遠藤雷太のうろうろブログ

何かを観たら、とにかく400字または1000字以内で感想を書きつづるブログ。

田嶋陽子・アルテイシア『田嶋先生に人生救われた私がフェミニズムを語っていいですか!?』

2024-09-19 00:10:00 | 読書感想文

 

2024/9/16

・田嶋陽子さんと言えば、昔「ビートたけしのTVタックル」で、惚けたことを言う男たちを叱り飛ばすパワフルなおばさんというイメージ。

・人気番組だったし、良くも悪くもフェミニストの象徴的な存在になっていたと思う。

・今の感覚だと人権問題をエンタメとして消費するのは色々ありそうだけど、当時は世間に笑い飛ばしながら伝えていくしかないと自覚的に矢面に立っていたそうだ。たしかに居場所を作らないと話にならない。

・おかげでフェミニスト=怖いおばさんみたいなイメージができた一方で、対談相手のアルテイシアさんのように田嶋さんの言動に人生を救われた女性も増える。

・功罪で言えば明らかに功のほうが大きい。というか、罪の部分って彼女自身の罪ではなく、受け手である男性側の意識の問題。

・その後、テレビ自体を見なくなったけど、80代になっても相変わらず元気そうでよかった。

・どんな社会運動でも、世の中を変えるためには何世代にも渡って継続的にやらなければいけないことが多いけど、田嶋さんのような初期の先駆者が、この対談を通じてその成果を体感できたのは珍しく、すばらしいことだと感じた。

・とは言え、〈ヘルジャパン〉は続く。

・現役世代のアルテイシアさんのことは初めて知ったけど、短いフレーズで本質をとらえる表現が巧み。

・<セクハラ・パワハラのセパ両リーグみたいな職場>とか、<あなたは交通事故の被害者に向かって“でも当たり屋もいるよね”と言うのか?>とか。

・<フェミニストが憎んでいるのは男性ではなく、性差別や性暴力であり、その構造やそれに加担する人たち><「クオータ制にすると優秀じゃない女性が増える」と言う人がいるけど、実際は無能な男性を除外すること>という表現も簡潔でわかりやすい。

・男子女子が参加する運動会の競技の話から<真のラスボスは誰か>につなげるのも上手い。

・加えて婚活アプリの利用のコツも話も興味深い。魑魅魍魎は夜に活動する。

・田嶋さんの<「私」を主語にするってとても大事><男社会に過剰に適応しているのは利益があるから>など、書き出すと上げるとキリがない。

・今は生活に追われて政治まで頭の回りにくい世の中だからこそ、それでも声をあげられるパワフルな人たちは社会全体で守らなきゃいけないと思う。

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春日太一『鬼の筆 戦後最大の脚本家・橋本忍の栄光と挫折』

2024-08-23 23:53:48 | 読書感想文

 

2024/8/21

・脚本家の橋本忍の生涯を様々な資料や本人への聞き込みをもとにまとめたノンフィクション。

・橋本忍は『七人の侍』『切腹』をはじめとする数々の代表作があり、日本で最も偉大な脚本家のひとり。

・ただ、黒澤明という大きすぎる存在の陰に隠れがちで、一般的な知名度はそれほどでもないように感じる。

・自分も作品自体はそんなに観ていないので、本書を読むまでは人となりが想像もできなかった。

・幼少期の父親との関係、戦時の療養所で若くして余命宣告を受けていること、会社員と修業時代、七人の侍と黒澤明との関係性、松本清張作品、自身のプロダクション設立とその後、最晩年の様子まで。

・著者が製作エピソードにまつわる事実確認をしていくくだり、考古学者のようであり、事件の真相を探っていく刑事のようでもあった。

・本人によるアイディアノートのようなものがしっかり残っていて、重要な資料になっている。

・残っていること自体がすごいことだし、年月が経てば失われるものもあるだろうから、著者が橋本忍の晩年に間に合ったのはとても大きい。

・これからの作家は全部データになっていくと思うので、同じような追跡は難しそう。

・多少の無理筋を筆力で通してしまう、腕力で勝負をするタイプの作家という。同じような比喩は自分も使うので図々しくも親近感がわく。

・取材対象との距離感がしっかり保たれていて、内容面、興行面など、筆者独自の評価がなされている。

・創価学会との関係にも触れている。自分の日常生活で宗教を意識することはあまりないけど、大きいところなら映画の興行成績を左右するくらいの力を持っていることがわかる。

