[TUP-Bulletin] 速報790号 冬の兵士・イラク・アフガニスタン帰還兵の証言 No.7

2008-11-17 15:38:04 | アメリカ
冬の兵士 ハート・バイジェス
交戦規則 (4)

訳 金克美 / TUP冬の兵士プロジェクト

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今こそ魂が問われる時である。夏の兵士と日和見愛国者たちは、この危機を前に身
をすくませ、祖国への奉仕から遠のくだろう。しかし、いま立ち向かう者たちこ
そ、人びとの愛と感謝を受ける資格を得る。

トマス・ペイン、小冊子「アメリカの危機」第1号冒頭1776年12月

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メリーランド州シルバースプリング公聴会
2008年3月13~16日

ハート・バイジェスです。9/11事件の直後に陸軍に入り、空挺部隊/歩兵部隊を志
願しました。結局、第82空挺師団/第325空挺歩兵連隊第1大隊/司令部及び司令部付
中隊/迫撃砲大隊、”空のハンター”、”舞い降りる死”に配属されました。2001年11
月に入隊し、2004年12月で離隊。クウェートに配置されたのは2003年2月で、3月に
始まった侵攻作戦に参加しています。

当初はバグダード空港内へ落下傘降下する予定でした。しかし第3歩兵師団の進軍
が予定よりも早かったので、われわれは陸路で入り、補給路にあたる町を確保する
ことになった。サマーワという町でした。訓練は受けてきましたが、実際に任務に
就くのはこれが初めてでした。自分は迫撃砲手、81ミリ迫撃砲の砲手でした。われ
われが配置されたのはサマーワの町の外で、ほとんどゴミ捨て場のようなところで
した。ハエがものすごくて食べることもできない。太陽が昇っている間は、携行食
のプディングを口中ハエだらけで食べることになる。

自分がそこで見たこと、というか、実際にやったことは、もっとひどかった。無線
連絡を聞いていると戦闘部隊が厄介なことになっているとか、ある建物に何人か
入っていったぞとかいう。そうすると砲撃命令を受けて、その建物を迫撃弾で破壊
してしまう。自分はタイマーをセットし、弾を、迫撃砲の弾丸を装填する。あの迫
撃砲攻撃をしたチームにいました。

これは軍隊対軍隊の戦いじゃない。町には人間が住んでいます。普通の人たち、民
間人が町に住んでいないと考えるなんてとんでもない。めちゃくちゃな話だ。自分
が撃った迫撃砲弾で町がどうなったか、ほんとうには何も見ていない。だから、数
えきれない死者を想像する。自分が罪のない民間人をいったいどれくらい殺したの
か、殺すことに手を貸したのか、わからない。

この小さなサマーワの町に対して使われた強大な兵器がもうひとつあります。AC-
130Hスペクター・ガンシップです。C-130輸送機に、弾帯式の榴弾砲を2門と、正式
名称は知りませんが、スーパー・ガトリングガンのようなものを何挺か搭載してい
ました。それでサマーワ全域を襲う。町を見境なく砲撃する。ほんとに凄い光景で
す、あのガンシップの攻撃は。何と言うか、砲弾は上空から降ってきますが、それ
はまるで大地が揺さぶられるようです。そこへ今度は、町じゅうに、家々に、カイ
オワ攻撃ヘリコプターがヘルファイヤーミサイルを撃ち込む。F-18が爆弾を落と
す。あの爆撃は、ほんとうに骨まで震える。それがずっと続く。人でいっぱいのこ
の町に自分が迫撃弾を降り注いでいるあいだ、ずっと。

無線はいつも──無線からは、いいことなど何ひとつ聞こえてきません。一度など
は、すべてのタクシーを攻撃しろという命令が流れてきました。敵はタクシーを移
動手段にしているからだと言う。イラクではどんな車でも、ただ白とオレンジに塗
ればタクシーにできる。無線を聴いていたスナイパーが「失礼ですが、聞き違いで
しょうか? タクシーをみんな攻撃するんですか?」と聞き返すと、中佐が「そう
だ、兵隊さん。タクシーをひとつ残らず撃つんだ」と応答しました。無線の会話が
終わるやいなや、町はほとんど火だるまになりました。町に入った全部隊が数え切
れないほどある車に銃弾を浴びせた。そう、人びとを撃った。タクシーの話が事実
だったという証拠がどこにありますか? これが自分のはじめての戦争体験で、そ
の後の軍隊活動は全部、ほんとうにこんな調子になってしまいました。

それからファルージャで2、3週間ほど駐屯しました。しかしC中隊がファルージャ
で発砲事件を起こしたので、自分たちは引き上げなければならなくなった[注1]。
自分のファルージャの話は、他の人の話とは違っています。略奪を受けて、米軍が
占拠したリゾート地で、人造湖に浸りながら自分は日光浴をしていました。武器は
30メートル離れたところに置きっぱなしにして。ところが町から伝わってきた話を
きくと……。

