犯罪被害者の法哲学

犯罪被害・刑罰・裁判員制度・いじめ・過労死などの問題について、法哲学(主に哲学)の視点から、考えたことを書いて参ります。

ある手紙(1)

2012-10-23 00:02:46 | 国家・政治・刑罰

○○地方裁判所
裁判所書記官 ○○様

 私共の最愛の娘が亡くなってから、何年の月日が過ぎたのでしょうか。そして、娘が再び殺された無罪判決の日からは何年が経ったのでしょうか。いつも書記官席から真っ直ぐに傍聴席を見ていたあなたが、あの日は判決宣告の前から顔を伏せ、傍聴席を見ないようにしていたとき、私共は判決が無罪であることを知りました。

 この度、勝手ながら、私の心の整理のためにペンを取らせて頂きます。裁判長に伝えたいことは何もございませんが、書記官室や電話で何回かお話をさせて頂いたあなたに対しては、1つの区切りとして、お伝えしておきたいことがあります。裁判所の組織を飛び越えて、書記官であるあなたにお手紙をお送りすることは、単にご迷惑なことかも知れません。受け取れない場合には、どうか返送して頂くか、破棄して下さい。

 私は元々社交的で、友達は多いほうだったと思いますが、事故のあとは交流が数えるほどに減りました。口先だけの同情に耐えられなくて、自分のほうから縁を切ったこともありました。私が娘の話ばかりするので、愛想を尽かされて仲が悪くなった人もいました。「あなたも一人娘を奪われてから言ってください」という禁句が絶縁の原因でした。とにかく、それまで普通にしていた日常的な会話が苦痛になりました。

 世間を見渡すと、十分に幸せであるにもかかわらず、欲望を際限なく追求して不満を叫んで騒いでいる人達ばかりが目に入りました。私は、自分の人生の情けなさに崩れそうになり、引きこもりました。世間に背を向けて、違う世界で生きるようになりました。世間の幸せな人々は、娘を亡くす前の自分の姿でした。私の攻撃は自分自身に向きましたが、何をする気力も湧かずに抜け殻になっていました。

 妻とは別居になり、その半年後に離婚しました。開廷のたびに一緒に傍聴席に行っていた妻です。私も妻も、あなたの目の前で証言しました。あなたはその日のことをよく覚えていないかも知れませんが、私達はその日の細かいことまでよく覚えています。あなたにとってはどうでもいい、私の個人的なことですね。

(2)へ続きます。

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