ウソも方便、「抑止力」は方便――「鳩山証言」から見えるもの/梅田 正己

2011-02-16 12:43:38 | 沖縄
  ウソも方便、「抑止力」は方便
   ――「鳩山証言」から見えるもの

                      ジャーナリスト 梅田 正己
                            (2011年2月15日 記)

 2月13日、日曜日の沖縄の2紙、沖縄タイムスと琉球新報は、普天間問題をめぐっての鳩山前首相インタビューでの前首相の言葉を1面トップで伝えた。

 一昨年9月、首相就任時には、普天間基地の移設先を、「できれば国外、最低でも県外」と言っていた鳩山前首相が、迷走・後退をつづけたすえ、ついに昨年5月末、県外移設を断念、自民党前政権と米国が合意していた辺野古案に舞い戻ってきたときに口にしたのが、海兵隊の「抑止力」だった。

 「学べば学ぶにつけ、海兵隊のみならず沖縄の米軍が連携して抑止力を維持していることがわかりました」
 
 ところが、そう語った本人が、1年もたっていないのに、「あれは辺野古案に戻る理屈付けだった。方便と言われれば方便だった」と言ってのけたのだ。
 バカにするな! 沖縄県民でなくとも、そう言いたくなる。当然だ。
 しかし、いかに軽く見えても、一国の首相だった人物の言葉である。
 きちんと受け止めて、学ぶべきことは学び取らなくてはならないのではないか。

 ■政治的体質は、民主党も自民党とまったく変わらない

 琉球新報の紙面から、「一問一答」の重要部分を引用しながら見てゆく。
 ――首相の「県外」の主張が、なぜ閣内で浸透しなかったのか?
 「閣僚は今までの防衛、外務の発想があり……国外は言うまでもなく県外も無理だという思いが閣内に蔓延していたし、今でもしている」
 県外なんて、ダメダメ、無理に決まってるさ。自民党幹部だけでなく、民主党の幹部たちもそう思っているし、今でもそうだ、と言っているのである。

 ――なぜ(防衛官僚言いなりのように見える)北沢俊美氏を防衛大臣に選んだのか?
 「北沢氏は外務防衛委員長をしていて防衛関係に安定した発想を持っているということだった。テーマを決めて、そのための大臣だという前に、リストを決めて、その中で一番ふさわしい人という形で当てはめていった」
 基本方針があって、それを実行できる情熱と意欲、志操、経験を持っている人間を選ぶのでなく、党内の序列、論功行賞といった評価基準にもとづいて大臣候補者のリストを作り、その中から役職を「当てはめていった」というわけだ。
 政治的体質は、自民党も民主党もまったく変わらないということだ。

 ■官僚のカベにはね返された前首相

 ――外務、防衛両省に、新しい発想を受け入れない土壌があったのでは?
 「本当に強くあった。私のようなアイデア(たとえば常時駐留なき安保)は一笑に付されていたところがあるのではないか。
 本当は、私と一緒に移設問題を考えるべき防衛省、外務省が、実は米国との間のベース(県内移設)を大事にしたかった。
 官邸に、両省の幹部2人ずつを呼んで、このメンバーでたたかっていくから、情報の機密性を大事にしようと言った翌日に、そのことが新聞記事になった。きわめて切ない思いになった。誰を信じて議論を進めればいいんだと」

 別の記事によると、前首相は外務、防衛の幹部各2人を官邸に呼んで、酒を酌み交わしながら、チームでやっていこうと語りかけたらしい。
 しかし官僚たちはそれを聞きながら、胸中では真っ赤なベロを出していたのだろう。その夜のうちにマスコミにばらしてしまった。翌朝、新聞を見た前首相の「切ない思い」は察して余りある。
 
 つづいて、前首相はこう語っている。
 「防衛省も、外務省も、沖縄の米軍基地に対する存在の当然視があり、数十年の彼らの発想の中で、かなり凝り固まっている。動かそうとしたが、元に舞い戻ってしまう」
 防衛省=自衛隊は、その発足時(警察予備隊)から、米国(米軍)に育てられ、面倒を見てもらってきた。
 外務官僚の最高位は、次官ではなく、駐米大使である。日米同盟が「日本外交の基軸」だ。
 防衛、外務、どちらの官僚も対米依存、対米従属が本性となっている。
 「数十年の発想の中で、かなり凝り固まっている」というのは、前首相のまことに正直な感想だったのだろう。

