「白秋」に想ふ―辞世へ向けて

人生の第三ステージ「白秋」のなかで、最終ステージ「玄冬」へ向けての想いを、本やメディアに託して綴る。人生、これ逍遥なり。

照明に活かす和のあかり―『新・陰翳礼賛』:「ブクログ」より移行

2019年11月22日 | Arts
☆『新・陰翳礼賛』(石井幹子・著、祥伝社)☆

  ツンドク状態だったが一応読了。タイトルから谷崎潤一郎の『陰翳礼賛』を元にしたような日本文化論を想像すると肩すかしを食らう。著名な照明デザイナーである石井幹子さんのほぼ自叙伝といって良いだろう。
  石井さんは東京芸術大学でデザインを学び、就職先で照明器具のデザインと出会う。その後、北欧、ドイツ、アメリカで学び、帰国後、若くして大阪万博(1970年)でいくつかのパビリオンの照明デザインを担当する。石油ショックで照明が「生贄の羊」とされ落ち込むが、沖縄海洋博で復活し、以後国内外での活躍は目を見張るばかりだ。いまでは見慣れた東京タワーのライトアップも石井さんのデザインによるものだったことを、本書で初めて知った。奇しくも昭和から平成に変わる1989年の元旦だったとのこと。
  石井さんが担当した景観照明が口絵で8ページに渡ってカラー写真で紹介されているが、これを見ると、ほとんどの日本人はどこかで石井さんの仕事を目にしているのではないかと思う。たまたまだが今年度(2019年度)の文化功労者に選ばれたのも当然だろう。「明るく華やかな照明がもてはやされた」大阪万博の時代から時を経て、五十代になり和のあかりの素晴らしさに気付いたという。やわらかな「あかり」や「陰翳」の美しさへの想いが、この「新・陰翳礼賛」というタイトルに結実したのかもしれない。昨今イルミネーションばかりがもてはやされ、闇夜を押しつぶすかのような照明環境は一考すべきではないだろうか。
  ちなみに、表紙の写真は「倉敷市美観地区」である。最後に余談ながら、本書は平成20年(2008年)の出版であり、東日本大震災前である。当時首都圏などでは照明が抑制され街が暗くなったが、石井さんは石油ショックの時と同様の感慨を持たれたのだろうか。聞いてみたいような気がする。

  


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