合気道ひとりごと

合気道に関するあれこれを勝手に書き連ねています。
ご覧になってのご意見をお待ちしています。

125≫ 世界標準 ③

2010-03-28 18:34:08 | インポート

 世界標準としての基本の技の三つ目は入身投げです。これも本当は一教と同じように相半身片手取りから入るのが良いのですが、片手取りとは異なる間合い感覚を体得するために、ここでは正面打ちを採用します。

 これについても、これまで述べてきたことに尽きますが、あらためて重要と思われることを取りまとめご参考に供することにします。

 まず、体捌きとしての≪入身≫と技としての≪入身投げ≫を区別しておく必要があります。入身投げは、相手との共有空間を形成する要素のうち奥行を意識する技法として採用していますが、同じく基本の技たる一教や四方投げがタテあるいはヨコの崩しを表す技法であるのに対し、入身投げは特に崩しを意識したものではありません。

 そもそも入身それ自体は崩しのための技法ではなく、間合いの形成に直結する体捌きです。ですからそれは合気道のあらゆる技に組み込まれており、入身投げは入身を表現する技の代表ではありますが、あくまでもその中の一つでしかないのです。実際に入身投げをかける場合は崩しを施しますが、その方向は上であったり下であったり前であったり後ろであったりと、状況によって変化し一定していません(このことは後述します)。

 ただ、奥行を意識するのには、やはり入身投げがもっとも理解しやすいと思われるので、一教、四方投げとともに3次元空間を表現する技法としての役割を担ってもらうことにします(ちなみに、故黒岩洋志雄先生が奥行を表す技法として二教を挙げておられたことは既述の通りです)。

 さて、正面打ち入身投げにおいても、何を措いても重要なのは足の運びですが、その合理性を説明するためには手の働きから入らざるを得ません。右相半身正面打ち入身投げの場合、受けの打ちこんできた右前腕と自分の右前腕を合わせますが、ここでもやはり取りは受けの手または腕を押し返すのではなく、その上に乗るように操作します。つまり、受けの切り下ろしに合わせて、こちらは肘をしぼり掌を上に向けて受けの前腕の上に接します。そのためには、取りは前に出ている足(右足)を肘の絞りに合わせ、踵を若干左に寄せます。これが一歩目です。そうすることによって受けの攻撃線の外に体をずらすことができます。このとき大きく前に踏み出すと腕と腕、あるいは肩と肩がぶつかり、それを避けるために自分が外にふくらむか相手を押しのけるような動きになり好ましくありません。これが入身投げの出来不出来の半分くらいを決めます。

 そして二歩目(左足)ですが、ここでも手の動きは重要です。右手は受けの右手との接点に残し、左手を大きく前に振り出します。それに合わせて左足を大きく踏み込み、ほとんど受けの真後ろ(これが重要)くらいまで体を移動します。そうして、取りは左手で受けの首筋を捕り、それと自分の右肩口を接するようにすると、受けの体軸が右斜め後ろに傾きます。これが入身投げの崩しです。あとは取りが上腕で受けの顎をすり上げるだけです。ここで転換をいれれば入身投げの裏(普通はこれですね)となります。

 さて、世界標準としての動きを説明しましたが、一般的には打ち込んできた受けを前のめりにさせ、振り回した後に後ろに倒すというやり方が多いように見受けられます。この、前方に崩す方法が可能なのは正面打ちの場合だけで、他の攻め(片手取りとか両手取りとか肩取りとか)の場合は、そのままでは受けが前掛かりになっていませんから前下方に崩れる必然性がありません。さらに言えば、正面打ちで空振り(カタではそのように誘導しています)をしたくらいで前のめりになるような人を攻撃者として想定していることが稽古として合理的であるかどうかにも疑問が残ります。したがって、あまり前下方への崩しにこだわる必要はないと思います。

 実際のところ、先に述べた入身投げにおける崩しからさらに腰を落とせば、受けは前のめりではなく背中側つまり右足の外側に崩れ落ちますから、前のめりとはまったく異なります。前のめりにさせて首や襟を掴んでの振り回しでは、受けは簡単に逃げることができます。そのような動きはあくまでも見ばえを優先させた演武用と考えるべきです。

 ただし、受けの掴みや打ちこみを後上方に押し込んでから前下方に崩すなどの操作は、反射による体移動の変化の方向を読み取るための鍛錬法としては意味があると思います。ですから、そのような意味づけをしっかり認識した上で、状況に応じて崩しの方向を変えることは稽古のバリエーションとしてはアリでしょう。

 なお、崩しのバリエーションはむしろ体格差を埋めるためにこそ必要で、低身長の人が背の高い人を崩そうとすれば標準的方法では若干無理が生じる場合があります。その場合は上述のように前後に揺さぶるほか、ここでは詳しく述べませんが、実戦的には右手で腰を押し出したり足で膝裏を蹴ったりということが考えられます。ご参考まで。 

 相手が攻め込んきたら、本能は退くことを選択します。それに逆らって出て行くことは勇気のいることです。しかしそうすることのほうが生存確率が高ければそうせざるを得ません。ただしこれは修練を積んだ人間だからできる武技の最高到達点です。

 合気道はそれを日々の稽古の積み重ねによってしっかり身に付けることができるように組み立てられています。いや、むしろ合気道の稽古は、技法上は入身を体得するためのものだと言っても良いかもしれません(すべての技に入身が組み込まれているのですから)。そのような意義を理解して稽古に臨み、是非この高度な技法をそれぞれの方がわがものとしていただきたいと思います。 

