合気道ひとりごと

合気道に関するあれこれを勝手に書き連ねています。
ご覧になってのご意見をお待ちしています。

232≫ 動きを読む 

2014-03-21 19:31:16 | インポート

 わたくしどもの会では複数の公立の武道館をお借りして稽古を続けています。それらはいずれも一つのフロアに板敷きのスペース(剣道場)と畳敷きのスペース(柔道場)が間仕切りもなく隣り合っている作りになっています。

 ですから、曜日によっては合気道の稽古時間帯に、隣で剣道や空手道の方たちがそれぞれ稽古に励んでいます。彼らの気合(掛け声)でこちらの指示の声がかき消されることも間々ありますが、元気な声はそれだけでも価値のあることですので、彼らの元気に便乗しようと思っています。

 そのような環境ですから、声だけでなく稽古の様子もよく見えます。このごろはこちらが休憩のときなどに、彼らが地稽古(試合稽古)とか自由組手などをしていればそれを観察するようにしています。というのは、宮本武蔵が言うところの『枕をおさえる』呼吸を読む練習にちょうど良いからです。

 たとえば、剣道で両者が相手の出方を探りつつ自分の飛び込みのタイミングをはかっている様子を、こちらは客観的視点から見ることができます。そうしていると、両者の間の緊張感が空気を伝わってきて感覚的にわかるようになります。それを続けているうち、その空気感が最高潮に達するのを感じとることができ、『ここだ!』と心の声を発すると、それに引きずられるわけではないでしょうが9割以上の確立で両者が打ち込んでいくタイミングに合致するようになります。

 これはなにも特別な能力や、ましてや超能力などではなく、試合形式のある武道をしたことのある人なら誰でも経験し獲得している感覚です。ただ、合気道の場合、普段の稽古でそのような空気を読む感覚は特に求められることはありません。とりわけ合気道しかしたことのない人にはあまり縁のない技能かもしれませんが、これは武道として非常に大切な要素です。

 大先生は、『こちらは宇宙の原理に則っているのだから、それを攻めるということは宇宙を相手に戦いを挑むようなものだ。そのようなことはできるはずがない。だから攻めようと思った時点で既に負けているのだ』というような意味のことをおっしゃっています。ここで語られている精神と技法はわたしたちの力量の遠く及ばないものではありますが、目指すべき目標ではあります。

 わたしたちとしては、そのような、戦う前に勝っているレベルに一歩でも近づくために、まずは相手と接した瞬間に勝つくらいのことは考えても良いのではないでしょうか。前述の空気を読む感覚はそのために必須のものだと思います。

 それを普段の稽古にどのように採り入れるかが工夫のしどころです。まず大切なことは、受けは、相手の手首をつかみにいく場合も面を打っていく場合も、ただ漫然とつかんだり打ったりではなく、相手の呼吸を読むとか、ふっと気が抜けたと感じたようなところを突くようにすることです。

 同様に、取りは意識の集中を途切れさせることなく、常に受けの動きをつかみ、その動きを先取りするつもりで体を捌くことが大切です。ただしそれは速い(スピード)動きという意味ではなく、早い(タイミング)動きという意味です。

 相手がどう来るかわからないような武道やスポーツでは、のんびり構えていたら一方的に追いやられますから、まずは対応の速さが求められます。その点、合気道のように、動きが定められている武道であるからこそ誰にでも先読みが可能で、早い動きを学ぶのに適しているとわたしは考えます。

 そのようなもので実際に使い物になるのだろうかと思われる方もいらっしゃるでしょうが、なります!稽古次第で。人間がなんらかの動きをする場合、手なら手だけが、足なら足だけが動くということはなく、体全体が一定の調和のうちに動くのです。ですから、先に述べた剣道の例で空気感という曖昧な表現をしましたが、要するに全体像を把握する練習によって経験知を蓄え、次の行動変化を推定できるようになるということです。どうぞ試してみてください。

 そういえば、他の武道やスポーツから多くのことを学ぶことができる、このことも黒岩洋志雄先生がよくおっしゃっていたことです。

【お知らせ】

本ブログでよく取り上げております、黒岩洋志雄先生の合気道理論と技法を軸に、≪遣える合気道≫とはどのようなものかを共に考究する=第8回特別講習会=を平成26年5月18日(日)に開催します。東北の片田舎までおいでいただける方はどうぞご参加ください。

詳細は本ページ左のリンク欄から≪大崎合気会≫ホームページをご覧ください。


231≫ わが日本

2014-03-11 13:16:23 | インポート

 東日本大震災の日から今日でまる三年を迎えました。

 内陸に位置する当地は、もちろん津波の被害や原発対応の困難さには比べるべくもありませんが、それでも死者18人、家屋の全壊596棟と、内陸部としては最大級の被害を受けました。この間に全国、全世界から寄せられたご支援に、被災地に住むひとりとして心から感謝申し上げます。

 下の写真は当地を流れる川沿いの堤防上にある道路の、震災時と本日の様子ですが、おかげ様をもちましてご覧のように復旧いたしました。

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  災害復旧ということで、他の何にも増して優先的に予算配分されたことの成果でしようが、その財源は全国民の負担であることを思えば、国を挙げての支援であることは言うまでもありません。そのご恩は何かのかたちで必ずお返しすることをお約束いたします。

 しかしながら、被災地はまだまだ復興が緒についたばかりです。引き続きお力添えを賜りたく、心からお願い申し上げます。

 さて、冬のパラリンピックがロシアのソチで開かれています。ウクライナでの政変に関与しているロシアは難しい立場にありますが、当のウクライナも参加していることは一筋の光明かもしれません。

