ハナママゴンの雑記帳

ひとり上手で面倒臭がりで出不精だけれど旅行は好きな兼業主婦が、書きたいことを気ままに書かせていただいております。

奇跡の批判と事故調査報告書

2015-10-22 20:17:05 | 事故・事件

《 ハドソン川の奇跡 番外編 》

 

 “ハドソン川の奇跡” に関する記事をあれこれ読んできました。

中にひとつだけ、驚いたことに批判的なものがあったので、それについても書いておこうと思います。

 2010年5月4日付だから、国家運輸安全委員会の事故調査の結論が出た日のウォール・ストリート・ジャーナル紙の、

“Hudson Miracle” Gets Closer Look です。 (以下は私のシロウト意訳であることをご了承くださいませ。)


  

  


 “ハドソンの奇跡” 検証される (アンディー・パストー記者)


昨年起きたUSエアウェイズジェット機のハドソン川への緊急着水に関する最終報告が火曜日に発表され、

チェズリー・ “サリー” サレンバーガー機長は、冷静で決断力のある “ハドソン川の奇跡” のヒーローとして輝き続けることになった。

しかし何千ページに及ぶ証言や証拠から成る調査資料には、英雄として讃えられる機長がラガーディア空港に戻れた

可能性があったとの示唆が含まれている。 シミュレーターで事故を再現したとき、パイロットたちは繰り返し仮想の航空機を

ラガーディアに帰還させることに成功した。

 

それらの結果は国家輸送安全委員会の調査員や他の航空安全専門家たちによる、“サレンバーガー機長の

不時着水という選択が正しいものだった” という満場一致の結論には何の影響も及ぼさなかった。

機長にも副操縦士ジェフリー・スカイルズにも、数分前に離陸したばかりのラガーディアへの帰還を試みた場合、

突然70トンのグライダーと化してしまったエアバスA320型機がマンハッタン上空を無事通過できるという保証はなかった。

USエアウェイズの元エアバスパイロットで現在は安全コンサルタントを務めるジョン・コックスによると、地上で巻き込まれた人々の

犠牲も考慮に入れれば、 「(ラガーディア帰還という選択が)誤っていた場合の負のリスクは壊滅的でした」。

「サレンバーガー氏は別の選択をすることもできました。」 と、安全委員会の元メンバーのキティー・ヒギンズ。

「しかし彼は、彼がもち得たベストの情報を使い、自身の経験と本能に従って決断を下したのです。」

 

スポークスマンを通じ、サレンバーガー氏はコメントを避けた。 昨年出版された彼自身の著書によると、彼は

人口過密な地区の上空を飛んでラガーディアに引き返すことも考慮した。 しかし 「(一度ラガーディア帰還を決めたら)

それ以外の選択肢はなくなり、(選択が誤りだったら)地上の人々を何人死なせることになったかわからない」 ため、

「絶対に到達できると確信できなければならなかった」。

現在の安全委員会メンバーたちも、同様に感じている。 シミュレーターに座った乗務員たちには、大きなアドバンテージが

あったからだ: 目前に迫る緊急事態の性質を、彼らはすでに知っていた。

 

15ヶ月に及んだ検証で、サレンバーガー氏は別の論争にも巻き込まれることになった。 種々の電子機器により

パイロットの注意が散漫になるという問題である。 安全規則により、機が離陸のため移動を始めた瞬間から高度約1万フィートに

達するまで、コックピット内部ではいかなるタイプの携帯電話も使用を禁止されている。 降下・着陸と異常事態の発生時なども

同様で、コックピットでの仕事量が増大する間は、携帯電話や個人のラップトップ使用が禁じられているのである。


1549便の場合、コックピットのボイス・レコーダーには、ラガーディア空港で離陸に向け地上を移動(taxiing)していた機内で、

サレンバーガー氏がUSエアウェイズのマネージャーに、搭乗した乗客数を携帯電話で報告する声が残されていた。

その時管制官が移動の指示を送ってきたため、通話を終えたサレンバーガー氏はすぐに副操縦士に

「何だって?」 と訊いている。  (注: サリー機長は副操縦士に離陸をまかせていました。)

事故調査員たちは departure roll (→すみません、意味がはっきりわからないんですが、たぶん滑走路の

スタート地点についてから、加速を始めて機体が地面を離れるまでの走行のこと?) の開始10分前にされた

この通話が、フライトに影響を与えたとは考えなかった。

月曜日にサレンバーガー氏のスポークスマンは、このボイス・レコーディングに関してコメントを控えた。

 

