山口・母子殺害の上告審、弁護人欠席で弁論延期
(2006年 3月14日 (火) 23:58 朝日新聞)
山口県光市で99年に母子が殺害された事件で、14日に予定されていた当時18歳の被告(24)の上告審の弁論は、弁護人が「弁護士会の仕事がある」として出廷しなかったため開かれなかった。弁護人は2週間前に選任され、「準備の時間がない」と期日延期を求めていた。最高裁第三小法廷は4月18日に改めて期日を指定。浜田邦夫裁判長は「正当な理由なく出頭しないのは極めて遺憾」と異例の意見を述べた。
被告は一、二審で無期懲役とされた。刑事訴訟法上、重大事件では弁護人がいなければ開廷できない。検察官は「遅延目的だ」と抗議し、遺族の本村洋さん(29)は「これほどの屈辱を受けたのは初めてだ」と会見で怒りをあらわにした。
第三小法廷は死刑を求めた検察側の上告を受理し、昨年12月に弁論期日を指定。二審判決が見直される可能性が出てきた事態を受け、当時の弁護人は今年2月になって死刑廃止運動のリーダー格・安田好弘弁護士らに弁護を依頼し、自らは今月6日に辞任した。安田弁護士は「記録を精査して事実を究明するには3カ月はかかる」とし、遅延目的を否定している。
刑事事件ではどうなのか知りませんが、民事事件だと上告されても受理されるかどうかはしばらくわからず、ある日突然に不受理通知がきたり、受理されて弁論期日が指定されたりするので、被告人側としたら受理されまい、と高をくくっていたので準備をしていなかったのかもしれません。
そうだとしても、昨年12月に弁論期日が指定されたのに3月6日にいきなり辞任というのは、前任の代理人弁護士は相当無責任だと思います。
そもそも上告が受理されることを想定していなかったとしたらプロとしてズサンですし、上告審での弁護に自信がなければとっとと辞任すべきです。
土壇場になって放り出されては、依頼者が一番困るでしょう。
新しく選任された安田弁護士としては、非難されても上のようにしか答えようがないでしょう。
テレビなども含め、報道は「被告人側」や当日欠席した弁護人を非難する、というトーンですが、被害者の遺族の気持ちはわかるものの、報道の視点としてはちょっと公正さに欠けているように思います(今回は事件の悪性を非難するのでなく、手続きの不当性を非難するという立場でしょうから)。
被告人としては、今回の辞任劇が意図的なものではないということを明らかにするためにも、前任の弁護士の懲戒請求でもしたほうがいいのではないでしょうか(最高裁まで来ると、この手のゴタゴタの心証はほとんど斟酌されないとすると意味がないかもしれませんが)
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(3/15追記)
矢部善朗弁護士の「元検弁護士のつぶやき」では
今朝の読売新聞を読んでみますと、本件を審理している最高裁第3小法廷の浜田邦夫裁判長が5月下旬で定年退官するんですね。
弁護側の意図が120%明瞭になりました。
浜田裁判長の定年退官前に結審していなければ、浜田裁判長の後任者を含めてあらたに合議をして死刑か否かを決めることになりますから、死刑に消極的な裁判官が浜田裁判長の後任者になることを期待して、死刑判決を考えている現在の合議体による判決を回避しようとしているわけです。
つまり訴訟遅延行為であることは明白です。
という指摘をされています。
私のエントリは犯罪の罪状云々を別にして公平なスタンス(のつもり)で書いてみたのですが、安田弁護士は死刑廃止論者の代表選手のような方のようなので、矢部弁護士の推測のような意図もあるのかもしれません。
ところで、こういう行為は弁護上の技術として許容されるべきなのでしょうか。(アメリカでは当然に許されそうですが)
個人的には、遅延行為が効果的な主張の準備に必要であれば許容されるけど、単に判決を引き伸ばすだけ、というのは不適当だと思います。
ただ、矢部弁護士の記事中に
最高裁が必要的弁護事件で弁護人抜きで審理した事件の上告を棄却した例もあります。
ともあるので、裁判所の心証を害するリスクを承知でやっているとすれば、弁護活動としては「あり」なのかもしれないなぁとも思ったりしてます。
TBありがとうございます。
刑事弁護を受任するときの実態をふまえた論考、参考になります。
今回はどうも「出来レース」風な印象を持ってしまいます。
また、死刑反対論の先生が本当に死刑を回避するための弁護人として適しているかどうか(=最高裁を自説を語る場にしてしまい、有効な弁護をしてくれないんじゃないかとか)という疑問もあったりします。
ところで、前任者が本当に無責任で、土壇場で放り出してしまった場合、やはりそれはそういう弁護士を代理人に選んだ被告人がリスクを負う事になるわけで、特に刑事弁護などは普通の人はめったに依頼することもないでしょうから、なおさら弁護士の選定は重要ですね。
最高裁で弁論が開かれるというような場合は、有能な弁護士を立てたとしても難しいかもしれませんが、控訴審とかだと致命的になる可能性もあると思います。