 

 

 


124≫ 世界標準 ②

2010-03-14 19:33:08 | インポート

 今回は四方投げです。

 四方投げはヨコの崩しの代表ですが、この場合のヨコとは前後方向に直交する横という意味ではなく、垂直面に対する水平面のことです。そこを誤解すると四方投げの崩しができません。

 世界標準においては特に逆半身片手取り四方投げを採用いたします。これはなぜかといいますと、最も基本的でかつ一番難しいからです。正確で細やかな体遣いをしないと理想的な崩しにつながっていきません。そのことに重点を置いて説明したいと思います。

 仮に、取りの左半身における四方投げを例にとります。逆半身片手取り四方投げ表においては、取りの左手を掴んできたきた受けの右手首を、取りは右手で取り返し、右足を一歩踏み出すように指導されます。

 この≪一歩踏み出す≫という、その踏み出し方が実はとても大切で、わたしはここが四方投げの最大の勘所だと思っていますが、通常、さほど注視あるいは重視されているようには思えません。

 一般的には、右足を受けの正面に踏み出し、続いて左足を進め、手を振りかぶりつつ後方に向きを変えて手を切り下ろす、というように説明しているだろうと思います。そこで、ちょっとその様子を頭の中でイメージしてみてください。取りが手足を動かし体が移動している間、対する受けの体で動いているのは肩から先の右腕だけではありませんか。そのやり方では受けは崩れるどころか、むしろ取りの動きをじっと観察する余裕さえあります。この場面、受けが取りに対して殴ろう蹴ろう倒そうと思えば何でもできます。そうしちゃいけないからしないだけで、それに甘えて取りが勝手に動くだけでは自己満足でしかありません。技になっていないのです。

 大事なことは、取りが動き始めるのと同時に受けが崩れ始めないといけないということです。そのためには取りは無造作に足を進めるのではなく、【左半身から右足を左足と並ぶくらいのところまで進めたら爪先の向きを大きく返し、両膝を曲げて、両足の間隔が狭い裏三角立ちのようにします】。そのとき体の開きに合わせて受けの右手を引き出すようにします。これがヨコの崩しで、受けの腕が伸び、肩が前に出ます。こちらの動きがそのまま受けの崩しにつながっています。

 この足遣いはわたしが工夫したものではありますが、完全なオリジナルというわけではなく、それとよく似た足遣いを古い時代に大先生がされていたようです。いまでもその動きを守り続けているところもあるようですが、それは、左半身の場合そこから左足を左にずらし、右足を受けの爪先付近まで進め受けと直交する右半身に変わります。同時に左手の操作で受けの肩を浮かせ右手で当身をするのです。文章にするとずいぶん趣が異なるように感じますが、足の遣い方には共通点があります。わたしが考えるくらいのことはとうの昔に試しているよという声が聞こえてきそうですが、同じようなことを大先生がなさっていたと考えるとまんざらでもないような気がします。

 さて、足についてはそういうこととして、次は手です。手の動きで大切なことは、取りは肘を伸ばさないということです。受けの右手を掴んだこちらの右手と、それに添えた左手(左右両手で掴むのは、動きに制限が出てくるのでお薦めしません)でゆるい円を形作り、その接点が自分の正中線上を上下するだけです。また、受けの腕は、ヨコの崩しで引き出した後、いつまでも伸ばしたままにしておいてはいけません。そのまま四方投げの動きを続けるとその腕をねじるようになり、受けにとっては痛みが先行し、かえって取りに抵抗するような動きになります。ですから受けの腕は崩しを施したらすぐ縦の丸に変化させます。そのようにしてうまく技がかかるときは受けは気持ちよく倒れるものです。

 演武会などで受けの肘を外側にひねり、跳び受け身をとらせるやり方をよく見ますが、へたをすれば肘を痛めますし、なんかサディスティックな感じがして、わたしは好みません。しかも本来四方投げは脳天逆落とし技法ですから、背後に倒すのが正しいのです。

 裏は、左逆半身片手取りにおいて、受けの手を掴みかえし左足を受けの前足の横まで進め転換しますが、ここでの転換はコンパスのように片足を軸にした回転ではなく、両足を地に着けたまま向きを変えます。したがって回転軸は足ではなく体の中心に置きます。ですから180度回った時点では右半身つまり右足前になっています。ここから受けの右手を掴んだ自分の右手の甲を額に着けるように引き上げ、同時に右足を後ろにもってきてそこからまた両足で回り終末動作にはいります。

  ここでおわかりのうように、裏の場合、受けの腕はすぐに縦の丸を描き、表ほどにはヨコの崩しが表れてきません。いつも言っておりますように、表技と裏技は別物だということがここでも証明されます。

 また、表、裏とも終末動作としてこちらが一歩踏み出して受けを後ろに倒すのではなく、前に出ている足をもう一方の足元付近まで引きつけて、そこにできた空間に受けを落とすのです。これで、やろうと思えば脳天逆落としができます。

 なお、表裏とも手は受けの頭より上にはもっていかないようにします。返される危険があるからですが、そのためには腰を十分に落とすことが大切です。

 四方投げについては以上ですが、これだけではご不明のことも多々あろうと思いますので、その点はコメント欄を使ってお尋ねください。