浅田次郎原作『壬生義士伝』
中井貴一で映画化されたが、新選組の衣が赤と黒なのには幻滅。なんで赤黒にする必要があるのかとぶっきれ。浅葱(あさぎ=薄い青みがかった鼠色)には意味があるのです。浅葱は士分でない者を示す色です。新選組は正規の会津藩士ではなく、浪人、農民の身分でした。中井貴一も今ひとつ、強そうに見えない。
これに対して渡辺謙主演の2002年のテレビ東京「お正月時代劇」10時間ドラマは、感動! テレビで見、再放送を見、ビデオに撮って見、そしてYouTubeでも見、何度見ても泣けました。
妻子を養うために、南部盛岡藩を脱藩して「新選組」にはいり、金になることは何でもやり、「守銭奴」や「出稼ぎ浪人」などと呼ばれた「吉村貫一郎」の義理と愛を貫く姿を描いた作品。
コメントも「時代劇で これほど泣いたこと無いくらい大泣きした」というのが大半。私も、テレビで観た時は、新選組にこんな隊士がいたのかと感動にうち震えたが、その後、浅田次郎のフィクション(創作)と知って、興ざめ。
そもそも「吉村貫一郎」は実在したのか?
鳥羽伏見で戦死した隊士の中に、南部盛岡出身で「嘉村(よしむら?)権太郎」と
いう名があるが、事跡は不明。全く無名の隊士だった。
そして、箱館での戦死者名簿の中に「久慈藤右衛門 南部藩脱走士」がおり、二人を「親子」として、話を創作したようだ。
吉村貫一郎の幼馴染で家老の「大野次郎右衛門」も実在していない。
小説では、「奥羽越列藩同盟」側に付くよう藩論を仕向け、官軍側についた隣国秋田に攻め入り、敗戦後、その責任をとらされて斬首となる。
その人物は、大野次郎右衛門ではなく「楢山佐渡」という家老。
ですから私が一番泣けたのは、吉村貫一郎ではなく、上司の大野次郎右衛門役の「内藤剛志」さん。
「お役目」と「幼馴染の人情」の狭間に苦悩する。母親(岸田今日子)との別れ、貫一郎の倅「嘉一郎」とのやりとりの場面で、もう泣が止まらなかった。「内藤剛志」が、言葉数少なく、顔の表情だけで、こんなに名演技をするとは知らなかった。
ラストは貫一郎の子「嘉一郎」が脱藩して函館戦争で戦死するシーン。なぜ、父の願いに反して死を選んだのか。その真意に涙が止まらない。さすが小説家浅田次郎。