渡辺淳一『瓦礫の中の幸福論』。
東日本大震災を意識して書かれたのだろうが、中身は
戦後の体験を綴ったエッセー集。
「どん底だったけど、みんな明るくて元気いっぱいで、
頑張っていた」とは、震災被災者への応援メッセージ
なのだろうが、国民全員が等しく“死”の恐怖から
開放された時代だからこそ、瓦礫の中でも夢と希望が
あったと言える。
さて、渡辺淳一は子供の頃見た体験を 率直に“けれん味”
なく書いたといい、「最低の女と云われていた米兵相手の
パンパンが、ガムやアメをくれた。近所のおじさんは、
朝鮮人労働者を死ぬ目に遭わせているのに、ぼくらには
優しかった。一人の中に残虐な人と優しい人の二人がいた」
と。
でも、渡辺氏は、それを“肯定的に”前向きにとらえ、
「人の良い面と悪い面を見て、その中で生きていく
知恵を学んだ」と。
「怪しい人、インチキ者、詐欺師、ろくでもないヤツは
いっぱい いた」とも。
「今の日本は、豊かな生活、幸せな生活だけを教えて、
貧しさの中から這い上がる力を教えてこなかった。
人間が生来持っているたくましさを再発見すれば、
人は立ち直れる」というメッセージになっている。
ホントにそうだった。わかるわかる。現代の方が
よっぽどマシな社会だ。あまりにも幸せな世の中に
なってしまったからこそ、震災というアクシデントが、
より大きく“悲惨な”不幸と捉えられていると 私も思う。