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「勧進帳」

2013-04-29 23:13:03 | Weblog
歌舞伎名作撰 勧進帳 [DVD]
クリエーター情報なし
NHKエンタープライズ


以前、歌舞伎については、「封印切」を書いた。
歌舞伎については、本当に素人なのだが、
「封印切」があまりに面白かったもので、
歌舞伎十八番の「勧進帳」のDVDを買って見た。

上方歌舞伎の和事の「封印切」と異なり、
これは荒事(あらごと)の代表作である。

「封印切」の男女の情事を中心とした和事のやわらかな演技と異なり、
市川団十郎演ずる弁慶の、見得や間、セリフの力強さ、絶妙な富樫との
問答など、演者のキレや大胆な動きの大きさ(すごくキマッている)など、
歌舞伎十八番にふさわしい、あきさせない内容となっている。

あらすじは、以下のサイトを参照してください。

4月に歌舞伎座の杮落とし公演で、松本幸四郎の弁慶
1100回目の勧進帳を行っているらしい。

このDVDの演者は以下である。
武蔵坊弁慶 市川團十郎
富樫左衛門 中村富十郎
源義経 尾上菊五郎
常陸坊海尊 市川左團次
亀井六郎 尾上辰之助
片岡八郎 尾上菊之助
駿河次郎 市川新之助(現 市川海老蔵)。

DVDの「解説とみどころ」の部分を少し書きだそう。
非常にわかりやすい。

「能に素材を求めた歌舞伎演目は少なくないが、
その多くは形だけを模して舞踊化したものだった。
しかし、勧進帳は演出様式をも取り入れ、
舞台も能舞台をそのまま模した松羽目としている。
能は江戸時代では幕府の式楽で、庶民には親しみの少ない
ものであり、当時としては破天荒な舞台であったが、
この作品が、後に『松羽目物』と言われる作品の先駆的存在となった。
 構成は能とほぼ同じであるが、歌舞伎の演目としての特色は、
まず長唄と三味線の演奏によること。特にこの長唄が名曲であり、
この作品が歌舞伎の代表的人気狂言たる一因となっていると言っても
過言ではない。次に講談などで馴染みのある『山伏問答』を取り入れて
ひとつの見せ場としている。また、能よりも富樫と義経の人物像を
膨らませたことが上げられよう」

長唄と三味線・太鼓・笛の伴奏が、演者の演技
とともに演奏される、音楽劇となっている。

「解説とみどころ」で「先にも述べたように、この作品は全体としては
長唄の伴奏による音楽劇であるが、前半は台詞が主となり、後半が
舞踊という味わいになっている。」とある。

後半の市川團十郎の舞は、すごく魅せられる。
足踏みひとつとっても、リズムや音ともにすばらしい。

前半の台詞が主となる音楽劇から、後半の舞踊が主となる音楽劇まで、
あっという間の87分である。

故市川團十郎が命を縮めた舞台はげしさは、DVDからも十分伝わってくる。

さすがに歌舞伎十八番と言われる演目だけあって、
すごいの一言であった。

これを観終わって、勧進帳の弁慶なるものが、
江戸時代から人々の心の中に生きていて、
ジェンダー論はさておき、庶民の中の「男子」というものの範に
なっていたのではないかと思う。

歌舞伎が大好きな山田洋次監督による「男はつらいよ」シリーズは、
渥美清演ずる寅さんが、「男」を演じていた。
1996年に寅さんこと渥美清氏は死んでしまうのだが、
その時代の流れを見ていると、寅さんが背負っていたものの巨大さを、
なんとなく思わざるをえないように思える。

なんとなく、最近の庶民の中の「男」というものが、
オスと化してしまって、弁慶や寅さんが背負っていたものが
なくなってしまっているような気がする。

寅さんや弁慶には、セックスシーンというものがない。
そこには、やはり、性器から離れた「男」というものがあって、
「オス」の男とは違った男性像があったはずだ。

社会的に擬制された男性像・女性像も背負っているものはあったはずだ。
それは、良きにしろ悪しきにしろ、矜持(プライド)となってあったはずだ。

ユニセックスを志向する現代の男性像・女性像は、
人としてどうあるべきかを考える上でよいのだが、
それを越えて人間を、獣のオスとメスにまで貶める点があったように
思える。「男も女もないでしょ、平等でしょ」ということで、
皆生活しているのだが、そのジェンダーを取り払ったら、
何も規範となる人物像を描けなくなっている男女が残ったように思える。

結局弁慶や寅さん亡き後に、残ったものが、
単にオスとメスだけの違いに貶めてしまったなら、
自分たちはもっと反省しなければならないと、
勧進帳を観終わった後にふと思った。

自分の属する中高年にとっては、草食系男子に批判が集中するようだが、
その中で性別を超えた人間の物語に、そのうち弁慶や寅さんのような人間像が
生まれてくるかもしれない、という淡い期待も自分は持っている。

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