次にバグダードへ転進し、町をおおかた瓦礫に変えてしまった。そこにはきちんと
した社会体制なんてない状態でした。警察もない。米軍以外に、権限を持つものは
誰もいない。そんな状況から、われわれは我が物顔に振る舞った。人を扱うにせよ
何をするにせよ、あらゆることで傲慢になった。私は、自分では人種的な偏見を
持っていると考えませんが、何もかもが「ハジのこれ」「ハジのそれ」「ハジのタ
バコ」「ハジのバーガー」「ハジの家」「ハジの服」「ハジの敷物」でした。「ハ
ジ」はホンキーと同じです。まったく同じことです。自分で自分が何をしているの
かわかっていなかった。[ハジはイラク人を、ホンキーは白人を蔑称する言葉]

それから急襲捜索です。家を間違わなかった捜索などなかった。人を間違わなかっ
たこともない。たったの一度もない[会場から拍手]。

バグダード郊外の水処理施設にいたときのことです。この辺りは一見とても良い所
でした。木も緑もあって。ところが施設を去ろうとしたとき、突然、目の前の路上
に携行式ロケット砲を持った二人の男が走り出してきた。怒鳴り声や叫び声があが
る。男たちはそこにいた女性や子どもたちとひとかたまりになっていた。みんな口
々に「武器を捨てろ! 武器を捨てろ!」と叫んでいる。二人はロケット砲を背
負っていました。私は自分の持ち場である左側を警戒していた。彼らは右側です。
自分は持ち場をただひたすら警戒していました。しかし耐えきれなくなってライフ
ルを振り向け、ロケット砲を背負って戸口に立っている男の胸に照準を合わせました。

そうするよう訓練されていたからです。しかし男の顔を見てわかった。得体の知れ
ない怪物じゃない。敵でもない。男は怯えて混乱していた。たぶん私も、そのとき
同じ顔をしていたでしょう。たぶん彼も、私と同じようなでたらめを吹き込まれた
挙句に、こんな状況に身を置く羽目になったのでしょう。彼の顔を見たことで私は
我に返り、引き金を引かなかった。彼は逃げました。

アパッチヘリとブラッドレー戦闘車の援護を受けて、小さな美しい村に引き返し、
村人たちを尋問することになる。イラクにはちょっとした伝統があります。フセイ
ン時代には、近所にむかつく奴がいたら、「警察のだんな、あいつはフセイン大統
領の悪口をいってましたよ。放っておいていいんですか?」と言えばすむ。隣人は
連れて行かれ拷問される。今は米軍です。「やっかいものはどこのどいつだ」とわ
れわれが聞けば、村人は「あそこのあいつだ」と答える。私ともうひとりの兵士が
車で出かけていって、そいつの小屋を引っ掻き回す。さて、22口径の小さなピスト
ルしか見つからない。カラシニコフ銃も携行式ロケット砲もない。フセインの写真
も、大金の札束もない。でもかまわず二人の若い男を捕まえる。

私が軍曹に向かって「こいつらは、探している男たちではありません」と言うと、
軍曹は「心配するな。どのみち何かしでかしていたさ」と言いました。そうしてい
る間じゅう、母親が泣きながら私にすがりつき、足元に接吻しようとする。私はア
ラビア語はわかりません。しかし人間の言葉はわかります。母親は「どうかお願い
します。なぜ息子を連れていくのですか? この子たちは何もしていません」と
言っていました。私は自分がひどく無力に感じました。第82空挺師団歩兵連隊に所
属して、アパッチヘリやブラッドレー戦闘車に守られ、防護服に身を固め、手には
M4ライフルがあっても、私は無力でした。その母親を救うには無力でした。

その頃は何ひとつわかっていなかった。私は、米軍が二人を連行しても、彼らは何
も知らないと、ちゃんと調べがつくと思っていた。しかし後になって知りました。
拘束された人々は何年も拘束され続ける。親は子どもがどこにいるかさえわからない。

戦争では人間性が失われます。振り返ってみると、自分自身が身をおいていたとこ
ろはまるで異世界です。ある日、車でバクダードを走っているとき、道端に死体を
見つけました。男の死体を確保するため車をわきに寄せて、憲兵かだれか当局者が
来るのを待っていました。男は明らかに殺害されていました。すると仲間たちが車
から降り、死んだ男と一緒に写真を撮り始めた。おきまりの満面の笑顔で。そして
私に言いました。「おいバイジェス、お前もこいつと一緒に写真を撮るかい?」

私は「ノー」と答えました。「ノー」と言ったのは、めちゃくちゃなことだからで
も、倫理の基準に反しているからでもありません。断ったのは、自分が殺した獲物
ではなかったからです。自分が殺していないのに戦利品にするわけにはいきませ
ん。それが、あのときの心境でした。私はこの男が本当に死んでいることに何も感
じていなかった。自分でやってもいないことを手柄にするものじゃない、と考えて
いた。しかしそれが戦争です。それが戦争なんです。


