前回の坂の上の雲で、秋山真之が海軍大学校の戦術講座の教官となり、講義を行うシーンがありました。そこで初めに受講生に対して、このようなことを語りかけます(あまり正確には再現できませんが・・・)。
「皆さん、あっしから戦術を学ぼうとは思わんで下さい。刻々と戦況が変わる戦場で、人から習った戦術など役に立ちません。自ら戦術を組み立てられる能力が必要なのです。そのためには、多くの実戦にあたり、自らその中からどの場合にも変わらない本質を導き出すことです。」
真之自身はいつも過去の実戦の戦術論集に読み耽っており、講義は実戦を想定した演習形式で行われ、それぞれのとった戦術の根拠を議論させ、そこで真之の考え方を披露していきます。
これって、知財マネジメント、知財戦略(戦術)にも全く同じことが言えるなぁと。どこかに体系的なマニュアルが用意されているものではなく、多くの事例にあたり、そこから自ら本質を見出していくしか、実践的な力を身に付ける方法はない。そして根拠にするべきものは空想の世界ではなく、現実に起こっていること、事実そのものでなければならない。
そういう意味で、中小企業の経営者の方々からいろいろなお話を伺っていると、自分がいかにわかっていないかということによく気づかされます。
例えば、知財権によって自らの得意とする技術に参入障壁を築き、競合を排除することが望ましい。これは当たり前の理屈のように聞こえるけれども、本当にそうなのか。これは部品メーカーや素材メーカーでよく聞く話ですが、本当に1社しか供給できない状態なんかになったら、商品は売れなくなってしまいますよ、と。部品や素材を仕入れる側からすると、安定的な供給を確保するために多くの場合は1社からの購買を避けたがるからです。だから、同業者にも技術供与をして複数の供給ルートを作るか、あるいはある程度の代替品の存在は許容していかなければ現実のビジネスはうまくいかない。それなのに、部品メーカーや素材メーカーの経営者に「特許をとって市場を独占することが大事です」なんて言っても、それはリアリティのある話ではないわけです。
また、加工技術を得意とするメーカーが、技術を公開したくないから特許を出さない、というのはよくある話です。そういう会社に対して「知的資産経営」などを持ち出して、「それでもノウハウを見える化して自らの強みを知ることが、技術の伝承、ステークホルダーとの関係強化に有益です。」なんて尤もらしく説明したとします(実話ですが)。すると、ある社長曰く「会社がうまく回っているときに社員にそんな面倒なことをさせたら、却って会社がおかしくなってしまいますよ。そういうのは、問題を抱えている会社が考える問題であって、うちには必要ありません。」、とのこと。いわゆる‘ケミストリー’というやつですが、その頃合いをはかるのがまさに経営センスってところです。
多くの経営者の方の話を伺えば伺うほど感じるのですが、知財戦略の支援(さらには知財コンサル)なんていいながら、支援者(コンサルタント)たるものが、これは自分も含めて一体どこまで理解できているのかと。確かに、それを謳うからには知財制度、知財実務に関する知識は当然に身に付けているはず。でも、その知識があることで「知財がわかっている」なんて勘違いしてはいけない。それと「知財を経営にどう活かすか」って話は全く別で、そこは「あっしから学ぼうとは思わんでください」の世界であり、できるだけ多くの実例に触れてそこから本質を読み取ることをやっていかなければならない。支援とかコンサルとかいうならば、まずは現場の話を聞かせてください(それで足りない部分は‘実例’を記した文献になるべくたくさん当たって自分で考える)、一緒に考えていきましょう(それで足りない部分は現実の事案に自分だったらどう対処するかを考えて他人と議論する)、そういうところの足腰を固めるところから始めなければならない、と改めて思う次第です。
※ Twitter上に本エントリへの批判が出ているようですが、どうも最終文の趣旨が誤解されているようなのでちょっとばかり追記を。
既に業として‘コンサル’を謳って営業に乗り込むなら「話を聞かせてくれ」なんてスタンスでは間が抜けていて、‘コンサル’のプロであるならば可能な限りの情報を収集して仮説を準備し、具体的な提案まで持ち込まないと商売にならないのは当たり前のことです。ですが、そのレベルに達するためには、もっと現場を通した本質の理解から積み上げる必要があると。庁の支援事業にせよ、弁理士会のなんとか委員会にせよ、制度や実務に通じているから自分たちは‘わかっている’という前提でスタートしてしまう傾向があるように思うのですが、すぐに支援だ啓発だコンサルだと動こうとする前に、もっと世の中にある現実の情報を収集・分析し、本質を理解することから始める(あるいは並行して進める)ことが必要なのでは、というのが私の考えです。そういう意味では、業としてみればまだこの領域は事業化前の段階、というのが現実かと思います。
「皆さん、あっしから戦術を学ぼうとは思わんで下さい。刻々と戦況が変わる戦場で、人から習った戦術など役に立ちません。自ら戦術を組み立てられる能力が必要なのです。そのためには、多くの実戦にあたり、自らその中からどの場合にも変わらない本質を導き出すことです。」
真之自身はいつも過去の実戦の戦術論集に読み耽っており、講義は実戦を想定した演習形式で行われ、それぞれのとった戦術の根拠を議論させ、そこで真之の考え方を披露していきます。