 先般、菅民主党内閣は、防衛大綱(防衛計画の大綱)を発表した。
 その下敷きとなったのが、首相の私的諮問機関である有識者懇談会だった。
 メンバーには、元駐米大使、元防衛事務次官、元統合幕僚会議議長が入っていた。他の多数は大学教授らであるが、彼らはお飾りである。
 その証拠に、新大綱の内容は、自民党政権時代につくられた前大綱の路線を忠実に守り、発展させるものだったからだ。
 防衛も、外交も、官僚が舵を取り、進めている。この国は依然として官僚国家なのである。鳩山は、官僚の厚いカベにはね返された、ないしは突進して自爆したのである。

 ■辺野古に戻るためのツジツマあわせ、本心は別

 次がいよいよ「抑止力」の登場である。
 ――(首相は孤立無援だったようだが)味方はいたのか?
 「平野博文官房長官(当時)は(望みをかけた)徳之島をいろいろと模索してくれた。少なくとも一人はいた」
 あの平野官房長官のさえない表情が目に浮かぶ。
それにしても、味方がたった一人だったとは……!

 ――(しかし)県内移設理由として在沖海兵隊の抑止力は唐突感があった。
 「徳之島も駄目で辺野古となった時、理屈付けをしなければならなかった。海兵隊自身が(沖縄に)存在することが戦争の抑止になると、直接そういうわけではないと思う。
 海兵隊が欠けると、(陸海空軍の)全てが連関している中で、米軍自身が十分な機能を果たせないという意味で抑止力という話になる。
 海兵隊自身の抑止力はどうかという話になると、抑止力でないと皆さん思われる。私もそうだと理解する。
 それを方便と言われれば方便だが。広い意味での抑止力という言葉は使えるなと思った」

 「広い意味での抑止力」。苦しい、苦しい、言い回しである。あの当時は、そんな迂遠な問題ではなかった。問うていたのは、海兵隊そのものの抑止力だった。
 だから、米軍の太平洋司令官まで出てきて、「北朝鮮の脅威」に対する「海兵隊の抑止力」を力説したのだ。もちろん、まやかしだった。
 いかにも胡散臭い抑止力説を持ち出してきて、最後は「辺野古日米合意」で押し切った前首相の責任は大きい。

 ■米・官・政のスクラムをどう突き崩すのか

 ほかにも論ずべきことはあるが、省略して末尾へ飛ぶ。
 ――(最後に)反省点は?
 「相手は沖縄というより米国だった。最初から私自身が乗り込んでいかなきゃいけなかった。これしかあり得ないという、押し込んでいく努力が必要だった。
オバマ氏も、今のままで落ち着かせるしか答えがないというぐらいに、多分(周囲から)インプットされている。日米双方が政治主導になっていなかった」

 「相手は沖縄というより米国だった」。当然だ。動かす対象は、米軍の基地だからだ。米軍は、すでに65年、そこに居座っている。それを出て行ってくれ、と言うのだ。
それがどれほど重い課題であるか、認識があまりに甘かったというほかない。

 オバマ氏も、多分、周囲からインプットされているだろう、とも言っている。
 そうだろう。アーミテージはじめ「日米安保で飯を食っている」人物はワシントンにいくらもいる。
 だが、それだけではない。米国は、自国の「国益」のために、アジアに軍を前方展開している。そのために、ずばぬけて良いサービスを提供してくれているのが日本だ。
 琉球新報にはなかったが、沖縄タイムスには、前首相のこんな発言が収録されている。
 ――なぜ米国は辺野古にこだわるのか?
 「沖縄にいることでパラダイスのような居心地のよさを感じている。国内には、沖縄より良い場所はないという発想があるのではないか」

 普天間問題解決の本丸は、米国・米軍である。
 その米国・米軍を、スクラムを組んでガードしているのが、日本の官僚である。
 そして、その官僚たちの指示のもとに発言し、動いているのが政治家たちである。

 今回、鳩山前首相が自己の体験を通して赤裸々に語ったのが、このようなこの国の政治の構図である。
 では、普天間問題の解決のため、この構図を突き崩すにはどうしたらいいのか。
 結局は、民衆・市民の意思を、広く、強く、結集する以外にない。
 民意をもって動かす以外にない。今回のエジプトのように。

