蓬(よもぎ)
川が鶯色に薄く染まっている。
昨夜の強い雨が山から初夏の色を運んできたのかな、とちょっと詩的な発想をしてみたが、あたりを見回すと、朝陽に照らされた土手一面が緑色に輝いている。川面に新緑が映り込んでいるのだ。
色や姿形が違う、名も知らぬ野草が、それぞれ、小さく群れながら、水面近くから土手の道に至る斜面を埋めつくしている。われ先に太陽の恵みを横臥し、隙あれば自陣を広げようと、背伸びして周りの仲間たちの顔色を窺っているように見える。
きょうは、蓬を探しにきたのだ。
桜餅のシーズンが終わり、草餅や柏餅が和菓子屋の店頭に並び、草餅の香りの素である蓬に興味を持ち始めたが、本物を見たことがない。
見ているのであろうが、それと認識していない。蓬団子をつくるわけではないが、散歩の途中で確認したかっただけなのだが、なんとなく、あれではないかという草がある。葉の先がギザギザした濃い緑色、鼻先に近づけるとツーンとした弱い刺激臭のある草だ。
斜面に下りて探す根性もなく、蓬のイメージを目に浮かべつつ土手をなめるように歩いていくと、まだ田越し前の畑で野草を採取しているらしい子供連れの若いおとうさんの姿が目に入った。あぜ道に下りていき、蓬がありますかと聞いてみた、
『どこにでもありますよ』、と大きな声で自信ありげに応えながら草を摘んでいた手を休め、あたりを這いずり回りながら探してくれたが、見つからず、
『ないみたいですねー、ふつう、どこにでもあるのですが・・・』
と諦めきれずにまだあたりを見回しながら、残念そうに語尾を弱めた。
お礼を言ってまた足を運んでいくと、土手道沿いの舗装のきれたところに、葉のとがった蓬らしき草を見つけた。犬におしっこをひっかけられたのか、少しいじけた姿でこんもりと茂っている。
二葉ほど摘んでチョッキのポケットに入れて家に持ち帰った。
植物図鑑で確かめると、間違いなく蓬である。香りの主成分のタンニンは消炎作用、止血作用があるため、虫刺され、切り傷に生の葉をもんで貼っておくと効果があるそうだ。風呂に入れると、神経痛、湿疹、肌荒れに効果があるらしい。
土手に自生する数々の雑草は、それぞれ名前を持っているのだろう。ビニール袋を手に野草を摘んでいるお婆さんをよく見かけるが、土手は食用や薬になるや草の宝庫かもしれない。
一度、蓬を覚えてしまうと、やたらに蓬が目につくが、これからは、お婆ちゃんが摘んでいる草を教えてもらおう。土筆しか知らない老人の教養科目がまた一つ増えた。