おはようヘミングウェイ

インターネット時代の暗夜行路。一灯の前に道はない。足音の後に道ができる。

電波時計が止まっていた

2016-10-30 | Weblog
夕陽が暮れ落ちる少し前に自宅に戻り、いつものように腕時計を外し、壁掛け時計を見上げた。長短の針は午後1時51分を指していた。うん? そんな時間ではないはずだが。そう思って外したばかりの腕時計の針を見直す。秒針がピッチ走法で周回運動をしていた。夕刻の時間だった。カシオ製の電波時計が止まっていた。針がその動きを止めようとしていた頃、わたしは何をしていたのだろうか。

自宅外にいた。シネマコンプレックスのスクリーン5、I列の10番の席に座って上映されていた映画を見ていた。隣席には同伴者がひとり。席のひじ掛けにはマンゴージュレ入りジンジャーエールのカップが載ったトレイが置かれていた。なるほど、この時間帯に車で1時間ほどの距離にある自宅の電波時計は止まったようだ。

同伴者とわたしはシネマコンプレックスの高い天井と広い空間のロビーで待ち合わせた。自動券売機でチケットを買いこんだ。上映までに1時間半以上あったので昼食を取ることにした。と言うよりは、上映時間に合わせて昼食を事前に取ることに決めていた。映画館の下層階に食事ができる店がいくつも入っていた。「ニョッキが食べたい」。同伴者のひと言でイタリアンのお店に入る。入り口で女性定員が「何名さまでございますか」。「2人です」とわたし。店の一番奥にある4人掛けのテーブルにわたしたち2人を案内してくれた。ハロウィーンの仮装コンテストが館内のどこかであるらしく、それなりの服装をした人が数人いた。わたしなどは、ひょっとこの顔をするだけで、仮装なしでコンテストに参加できるのだが……。

同伴者とメニューを見ながら注文の品を選んでいく。シーザーサラダ、海老アボカドのオーロラソース、ニョッキチーズクリーム、ハーフマルゲリータピッツァ、ボンゴレビアンコ。呑み物は無料のスライスレモンを入れた氷水。わたしたちは食材と健康談議をしながら、手際よく運ばれてくる注文の品を口元に運んでいく。

「糖分と炭水化物を取り過ぎないようにしよう」「間食にお菓子は止めよう」「夜9時以降に固形物を取るのは厳禁」「体重を落として体が軽くなると、心も軽やかになる」「体重は1カ月に1キロずつ無理なく落として体をならしていく」「体重を減らしながらおいしいものも食べよう」

ニョッキチーズクリームを小分けしてもらう。芋虫にも似た風体だが、味はもちもちでお餅みたいな感触だ。クリームチーズのとろりとした味わいに塩味が相まって絶妙である。「チーズの塩味が効いているよね。塩分の取り過ぎを防ぐには林檎がいいみたいだよ。後口もさっぱりするし」とひとくさりするわたし。

お腹を腹6分ほど充たしたわたしたちは映画館へ。スクリーン5で上映されているのはインフェルノ。ダ・ヴィンチ・コードを著したダン・ブラウン原作、トム・ハンクス主演の作品。ハーバード大学宗教象徴学教授ロバート・ラングドンのシリーズ第3弾。人口が急増する人類を救うために人類の半数を殺戮するという米富豪の犯罪計画と実行を阻止しようとする物語。深慮し過ぎた結果、浅はかな行動を取る人物の思惑を、ラングドン教授が神曲の作者ダンテの言葉から読み解いていく。インテリジェンス、サスペンス、アクションが満載だ。事前に食したイタリアンが胃袋の中でこなれていく中、映画ではイタリア・フィレンツェの美しい街や美術館、寺院などがたっぷりと登場し目を愉しませてくれる。

イタリア尽くしで時間が過ぎた後に、冒頭の自宅に戻った夕刻に場面は移る。なんで、電波時計は止まっているのかな。そう思いながら壁から外す。IPADぐらいの大きさだ。裏側を見る。電池ボックスがある。蓋を開ける。単3が2本入っている。電池切れか。2本を取り出して、新たに2本を入れてみる。蓋を閉めようとしていると、時計の表側からジジジジジ……という音がしてきた。裏を返して文字盤を見る。長針と短針がけっこうな速さで右回りに動いている音だった。手持ちのスマホで現時間を確認する。午後5時53分。電波時計だから、その時間に止まるんだなと思っていたら、午後5時53分を通り越して時間を刻みつつ針は回り続ける。うーん、12時間回ったな。まだジジジと動いている。24時間回って12時で長針と短針が重なって止まった。文字盤とは別枠の日付表示は1月1日となっている。どうなっている? トリセツがどこかにあったなあと思って心当たりを探したが見つからなかった。

針は動く気配がない。裏側のいくつかあるボタンを押してみる。ピーとアラーム音が鳴ったりするが、針は動かない。そのうち針が動き出した。12時から右回りへ普通に時間を刻んでいる。現実は午後6時になろうかというのに、電波時計は12時過ぎを示している。日付けも1月1日のまま。これはおかしい。

もう1度、リセットしてみるか。裏側の電池ボックスの電池をいったん外して入れなおす。 先ほどと同じように、ジジジジジと音を発しながら長針と短針が文字盤を回りだした。軽快な速度だ。24時間回って12時で止まった。月日表示も1月1日のまま。先ほどは裏側のボタンを押すということをしたが、今度は放っておいて様子を見ることに。人間が待つのにしびれをきらす3分間になる直前に針が動き出した。なにやら現在の時間を目指して進んでいるように見える。午後1時を過ぎ、2時を通り、3時を回り、4時、5時と時間を経ていく。6時台に入っていって針がぴたりと止まった。スマホに現時間を表示させる。同じ時刻だった。

そして翌日。現在午前11時20分。月日表示は10月30日。完全に復旧したみたいだ。ちなみに室温18度、湿度59%。電波時計は忠実に今を教えてくれている。それじゃ、昼ワインでも呑みながらブランチをしようか。
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