報告書によると、フランス・ツールーズにあるエアバスの製造本部で、2ダース近いシュミレーション飛行が

エアバスのテスト・パイロットを含む経験豊かな飛行士によって行われた。

ラガーディア空港の最も近い滑走路に帰還する試みは、4回中4回とも成功した。 別の滑走路に着陸する、あるいは

機体がよりひどい損傷を受けていたという想定下では、9回中3回が成功した。

いずれの場合も、エンジンに問題が発生した直後にラガーディアに引き返したパイロットのみが、到達に成功した。 委員会の

報告書は、「実世界ではバードストライクを認識してから行動を決めるまでには時間差が生じる」 として、

シミュレーションのシナリオは非現実的だと結論づけた。

 

航空産業と政府の関係者によると、約一年前に完了したシミュレーション結果は、それでもなお調査員たちの間に

驚きと議論を巻き起こした。 エアバス関係者は、パイロットたちの英雄的行為を後知恵批判しているとみなされる可能性を

恐れるあまり、早い段階では結果を非公開とすることを安全委員会に持ちかける動きすらあったという。

データは最終的には安全委員会の公式ファイルに収まったが、それにもかかわらずエアバスと安全委員会の関係者は、

1549便の乗務員が成し遂げたことをいかなる形でも批判しているように見られることを避けるため、

結果を重要視しようとしていない。


その後引退した銀髪の機長は、155人を救った国民的象徴になった。 ホワイトハウスやTVインタビューで讃えられ、

国産のヒーローとしてのサレンバーガー氏の評判は高まる一方だった。 6桁の額の著作契約を難なく手に入れ、

ローズ・パレードのグランド・マーシャルを務め、講演者として引張りだこになった。 1549便の乗務員たちが

ワシントンにある国立航空宇宙博物館で讃えられたのは、つい先週のことだ。

 

エアバスと安全委員会のスポークスマンは、コメントを控えている。 上位調査員たちが 「シミュレーションは

詳細な検証の 『重要な部分』 だった」 と述べたものの、政府と航空産業の専門家たちは、その問題は

火曜日の公聴会で、比較的簡単に言及されるに留まるだろうと語った。 (終)

 

 *       *       *       *       *       *       *       *       *       *

 

 上の記事を読んだとき、私はすでに動画でナショナル・ジオグラフィックス・チャンネルの、“ハドソン川の奇跡” の

事故調査とその結論に関する番組(2011 Air Crash Investigation - Hudson Splash Flight 1549)を見ていたので、

えっ? あれってサリー機長の行動が正しかったと正式に結論づけたでしょ?? と思いました。

そこで、しつこい私は国家運輸安全委員会の事故報告書も探してみました。

 

 事故の概要はこちら。

Loss of Thrust in Both Engines, US Airways Flight 1549 Airbus Industrie A320-214, N106US

 

2009年1月15日の東部時間15:27頃、USエアウェイズ1549便のエアバスA320-214型機は、鳥の群れに衝突したあと

両方のエンジンの推力をほぼ完全に失った。 その結果同機は、ラガーディア空港から約8.5マイル離れたハドソン川に不時着水した。

150名の乗客と5名の乗員全員は、前部と両翼上の出口から機外に脱出した。 乗員1名と乗客4名が重傷を負い、

機体は著しく損傷を受けた。

 

事故の生存率には、(1)事故後のパイロットたちの決定内容と緊急事態管理、(2)偶然同機が脱出シュート/ボート

を含む緊急着水に備えた装備をされていたこと、(3)脱出段階での客室乗務員のパフォーマンス、そして(4)緊急救助者が

事故現場に近在し即座に対応可能だったこと、が貢献した。 (以下略)

 

 

事故報告書(全196ページ)はこちら。

US Airways Flight 1549 Airbus A320-214, N106US

Weehawken, New Jersey

January 15, 2009

冒頭の記事で批判されていた二点に関連する部分を抜いてみましょう。

 

 

(1) サリー機長の携帯電話の使用 (第157ページ)

 (付録B: コックピット・ボイス・レコーダーの記録からの抜粋です。

私がざっと見た限り、事故調査報告書の本文中にはこの件に関する言及は全くありませんでした。)


           15:15:12     [チャイムの音]

          15:15:15     サリー機長: はい、1549便の機長です。 乗客数の訂正を願います。 1-4-8、プラス2プラスACM。

                       [携帯電話を使ったコミュニケーションの模様。]

          15:15:19     カクタス1549、 ノースウエストに続いてタワーをモニター願います。

          15:15:32     サリー機長: そうです・・・ どうも。 第4滑走路ですね、どうも。

                       [携帯電話を使ったコミュニケーションの模様。]

          15:15:38     サリー機長: 何だって?

          15:15:40     スカイルズ副操縦士: ノースウエストに続けとのことです。

          15:15:41     サリー機長: ようし、じゃあ行くとするか。

 

このあと滑走路の離陸のためのスタート位置につき、離陸のための加速を始めたのが15:25:06。

・・・どこに問題が?!

