栄光イレブン会

栄光学園11期卒業生の親睦・連絡・活動記録

ブログ開設:2011年8月23日

きよちゃんのエッセイ (173)"バンコクの結婚式”(Okubo_Kiyokuni)

2023年06月02日 | 大久保(清)

バンコックの結婚式

今日も、いつものように会議室で現地スタッフと一緒の昼食を終えて、机に戻ろうとすると、なんだかいつもと違う親し気な笑みを浮かべながら秘書のヌーさんが声をかけてきた。『オオクボさ~ん、結婚式のスピーチお願いできますう~』いいよ、いつ頃、と、軽い気持ちで、その場で快諾したのだが、翌日、念のために尋ねてみた、『スピーチをする人は全部で何人ぐらいなの?』『新郎、新婦それぞれ一人ずつ、それから、スピーチは時間制限がないですから』、と返してきた。一瞬、言われた内容に反応できず、理解するまで、かなり間があったように記憶する。だが、ここで、辞退するのはボスとして失礼だぞ、と、ふんばりながら、あ~、そう、と、泣き笑いでこらえたが、その日から仕事どころではなくなった。何分でもいいです、と言われても・・・、バンコック式の結婚披露宴のイメージがわかないまま、ともかくスピーチ原稿に取りかかった。

今日はヌーさんの結婚披露宴。

彼女から手渡されていた地図の場所には来ているはずなのだが、式場らしき建物はどこにも見当たらず、陽気なシンバルの音色が目の前の体育館のような建物から流れてくる。とりあえず、うす暗い館内にフラフラと足を踏み入れてゆくが、受付けらしきものも見あたらず、フロアーいっぱいにならべられた、照明が落とされた丸テーブルから楽しそうな笑い声がもれてくる。100人、いや、150人はいるのではないだろうか。宴会場の広さに圧倒され、心臓の鼓動が早まってきた。暗闇に慣れてきた目が音の出どこを探し始めた。前方に、赤や白の大きな幟が強いフットライトに照らされている舞台がある、そこに少人数の楽隊が並んでいる。 舞台近くに陣取る事務所仲間のテーブルを探しあて、とりあえず、ウイスキーの水割りで気を落ち着かせた。式次第もなく、まるで岩場で宙ずりになったような心境。マイクで呼び出されたようだが、場内の騒音にかき消され気が付かず、仲間に肩を叩かれた。強力なフットライトで目がくらんだまま、事務所の女性陣から何度も修正させられた祝賀スピーチをただひたすら喋りつづけるが、己の声が暗闇に吸い込まれたまま、何を言っているのか、どこまで喋ったか・・、息も苦しくなってきた。ようやく締めの言葉だ。

『新婦は強運の持ち主です、彼女の関与したプロポーザルの受注率は100%です、新郎どの、どうか、彼女の持つ強運を一人占めせずに、弊社にも少しだけ残しておいてください』、と、共稼ぎのカップルにエールを送ったつもりだったのだが、会場からの反応はなく、ざわめきに変化は見られない、英語のスピーチのためか、オチにならないのか、タイ人にはあまり通じなかったようだ。後に続いた新郎側の主賓はまるで漫才師のようなスピーチで、会場中が笑いの渦に包まれた。あれから数十年、タイ語もしゃべれずに、よくもまあ、主賓で参加したものだと、蒸し暑かった、あの夜のざわめきが懐かしく蘇る。

コメント
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