hazar  言の葉の林を抜けて、有明の道  風の音

細々と書きためたまま放置していた散文を、少しずつ書き上げ、楽しみにしてくれていた母に届けたい

永 遠

2024年01月02日 | 絵画と詩歌について

ティム・ロゥリー Tim Lowly(1958-)大地の上のテンマ Temma on Earth 1999  (笹井 宏之
板に アクリル Acrylic on Wood 248.92 × 365.76 cm フライ美術館 Fly Museum     (1982-2009)
                                『えーえんとくちから』2010)
繊細で 全て異なる 白から黒へ 黒から白への 諧調
真っ白は どこにもなく 全ての内に あり
真っ黒は どこにもなく 全ての裡に ある
その 同じ諧調に 包れ テンマは 居る
色は 全ての中に 兆し 未だ 眠っている

ティムの娘 テンマは 1985年 生れ
14歳の 彼女は倒れている わけでは ない
そっと そこに置かれた

誰にも聴こえなくなった 大地の鼓動と 大気の振動
海の満ち引きを 血潮に聴いている
封じ込められている と 同時に 開け放たれている
命が流れ出て 時空に解き放たれ
過去や未來が 夢のように入って來て また出てゆく
輪舞するように 手を取り 手を放し その時を
全うする

ティムの テンマの繪は Anasallo の 2nd Album Canopy Glow
(2008)の ジャケット に なった
折り畳まれた 紙を開くと 歌詞の記された裏に
全図が 広がる 本物の大きさには 及ばないが

花を折つて ふり返て 曰く あれは白雲
藤野 古白(1871-1895)1890~92 頃)

ひきよせて 寄り添ふごとく 刺ししかば
声も立てなく くづおれて伏す

宮 柊ニ(1912-1986)『山西省』1949)

石田 徹也 Tetsuya Ishida(1973-2005)体液 Fluids c. 2004 頃
アクリル、油彩・カンヴァス Acrylic and Oil on Canvas 45.5 × 53.0 cm

誰も居ない 鏡の向う
もう永いこと 開かれていない
蛇口から 夜ごと 滴り落ちる
音 滲む 波紋
点いていない 灯りに瞬く 翳
夜更け 蛇口は 仄光る項となって
転がり落ち
陶器の縁に 移り住んだ
薄蒼白い 凝視の
絡まり合った 未來が
二重螺旋の
海溝の潭から
結晶化した フナムシの祖先を 回収し
頭蓋の内に溜まった 水明に 解き放つ
太古の海より とめどなく 溢れる涙は
どよめく羽を 夢見る肢先の 鰓より
大気中に撓み 垂れる二本の触角を 伝い
眠れる あなたへと 還ってゆく
踏切の 鳴る音 どこか遠くで
歪んだ車輪が 回ろうとして 震え
点滅は オーロラの搖らめきに
暗く 昏く 霧消してゆく

できるだけ ふるい まぶたを あけてみる
そこには 海が ある はず なんだ

笹井 宏之『えーえんとくちから』)

一本の蠟 燃やしつつ
妻も吾も 暗き泉を聴くごとく ゐる

宮 柊ニ 『小紺珠』1948)

       
笹井 宏之『八月のフルート奏者』2013)

蝶々の まなこ くらみぬ 散る桜
藤野 古白 1890~92 頃)

さよならの こだまが 消えてしまうころ
あなたのなかを 落ちる 海鳥

笹井 宏之『えーえんとくちから』)

稲青き 水田見ゆ と ささやきが
潮(うしほ)となりて 後尾へ伝ふ

宮 柊ニ 『山西省』

水底に 骸骨も あり 角田川
藤野 古白 1889-9-20 頃)

正岡 子規の従弟 藤野 古白 は 短銃自殺
宮 柊ニ は 第二次世界大戦を兵士として
大陸に戦い 帰還 七〇代で亡くなる 晩年
満身創痍で 萬病と闘った

笹井 宏之 は 身体表現性障害で 早逝
石田 徹也 は 踏切事故で 急逝

石田 徹也 Tetsuya Ishida 無題 Untitled c. 2000 頃
アクリル・カンヴァス Acrylic on Canvas 194.0 × 162.0 cm

