「白秋」に想ふ―辞世へ向けて

人生の第三ステージ「白秋」のなかで、最終ステージ「玄冬」へ向けての想いを、本やメディアに託して綴る。人生、これ逍遥なり。

ステージはステージに留まらず―《ホームステージ―新宿アクティビズムスタジオ12期生本公演》

2013年03月11日 | Arts
☆《ホームステージ―新宿アクティビズムスタジオ12期生本公演》(武田直樹・作・演出、相鉄本多劇場)☆

  舞台は海岸の砂浜(らしい)。カメがひとりでもだえている、いや、いじめられている(らしい)。そこにあらわれた浦島太郎らしき青年。カメがかってに青年にすがりつき「助けてくれてありがとう」と、いつのまにやら竜宮城へ。エビの司会で、イカやらタコやらカニやらサカナたちが出迎え、意外とかわいい(失礼)乙姫さまも登場。そうこうしているうちに、イカやらタコやらカニやらサカナたちが、白浪五人男(?)よろしく口上を述べる。これはこれでなかなかおもしろいのだが、この芝居のメッセージっていったいなに? 友人からの招待で見に来た芝居。見るからにはなんらかのメッセージを読み取りたい。でも??? 舞台では浦島太郎(?)が家に帰りたいと言い出して、乙姫さまの哀願を振り切って元の世界へ。でも、乙姫さまが恋しくなり、折りよくあらわれた(?)カメとともに再び竜宮城へ。笑いも見せ場もあるのだが、やはりメッセージが???
  舞台は切り替わって劇団の稽古場(らしい)。ここではじめて、前の舞台が劇中劇だったことに気づかされる。劇団員たちはみんなそれぞれ理想と現実の狭間に立って悩んでいる様子。看板女優は次なるステップをめざしてオーディションを受け、看板男優は結婚を機に劇団をやめるといい、笑わせてなんぼだろうというお笑い志望の研修生、妙に分別くさいけど情熱を内に秘めた年配の劇団員、劇団の存続に悩む座長や幹部、などなど。う~ん、ありがち。たしかにありがちだけど、これって芝居の世界だけじゃあない。会社にいたって、自分で仕事をしていたって、みんな思いは同じだ。いま自分のいる世界だって同じ。好きな研究をしたくて入った世界なのに、論文を書いてなんぼの世界。食うためのアルバイトに追われて、研究や論文どころではない人間は山ほどいる。
  ステージで繰り広げられている葛藤劇に、ついつい自分を重ねてしまう。そうか、これがメッセージなんだ! ステージはステージに留まらず、ステージの外へと広がっていく。結局、劇団「ヨサコイ」は解散を決め、一人ひとりが劇団を去っていく。理想を貫けるほど現実は甘くない。現実に甘んじられるほど理想は軽くない。人は皆、竜宮城と現実世界を行き来しているものだ。でも、劇団「ヨサコイ」で学んだことや得たことは、確実に自分の血肉となって残っていく。演じられるステージはなくなっても、こころの中のホームステージはなくならない。あの年配の劇団員同様、なんだか分別くさい解釈だなあと思いつつ、ちょっと感動。最後はみんなでヨサコイを踊って幕が閉じた。およそ芝居などやりそうにない友人が芝居をはじめたと聞き驚き、芝居が楽しくて楽しくてしかたがないと聞きまた驚き、実際に楽しそうに演じているのを見て、今度はホッとした。その様子を見ただけでも来た甲斐があったというものだ。現実世界の彼もまた悩みを深めることになるだろうが、ここで得た芝居の楽しさだけは、きっと彼の血肉になっていくことだろう。
  芝居がはじまる前、客席に入っていくと、現実の劇団員らしき男性と女性が客席の案内を務めていた。その女性、というか女の子が実におもしろい。客を案内しながら、しょ~もないことをしゃべり続けている。それを見かねて男性が「シノダァ!」とたしなめる。このシノダさんのキャラは素なのだろうか? ところが芝居がはじまってみると、そのシノダさんは芝居の中のキャラ(あのお笑い志望の研修生)だったのだ。この演出には見事にはめられた。すでにステージはステージに留まっていなかったのだ。客席に入ると同時に、客は演劇空間の中におかれていることなど、芝居を見なれていない者には知るよしもない。それを見事に演じきった「シノダァ、サイコ~!」

  

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2 コメント

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竜宮城 (大和田)
2013-03-15 19:23:44
舞台を観に来てくれて本当ありがとうございました!
芝居を始めて一年間の集大成がこの作品でした。
序盤のシーンは後半の伏線になっていて、あえて古典芸能風の演出も、後半登場する風姿花伝の伏線なのです。
そして何より、この劇団は自分達を暗示してプロを目指す人、趣味でやる人、別の分野へ移る人。
演じていて色々考えさせられる作品でした。
やはりプロが書く脚本は違うなぁとしみじみ感じました。
観に来てくれた人が様々に感じ考えてくれる。嬉しい限りです!
コメントありがとうございました! (euler)
2013-03-17 11:34:16
>大和田さん
最初はなかなかわかりにくかったのですが、見ているうちに、理屈はともかく、自分の中にスッと入ってくるものがあって、アッこれかという感じで腑に落ちました。芝居の奥深さの一端も教えてもらいました。大和田さんはもちろんのこと、演じられた皆さんが各々の場でご活躍されることをお祈りするとともに、期待しています。

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