ジャンプオフロックに向けて一歩を踏み出した俺の心の中には、ここまで来て引き下がれないという意地と、自分はオークランドシティーでは一番のサーファーなんだという外に出したこのない自信とプライドがあった。
さっき俺を後ろから罵倒したサーファーに追い越されないように、苔の付いた丸い岩の上を滑らないように進みながら、ジャンプオフロックの後ろ側に周り込んだ。3メートルはある大きな岩の裏側には、岩がいくつか階段のように積み上げれていて頂上に上ることができるようになっていた。
階段の周りには順番待ちのサーファーが3人ほどいて、俺が黙って近づいていくと話していた会話を急にストップして全員がじっと目をそらさずに俺の顔を見た。敵意こそ感じなかったが、その視線は俺には冷たく感じられてひどく居心地が悪くなった。
さっき後ろから俺を怒鳴りつけたサーファーとそいつらは友達らしく、後ろにいたはずのキングコングのような体格をして海の反射で色素の抜け切った薄いブルーの瞳のその男が声をかけると、急にやつらは嬉しそうに話を始めて、そのキングコングと軽く手と手を叩きお互いの手をギュッと握りあっていた。見たことのない挨拶だが、きっここの辺のローカルサーファー達の挨拶なのだろうと俺は思った。
ジャンプオフロックの頂上に立っていた男がタイミングをはかっているのが見えたその瞬間にキングコングと一緒になって、そこにいたローカルサーファー全員が大きな声でゴーと叫んだ。その掛け声とほぼ同時か、少し早いタイミングで頂上に立っていたサーファーはサーフボードと一緒に大波に向かって飛び立っていった。
その瞬間にやはり自分がかなりハードコアな場所に来てしまったことに気がついた。岩に打ち付ける大波のパワーもはかりしれないものがあったが、この海でサーフィンをしているサーファー達はおそらく全員が顔みしりのローカルサーファー達で自分は彼らからしたら、そこに迷いこんできたよそ者のエイリアンだということだ。
俺がいつもサーフィンをしていたピーハーのビーチにもローカルと呼ばれるサーファー達はいたが、ビーチがかなり田舎にあることとサーファーの数もそこまで多くはなくポイントが込み合うこともなかったので雰囲気ものんびりとしたものだった。それに自分は週に2,3回はピーハーに顔を出していたしサーフィンの腕前も彼らにひけをとってはいなかったのでいつも自由にサーフィンをすることができた。
しかし、ここの雰囲気は決してそんなのんびりとしたものではなく、ぶち切れる寸前ギリギリまで引っ張られた弦のようにピリピリとした緊張感が漂っていた。先に待っていた3人のサーファー達が一人、一人ジャンプオフロックの頂上に続く階段を上っていくところを見るとロックの頂上には一人のサーファーしか立てないルールがあるようで、ロックの下で待っているサーファー達が打ち寄せられる大波を見ながら飛び立てるタイミングで合図を送るのも、同じくここでのルールになっているようだった。
自分より先にロックの下で待っていたサーファー達全員がジャンプオフロックの頂上から飛び立ち、とうとう俺の順番になった。ロックの周りにはキングコングの他にも後からやってきたサーファー達が2、3人待っていたが、俺が順番どおりに階段を上ることには別段、不満はないらしく振り返るとキングコングが少し突き出した自分のアゴを手のひらでなぜながら挑発的な笑顔で、俺に行けよと目で合図をした。
俺は挑発には応えずに積み上げられた岩の階段から足を滑らせないようにゆっくりと上っていった。背中にはそこにいる全員の視線が突き刺さるように感じられた。一段、一段高くなる岩の階段を上りきり頂上まで来るとジャンプオフロックの上は一人が足を開きふんばって立つことができるギリギリの広さしかなかった。
岩を登っている間は足を滑らせることがないように注意をして自分の足元しか見ていなかったが、いざ上りきって正面を見ると3メートルの高さに自分の身長が合わさってかなり高い位置から岩だらけの海に飛び立たなければならないことが分かった。大波が打ち寄せた瞬間は白く荒れ狂った海水が引きずり込むかのように足元をさらおうとするし、波が引いた時にはずっしりと海底に身を置いた2メートル以上もある黒い岩が地上に顔を出す。
飛び込むタイミングを間違えればダイブした次の瞬間には海底の大岩に3メートルの高さから体を打ちつけて重症を負うか、もし打ち所が悪ければ命さえ落とすこともあるだろう。
下から大波に向かって飛び立つタイミングを教えてくれると言えば親切に聞こえるが、逆を返せば自分のタイミングではなくどんなに危険や恐怖を感じていても合図と一緒に飛び立たなければならないという意味合いも含まれていた。
俺は狭いジャンプオフロックの頂上で、できるだけ足を開きふんばりながら沖から、つぎつぎに押し寄せる大波を見つめて波が押し寄せるタイミングと引いていく時のリズムをはかった。体の中にはアドレナリンが排出され心音が耳で聞き取れるのではないかと感じるほどドコドコと脈打った。