何かが 思い出せぬ 飛蝗のとぶ中で
坪井 祭星

(語るべき友も なくて)
橋踏みに ひとり行くなり 秋の暮

藤野 古白

救出 という題の 繪の 背景は
霧に霞んだ 病棟か 室内のようで
丸くなろうとして 果たせず
こと切れたような 犬もいる
あなたを 助けに來てくれた人は
あの世からで その手に 未だ届かない
燃え盛る 音もなく 冷たく
その内側から 出て往かねば ならない
全ての人を 救うため
自分自身を救いたい と願いながら
それでも 開かれた窓の こちら側で
立ち竦んだまま
助からなかった 人の心を
その苦しみの 深みへ どこまでも
探し 連れ帰ろうと する
過去の くすんで 折れ曲がり
鎖された片隅で 独り慄く 幼心に
伸ばしても 伸ばしても 届かない手を
嚙み千切り 吐き出して
そこに 繪筆が 握られているのを 見る
未だ 描こうとして 震えている


石田 徹也 Tetsuya Ishida 再生 Reincarnation 2004
アクリル、油彩・カンヴァス Acrylic and Oil on Canvas 45.5 × 53.0 cm

鳳凰は 炎の中から その灰の中から
飛び立つ というが
繪は あなたの命を無限に切り刻み
聖餅のように 突きつけ
観る人の目に 呑み下させる


フリーダ・カーロ Frida Khalo ドロシー・ヘイルの自殺 the suicide of
Dorothy Hale 1938 油彩・メゾナイト Oil on Masonite 60.4 × 48.6 cm

鳥のように 雲が
落下する 女性を 覆っている それは
カンヴァスを 飛び出し 額縁に 広がってゆく
大地に逬る 血も
若くして バスの事故で 画家
腹部に 深い傷を負い 生涯
苦しんだ
彼女が愛した 21歳上の 名だたる画家の夫は
彼女が流産
手術を繰り返す間
彼女の妹と 関係を結ぶ

フリーダ・カーロ Frida Khalo 愛は 宇宙を 地球と 私自身であるメキシコを ディエゴと 犬の
ショロトゥル氏を 抱き締める Love embrace universe, the Earth, Mexico myself, Diego and
senor xolotl, 油彩・メゾナイト Oil on Masonite 70 × 60.5 cm 1949 個人蔵 Private Collection

あなたが 祖国となり 全てを抱き締め
宇宙の中の 一滴として 愛を漲らせ
とめどなく溢れさせ続ける なら

レオナルド・ダ・ヴィンチ Leonardo da Vinci(1452-1519)ベツレヘムの星(オオアマナ)と
その他の草花 A Star of Bethlehem and other plants 紙に 赤チョーク(サンギーヌ)ペン・インク
Red Cholk, Pen and Ink 19.8 × 16.0 cm(sheet of paper)
c.1506-12頃 Royal Collection Trust


レオナルド・ダ・ヴィンチ Leonardo da Vinci(1452-1519)大洪水 Deluge
紙に 黒チョーク
Black Cholk 16.1 × 20.7 cm(sheet of paper) c.1517-18頃 Royal Collection Trust

きっと辿り着ける



レオナルド・ダ・ヴィンチ Leonardo da Vinci(1452-1519) Salla delle Asse(板の間)1498

渦巻く 葉も 逆巻く 洪水も 板から 幹を伸ばし 樹冠を繁らせる 森林も 抜け


Martin Ramilez マルティン・ラミレス(1895-1963)作品
(羽のような 森に覆われた 山のトンネルから 出てきた列車)

メキシコ 生れ の ラミレスは
若くして 3人の子と身籠った妻のため
単身 合衆国に移住 5年間 鉄道で働いたが
全く英語ができず 間もなく職を失い
ホームレスとなり 施設に収容され
統合失調症から緊張症と診断されて
30年以上に亙り 病院に収監され
近隣の大学教授に絵画の才を認められ
作品が保存されるようになったが
病院を出ることも 故郷に帰ることも
病が癒えることもなく 亡くなった

夢の中 どこか 背後の 上のほうに 居る
視野に 入り切らない 程 大きな 大きな
天使の 解け 縺れた翼の みっしり生えた
羽毛の 間から 蚯蚓腫れの 蛹のように
盛り上がる トンネルを抜け ミルク色の
地肌に ジッパーのように 浮ぶ 線路から
滑らかに 湧き出す 列車に 乗り


