栄光イレブン会

栄光学園11期卒業生の親睦・連絡・活動記録

ブログ開設:2011年8月23日

きよちゃんのエッセイ (77)” ソヨゴ”(Okubo_Kiyokuni)

2017年06月09日 | 大久保(清)

 ソヨゴ

ー旦那さん、どれでも好きなのを選んでよ、あとで地主に値段を聞いておっからよ~と言いつつ、小柄の杵さんは伸びあがるようにして溜め地を見回し、ソヨゴを選び始めた。

ー旦那さん、これどうかな~、なかなか、いい株立ちだよーと一番大きなソヨゴに目印のヒモを付け始めた。

―少し大きすぎないかなーと予算を心配しつつ呟くと、こちらの気持ちを察したかのように、ーそれじゃー 旦那さん、ついでに2番目に、でっかいのも選んでおいてー

と返してきた。どちらも背丈が高く、幹の数が10本以上もある。

予算を尋ねられた折に、庭木をいじる最後の機会だし、主木だからと、奮発した金額を知らせておいたが、どう見ても、その値段では買えそうもない。

選び終わり、帰り支度を始めていると、近くだから、と愛嬌のある顔で誘われた。住宅地を通りぬけ狭い山道を小型トラックは登ってゆく。やがて、道から落ち込んだ雑木林に囲まれた斜面に建てられた古びた平屋の前で止まった。土間から薄暗い部屋に上がると、黒ずんだ畳の上に焼き物や盆栽が無造作に置かれ、その雑然とした空間が奥に見える木立に溶け込み、今まで植木に隠れて見えなかった杵さんの素顔をほんの少しだけ覗けたような気がした。

 杵さんとの付き合いは、始めての一戸建ての猫の額ほどの庭に、義父の口利きで石と数本の植木を移植してもらってからの付き合いである。経済的にゆとりのない時代、特別値段で面倒を見てもらっていたが、縁あって新しい家に移り住み、終の棲家の最後の贅沢と、垣根から庭木まですべて杵さんに頼んだ。日本式の庭にこだわった杵さんだったが、常緑の株立ちの木の中から洋風の家に合うソヨゴに決まった。

溜め地で購入したソヨゴは二階のベランダから見上げるまでに成長し、夏には、風にそよぐ緑葉が涼しさを演出し、晩秋のころ、鈴なりになった真っ赤な実は庭に艶やかさを添え、我が家のシンボルツリーとして、毎日の暮らしに潤いをもたらしてくれた。

だが、ソヨゴは年々勢いがなくなり、少しずつ葉先が黒ずみ始めた。―春に新芽が出れば、なんとかなるがー・・、と濡れ縁でタバコに火をつけながら、杵さんは切り詰めたソヨゴを心配そうに見上げていた。

―枯れたらまた一緒に溜め地に見に行きましょうよーと何も考えずに軽く受け答えをしていたのだが、年が明け春も近くなった頃、二人三脚で働いていた奥さんから杵さんの訃報が入った。

それから一年、十分な手当てもできず、あとを追うようにソヨゴも枯れてしまった。庭の真ん中に残された何本もの太い切り株を眺めていると、こちらを覗き込むようにして、少しこちらをからかうように喋っていた、あのしゃがれ声が後ろから聞こえてきたような気がした。―旦那さんも、ほんとーに植木が好きだねー と、ソヨゴを選んでいたときの、あの声が、

植木鋏の小気味よい音とともに。

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暑気払い・飲み会のお誘い  (2017/7/22・土)

2017年06月02日 | ◆お知らせ・行事案内

暑気払い・飲み会のお誘い

下記要領にて<暑気払い:飲み会>を企画いたしました。
多数の参加をお待ちしております。

             記

         
1.日時 : 2017年7月22日(土)  
        16:00  ~ 18:00
2.場所 :「 なか一 」 ( 045-311-2245)
   横浜駅みなみ西口 相鉄改札口から徒歩1分(横浜高島屋裏)
    2016年7月に飲み会を開催した場所