これって、知財マネジメント、知財戦略(戦術)にも全く同じことが言えるなぁと。どこかに体系的なマニュアルが用意されているものではなく、多くの事例にあたり、そこから自ら本質を見出していくしか、実践的な力を身に付ける方法はない。そして根拠にするべきものは空想の世界ではなく、現実に起こっていること、事実そのものでなければならない。
そういう意味で、中小企業の経営者の方々からいろいろなお話を伺っていると、自分がいかにわかっていないかということによく気づかされます。
例えば、知財権によって自らの得意とする技術に参入障壁を築き、競合を排除することが望ましい。これは当たり前の理屈のように聞こえるけれども、本当にそうなのか。これは部品メーカーや素材メーカーでよく聞く話ですが、本当に1社しか供給できない状態なんかになったら、商品は売れなくなってしまいますよ、と。部品や素材を仕入れる側からすると、安定的な供給を確保するために多くの場合は1社からの購買を避けたがるからです。だから、同業者にも技術供与をして複数の供給ルートを作るか、あるいはある程度の代替品の存在は許容していかなければ現実のビジネスはうまくいかない。それなのに、部品メーカーや素材メーカーの経営者に「特許をとって市場を独占することが大事です」なんて言っても、それはリアリティのある話ではないわけです。
また、加工技術を得意とするメーカーが、技術を公開したくないから特許を出さない、というのはよくある話です。そういう会社に対して「知的資産経営」などを持ち出して、「それでもノウハウを見える化して自らの強みを知ることが、技術の伝承、ステークホルダーとの関係強化に有益です。」なんて尤もらしく説明したとします(実話ですが)。すると、ある社長曰く「会社がうまく回っているときに社員にそんな面倒なことをさせたら、却って会社がおかしくなってしまいますよ。そういうのは、問題を抱えている会社が考える問題であって、うちには必要ありません。」、とのこと。いわゆる‘ケミストリー’というやつですが、その頃合いをはかるのがまさに経営センスってところです。
多くの経営者の方の話を伺えば伺うほど感じるのですが、知財戦略の支援(さらには知財コンサル)なんていいながら、支援者(コンサルタント)たるものが、これは自分も含めて一体どこまで理解できているのかと。確かに、それを謳うからには知財制度、知財実務に関する知識は当然に身に付けているはず。でも、その知識があることで「知財がわかっている」なんて勘違いしてはいけない。それと「知財を経営にどう活かすか」って話は全く別で、そこは「あっしから学ぼうとは思わんでください」の世界であり、できるだけ多くの実例に触れてそこから本質を読み取ることをやっていかなければならない。支援とかコンサルとかいうならば、まずは現場の話を聞かせてください(それで足りない部分は‘実例’を記した文献になるべくたくさん当たって自分で考える)、一緒に考えていきましょう(それで足りない部分は現実の事案に自分だったらどう対処するかを考えて他人と議論する)、そういうところの足腰を固めるところから始めなければならない、と改めて思う次第です。
※ Twitter上に本エントリへの批判が出ているようですが、どうも最終文の趣旨が誤解されているようなのでちょっとばかり追記を。
既に業として‘コンサル’を謳って営業に乗り込むなら「話を聞かせてくれ」なんてスタンスでは間が抜けていて、‘コンサル’のプロであるならば可能な限りの情報を収集して仮説を準備し、具体的な提案まで持ち込まないと商売にならないのは当たり前のことです。ですが、そのレベルに達するためには、もっと現場を通した本質の理解から積み上げる必要があると。庁の支援事業にせよ、弁理士会のなんとか委員会にせよ、制度や実務に通じているから自分たちは‘わかっている’という前提でスタートしてしまう傾向があるように思うのですが、すぐに支援だ啓発だコンサルだと動こうとする前に、もっと世の中にある現実の情報を収集・分析し、本質を理解することから始める(あるいは並行して進める)ことが必要なのでは、というのが私の考えです。そういう意味では、業としてみればまだこの領域は事業化前の段階、というのが現実かと思います。
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中央公論新社 |
2チャンネルやツイッターでは『今治タオル』脇甘すぎ~といった書き込みも見られますが、『今治タオル』のみならず、メーカーブランド数件も、約1週間程度早く登録申請されるという現実と事実がある訳ですから、これにいかに対処するかをこの機会に投げかけていただければ幸いです。
コメント有難うございます。
折角のご依頼なのに申し訳ありませんが、詳しくフォローしているテーマではないので、まともなコメントができそうにありません。この種の問題については、実利を求めるためには、政策や制度がどうあるべきかという話と、現行制度を前提にどう対応していくかという話を区別しなければならないとは思うのですが(前者ばかり言っていても現実は現実として進行していきますので)、後者をどうすればよいかというところは私も考えられていません。
テレビを見ていて全く同じだとドキッとしたのですが、どれだけ現場を見て本質を拾っていけるかで戦術家の力量が決まるかと。現場、現場って言い過ぎて、現場に溺れてしまわないことも肝心ですが。
よろしくお願いいたします。
TB有難うございます。
私も嵌ってしまい、「秋山真之戦術論集」を購入しました。
このレンブラントを見つけることが非常に大切かと思いますが。