アレックス・コルヴィル Alex Corville(1920-2013)日の出 Sunrise
紙に カラー・セリグラフ colour serigraph on paper 30.5 × 60.3 cm

夕闇のような 日の出に
背を向けながら 舟を漕いで 力一杯
画面の こちら側に 居る あなたを 乗せて


ヘールトヘン・トット・シント・ヤンス Geertgen tot Sint Jans(c.1464-c.1495)
荒野の洗礼者聖ヨハネ John the Baptist in the Wilderness 1490 オーク板に 油彩
Oil on Oak 41.5 × 27.9 cm ベルリン国立絵画館 Gemäldegalerie Berlin

空の青と 大地の赤が 夜明け前と 日暮れ後の
全き闇の中で あなたの鼓動と 微笑みに照らされ
微かな色を帯びて 目覚める時
その色を纏う あなたが 素足を僅かに重ね
渦巻く命が 降り注ぐのを 追い駈け昇る
二重螺旋に 想いを馳せている

テンマの 靴に覆われた 足 袖口から覗く 握り締められた ままの 手
テンマは 歩いている ずっと 見えない だけ
テンマは 探している ずっと あまりに 早く
テンマから 翔び去って行った ものを 時空を超えて

天から 地に堕ちた 魂 と
地下を脱し 地上に隠れる 魄 が
互いに惹かれ 結ばれて
肉体に宿った のが 人間 だという
だが 衝撃を受けると ただちに飛翔し
天上に帰ろうとする 魂 を 追い
黒々とした 峯と化した 魄 は なすすべも なく
降下しつつ 振り仰いだ 中天に
嬉しげに 遠ざかってゆく 魂 を見出す
(原田 憲雄 訳注 李 賀 歌詩論 1 蘇小小の歌 平凡社 東洋文庫 645)

  
葛飾 北斎 Katsushika Hokusai(1760-1849) 横山 大観 Yokoyama  Taikan(1868-1958)或る日の 富士越龍図 部分 Detail of Dragon Flying     太平洋 A Day in the Pacific Ocean 紙本 彩色          over Mt. Fuji 紙本 墨画 Chinese Ink on Paper  Colour on Paper 1952 135.0 × 68.5 cm 東京国立近代
 170.0 × 88.5 cm 個人蔵 Private Collection
  美術館 The National Museum of Modern Art, Tokyo


ビルケランド電流(白鳥座 ループ) (interstellar)Birkeland Current(the Cygnus Loop)

巨大な送電線 はっきりと撮影された宇宙のフィラメント
これは 白鳥座 ループの 超新星 残余を クローズアップしたもの
秒速 約 170 kmで 画像 上方向に 動いている 巨大な 衝撃 前線 の 一部分
宇宙には このような フィラメント 構造 が 多く 存在し
その内部には ビルケランド 電流 と 呼ばれる 電流が走っている
大規模構造 銀河系 太陽系 太陽フレア オーロラ など
宇宙の あらゆるスケールで 確認されている

ノルウェーの 偉大な科学者 ビルケランド
1917年 日本滞在中 東京の上野精養軒ホテルで
睡眠薬の量を誤って 摂取し 死去した
自殺した とも言われ 寺田 寅彦
この事件を 随筆『B教授の死』に書いた

ため息は 風 と なり なみだは 水 と なり
無事を祈る 心は プラズマの 流れ と なり
爽やかな 風に 包まれ 清らかな 水を くぐり
温かな 光の もとへ 巴 成し ともに


ビューティフル 公式予告編 Biutiful Official Trailer 1:47-1:48
監督 アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ Directed by Alejandro González Iñárritu


ルネ・マグリット René Magritte 会話の術
L'Art de la Conversation 1963
油彩・カンヴァス Huile sur toile 46.4 × 38 cm 個人蔵 Collection privée

行き着く先が どこで あろうと
独りでも もはや 魂魄を 失っていても
かつて ともに あったことを 想い出し
まことを尽くし 最善を尽くし 力の限り
全ての 生きとし生けるもの の
亡くなられたもの の
生まれて來なかったもの の
これから生れるもの の 全てのもの の
幸せを願い 諦めない あなたに ついて行く