・本書は脚本の指南書ではないけど、橋本忍の推敲に推敲を重ねるしつこさ、大きな紙に書くことで脚本の構造を視覚的に上げること、長時間机に座って何かしらの文字を書き続けるフィジカル面の訓練が紹介されていた。

・特にフィジカル面の話はそのまま真似するにはリスクが高いけど、一理あるような気がしないでもない。

・企画から出版まで12年かかった労作だけあって充実のノンフィクションだった。

・あとがきに触れられていた執筆時のエピソードも楽しみに待ちたい。

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西山ももこ『インティマシー・コーディネーター 正義の味方じゃないけれど』

2024-08-01 15:59:20 | 読書感想文

 

 

2024/8/1

・筆者がインティマシー・コーディネーター(主に映像作品で、性的行為やヌードなど、センシティブな撮影が行われる際に、それぞれの俳優や制作サイドなど、各役割間の調整とサポートを行う人)として仕事するまでの過程と、その仕事内容などを記録した本。

・本屋で見つけて、即買い即読み。

・そもそも著者の来歴がおもしろい。

・高2でアイルランド、二十代前半でチェコ。チェコの大学を卒業して日本でロケ・コーディネーターとしての経験を積む。主な守備範囲はアフリカ。

・アイルランドで彼氏ができたこと、別れたこと、次の彼氏と結婚して離婚したこともさらっと書いてある。

・仕事の見切り方。違うと思ったら辞める。そういう書き方をしているだけかもしれないけど、切れ味がいい。

・必要だと思ったら映画も作る。

・なんというか、人間としてのスケールが大きい。

・当初は表現の敵のような誤解があったけど、現場では調整役としての存在意義が少しずつ認められつつあるという話。

・ラジオ番組の特集を聴いていたので、少しはわかっていたつもりだけど、あらためてコミュニケーションの繊細さが必要なんだとわかる。

・大胆な人生と繊細な仕事ぶりにあこがれる。

・人脈を作るということの大事さは伝わるけど、自分のこととして考えるとなかなか絶望的な気持ちになる。

・アクションコーディネーターとの親和性。

・確かにアクションシーンなら、現場でいきなり「殴り合うシーンですが臨場感がほしいので振り付けはつけません。どうぞ」と言われても演者さんは困るし、専門家がいたほうがいいシーンになるのは誰でもわかる。

・性行為周辺のシーンに置き換えると、直接振り付けはしないまでも、何がOKで何がNGなのか、その現場のルールを明確にすることで、良い演技が生まれる。似ている。

・ただ、インティマ(現場で生まれた略称)は、他の役割との兼業はできない。

・他の役割も担うということは、何かしらのパワーバランスの中に組み込まれるということ。

・ルールの調整者がその影響を受けるべきではない。

・収入に関してもさらりと書いてあるが、重要な話だった。

・とりあえず、下請法や独占禁止法を学ばねばならないのかなと思った。

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宇根 駿人、田島 佑規『クリエイター六法 受注から制作、納品までに潜むトラブル対策55』

2024-07-05 23:12:39 | 読書感想文

 

 

2024/7/5

・クリエイターが直面する様々なトラブルの事例と、その対応策、予防策を紹介していく本。

・関連する本はいくつもあるけど、特に口コミ評価が高かった。

・電子版。巻末の参考資料リンクが便利。

・法律系の話なのでもう少しとっつきにくいのかなと心配していたけど、簡単に通読できた。

・著者は法律に詳しくない人に説明する機会が本当にたくさんあったんだろうなとわかる。読みやすい。

・たしかにトラブルの話が多いけど、著作権の知識がないために、創作の幅を自ら必要以上に狭めてしまうことのないようにしてほしいということも書かれている。

・実際、どこまでがオリジナルなのか、引用なのか、やっていいことと悪いことの線引きができていないと、必要以上に安全策をとってしまうことはある。

・クリエイター全般に関する内容なので、自分とは直接関係ないジャンルのことも書いてあるけど、脚本分野に置き換えて考えられる案件も多い。

・演劇の事例もあったけど、デザイナーへの報酬にチラシの印刷代も含まれていてびっくりという案件だった。

・最初は自分も驚いたけど、思い返してみれば、同じようなお願いをしたことがあるような。

・デザイナーの方の知り合いの印刷業者を通したからで、もちろん合意のうえなので何も問題なかった。

・てか、法律知識関係なく、それくらい事前に話しておかないとダメなのでは。

・とはいえ、いま思い返すと納品してもらったデザインの扱いが微妙だったと感じる部分もあり、当時こういう本があったらよかったのになとは思ってしまう。

・契約の重要性を繰り返し述べられている。

・契約は、トラブルにならなければ不要だけど、トラブルになった時の重要な指針になる。

・契約というと難しそうだし、実際簡単でもないけど、「こういうトラブルがあるからこういう文面をいれたほうがいい」という説明とともに、文章例まで示してくれるのが手厚い。