3.費用 :4,000円 ~ 5,000円
4.申込み方法
   奧山宛にメールにて

 
5.申込期限:2017年7月19日(水)迄
6.幹事 太田・奥山

 

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11期囲碁会のお誘い  (Hanakawa_Yasuo)

2017年06月02日 | 灰野・畑田・花川

11期囲碁会のお誘い

 5月31日(水)の午後1時半より下記の4人が集まって 横浜駅西口の宇宙棋院で久し振りの対局を楽しみました。

 メンバーは、水野・大久保(武)・宮田・花川  総当たり戦で、幹事は1勝も出来ずハンディを調整して もらうことになりましたが、他3名の実力は拮抗して いました。

しかし逸見の碁会所常連師範代水野氏の早碁には重量級 宮田氏も手こずったようです。大久保氏はゴルフ並みの 手堅さで水野プロに肉薄していました。

 対局後は地下街の居酒屋で打ち上げ。 次回は、7月6日(木)午後1時半から宇宙棋院です。 どうぞ関心のある方は、気楽にご参加ください。

 お問い合わせは、花川まで

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きよちゃんのエッセイ (76)” 薬屋さん”(Okubo_Kiyokuni)

2017年06月01日 | 大久保(清)

 薬屋さん

 小学生のころ住んでいた家を思い出すと、なぜか、北側に面した玄関口で繰り広げられた小さなショータイムのような場面が目の前に浮かんでくる。娯楽の少ない時代、子供の目から見ると、これは、かなり印象深い出来事だった。

 夏の昼下がり、陽射しがひさしで遮られ少し暗く感じられてきたころ、ガラガラと気持ちのいい音を響かせながら、ガラス格子の引き戸をあけて、大きな風呂敷包みを背負ったおにいさんが腰をかがめて玄関から入ってくる。

―ごめんください、皆さん、達者でしたかー

と奥の方に聞こえるように声を高めて、どこか、哀愁を感じさせる独特な国訛りで挨拶する。この声を耳にすると、まだ訪れたことのない土地のにおいも一緒に流れ込み、富山の風景が目の前に浮かんでくるような、胸の内に不思議な情感がわいてきた。

 黒い鳥打ち帽子、濃い藍色の仕事着をはおり、よく陽に焼けた浅黒い顔に浮かぶ汗を首にかけたタオルで拭きながら、重そうに薬箱を上り口の端におろす。浅く腰をかけた半身の姿勢で、つやのある柳行李のふたをあけると、薬屋さんのにおいが鼻先にプーンとにおってきた。

母のさしだす置き薬の箱の中身を確かめ、まるでカルタを並べるように一袋ずつ板の間に並べていく。そして、旅のにおいがしみ込んだ行李から、赤や、緑、黄色など、鮮やかな色合いの新しい薬袋を手品のように取り出して、使用済みの薬袋と取り換えていく。この手際の良い指先の動きを母の肩越しに覗いていると、

―坊ちゃんは、賢そうなお顔をして、いつもお元気そうですね、これ、お土産ですー

と、とても丁寧な、こちらが本当に賢い子供になったような気分にさせてくれる口調で話しかけながら、柳行李の箱の奥に隠してあった紙風船をとりだしてくれる。四角い紙風船はとてもめずらしく、いつも、このお土産を楽しみにしていた。

薬を揃えながら話し出す地方の面白いニュースは、テレビのない時代、なにかとても新鮮な気分を味あわせてくれた。旅をするおにいさんがチョッピリうらやましかった。

 薬売りは、腹痛や、風邪などでは、めったに町医者にかかることがなく、市販の薬が乏しい時代、薬を切らさないように届けてくれ、玄関での、ほんの一時の会話を通し、今の人たちが忘れかけてきた、人と人のつながりの暖かさ、お互いの信頼感の大切さを教えてくれたように思う。

だが時代は大きく変わってしまった、薬を取り巻く環境も様変わりした。失われたものと、得られたものが少しずつわかるような歳になってきた。あの薄暗い玄関を思い出すと、素朴な人の付き合いができた時代がとても懐かしい。

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