烏有亭日乗

烏の塒に帰るを眺めつつ気ままに綴る読書日記

美のバロキスム

2007-02-09 23:07:59 | 本:芸術

 『美のバロキスム』(谷川渥著、武蔵野美術大学出版局)を読む。著者の講義・講演をまとめたもので、全部で五章あるが、どこからでも読める。
 古典時代からバロックにかけての西洋絵画の様式の変遷が分かりやすく解説されているが、「バロック」に対してどういう態度で臨むのかということから美学の問題が発生しているという点が興味深かった。

 反バロックとしての美学というかたちで近代が始まったということに注意しておかなければいけません。

 ブルクハルトの弟子ヴェルフリンが視覚形式という視点からルネサンスとバロックを対置させ提示した五つの概念(線的/絵画的、平面的/深奥的、閉じられた形式/開かれた形式、多数的統一/単一的統一性、絶対的明瞭性/相対的明瞭性)はいささか形式的にすぎるが、様式が歴史の中で展開していくなかでその中に潜む普遍的な美を剔出しようとする営みが美学の欲望なのである。ここにカントの『判断力批判』の美の無関心性の問題が交差する。美に普遍性があるのか否か、この問いは狭く藝術についての問題ではなく、人間の啓蒙とも大きく関係する問題であると思う。これは藝術を「理解する」ということにも関係する。藝術を理解することと、感得することはどう関係するのか。これは他者に対する理解と共感の問題でもある。
 これほど多様な生物が繁栄していなければ生物とは何かという基本的な問いが問われなかったかもしれないように、過剰な物質性を示すバロックが発展しなければ美とは純粋に何かという問いは問われなかったかもしれない。