銀座のクラブから中野のスナックに替わって、初めはとまどったわ、先ずお客さんが使う金額が銀座のクラブで使う金額と一桁違うくらい少なくて1ヵ月の売り上げが私が銀座で働いていた時の1か月分の稼ぎにもならいのにはびっくりしたわ、
こんな稼ぎしかなくて生活できるかしら、親父に援助してもらわないとやってゆけないと思った。
来てくださるお客様には気取る必要も無く、元々ざっくばらんが地のあたしにはぴったりで気楽に商売は出来たけれど、何しろ稼ぎが知れていてとてもじゃないが遣っていけそうに無いので親父に何とか援助してよと頼んだら物凄く怒って、自分を何様と思っている、自分の生活費くらい自分で何とかしろ、クラブに居た時のような金銭感覚ではダメだ、先ず今住んでいる高級マンションからでろ、お前に合うようなアパートがあるからそこに入れとお手の物で中野中央に2Kの賃貸マンションを見つけてくれ家賃はお前が払えと言われた。
余りぼろくそに言われたので私も悔しくって、よーし遣ってやろうじゃないか、もう二度と頼むものかと六本木のマンションを引き払い、贅沢な家具やドレスなども全部売り払い必要最小限度の物だけ持って引っ越してきた。
クラブに勤めていた頃には同僚に負けてはならじと無駄なお金も随分使ったけど、中野に来たらもうそう言う事をする必要もなくなったから余分な事には一切お金を使うまいと思って遣り出したら何とか女一人生活していく事が出来るようになってきた。はじめの内はついクラブの頃と比較して惨めな気分だったけど、今までの
生活がアブノーマルだったんだと気付いたらなんとも無くなった。
店のほうは銀座時代のお客さんが仕事の帰りやお付合いの帰りに顔を出してくれたり、親父が客を連れてきてくれたり、一見のサラリーマンやご近所の商店主さんたちが来てくれるようになり次第に常連さんが増えてきて、そこそこ繁盛するようになってきて、私も気合が入って一生懸命サービスに徹したわ、店が繁盛しだしたら私一人では手が廻らなくなりお客さんに満足なサービスが出来なくなってきたので
女の子を一人入れたの。
この子が中々機転の利く子で客あしらいも上手だし、素人ぜんとした素直な子だっったので私も良い子が来てくれたと随分か愛がってあげたよ。
でもその子が来てくれて1年くらい過ぎた頃から女の感で何か少し変だナーと思っていたら、ある日女の子が一身上の都合で止めさせてほしいと言ってきた。
折角店にも慣れたしお客さにも可愛がられていたので引き止めたが止めたいと言うので仕方なく止めさせたが、店に来て半年位した頃から私に内緒で親父と出来ていて、親父に店を持たせてやるからと言われてうちを止め親父に店を持たせてもらった事が暫くしてわかったの。
あの子もあの子なら親父も親父だと悔しくて悶々していたときマスターが初めて店に顔を出してくれたのよ。
マスターに浮かぬ顔をしているが何か有ったのかい?と聞かれ全部は話さなかったけれど大まかな事を話したら、そう言うことはママ有る事よ、そんなことでうじうじしていないで親父をとっちめて遣れよと励まされ、そうだね気を強く持って親父に対決しようと決めて親父に何と言う事をしてくれたの、私が知らないとでも思っているの?私を馬鹿にするのもほどほどにしてよ、こうなったからにはあんたとは縁を切らせてもらう、ついては手切れ金代わりに私にお店の権利を頂戴、私の言う事が聞けないと言うなら自宅に押しかけて奥さんに私との関係からあの子のことまで一部始終をぶちまけてやるからねと大啖呵を切ってやったの。
親父は養子婿で奥さんには頭が上がらない事を知っていたからね。それからも
すったもんだがあったけど結局は私の言い分を通して尾の店を貰ったしまったの。
悶々としてた時マスターにあって励まされたから出来たわけ。
「そうか、そう言うことがあったのか、でも店が自分のものになってよかったなー、ところで親父とはそれ以来あった無いのっかい?」
「それがえ笑っちゃうんだけどね、大揉して別れてから2年位してひょっこり親父が店に入ってきたの、あらっ!どういう風の吹き回し?って言うと、店を閉めたら一緒に寿司でもつまみに行かないか?一寸と付き合ってくれよと愁傷らしく言うので店を閉めた後付き合ってすし屋で呑んでいた時、どう?あの子とは上手く遣ってるの?と聞くと、それがナー、あいつ他に男を作って店の売り上げを皆持って逃げちまいやがった、仕入先の酒屋にも借金していたので、その付けが皆俺のところに来てしまい往生したよ。お前と仲良く遣っておれば良かったのにつまんない女に手を出したお陰で高い授業料を払わされたよ、というので、それはご愁傷様、でも
身から出た錆びだから仕方が無いだろうって言ってやった。本心はざまーみろと大笑いしてやりたかったけどね」
「今夜は詰まんない話してしまいごめんなさい、ご馳走様でした。マスターも女将さんもたまには私のところにも来て頂戴ね、そうそう親父の奴これからも店に来ていいかなー?って言うから、うちはお客さんで来てくれる限り誰でも大歓迎ですからどうぞと言ってやった、そしたら親父の奴、2兎を追うもの1兎も得ずか、なんて独りごちしながら帰って行ったわ、マスター土曜日の事は引き受けたから任せておいて、マスターの顔が立つよう大サービスするからね、おやすみなさい」
おわり