流されて、広場のようになった林。宮川上流は表土まで削られ、林や河原が数十センチの大きさの岩で埋まっていた。
この勢いで水が土砂とともに押し寄せたら集落はひとたまりもない。「土石流というより山津波だ」と思った。本来は同じ意味だが、土石流と表現することで、災害を国土交通省の河川管理の問題に矮小化していないか。農水省の林業政策、自治体も一緒に山の保水力再生を考えなおさないとだめだと思った。
三重県は、北川正恭知事時代の01年度から、民有林も環境林ととらえ、間伐や植樹を支援する先駆的な制度を始めた。しかし、辻田さんが宮川上流で会ったのは「もうイヤヤ、恐ろしい」と脱出を考えている住民たち。担い手を欠いては森の再生は難しい。しかも若い役人は過去の政策の誤りを認めるどころか、「天災」を強調するだけだった。
辻田さんは、琵琶湖の環境を守ろうと13年も国を相手に裁判を戦った。しかし、川や湖を守るには上流に目を向けるべきだと唱える。今回、ダム反対の河川工学者に対しても、「堤防改修を言うだけでちゃんと現場をみようとしない」とチクリと書いた。
辻田さんは現在、琵琶湖復興全国懇話会代表。谷崎潤一郎の「細雪」から、戦前の山津波の恐怖を描いた部分を引用するなど読みやすさを心がけた。133ページ。1260円(税込み)
(9月13日付け朝日新聞三重県版・電子版)