・自分自身、そこまで深刻な契約上のトラブルは経験していないものの、活動規模を広げていきたい脚本家なら一度は目を通しておいた方が良い本だと思う。

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川田利明『開業から3年以内に8割が潰れるラーメン屋を失敗を重ねながら10年も続けてきたプロレスラーが伝える 「してはいけない」逆説ビジネス学』

2024-06-15 22:11:20 | 読書感想文

 

2024/6/15

プロレスラーの川田利明が、運営するラーメン屋の苦労話を書いた本。

本当に笑えない程度の現実的な愚痴を言いながらも、こだわりは捨てられないナルシシズム全開の内容。

人には「絶対になるな」と言いつつ、自分は「今更やめられない」という矛盾。

不器用キャラを演じていたと言っている。

たしかに小さいスケールでみるととても器用なのにその生き方は不器用そのもの。

世の中のあらゆる表現は発信者の人間性を見せるものだと思うけど、こんなにプロレスとラーメン屋の作風が一致していることがあるんだろうか。

10年続いていると言っても、読めば読むほど次の一年が乗り越えられるかわからない。次に東京に行ったときには何としてもラーメンとカラアゲを食べに伺いたいと思う。

常連にはなれないからそんなに喜ばれないかもしれないけど、「おいしかった」と「本読みました」だけはお伝えしたい。

不味かったらどうしよう。

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男色ディーノ『イロモノの野望 透明人間と戦ってわかった自分の商品価値の上げ方』

2024-06-14 23:16:59 | 読書感想文

 

2024/6/14

プロレスラー、男色ディーノの半生をビジネス書の体裁でまとめた本。

商品としての自分を分析したり、自身の商品価値が上がることになった出来事や、観客からいただいたクレームの紹介と、執拗にビジネス書っぽい形式にこだわっている。

構成の都合でそうしているのもあるけど、素でそういうことを書くことへの照れもありそう。

そもそもプロレスラーなのに、こんなテクニカルな書き方で一冊作れてしまうのがすごい。

「価値のズラし」という考え方。プロレスである以上、勝敗が本筋なのは当然として、他の軸を設けて見せ場を作る。

演劇でも映画でも大体面白い作品は複数の軸で楽しめるものだけど、プロレスにその考え方を応用している。

ゲイに対するクレームとそのリアクションは、全肯定にしにくい部分もあり、思考を求められる。

ただ、クレーマーからも名前を間違えられる宮下あきら先生はたしかにかわいそうだと思う。

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シェイクスピア『ハムレット Q1』(光文社古典新訳文庫)

2024-05-05 00:36:07 | 読書感想文

 

2024/5/4

安西徹雄訳。解説を参照すると、ハムレットにはいくつかの底本があって、まずは1603年刊のQ1版と1604年刊行のQ2版、そのあと1923年に初めての全集に掲載されたF1版がある。

Q1版は最初の出版物ではあるものの、海賊版扱いされがちで、オフィシャル色が強いのはQ2版とF1版。

そんなに違うもんなのかなと、実際読んでみると、全然違う。

マニアックな方向ではなく、ものすごくわかりやすくなっている。

そもそも長さがQ2の半分ほどしかない。読みやすいし、たぶん演劇になればはるかに見やすい。

Q1 版は読んだことなかったのに、記憶にあるハムレットという物語は、こちらのバージョンのほうが近い。

少なくとも、マンガの原作や子供向けバージョンを作るなら、こちらを基盤にしたほうがよさそう。

ガートルードもこのバージョンなら混乱しない。

逆にこれくらい変えても、題材の良さが損なわれていない。上演台本として強い。

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シェイクスピア『ハムレット』(ちくま文庫)

