Markus Zahnhausen "Russian Sketches" for recorder solo(1997)
マルクス・ザンハウゼン作曲の無伴奏リコーダー作品「ロシアのスケッチ」が好きだ。
何で好きかというと、とにかく好きなのだ。
あまり前衛的でないところも、良いし、かと言って因習的な語法に囚われていないところも良い。
楽譜の中にある指示が細かすぎないので、ほどよく演奏者自身の創意工夫を入れる余地も残してある。
このあたりはザンハウゼン氏が作曲家であると共に、リコーダー奏者であったこととも由来するのではなかろうか。
まず冒頭の部分、ここはロシアの教会から聴こえてくる聖歌のようなもののイメージ。
リコーダーの音と、奏者自身の声のユニゾン(またはオクターブ)で簡素だけれど、神秘的な旋律が流れ、流れてゆく。
リコーダーの音と、声で和音を出すというような技を全く使わないで、同じ音だけで旋律を作ってゆく、というのがこれまた良いのだ。
そして短いつなぎの部分を挟んだ後に、硬いスタカートと、通常の奏法による音が組み合わさりながら、にぎやかに盛り上がってゆく。
ここではあえてひとつの調(旋法)の枠のなかだけで、その展開が行われているので、まるでモードによるジャズを聴いているかのような感じもある。
ふさわしい言葉かどうかわからないけれども、「疾走感」みたいなものが強いから、やっぱりジャズみたいだ。
でもスィングしているわけでもないところが面白い。
だんだん曲はおさまってゆき、最後は再び、聖歌のイメージになって曲は永遠の彼方に向かってゆくのだ。
もともとはアルトリコーダーのための曲だけれど、あえてバスリコーダーでやってみた。
アルトも良いけれど、バスリコーダーの深みが好きだ。
使ったバスリコーダーは古い全音製。レッスンでも演奏会でも録音でも使える桜の木。
昨日(2025年8月17日)に普段はレッスン場として使っている教室(録音の際には南国レコードスタジオとなる)で、撮影と録音してみた。
こういう曲、作れたらどんなに素晴らしいだろうか、と思う。
昔、修業時代に作曲の先生から言われたこと「演奏なんていうのはね、演奏するために演奏するんじゃないんだよ。作曲の種を盗み取るためにするんだ。演奏が最終到達地点じゃない」
とにかくこの曲が好きだ。
だからもう、演奏が最終到達地点でも良いのだ。
もう、細かい理由をいちいち挙げるのも、もどかしいくらい好きだ。
好きなのだ。
この曲を書いたマルクス・ザンハウゼン氏は1965年に生まれて、2022年に死んだ。
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演奏についての好き嫌い、あるかと思いますが、とても良い曲なので是非、聴いて欲しいです。
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