 そのさい、決定的ともいえる影響力を行使するのが、マスメディアである。
 では、この国のマスメディアの現状はどうか。
 「鳩山証言」報道の翌日、14日の沖縄タイムスの社説にはこうあった。
 「……鳩山政権の動きに警戒感を募らせた米国は硬軟織り交ぜ、さまざまな圧力を新政権にかけた。
 全国紙の米国特派員は『米国が怒っている』という類いの記事を流し続けた」

 「エジプト革命」がそうだったように、この国でも民意の結集のためにはインターネットに物を言わせるしかないのだろうか。(了)
 


------------------------------------------------------------
高文研・山本邦彦
Email yamamoto@koubunken.co.jp
WWW http://www.koubunken.co.jp/

********************************************
[「抑止力は方便」]これが前首相の発言?/沖縄タイムス・社説
 「辺野古に戻らざるを得ない苦しい中で理屈付けしなければならず、考えあぐねて『抑止力』という言葉を使った。方便と言われれば方便だった」

 鳩山由紀夫前首相は、沖縄タイムス社など地元紙のインタビューに応じ、米軍普天間飛行場の移設問題をめぐる対米交渉の裏側を語った。

 「抑止力は方便だった」という言葉の軽さには、ただただあきれるばかりである。言う言葉がみつからない。

 インタビューによって浮かび上がった普天間問題をめぐる政治の構図を、あらためて問い直す必要がある。交渉の過程でどのような政治力学が働いたのか。何が問題の解決を妨げているのか。

 「最低でも県外」「常時駐留なき安保」「対等な日米関係」「政治主導」。いずれも鳩山氏の政治家としての信念に根ざした主張だった。

 実行に移そうとすれば、米国との摩擦、官僚との摩擦は避けられない。

 鳩山前首相はその備えもないまま米国や官僚と相まみえ、壁にぶつかっては跳ね返され、閣内をまとめることもできず、迷走を続けた。

 鳩山政権の動きに警戒感を募らせた米国は硬軟織り交ぜ、さまざまな圧力を新政権にかけた。

 全国紙の米国特派員は「米国が怒っている」という類いの記事を流し続けた。外務省や防衛省の官僚は非協力的だった。

 「鳩山の失敗」に身震いした菅直人首相は、米国にも官僚にも逆らわず政権を長続きさせるという道を選んだ。政権交代時に掲げた理念の大幅な後退である。

 2009年9月に鳩山首相が誕生してから今日に至るまで、普天間問題の節目節目に浮かんだ言葉がある。

 西郷隆盛と西南戦争について取り上げた「丁丑(ていちゅう)公論」の中で福沢諭吉は「新聞記者は政府の飼犬に似たり」と指摘した。

 政治学者の丸山真男は、日本の新聞社の「政治部」について「『政界部』というふうに直した方がいい」と批判した。

 大ざっぱな言い方をすれば、米国と官僚と全国メディアは鳩山政権誕生以来、三位一体の連携で辺野古移設を主張してきた、といえるのではないか。鳩山前首相はこの強固な壁に押しつぶされ、あえなく「憤死」したのだ。

 総理の強いリーダーシップと閣内の結束、党内の一致協力があれば、状況は変わったかもしれない。

 1994年2月、細川護熙内閣の下に防衛問題懇談会が設置され、同年8月、村山富市首相に報告書が提出された。

 報告書は、国連の下での多角的協力を重視した内容だったため、「米国離れの動き」だと米国から警戒された。

 米国が定めた枠組みから日本がはみ出したり飛び出したりするのを米国は警戒する。

 対米、対中、対ロ。いずれも菅政権の外交の足腰はふらついている。

 嘆かわしいことだが、それが普天間問題を取り巻く今の状況だ。
http://www.okinawatimes.co.jp/article/2011-02-14_14545/

「抑止力」は方便/政治音痴の素人首相 政治不信と混迷を増幅/琉球新報・社説
政治音痴の素人政治家に、国政を委ね、安保・外交政策を左右されることの怖さに、身震いした。
 全てが浅はかな思い付きと行き当たりばったりの政権公約、理念と信念なき政策運営だったことが、あらためて明らかになった。
 鳩山由紀夫前首相が、本紙などのインタビューに答え、明らかにした普天間撤去・移設問題の“真相”のことだ。
 政治家の言葉の軽さ、政党の約束の無意味さ。そして、この国を動かす主体は首相や閣僚、政治家ではなく「官僚」であることを、前首相は明確に証言した。

