「さーてと、2階の掃除は終わったと、これから下の部屋を掃除するから叔父さん一寸キッチンに行って腰掛けてて、ほらっあたいにつかまってー、此処に座っていると粗大塵にしちゃうよ」「はいはい、キッチンに行きますよ」。千里は居間に続いてダイニングルームの掃除をし、廊下の雑巾がけまでしてくれ、洗濯物を持って2階のベランダに行きベランダを洗濯物で満艦飾にして、「おーわった、叔父さん仏壇の掃除してる?一寸と埃ってるから綺麗にしてやるよ」、と位牌を出して仏壇の隅々まで丁寧に掃除して「よーし綺麗になった叔母さんも気持ちよくなったと思うよ」
「いやー、大活躍してくれたね、お陰でお家の中がピカピカになったよ」
「叔父さん、今何時、11時半過ぎか、今から中華饅頭を蒸すと時間的に丁度良いな、叔父さん蒸し器は?、あ、此処にあった、お茶はほうじ茶でいいね、仏さんにもお茶を上げてと」
「千里、一寸きいていいかい?、千里のお母さんは看護婦さんという事は聞いたがお父さんは?」「親父?親父はあたいが小学校の1年生の時、仕事中の事故で死んじゃったんだ、それ以来お袋と2人の母子家庭なんだ」
「そうか、お母さんが良く出来た人なんだな、亡くなられたお父さんを今でも大切にしていなさるんだ、だから千里も仏様を大切にする習慣が身についていて、叔母さんの仏前にもお茶を供えてくれたんだ」
「叔父さん、話はあとにして、ほらっ中華饅頭がふっくらと蒸しあがったから冷めない内に食べようよ」「おっ、美味しそうだなー、じゃ頂きます」と2人は蒸したての中華饅頭に舌鼓を打っていました。
「ご馳走様、あたい一寸干してある布団をひっくり返してくるからね、両面を日に当てたら布団がフワーッとなって、叔父さん今夜はふかふかの布団で気持ちよく眠れるよ、シーツも洗ったし掛け布団のカバーには洗濯糊があったからつけておいたからパリッとして最高に気持ち良いはずだよ」
「有難う、ま、一休みしなよ」「そうね、後は洗濯物が乾いたら布団と一緒に取り入れればいいだけだもんな、あっそうだ、おじさんのワイシャツ洗ったからアイロンを掛けなくては、でも未だ乾いてないから後でいいか」
「さっきの話の続きだけど、親父が亡くなったときは未だ小さかったのであまり判らなかったけど、わあわあ泣いた事は覚えているよ。さいわいお袋が看護婦をしていたので生活には困らなかったけれど、お袋が勤めで週に1回は夜勤があるので一人留守番してた、初めのうちは寂しいやら怖いやらで1人めそめそ泣いていたけど、段々慣れてきてお袋に教えてもらって簡単な料理を作る事を覚えて小学校4年生の頃には家事は何でも出来るようになってた、お袋はあたいがしたことに少々気に入らなくても、千里がしてくれて大助かるよって喜んでくれるので、ついつい乗せられちゃって頑張って今日まで来たという事、だから家事は慣れたものさ。あたいねー、お袋さんに酷く叱られたこと無いの、そりゃー悪い事をしたら叱られたけど、怒鳴りつけたり叩いたり絶対しないの、悪い事をしたときって自分でも判っているじゃん、そんなとき、がみがみやられたら、わかっているのに、うるせーなー、と反抗的になるじゃん、でもお袋は静に千里此処に座って私の話を聞いて頂戴と、あたいを自分の正面に座らせ、私の目をじーっと見つめながら諭すように、千里がしたことが何故悪い事なのかを話してくれ、千里なら私の言ったこと判るよね、もうしないでねお母さんが悲しくなるからと言うだけ。こたえるよ、こんな具合にじっくり静かに諭されると。髪を茶髪に染めたり耳にピアスをしたりしてもそういう事については何も言わないけど、ただ嘘をついたり人様に迷惑を掛けるような事は絶対しないでといわれていた、もう一つ言われていた事は千里が何をしても構わないが何時でも自分で責任が取れる範囲以外のことをしてはいけないよ、若し遣ってしまった事で自分の責任範囲を超えるようなことをしたと思ったら包み隠さず直ぐお母さんに言いなさいと言われていた。あたいお袋さんを悲しめたりしたくないから自分の責任範囲をはみ出さないように気をつけて行動しているつもり、だってお袋さんと2人が信頼しあった生活をしていかないと」
