この本は前にも書いたように『ルイ・ボナパルトのブリュメール18日』の予習で読んだのですが、この本も相当面白かったです。わかりやすさからいったら格段にこっちのほうが上ですw
僕は、高校の世界史の授業がフランス革命以降はNHKの朝の連ドラの最終回のような端折り方だったこともあり、しかも共通一次(というのがあったんだよ、若い方々w)では選択しなかったので、フランスも第二帝政以降は相当あやふやな知識しか持っていません。
さらに、第二帝政については、著者曰く
第二帝政といえば、ナポレオンの甥というだけの単なるバカが陰謀と暴力によって権力を奪取し、強権によって支配を続けた暗黒の時代とされていた。
という評価だったそうで、実際そんなイメージがありました。
確かに、普仏戦争で自ら戦地に赴いたあげくに敵に包囲されて降伏したという皇帝として前代未聞の振る舞いや、当時から有名だった好色ぶり(これは事実だったらしい)がイメージを規定してしまった部分もあるようですが、長らく続いたフランスの混乱に終止符を打ち、経済的発展をもたらし、第三共和制の反映を準備したという面での再評価は1980年代になってようやくされるようになってきたそうです。
本書はそのナポレオン三世と第二帝政について再評価(「単なるバカ」ではなくその政策には歴史的意義があった)の視点からまとめた本です。
『ブリュメール18日』ではクーデタに至るまでの政治過程、代表制の構造が語られていますが、本書で個人的に面白かったのは第二帝政下の経済発展の部分でした。
フランス革命のときに大量に発行された国債が不換紙幣になってしまったことにこり、当時のブルジョアジーは自らの財産を金貨や銀貨として溜め込み、銀行券や株券のような投資にまわる資金は枯渇していたのが、第二帝政になると市場に流入するようになり、それに経済発展を重要視するサン・シモン主義に影響を受けた政策とあいまって、フランス経済は大きく発展します。
新たに銀行の設立許可を受けたクレディ・モビリエが鉄道や他の産業資本に積極的に投資をし伝統的な銀行であったロスチャイルド銀行と覇権を争うところや、ロンドンの万国博に刺激を受けたナポレオン三世によってセーヌ県知事に任命されたオスマンのパリ大改造、そしてイギリスとの通商条約締結により発展する商業(「デパート」の誕生もこのとき)など、(当のナポレオン三世はあまり登場しないのですが)さまざまな登場人物によってフランス経済は活況を呈します。
いってみればバブルだった(フランス国内の信用秩序の回復とともに米豪でゴールドラッシュが起きたことで金銀の価格が低下し過剰流動性が起きた)わけですが、やっぱりお金が回らないとだめだよなぁと、現下の経済を見ながらつくづく感じた次第です。
そして、ロスチャイルド銀行の独占だった発券銀行に風穴を開けたクレディ・モビリエへの発券許可とか、フランスの工業界の反対を押し切っての通商条約締結など、現在にとっても示唆に富むところも多いです。
またクレディ・モビリエを追い落とすためのロスチャイルド側の政府への働きかけや、クレディ・モビリエが崩壊に至るきっかけになったのが不動産不況に際し関係融資先の焦げ付きを隠したまま増資を強行したのをロスチャイルド側に暴露されたためだというあたりなども味わい深いです。
「バカ」といわれた皇帝を戴いてすら国が急に元気になることもあるわけですから、日本もめげてばかりいてもしかたないのかもしれません。
マルクス曰くの「二度目は笑劇」であるならば、今回の経済危機は何度目の茶番になるのかわかりませんが、笑劇なりに思いっきり演じることが大切だと元気付けてくれるような本でもあります。