万死に値する大罪
 この国の民主主義の底の薄さ、基盤の危うさを知った今、国民は日本を真の民主主義国家とするために早急に政治・行政改革に取り組む必要がある。
 鳩山民主党代表が普天間問題で、普天間飛行場の移設先は「国外、最低でも県外」と公約したのは紛れもない事実だ。
 だが、総選挙で大勝し、政権交代を実現するやわずか8カ月で「国外、県外はやはり無理」と、県内・辺野古案に回帰し、県民の怒りを買い、政治不信を招いた。
 辺野古回帰の理由を問われ「学べば学ぶほど(海兵隊や各部隊が)連携し抑止力を維持していることが分かった」と語った。
 「海兵隊抑止論」が、沖縄に海兵隊の継続駐留を認め、普天間基地の辺野古移設を正当化する論拠とされた。
 だが、それから8カ月後、鳩山氏は「辺野古移設しか残らなくなった時に理屈付けしなければならず、『抑止力』という言葉を使った。方便と言われれば方便だ」と、あっさりと認めた。
 これほど言葉の軽い政治家を見たことがない。そして、自らの言葉に無責任な人も。政治音痴の素人政治家が国を動かし、国民を翻弄(ほんろう)し、政治不信を高める。万死に値する大罪だ。
 鳩山氏が論拠に挙げた「抑止力」は「ユクシ(うそ=沖縄方言)力」であると、沖縄県民の多くが指摘し、やゆしてきた。
 米国防長官すら「海兵隊の機能」を疑問視し、米軍幹部ですら「有事の米国民救出」を第一の機能と明言し、米議会は「海外駐留削減と海外基地閉鎖」の論議を始めていることを、県民は知っているからだ。
 知らないのは鳩山氏と民主党政権の閣僚、そして米国追従が国是と自己保身的に信じる防衛、外務省を中心とする官僚らだ。
 首相を辞め、正直に語れるようになった鳩山氏は「抑止力」は方便で、県内回帰のための後付けの説明と認め、謝罪した。
 鳩山氏は公約実現に否定的な北沢俊美防衛相、「県外」公約自体を否定する岡田克也外相(現幹事長)、くい打ち工法(QIP)で辺野古移設を進言する岡本行夫・元首相補佐官の存在なども、辺野古回帰の要因と語っている。

官僚主導政権の限界
 官僚については「防衛省も外務省も沖縄の米軍基地に対する存在の当然視があり、数十年の彼らの発想の中で、かなり凝り固まっている」と指摘している。
 そして首相でありながら官僚、閣僚すらリードできなかった自らの力量不足を敗因と認めている。
 事は謝罪で済む話ではない。辺野古回帰の論拠の「抑止力」は方便で、本当の理由は「閣内不一致」と「官僚の壁」、自身の「力量不足」と証言したからだ。
 指導力を欠き、官僚に翻弄され、身内の閣僚からも見放される。明らかに首相になってはいけない人が、この国を担う。民主党政権の限界も露呈している。
 普天間問題の解決策は「オバマ大統領との直接対話」と指摘した鳩山氏だが、それすら官僚の壁に阻害され、不発に終わっている。
 民意に沿おうとする首相が、沖縄への基地の過重負担を当然視し、対米追従を是とする官僚に牛耳られ、辞任に追い込まれる。これが、日本の議会制民主主義の現実。官僚主導政権の実相である。
 米国の論理に洗脳された官僚たちの言い分を検証もせず、辺野古移設を主張する菅直人首相の不作為の罪はより重罪だ。
 辺野古移設の根拠となった「抑止論」のうそが明らかになった今、菅首相はこの国の政治を「官」主導から「菅」主導に転換し、普天間の県外撤去のみならず、在沖米軍、在日米軍の駐留見直しに着手すべきだ。
http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-173465-storytopic-11.html

よろしければ、下のマークをクリックして!
にほんブログ村 政治ブログ 政治・社会問題へ

よろしければ、もう一回!
人気ブログランキングへ



最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。