 このブログをさかのぼってみると2012年8月にロンドンでのパラリンピックについて書いています。そこでも述べていることですが、パラリンピックの種目は決して類似の競技の障碍者版(障害者という記述は採りません)というわけではありません。むしろ一般的なスポーツのルールをさらに厳しくした、別種の競技であると考えるのがふさわしいと思います。

 体にハンディキャップをもちながら、一般のアスリートよりも厳しい練習を積んできた選手の努力と精神力に、わたしは頭を垂れるしかありません。心からの敬意を捧げるものです。

 そして、テレビから流れてくる彼らの談話には、必ずこれまで支援してくれた人々に対する感謝の言葉が添えられます。それを聞いていると震災の被災者の言葉と共通することに気づきます。

 大変な状況にある人、困難な環境にある人、そのような人に、ある時は力強く、ある時はさりげなく支援の手を、救いの手を差しのべてくれる人、そのような人々で作られている国、日本。いい国です。

 みなさん、ありがとう。

 合気道精神もかくありたい。

 


230≫ 黒岩理論 その6

2014-03-02 15:41:45 | インポート

 黒岩理論シリーズの一応の締めくくりとして、これまで述べたうち、技法に関わることについて補足をしておきます。その場合心得ておいていただきたいのは、黒岩合気道は遣える合気道(武術として使い物になるということ)を目指したものだということです。ですので、そのようなことには興味がないという方にはご縁がないものとお含みおきください。

 あらゆる武術がそうなのですが、稽古の形がそのまま実戦に遣えるということはなく、それをもとに掘り進まないと真の部分は見えてきません。

 ①虚と実

 これは端的に言うと、受けに掴んでもらうかたちが虚、取りが自分で掴んでいくのが実ということです。ですから、普段の稽古においては受けに掴んでもらっていても、取りがそのかたちのまま自分で掴めるように腕や手を操作できているか気をつけながら行なうことが肝要です。

 虚・実においては間合いや体捌き、あるいは心構えなどの面で違いがあるのですが、それは二義的ということでよいかと思います。

 また、実の技法や間合いはそのまま突き、蹴りなどの拳法的攻防にも対応し得るものです。もちろんその場合は、柔術的技法とは別にそれなりの鍛錬が必要なことは言うまでもありません。

 ②間合い

 間合いは武術の攻防において最も重要な技法上の要素です。肩取り(近間)、片手取り(中間の間合い)、正面打ち(遠間)などの掛かりはその体得のために行なわれるものであることを理解すべきです。単なる攻撃法の違いではありません。 

 なお、合気道の各技法は、自分と相手との間(あいだ)にできる間(ま)を自分の体を使って埋めていくようにできていることも理解しておくと良いでしょう。黒岩先生の《相手に打たれるくらいのところまで踏み込んでいかないと、こちらも打てない》という教えはこのあたりの消息にも関係していると言えるでしょう。

 ③合理性

 黒岩合気道はどこまで行っても合理的なものです。この場合の合理的というのは、現実的で再現可能なものであるということと同義です。必ずしも意味合いが統一されていない《気》という概念が稽古において排除されているのもその理由からです。

 黒岩先生は三手以上の段取りを踏むような攻防、つまり、相手がこう来るから自分はこう対応して、さらに相手がこう変化してきたらこう受ける、というような組み立てはファンタジーだとおっしゃっていたようです。勝負は最初の接触の時点で決まる、あるいは決めるのが実際的です。

 他流を例にだして恐縮ですが(敬意を表しつつ)、示現流剣術は相手より早く動き出し、先に自分の間合いを作り、迅速の打ちこみをかけるという、まことにわかりやすい理論が核心にあるようです。門外漢ながら、わたしはこれは実に明快で、ファンタジーとは対極にある技法だと思います。

 ④おまけ

 合気道は退がらないのが特徴です。それを象徴するのが入身であり転換です。

 ちょっと本筋から外れますが、昨年の大晦日に行なわれたボクシングWBA世界ライトフライ級タイトルマッチにおいてチャンピオン井岡一翔が同級3位のフェリックス・アルバラードを3―0の判定で下し、3度目の防衛に成功しましたが、わたしの観るかぎり、両者には点差以上の実力差があったように思われます。それでもアルバラードが判定にまで持ち込めたのは常に前に出る戦法のおかげだったと思います。

 難しいことを言っていたほうが有難みが増すと考えて、よくわからないことを述べ立てるのを好む人もいるかもしれませんが、先述の示現流もそうですけれど、現実には先手をとって前に出るのが有利なのです。

 敵と対して、退がるのは練習しなくてもできます。でも、恐怖に打ち勝って前に出るのは一所懸命稽古しないとできません。合気道の技法や体捌きにはそのような要素が含まれていることを理解しましょう。

 黒岩理論シリーズの終わりに、ひとこと言い添えます。

 遣える合気道ということで、格闘技法あるいは制敵技法の側面を主に述べてきましたが、そのような殺伐としたものは無用なものとしてホコリをかぶっているか神棚にでも飾っておくのが一番良いのです。ただ、大先生が目指された大きな愛と和合の世界に一歩でも近づくために、その手段として日々修練している合気道に秘められた計りがたい威力の一端を黒岩先生は明らかにされたということなのです。

 まあ、大先生はそれを隠してしまおうと考えられたのかもしれませんが、気づくべき人が気づいたということでしょうか。そして、わたしたちは、自分がそれを知るにふさわしい人格であるかどうかということも常に検証すべきでありましょう。