一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

まとめ (模擬裁判体験記 20(完))

2007-12-25 | 裁判員制度
最後に裁判所地下の食堂で、模擬裁判の関係者(裁判所、検察官、弁護士)合同での懇談会がありました。

皆さんが簡単な自己紹介と感想を述べられ、あとは懇談。

弁護人側はそれぞれ別の事務所に所属する弁護士がチームを組んでいたとのことでした。主任弁護士は元検察官の方だそうです。
感想で「皆さん忙しい中で準備する時間がなく」という発言が聞かれました。
特に最終弁論は直前に議論して内容を変更したのだとか。
そのへんが資料の練れ具合で検察側のほうが優れていたように見えた原因だったのかもしれません。

事前に読んだ記事(参照)などでは検察官が「調書主義」を維持するのではないか、という懸念がみられましたが、今回は模擬裁判ということもあってか、そんなことはありませんでした。
かえって検察官のほうが原則に忠実で、プレゼンテーションの技術についても工夫をしていたようにも思えます。


考えてみると、刑事弁護というのは経済事件とか暴力団組長のような被告人が金持ちの場合以外はあまりお金にはならないので、専門の弁護士というのは少ないのかもしれません。
(先の弁護士の「皆さん忙しい中で準備する時間がなく」という発言を聞いて、裁判員制度についても弁護士会としていろいろ発言はするものの結局本業の民事事件に時間を取られるので、実態は検察官OBなどの刑事を比較的得意としている一部の人に頼っているという感じで、選挙に強い小沢一郎頼りの民主党と似たようなものかな、という印象を持ってしまいました。)
そうだとすると、専門特化している検察官のほうが人的資源や経験上有利になるのは否めないのかもしれません。


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ということで、長々と続いた模擬裁判のシリーズもどうにか年内で終えることができました。
最後に裁判員制度についての意見と感想を少し。

1.量刑まで裁判員が行うのは難しいのではないか

量刑の評議のところでもふれましたが(参照)相場がわからない中で議論をするのはかなり難しいです。逆に相場を提示されてしまっては裁判員制度の意味がないのかもしれませんが、刑事裁判システムにおける量刑全体とのバランスというのも重要なように思います。

また、もっと素朴に言って、目の前の人間に刑を宣告することへの抵抗というのはかなりあると思います。
特に死刑判決というのは相当プレッシャーになると思います(法務大臣が執行を嫌がるくらいですから。)。
また逆に、マスコミ報道が先行した事件など場合によっては厳罰化にふれることもあるかもしれません。

量刑には経験が大きな要素なのではないかと思いました。


2.プレゼンテーションについて

裁判員は何の訓練もなくいきなり実戦に放り込まれるので、何をどういう順番で聞いて理解すればいいのか自体がよくわかりません。

なので、裁判官からは手続きの事前の説明を詳しくしてもらった方がいいと思います。全体の流れ、それぞれの手続きの意味合い、それぞれの手続きにおける論点と判断すべき内容について、最初だけでなくそれぞれの手続きの直前にも説明してもらった方がわかりやすいと思います。

検察官と弁護人も、何を主張したいか、どこを聞いて欲しいかをメリハリをつけて(必要に応じて何度も繰り返す等して)説明したほうがいいと思います。
スライドを見て話を聞きながらメモをとるという作業を集中力を維持しながら続けるのはかなり難しいです。
できればメモをとらず、手元の書類も見ずに、しかし重要なことは記憶に残る、というような説明ができると理想かと思います。
その意味ではスライドなどを使わずに、丁寧な書面を配ってそれを見てもらいながら説明してもらった方がわかりやすいと思います。
(少なくともプレゼンを充実させるためにOffice2007にバージョンアップする必要は全くないと思います。)

多分期日前準備手続きで争点を整理してしまっているがために、逆に裁判官・検察官・弁護人と裁判員の間での事案への理解度のギャップがより大きくなりがちなのかもしれません。
プレゼンテーションはできばえの美しさでなくユーザー・フレンドリーなことが重要だと思います。


3.自分が被告人になってしまったら

今回思ったのは、映画と違って犯行自体を証拠や証言から完全に再現するのは不可能だ、ということです。
なので万が一自分は何もやっていないのに誤認逮捕された場合は、間違っても罪を認めるべきではありません。
実際にやっていないのであれば決定的な証拠は出るはずもなく、本人が自分に不利な供述をしなければ、起訴までされることはないんじゃないかと思います(いわゆる「国策捜査」のターゲットになったのならそうもいかないかもしれませんが、そういう人ならそれなりの防御装置を持っているでしょうし。)。

また、実際に犯罪を犯してしまった場合には、弁護士に罪を軽くするためのできるだけの努力をお願いすることになります。
しかし「何があっても有能な弁護士が無罪にしてくれる」というような映画の世界は現実的ではないです。
そもそも奇跡をもたらすような有能な弁護士がいたとしてもそういう人を探し出すのは難しいでしょう。また、刑事事件については検察官はフルタイムで従事し日々研鑽をつんでいますが、おそらく弁護士で刑事事件にフルタイムで従事している人はそう多くなく、もともと同じ司法試験を通っていて能力についてもさほど違わないのだとしたら、「相手の意表をついて一発逆転」とか「黒を白と言いくるめる」などというのは普通に考えれば期待すべきではありません。
先日のDNA鑑定の信憑性を覆したイギリスの判決も、被告人がIRAの活動家なので多分きっちりとした弁護団が真剣に取り組んだからだと思います。
たとえば国選弁護士がそこまでやってくれるかと言えば、正直言って期待できないでしょう(それも無理もないと思いますが。)。

もっとも一度弁護を依頼した以上は、弁護活動が有効に機能するように協力したほうがいいのは当然だと思います(どうすればよりいい結果が出やすいのか-または大した違いがないのか-は経験がないのでわかりませんが。)。

さらに裁判員制度ではやはり印象が影響することは否定できないと思いますので、できるだけ真摯に反省し謙虚な姿勢で臨んだほうがいいと思います。
そのほうが弁護士も情状酌量を主張しやすいでしょうから。
実際、思ってもいないのに縁起をしたら見抜かれてしまうのかもしれませんから、本当に真摯に反省することが必要だと思います。



なので、当たり前ですが

  犯罪は起こさないのが一番

です。


刑事事件で裁判所に行くのであれば、裁判員として行くほうが百万倍ましです。



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最初はブログネタに格好、などと思っていたのですが、体験記として書き始めると長くなってしまい、忘年会シーズンに突入したこともあり途中で放り投げたくなる誘惑に何度も駆られましたが、無事年内に終わりまでたどりつくことができました。

ご愛読いいただいた皆様、ありがとうございました。

あまり興味を持てなかった皆様、また、いつもどおりのヘタレなエントリに戻りますので、引き続きご愛顧お願い申し上げます。


(おわり)
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