機長様が搭乗した乗客数の最終報告をする必要がある?することもある?のは知りませんでしたが、

万一事故があった時のためにも、正確な乗客数をつかんでいることはとても大事です。

そりゃ搭乗ゲートでもカウントしていますが、機内の乗務員からも報告があればダブルチェックできて完璧。

私用電話したわけでもないんだし、些細なことで騒ぐな~!

と、批判記事を書いた記者に私は言いたい。

 

 

(2) シミュレーションの結果 (第89ページ)


事故機がラガーディアあるいはテーターボロ空港に到達可能だったか否かを決定するため、シミュレーション飛行が行われた。

その結果、いずれの空港にも無事到達するためには、航空機はバードストライク直後に空港を目指していなければならなかった。

実際にはエンジン推力の損失程度の認識や次の行動の決定に時間を要するため、バードストライク直後に空港を目指すことは

現実的ではない。 1549便の時間差を忠実に再現したシミュレーション(バードストライクから35秒後にラガーディアの

13番滑走路に向け進路変更)では、到達は不成功だった。 それゆえ国家輸送安全委員会は、空港を目指す代わりに

ハドソン川に不時着水するとの機長の決定は、乗客乗員の生存の可能性を最も高めたと結論する。


・・・ 空港を目指すべきだったなどと、一言も言ってないし。 それどころか不時着水がベストの選択だったと

認めてくれてるし。 何回シミュレーションして何回成功/不成功だったかなどの詳細は省かれているけれど、

それは必要ないと判断されたからでは?

もっとも批判記事を書いた記者は 「詳細を省いたこと自体が、サリー機長の批判に消極的な証拠」 と言うのでしょうね。


ウィキペディア英語版には、もう少し詳しいシミュレーション結果についての記述がありました:

1549便がラガーディアの13番か22番滑走路、あるいはテーターボロの19番滑走路に到達可能だったかどうかを

実験するため、国家運輸安全委員会は、フランスでエアバス・シミュレーターを使って何度かテスト飛行を行った。

パイロットたちは当時の状況や機体の動きについて、事前に十分に情報を与えられた。 15回のテスト飛行中、無事

いずれかの空港に到達できたのは8回だった。 委員会は報告書の中で、これらのテスト飛行の条件は非現実的

だったとしている: 「シミュレーション・パイロットたちがしたような即座の方向転換は、実際の状況を反映するものではない。」

サリー機長がしたように35秒後にラガーディアの22番滑走路へと進路を取ったシミュレーション飛行は、墜落に終わった。

(この記述の参照源は、リンクをクリックしてもエラーと出てしまったので確認できませんでした。)



ついでながら、国家運輸安全委員会の調査結論の、大事な部分だけ抜き書きしときます。


事故報告書の結論 (第119ページ)

 

エンジンは両方とも、それぞれが大きな鳥(約8ポンド≒3.6kg)を少なくとも2羽ずつ吸い込み、うち1羽ずつがエンジンの

中核部分に達して飛行を維持するに十分な推進力の供給を妨げるほどの機械損傷を起こすまで、正常に作動していた。

 

両エンジン故障チェックリストは当事故には完全には適用できないものの、当事故においては最も適切なチェックリストであり、

このチェックリストを使用した乗務員の判断は米国航空基準に添うものである。

 

低高度で両エンジン故障が起きた場合のチェックリストがもしあったのならば、チェックリストに最後まで目を通すことは

可能であった可能性が高い。

 

空港への不時着を試みる代わりにハドソン川への不時着水を選んだ機長の決断は、当事故の生存の可能性を最も高めた。

 

パイロットたちのプロフェッショナリズムと状況処理能力は、

機体の制御を維持し着水時の衝撃における生存率を高めることに貢献した。

 

 

 

 


いや~、さすが大事故だっただけあって、本当に詳細に調べられるんですね。 機長と副操縦士の背景とか、

事故の72時間前まで遡っての生活パターン(何時に起きて何時間飛行して何時に就寝したかなど)まで含めて。

サリー機長、事故調査後に正式に自分の行動の正当性が認められたときは、本当に安堵したことでしょう。

 

*       *       *       *       *       *       *       *       *       *

 

冒頭の批判記事へのコメントふたつです。

 

「テスト・パイロットはいずれの空港への帰還も15回中8回しか成功させなかった。

そんな危険を誰が冒す? カミカゼだけだ。」

 

「何たるたわごとの山だろう。 私は世界中の空港の中でも最も頻繁にラガーディアで離陸と着陸を経験してきたが、

両方どころか片方のエンジンを失っただけでも、旋回してラガーディアに引き返そうなどとする旅客ジェット機のパイロットは

一人も思い浮かばない。 滑走路が長いJFKに向かうだろう。 サリー機長がJFKに向かえなかったのは、遠すぎたからだ。

 

