あのマクドナルドが、トヨタが・・・毎日が「サービス残業地獄」/MoneyZine

2008-10-09 23:10:25 | 労働運動
「名ばかり店長」「名ばかり取締役」など、いまや正社員も派遣社員も四面楚歌。「国際競争力の確保」という国家的目的のために、すべてを犠牲にして劣悪な労働条件で勤務しなければならない時代がきた。

ついに登場した「名ばかり取締役」の衝撃
 最近残業代なしで、際限なく働かされる「名ばかり管理職」が問題になっている。外食大手のマクドナルドでは、「名ばかり店長」が本来支払われるべき残業代を請求して提訴した結果、支給されることになった。また後で触れるが天下のトヨタ自動車も「サービス残業」を奨励していた。いったい日本の企業に何が起きているのか。

 マクドナルドは、替わりに職務給を廃止して残業代の財源に充てることで、「残業代をゼロに近づけ、許可制にする」と発表したが、非難が続出したことで撤回することになった。結局、職務給は従来のままで、残業代のみ支払うことで収めるようだ。

 これまで、店長などという肩書きを付与して名ばかりの管理職として、残業代も払わずに労働奴隷のように働かせて利益を上げてきた企業側だが、その究極の業態として、ついに「名ばかり取締役」が登場した。

九州のとある県に住むAさんは、長年ゴルフガーデンに勤務していて、客とも良好な関係を保ちながら実績を上げていた。ところが、勤務先の株主が替わったとたんに、新しい経営者から、取締役支配人にならないかと勧められた。

 まだ、新しい企業側の実態がわからないAさんは一度断ったが、しつこく何回も誘われたので了解したところ、これまでとまったく同じ仕事であるにもかかわらず、残業代がゼロになってしまう。そのうえ、32万円あった給与も「管理監督者」ということで、基本給だけの25万円になってしまったのだ。

 労働基準法では、使用者が労働時間を把握して、時間外労働に割増賃金を支払うことを義務付けているが、「管理監督者」は除外されている。Aさんの場合も、会社側がここに目を付けて、肩書きだけの「取締役」として、残業代や住宅手当など手当金をカットしてしまったわけだ。

 これは、Aさん一個人だけの問題ではない。前述したマクドナルドや均一価格のコンビニチェーンとして急成長しているSHOP99などでも、同じケースがある。

 SHOP99の元店長、Bさんの場合は、入社からわずか9ヵ月で店長にさせられて、休日返上で働かされた上に残業代がなくなり、給与も29万円から21万円に減らされてしまった。

 厚生労働省では、管理監督者の資格を満たす要件として、
①経営者と一体的な立場
②出退勤が自由
③地位に相応しい待遇
などをあげている。しかし、前述した2つのケース、いやこれまで新聞などで報道されたほとんどのケースが、この要件にあてはまらないことは明白なのだ。

 これまでなら、「正社員になった」「店長になった」「取締役に昇進した」と喜んでいられたが、現在では、昇進すればするほど過酷な待遇が待っているといえるかもしれない。

 ではなぜ、こんな悲惨なことになってしまったのだろうか? それを探るには、10年以上も前に遡らなければならない。

「サービス残業」で20兆円も儲ける企業側
 1995年、日経連(日本経営者団体連盟)は「新時代の『日本的経営』」という提言を発表した。その中では、国際競争を勝ち抜くために、高コストの構造を変えなければならないとし、雇用タイプ別に3つのカテゴリー(図表参照)の創出を目指した。

 まず、正社員として一部の管理職などを長期蓄積能力活用型として分類して、その他、不安定雇用職として、業績悪化の際に人件費を削減するためのクッション役の雇用柔軟型と専門職に特化した高度専門能力活用型を設けることで、徹底的な賃金コストの削減を図っている。

 もともと財界側は、日本の高コスト構造の原因は人件費だと喧伝してきたが、この提言では、あたかも労働者側が自分の都合に合わせて、いろいろなタイプの働き方を選択できるようなイメージを持ってしまう。しかし実際には、経営者側の都合だけで、正規雇用の道がどんどん狭められているのが現状なのだ。
こうした流れの中で、1999年と2003年に労働基準法などの改正が行われる。その主旨は次の通りである。

