合気道ひとりごと

合気道に関するあれこれを勝手に書き連ねています。
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90≫ 天地投げ

2009-01-21 09:56:23 | インポート

 今回は天地投げ(なんとも壮大な名前です)について、わたしなりの考えを述べてみようと思います。これは小手返しなどとともに、一教、四方投げ、入り身投げに次ぐ基本の技とされていますが、納得のいくように技をこなすという意味での難しさにおいては、それらをはるかに凌ぐのではないかと思います。

 どういうことかといいますと、他の技は、下手は下手なりに、力まかせでもなんでもお終いまでもっていくことはできるのですが、天地投げは、大きく力の強い人にガッチリと両手を取られると、生半可なことではにっちもさっちもいかなくなります。

 普通はそんなふうな稽古はしませんし、しなくてよいのですが、あえてそのような稽古をすると技の難しさがわかって、まんざら意味のないことでもありません。以前、わたしの稽古仲間で、若くて体格が良く力の強い人に頼んで、そのような稽古をしたことがありますが、それまでのやり方では技を最後までもっていくことができませんでした。というより、最初の一歩を踏み出すことさえできなかったのです。両手を取られているわけですから当身で崩すということもできません。

 それをなんとか克服しようと工夫を重ねたわけですが、それを通じて一般的な方法の欠点に気づき、結果として大きくモデルチェンジすることとなり、現在に至っています。

 さて、天地投げのやり方を文章で説明すると次のようなものだと思います。

 ①逆半身(仮に取りは左半身として)で受けに両手首を取らせる。

 ②左足を外側前方に踏み出しつつ、右手は上、左手は下を指して開いていく。

 ③右足を受けの背後に踏み出し、右腕を首にかけるように返して倒す。

 言葉にするとこんなものなのですが、これでは人は倒れないのです、当たり前ですが。

 まず①において、相手に漫然と手首を取らせるようではいけません。他の技でも同様ですが、合気道においては相手と触れるその瞬間がとても大事です。天地投げにおいても、ここがうまくいかないと押さえ込まれてしまってアウトです。わたしは、相手がこちらの手首を掴もうとする一瞬前に自分のほうから手を相手の掌に向け軽く差し出すようにします(ポンと当てる感じ)。要するに、相手が掴もうと考えた位置をほんの少しずらしてやるのですが、これだけで相手は瞬間、居付きます。これは早すぎても遅すぎてもだめですから、そこのところは練習を重ねるしかありません。

 ②の局面です。天地投げですから上下に手が分かれていくわけですが、相当稽古歴の長い人でも上下ではなく左右投げになっているのをよく見かけます。受けが崩れていないのに前に進もうとするからでしょう。手がきちんと力を伝えられるのは体の正面で働いているときだけです。左右に開いてしまってはまったく用をなさないだけでなく、体の前面をさらけ出すことになり、これは避けるべき体勢です。

 まず、取られた左手は単純に前方下に出すのではなく、相手の掴み手の肘を伸ばすように手刀を立てて縦回転させ(受けからすると前腕の延長線上に手を引き出される感じ)、その後、体の中心線に沿ってまっすぐ下に落としていきます。普通はここで左手が左足の外側にいってしまいますが、そうではなく、いうなれば金的ガードのようなかたちになります。このとき同時に足が出ますから、手首はゆるいカーブを描きながら受けの右足のやや後方を目指して落ちていきます。受けにとっては連続して肩を引き落とされながら崩れていく感じになります。

 天の手は上に押し上げるのではなく(がっちり持たれたら容易に上がりません)、これも手刀を立て、肘を相手の水月に当てるような感じで上腕を立てて受けの胸に寄せていくようにします。これで受けの脇があき、肘が上がります。

 それらと同時に左足を前外に踏み出しますが、上体は前を向くのではなく受けのほうを向き、腰を十分に落とします。そのようにすると、相手の側面で四股立ちに近い立ち方となり、体の中心線上で手が上下に分かれているかたちになります。普通は相手とすれ違うようなかたちで歩を進めますが、この、前に進むというのがよろしくない原因です。

 さて、両腕の働き(力の乗せ具合)ですが、地の腕が7割、天の腕が3割くらいに考えるとよいと思います。天地それぞれ5割ずつだと、受けはそれなりにバランスがとれて、崩れません。地の腕は重心の下にありますから、自分の体重を預けるのは簡単です。この時点で受けは体軸が捻れてしまっていますから相当崩れているはずです。上の手はほとんどオマケみたいなもので、相手が落ちるのに便乗するだけです。

 もう③に入っていますが、以上のようにすると受けは後方ではなく、ほとんどその場に尻餅をつくような感じで倒れます。ですから右足は前に進めるというよりは形を整える程度に踏み変えるくらいの感じです。

 要は、天地投げなので両手が天地に分かれることと、その場に落とすように仕掛けることを心がければよいということです(ほとんどの技において、その場への脳天逆落としが本来のかたちです。それを、安全に配慮して前回り受け身や後ろ受け身をとれるように改められているのです)。

 この遣い方で自分のほうから手を取りに行くと(いわゆる実の稽古)一瞬で倒せるようになります。とにかく、天地投げは全身のいろいろな動作を同時かつ正確に行うことが求められるので、とても難しくて面白い技です。