一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

『自己創出する生命-普遍と個の物語』

2010-08-25 | 乱読日記
分子生物学の第一人者で「生命誌」の提唱者でありJT生命誌研究館の館長の中村桂子氏が「生命誌」の考えについて語った本。
単行本は1993年初版ですが、2006年の文庫化にあたり補遺がついています。

本書の冒頭にも上のリンク先のJT生命誌研究館のサイトのにある「生命曼荼羅」のような図があって、その道の大家が神がかってしまうというパターンかと一瞬引いてしまったのですが、中身は真っ当かつ壮大な構想を語った本でした。

分子生物学の進展により、DNAの解析まで可能になった現代でも、それで生命の機能がすべて解明されたかというとそうではない。DNAは自己を複製する機能しかなく、多様な種が生まれてきたこと(これを著者は「自己創出」といいます)を説明するには生物を総体として見るとともに進化の歴史という視点から見る必要がある、と主張しています(これが正しい要約か、てんで自信はないですが)。

本書の中では、生物学の研究成果だけでなく、免疫学や脳科学そして哲学に至るまで幅広い言及がなされているとともに、生命を巡る言説や研究の問題点も語っています。

たとえばドーキンスの「利己的遺伝子」
ドーキンスは集団遺伝学、行動学、生態学などのマクロの生物学に対して、分子生物学の成果であるDNAをメンデル的遺伝因子(表現系から類推される遺伝因子)を意図的に混同することで、種や個体にこだわっているマクロ生物学にミクロの生物学の視点を入れるべきことを一般向け書物に書いたところ、「利己的遺伝子」と言う言葉だけが独り歩きしている、そもそも「自己の存続にしか意義を見出せないDNA」というのはDNAの機能に他ならないのでその擬人的表現のほうが流通してしまっていると著者は指摘します。


また補遺では、ヒトゲノムも解析されたものの、ゲノム(遺伝子を含むDNAの総体)の中で遺伝子(タンパク質を指定する部分)の占める割合は1.2~1.5%に過ぎないことが明らかになったことが語られます。そこで著者はゲノム総体としての働きを調べる方向に進むべきにもかかわらず、「ヒトゲノム解析プロジェクト」が結果を出したがために同様に多額の費用をかけて端から解析しよう、具体的には遺伝子の作るタンパク質をすべて解析しようというプロジェクトに多額の費用がつぎ込まれることを批判しています。(有用性はともかく結果の出やすいものにお金が集まるというのはどこも同じなんですね)


どうもうまくまとめることができませんが(「浅学非才」を実感します)、いろいろ示唆に富む本であることは間違いありません。




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