・裁量労働制の導入
・実質的な解雇の自由化
・有期雇用契約の期間延長

 最初の項目の裁量労働制とは、8時間労働制の原則を崩して、労使が事前に決めた“みなし時間”分の残業代だけしか支払われない制度だ。つまり、月90時間の残業をしても、みなし時間が20時間なら手当はその分だけしか支給されず、残りの70時間分はただ働きになるわけだ。

 企業側は「仕事を早めに終了させれば問題ない」としているが、労働者側が効率よく仕事を切り上げても、残業代を支払わずに済むことから、どんどん仕事量が増えていくことにもなりかねない。

 実際、日本には2110万人のホワイトカラー労働者がいるが、裁量労働制による所得の喪失が、何と20兆円近くにのぼるという計算もある。企業側から見れば「サービス残業天国」で、労働者側から見れば「サービス残業地獄」ということになろうか。

 その結果、過労死ラインといわれる年間3000時間以上働く労働者が、30歳代で4人に1人いるという報告もある。

 本来、残業はさせてはいけないもので、やる場合はペナルティとして割増賃金の支払いが義務付けられているのだが、裁量労働制は、その原則を崩すために導入された制度といえるだろう。

 巻頭で紹介した「名ばかり管理職」というのも、この賃金コストを圧縮する目的から導入されている。一旦管理職にしてしまえば、残業代を支払わずに堂々とコキ使うことができるとからだ。

 企業側から見ると、「店長」や「マネージャー」という肩書きをつければ、「管理監督者」(労基法41条2号)となり、残業代の支払いは不要であると理解する。しかし、その実態は、前述したように、末端の労働者そのものであり、労基法が定める「管理監督者」とはほど遠いのは明白なのである。

正社員でもないのに正社員並みに働かされる
 二番目の「実質的な解雇の自由化」については、これまで労働基準法は、解雇の基準を提示していなかった。つまりこれは、よほどの正当な理由がなければ解雇できないという原則があったからで、判例も「解雇には正当な事由が必要」としている。

 これを変更して、解雇を原則的に自由にするのが今回の目的だ。つまり原則的に、企業側の都合で解雇が自由に認められるが、例外的に認められない場合があるとしている。これも企業側からすると、解雇自由の「リストラ天国」ということになる。

 三番目の「有期雇用契約の期間延長」とは、契約社員など有期雇用契約の上限を現行1年から3年に延長し、高度な専門職については現行の3年から5年に延長するというものだ。

 企業としては正社員を減らしたいが、使い勝手のよい有期雇用社員は、短期間では業務に習熟できずに効率が悪いということで、この制度が導入されたのだ。肝心な雇用期間は、労働者側には決定することができず、企業側が3年(専門職なら5年)を上限として、自由に決定できることになった。

 その結果、派遣労働者が急増して、中でも仕事があるときだけ雇用される「登録型派遣」や「日雇い派遣」が圧倒的に占めており、全体的に見ると賃金コストが安上がりな不安定雇用労働者が、ますます増加の一途をたどっている。

 特に15歳から24歳までの年齢層で見ると、実に43・5%が、アルバイトなどを含むパート労働者で、ある統計によると、正規労働者より年間177万円(月14万7700円)も安い賃金で働かされ、企業側の儲けは13・2兆円にのぼっているという。

 競争が激しくなった派遣会社は、得意先の企業に対して「人件費は正社員の半分以下ですむ」などと売り込んで、ダンピングをはかっている。そのために、企業が気に入らない労働者を差し替えたり、契約の一方的解除、派遣料の値切りなど、労働者を物品レンタルのように、好き勝手に取り扱っているのが現状だ。