2024-05-04 23:46:36 | 読書感想文

2024/5/4

松岡和子訳。初めて読んだわけではない、はず。

近々、また演劇作品のほうを見に行くので予習がてら読んでみる。

こういう古典はネタバレや先入観なしに見たいとか考えずに済む。

名作という評価が定まっている作品だから言えるけど、戯曲で読むとあらためて登場人物が何を考えているのかよくわからず、とにかく冗長に感じる。

過度な説明や言葉の装飾は、今ほどの照明や音響効果が期待できない当時のイギリスの演劇環境であれば、それほど違和感はなかったのかもしれない。

あらすじを知っている状態で読んでいるからついていけるけど、まっさらの状態で読んでいたらたぶん理解できなかった。

特に母であり、宿敵の妻でもあるガートルードがよくわからない。

息子を愛しているのはわかるけど、二人の夫をどう思っているのか、全然伝わってこない。

せっかくの機会なので何度か繰り返し読んで変化があるか試してみたい。

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高木三四郎『年商500万円の弱小プロレス団体が上場企業のグループ入りするまで』

2024-04-28 22:07:12 | 読書感想文

2024/4/28

高木三四郎へのインタビューと、藤田晋、ケニー・オメガ、倉持由香それぞれとの対談。

表紙がいい。事務仕事している人たちと、元気いっぱいのプロレスラーのギャップがありすぎて、たぶん違うのにコラージュっぽく見える。

対談では大社長が聞き手として優秀。グラビア業界の話すらプロレス用語に置き換えつつ理解しようとしている。

世界でも有数のプロレス団体になっているのに、まだまだ上を目指している。

そのために新しいことをどんどん取り入れようとしているし、選手たちの自主性を尊重するのもその一環。

強い上昇志向と現場で培った実戦的な柔軟性。納得。

無料興行のマネタイズ、飯伏幸太のデビューの話、鈴木みのるとのかけひき、ハッスルの感想、青木真也を受け入れた意味、どれも楽しく読める。

最後のほうで、そんな柔軟性のある大社長が、理不尽なスターを育てようとしている話も業が深い。

単純に欲の量が多い人は強いと再確認できた。

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トム・マクナブ『遥かなるセントラルパーク』

2024-04-19 00:32:03 | 読書感想文

 

 

2024/4/18

・1931年、ロサンゼルスからニューヨークまでアメリカを横断する三千マイルのフットレースが実行される話。再読。

・3月21日から6月20日の三か月かかる。

・最初のうちは、競技というよりお祭りや興行に近い。

・参加ランナーは一部を除いて記念出場どころか食事目当てだし、サーカスの一団を引き連れて、行く街々でショーを披露する。おしゃべりラバのフリッツ見たい。

・世界的な不況のなか、起死回生を狙うランナーたちは高額賞金を狙ってしのぎを削る。

・一方で、前例のない巨大レースの運営は、ニューヨークまでたどり着けるかどうか、賭けの対象になるくらいの綱渡りを繰り返している。

・灼熱の砂漠や極寒高地のロッキー山脈を越えるようなような過酷なレース風景と、オリンピック招致にあたって賞金レースを目の敵にする政治家たち。

・この頃からすでにオリンピック招致の連中が敵役になっている。幻想としてのアマチュアイズム。

・生まれも育ちも全然違うランナーたちが協力し合って、圧倒的な距離という困難に挑んでいるし、主催者のフラナガンが窮地に陥れば、ランナーたちも知恵や技術を出し合って解決しようとする。

・登場人物たちが、ランナーもスタッフもだんだんチーム化していくところが楽しい。最初はお飾りでしかなかったミスアメリカも運営スタッフとして働き始める。

・フーヴァーやカポネみたいな実在する人物も出てくる。競技も政治も具体的で描写が細かい。

・たくさんの試練を経て、ただのお祭り騒ぎから競技としての崇高さが生まれてくる。イベントそのものの成長物語でもある。

・〈いつだってランナーをつぶすのはペースなんだ。決して距離じゃない。〉〈我々の走る一マイル一マイルが、地面を踏み出す一歩一歩が勝利になるんだ。〉〈次の日につるし首にされることがわかっているとき、人は驚くほど精神を集中できるんだ。〉〈三十年のランニングは勝利の瞬間ではなく、まさにこうした危機への準備期間だったのだ。〉

・常に身なりを気にしていた主催者が絶望してボロボロの姿になっているところに、それまで決して感情を表に出してこなかった冷静な記者が汚い言葉で気合をいれようとしているところが好き。

・なんでいまだに電子化していないのか不思議。

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