 ラガーディアの滑走路はとても短く、オーバーランはなく、滑走路の終わりには防壁や深い溝や桟橋があるだけだ。

上昇気流や下降気流も多い。 経験豊かなパイロットでさえ、初めてラガーディアに向かうときはかなり緊張する。

 

エンジンを失ったサリー機長には限られた量のエネルギーしか残されておらず、彼はそのエネルギーを正確に使わなければならなかった。

高度と速度を調節させながら、意図したタッチダウン地点までもたせなければならなかった。 NASAのコンピューターが取り除かれた

スペースシャトルのように。 それが、不時着水を選択したことが正しい理由だ。 彼は水面が水平で滑らかなことを知っていた。

川を選ぶことで彼は、滑走路の終点のように正確な地点に着地する必要性も除去した。

 

奇跡とは、パイロットたちが決して訓練することのない状況――両方のエンジンを失うという――に

陥りながら、サリー機長がものの数秒のうちにこれらの決定を成し得たということだ。

 

くだらないシミュレーターの件など忘れてくれ、サリー。 君は真のヒーローだ!」

 

 *       *       *       *       *       *       *       *       *       *

 

 2つめのコメントをした人、よくぞ言ってくれました!

“ハドソン川の奇跡” とは、サリー機長が一人の犠牲者も出さずに1549便を不時着水させたことではなく、

208秒というものすごく限られた時間の中で最も適切な判断を下したことにあるのです。

208秒――3分と28秒なんて、私のような凡人には、緊急事態にあわあわして迷っている間に

あっという間に過ぎてしまう時間です。

なのにその超短時間でサリー機長は、決断を下し、行動に移し、見事に成功させた。

 

一度ラガーディアかテーターボロに向かう選択をしていたら、ふたたび方針を変える余裕はありませんでした。

滑走路に到達できたらもうけもの、でも到達できなかったら大惨事。

155人の命、プラス地上の数知れぬ命を握らされて、誰がそんな賭けに出られますかっ?!

だから、ハドソン川を選んだのは正解だったのです。

 

それにたとえ不時着水に失敗して犠牲者を出していたとしても、不可抗力で起きた事故だし少なくとも地上の人々を

巻き込まなかったのだからと、サリー機長を責める人はいなかったのでは?


さらに、たとえシミュレーションで毎回同機が無事ラガーディアなりテーターボロなりに到達できていたという

結果が出ていたとしても、サリー機長を責めることは誰にもできなかったはず。

前代未聞の緊急事態に突然陥ったサリー機長は、高度・速度・現在位置などをふまえて、

文字通り秒を争う限られた時間の中で、本能と勘と経験からくる決断をしなければならなかったのですから。

机上の計算はおろか、ゆっくり考える時間もなかったのですから。


誰もが陥ることを恐怖するような厳しい状況の中で、サリー機長が下した決断は成功し、

一人の死者も出さずに済み、しかも厳正な調査のあと正しいものだと結論された。

その後サリー機長が英雄と讃えられ、講演に引張りだこになり、高額の著作契約を得るのも

当然のことです。 彼はそれに値する偉業を達成したのですから。

 

あのつまらない批判記事を書いた記者も、もし自分か自分の大切な誰かが1549便の乗客だったら、絶対にあんな記事は

書けなかったはず。 そしてああ書いておきながら、もしサリー機長が空港を目指して到達できずに墜落し、乗客乗員はもとより地上にも

多数の犠牲者を出していたら、手の平を返したように 「ハドソン川に不時着水を試みるべきだった」 なんて書いていたんだろうな。

 

サリー機長がスポークスマンを通じてコメントを避けたのは、コメントするに値する内容ではなかったからだと私は思います。

あの記者・・・ 内容のない粗さがし記事しか書けないのなら、何も書かずに気分転換のため休暇をとって充電でもしてくればいいものを。

ということで、批判記事は却下!無視!!でよろしい。 が、サリー教信者  となった私の結論です。

 

まぁいいわ。 どのみち来年公開される映画 『サリー』 が、サリー機長のすでに高い評判を、

さらに確固たるものにしてくれること請け合いだから。

 

それにしても、あそこにハドソン川が流れていてよかった。

もしハドソン川が流れていなかったら、どうなっていただろう・・・・・?

たとえそうでも、私には、サリー機長が何とかして乗客乗員全員を救ってくれていたような気がします。

何かはわからないけど。

 

って、そこまで言っちゃうと狂信的かな・・・? 

 

 

《 ハドソン川の奇跡 - おわり 》

 
 

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