 もともと戦後の労働法は、労働者を実際に指揮命令するものに、使用者としての全責任を負わせる「直接雇用」を基本原則として運用してきた。派遣労働は、この原則を解除した例外的な雇用形態だったが、今後、派遣社員など非正規雇用制度が重用され、この形態が常用化することになり、正社員は、一部の幹部社員を除いてますます削減されていくだろう。

 例えば、新規採用の人員を正社員から有期雇用に切り換えて、3年後に正社員登用の道をちらつかすことで、安い賃金で正社員並みに働かせることが可能になる。実際には、3年間コキ使われたあげく、正社員になれるという保障はなく、そこで契約を打ち切られても何の文句もいえない。

 企業側にすべての裁量権を持たせることによって、新規の正社員を採用せずに、正社員並みの労働を獲得できることになる。まさに、企業にとってはやりたい放題のオイシイ制度なのだ。

天下のトヨタ自動車も「サービス残業」を奨励していた
 もう1つ、この延長線上にあるのが、「ホワイトカラー・エグゼンプション」制度だ。これは、中堅のサラリーマンを1日8時間、週40時間という労働時間規制の対象から外して、何時間働いても残業代はゼロにする制度だ。日本経団連は、年収400万円以上のサラリーマンに適用しようとして法案化したが、2007年は時期尚早としていったん見送りになっている。

 経団連側は「残業代ゼロ」制度ではなくて、サラリーマンが時間に縛られず、働く時間を自由に管理できる「自己管理型労働制」と名付けている。政府もこの制度が導入されれば、長時間労働がなくなり、家庭で過ごす時間が増えて、少子化対策にも役立つといっている。

 しかし実際には、現場では過労死やサービス残業が問題になっていることから、これも賃金カットや残業代減らしの一環として、労働者の首を絞める政策の1つになるだろう。

 この5年間で、不払い残業代をしぶしぶ支払った企業は5000社にも上り、66万7000人に800億円以上の残業代が支払われている事実がある。その他、埼玉県の労働局の調査では、県内の企業の何と75%が「サービス残業」の法律違反をしていたという報告がある。

 天下のトヨタ自動車では、強さの源といわれる「QC(品質管理)サークル」が「業務外」だとして、月2時間までの手当を支払っていただけだったが、「労働時間」として認めるべきだという内外の声で見直すことになった。

 トヨタ自動車では、QCサークルは品質・生産向上運動の柱であるにもかかわらず、これまで業務外として、持ち帰り残業になっており、月に4~5時間自宅での作業が当然のように行われていたのだ。

 前述したように国際競争に勝ち抜くために賃金コストがネックになっているというが、実はトヨタ自動車は、1兆数千億円という空前の儲けを出しているのである。この巨額の利益の源泉となったのが、「QCサークル」をはじめとする「カイゼン」活動なのだ。

「乾いたタオルまで搾り取る」といわれた徹底的な労務管理が行われてきたわけだが、その活動が「業務外」扱いで、ただ働きといわれても仕方がないような制度だったことが判明したのだ。日本を代表する超優良企業の利益の源が、強制的な「ただ働き」だったとしたら、国際的にも大きな問題になるだろう。

 トヨタ自動車の広報室は、「QC活動は残業代の対象となる業務ではないものの、その代わりに支払う手当の対象となる“業務扱い”の時間を拡大する」としている。また、QCサークル以外の「創意くふう」や「ヒヤリ提案」などのカイゼン活動は、自主的な活動として、手当の対象外としている。

 すべてのカイゼン活動を業務扱いとして手当の対象としたら、人件費が大きく膨らみ、トヨタ自動車は国際的な超優良企業の座から滑り落ちることになるだろう。

 日本を代表するトップ企業がこのような方針である限り、他の企業はますますサービス残業を強要して、賃金コストの削減に努めるだろう。

 もはや労働者を守ってくれる法律も環境も存在しない。「国際競争力の確保」という錦の御旗のために、正社員は極限まで減らされた上でサービス残業を求められ、一方ますます増え続ける派遣社員は、時給1000円で正社員並みの働きを求められる暗黒の時代がやってきたのだ。

http://moneyzine.jp/article/detail/97442?p=1
図表・リンクあり


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