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注1:2003年4月、ファルージャ(当時の推定人口約30万)への転進を命じられた第
82空挺師団は市の近郊に本隊を配置し、23日になって少数(約 700兵)の戦闘部隊
だけを市内に送った。各部隊は一発の銃弾を受けることもなく、それぞれ陣営を築
いている。ファルージャに本拠を置いていたバース党の部隊は、本部も基地もリ
ゾート施設もすべて捨てて霧散していた。

C中隊(150兵)が拠点としたのはアルカイド小学校だった。高い塀に囲まれた建物
が防衛に適していたからである。28日午後10時、数百人の市民が小学校へ詰めか
け、校舎の開放と教育の再開を求めて抗議の声を上げた。

C中隊の兵士数人が、抗議デモの群衆に向かって無差別に銃弾を浴びせた。市民の
死者は17人、負傷者は70人を越えたという。米軍は、銃撃を受けたので反撃し
たと主張した。しかしアメリカに本拠を置く国際人権団体「ヒューマン・ライツ・
ウオッチ」の調査によると、抗議デモを行った市民のなかに銃を手にしていた者は
いなかった。

この無差別発砲事件が問題化したため、第82空挺師団はファルージャの任務を解か
れ、バグダッドへ向けて転進することになる。事件を契機にファルージャでは、米
軍の占領に抵抗する武装勢力が組織され、断続的に攻撃をくり返していった。

翌2004年、米軍は4月と11月の二度にわたり、ファルージャ市街を完全に包囲した
上で、武装勢力の殲滅作戦を敢行した。

注2:
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凡例: [ ]は訳文の補助語句。

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 2008年9月、反戦イラク帰還兵の会(IVAW)、冬の兵士の証言集を全米で刊行。

仮題『冬の兵士証言集──イラク・アフガニスタン帰還兵が明かす戦争の真相』
編集アーロン・グランツ

Winter Soldier: Iraq and Afghanistan: Eyewitness Accounts of the
Occupations, by Iraq Veterans Against the War, edited by Aaron Glantz,
(Haymarket Books; September, 2008).
http://www.haymarketbooks.orgMerchant2merchant.mvScreen=PROD&Store_Code=Haymarket&Product_Code=HMWS
http://www.amazon.com/Winter-Soldier-Afghanistan-Eyewitness-Occupations/dp/1931859655

 岩波書店より来年刊行予定。現在、TUPにて邦訳作業中。

イラク戦争を追いつづけてきたジャーナリストが『証言集』の書評を書いてい
る。速報785号「ダール・ジャマイルが解説する冬の兵士証言集」
http://groups.yahoo.co.jp/group/TUP-Bulletin/message/816

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TUP冬の兵士プロジェクト

速報772号 イラク・アフガニスタン帰還兵の証言 No.1
ジョン・ターナー
http://groups.yahoo.co.jp/group/TUP-Bulletin/message/801

速報777号 イラク・アフガニスタン帰還兵の証言 No.2
ジェイソン・レミュー
http://groups.yahoo.co.jp/group/TUP-Bulletin/message/808

速報780号 イラク・アフガニスタン帰還兵の証言 No.3
ジェイソン・ウォッシュバーン
http://groups.yahoo.co.jp/group/TUP-Bulletin/message/811

速報781号 イラク・アフガニスタン帰還兵の証言 No.4
ジェフリー・スミス
http://groups.yahoo.co.jp/group/TUP-Bulletin/message/812

速報782号 イラク・アフガニスタン帰還兵の証言 No.5
ジェフ・ミラード
http://groups.yahoo.co.jp/group/TUP-Bulletin/message/813

速報786号 イラク・アフガニスタン帰還兵の証言 No.6
ジェフリー・ルーシーの両親ジョイス&ケビン・ルーシー
http://groups.yahoo.co.jp/group/TUP-Bulletin/message/817

ハート・バイジェスの証言ビデオ
http://ivaw.org/wintersoldier/testimony/rules-engagement-part-1/hart-viges/videohttp://warcomeshome.org/content/hart-viges

反戦イラク帰還兵の会 公式サイト
Iraq Veterans Against the War
http://ivaw.org/

反戦イラク帰還兵の会「冬の兵士」特集ページ
Winter Soldier: Iraq & Afghanistan
Eyewitness Accounts of the Occupations
http://ivaw.org/wintersoldier

KPFAラジオ プロジェクト"The War Comes Home"
http://www.warcomeshome.org/


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配信担当 古藤加奈
電子メール: TUP-Bulletin-owner@yahoogroups.jp

TUP速報の申し込みは:
 http://groups.yahoo.co.jp/group/TUP-Bulletin/


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