語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【詩歌】中原中也「月夜の浜辺」

2015年08月01日 | 詩歌
 月夜の晩に、ボタンが一つ
 波打際に、落ちてゐた。

 それを拾つて、役立てようと
 僕は思つたわけでもないが
 なぜだかそれを捨てるに忍びず
 僕はそれを、袂(たもと)に入れた。

 月夜の晩に、ボタンが一つ
 波打際に、落ちてゐた。

 それを拾つて、役立てようと
 僕は思つたわけでもないが
    月に向つてそれは抛(はふ)れず
    浪に向つてそれは抛れず
 僕はそれを、袂に入れた。

 月夜の晩に、拾つたボタンは
 指先に沁しみ、心に沁みた。

 月夜の晩に、拾つたボタンは
 どうしてそれが、捨てられようか?

□中原中也「月夜の浜辺」(『在りし日の歌』(創元社、1938)所収)
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 【参考】
【詩歌】中原中也「一つのメルヘン」
【詩歌】中原中也「湖上」
【詩歌】中原中也「汚れつちまつた悲しみに・・・・」
【詩歌】中原中也「サーカス」
【詩歌】丸ビル風景 ~正午~




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