「いやー、偉いもんだ。千里は年齢より考えがずーっと大人なんだな、そういっちゃあなんだが、自転車でぶつかった時、柄は大きいし茶髪で言葉使いは乱暴だし、こいつは番長姉ちゃんかと思ったけど、俺が足を捻挫したと知ったら自転車を貸してくれ友達と会う約束をキャンセルして湿布と包帯を買ってきてくれたとき、正直言ってあれっ、意外な面があるなーと思った。その後も随分優しい心使いをして呉れるので、この子は見かけによらずちゃんと親御さんに躾けられている子だと思った。お父さんを早く亡くしたのは気の毒だったけれど素晴しいお母さんに育てられていたんだ」
「今朝、出掛けに、お袋さんに言われちゃった、貴女は言葉使いが乱暴だから自分達に仲間内では仕方が無いが叔父さんのところではちゃんとした女の子らしい話し仕方をしなさいよ、そうでないとお母さんが笑われますからねと釘を刺されてきたんだけど、おじさんに、そこいらにいる女の子の様に、それでーえとか、超なんとかでー、なんていう話し方するのは恥ずかしくて、えいっ!何時もの地のままでいいやと覚悟を決めてきたんだけど、おいおい気をつけて直すようにするからね、悪いのはあたいだからお母さんを笑わないでよ」
「笑うものか、それだけ聞けば十分だよ、叔父さんも妙にべたべたした物言いをされるより千里の乱暴言葉を聴いているほうが面白いから良いよ」
「ほんとう?ヤッター、アーよかった。お袋さんに言われてどういうふうに喋ったらいいか道々悩みながら来たんだが叔父さんに千里言葉OKを貰って千里すーっとした」
「変な奴」「ふふふあたい変な子でしょう」
「ところで、叔父さん今晩何食べたい?千里が何でも作ってやるから」「そうだなー、千里姉さん、叔父さん未だ酒のんじゃいけませんか?」「今日もう1日辛抱しなさい」「だめですか、という事だったら何か魚の煮付けと、ほうれん草のお浸しに味噌汁がいいナー」「判った、一寸買い物に行ってくるから待ってな、買い物から帰ってきたらお茶を入れてやるから」と千里は鼻歌を歌いながら買い物に行きかけました。
「一寸待てよ、財布もっていかなくちゃ」「立て替えて後で貰っても良かったのに、じゃあ預かって行って来ます、あたいの分も一緒に買ってきていい?」「いいけど、夕方には帰らなくていいの?」「お袋さん今夜は夜勤なんだ、お袋には叔父さんちで一緒に御飯食べてきていいかと聞いて。OK貰ってあるから大丈夫」
「そうか、それならいいが、黙って遅くなったらいけないと思ってね、叔父さんも一人で御飯食べるより千里と一緒に食べた方がおいしいから」「行ってきまーす」と千里は勢いよく買い物に出かけ、暫らくして「只今、魚屋さんにいい金目鯛があったから少し高かったけど買って来ちゃった、魚屋に直ぐに煮付けられるように捌いてもらってきた」と帰ってきました。
「今お茶を入れるけどお茶っ葉何処にあるの?」「食器戸棚の下のお茶の缶に入っているよ」「湯冷ましが無いからマグカップで代用してお湯を少し冷ましてと、もういい頃かな。叔父さん、はいっお茶、湯加減いいはずだよ」「おう、有難う。あー美味い、千里はお茶も上手に入れるなー」「良かった、あたいも呑もうーと」