俺は波を見つめながらリズムをつけて体でカウントをとった。大波が打ち寄せるときには体を引き、引いていくときには前に傾け大きなメトロノームのようになりながら飛び立つタイミングを計った。そして、次の大波が打ち寄せるタイミングで飛び立とうと思った瞬間に恐怖が黒い影をだして急に俺を飲み込んだ。
サーフボードと一緒に岩に叩きつけられる自分の映像が頭のスクリーンに闇とともに映り、それと同時にロックの下からは大きな叫ぶような声が聞こえた。
「ファッキン ゴーォッ!」
その声を聞いた途端に俺の両足は固まってしまい少しも動くことができなくなってしまった。飛び立つために深く屈むことも、岩を蹴りこんで空に舞うこともできずに腑抜けのようにただその場に立ち尽くしてしまった。すぐに我に返ってサーフボードを握る汗だらけの手のひらを片手づつすばやく穿いているボードショーツでぬぐって握りなおし、再び飛び立つことができるようにひざを曲げた、その時に俺の背中にコンクリートのブロックで殴られたような激痛がはしった。
振り返ると、さっきのキングコングが鬼のような表情をして俺の腕を大きなグローブのような手でつかんで無理やりにジャンプオフロックの頂上から引きずり降ろそうとしていた。
俺は殴られたんだ。
背中に残る痛みと激しく腕を引っ張るキングコングの表情から俺は奴に殴られたことが分かった。胸の中央から頭に向かって血が上りはじけそうになったがこのままここで抵抗したらジャンプオフロックの上からバランスを崩して落とされることに気がついてキングコングの腕を振り払って自分の力で下に降りようとした。しかし、俺のそんな最後のプライドを打ち砕くかのようにキングコングはさらに強い力で握りこみ俺を下まで引きずり降ろした。
「どこから来たのか知らないが。バーレーの海には腰抜けは入れないことになってんだよ。お前みたいな奴がいるとこの海のリズムが狂うんだ。ボードを持ってさっさと小屋に帰りなチキン野郎。」
キングコングはほとんど色のついていない瞳で俺をしばらくにらみつけると、仲間に持たしていた自分のサーフボードを受け取り片手を挙げて振り返りもしないで仲間に合図をしながら悠々とジャンプオフロックの頂上へと続く階段を上っていった。俺は奴のまるでキングのような態度にむかついたが、奴の叫ぶ声と同時にびびってしまい飛び立つことができなかった自分の臆病さにさらに落ち込んだ。
俺は、その場にいることが居たたまれなくなり悔しい気持ちを胸の中に押し込みながら後ろを振り返りさっき来た道をすごすごと歩いて戻った。悔しさと恥ずかしさと自分自身に対するいらだちで後ろから聞こえる笑い声に対して振り返ることも、キングコングや奴の仲間達の顔を見ることさえできなかった。
俺が今まで持っていたプライドはズタズタに引き裂かれた。シティーで一番のサーファーだと言われていい気になってナイトクラブで女の子に声をかけていた俺。見送りに来てくれた仲間達にプロサーファーになると冗談半分でおどけて見せた俺。両親に止められても何か最高なものをオーストラリアで見つけてくるといいはった俺。外に出たことの無い小さな池でいい気になって調子に乗っていた俺がひどくこっけいで恥ずかしい男に感じられた。
俺はすれ違うサーファー達と目を合わせないようにして地面を睨み付けながらエディーと待ち合わせをしている、さっきのカフェに戻った。人目を避けるようにそっとバックルームに戻ると、さっきの背の高いチャイニーズの女の子が着替えを済まして帰る用意をしているところだった。
「あら、あなたもう帰ってきたの?それに髪も体も濡れていないじゃない。海には入らなかったの?」
女の子は別段いやみを言うわけでもなくそう言った。一瞬、全てを見透かされたような気分になって驚いたがさっきの出来事を彼女が知るわけはなく自分の心がずいぶんと弱ってしまっていることに気がついてさらに気持ちが沈んだ。
「いや、今日はここで友達と待ち合わせだからやっぱり海に入るのは次の機会にすることにしたんだ。」
彼女は俺の返事には別段、興味があったわけではなくテーブルの隅に置いてある白い皮でできた自分のバックを取ると部屋を出て行こうとした。
「あっ、ちょっと待って。君に聞きたいことがあるんだ、このあたりにいる奴でキングコングみたいな大きな体をして色素の抜けた薄いブルーの瞳のサーファーを知らないかい?」
「ああ、知っているわよ。でも、あなたさっきから自分の名前を名乗りもせず目の前にいる私の名前を聞こうともしないで他の誰かの名前を教えてくれなんてちょっと順序が逆じゃないの。」
彼女は意志の強そうな黒い瞳で俺のことをにらみつけると、腰まで伸びたまっすぐな黒髪を手で払いながらそう言った。
「ああ、すまない。俺の名前はマーク。ニュージィーランドから来たんだ。君の名前と、もし知っていたら俺が質問した男の名前を教えてくれないか?」
「オーケー、あなたの名前はマークね。人にものを尋ねる時はまず自分から名乗るのが礼儀なのよ。ニュージィーランドではどんな礼儀があるか知らないけどね。いいわ、教えてあげる。私の名前はかおる。出身は日本。そして、あなたが探している男の名前はチュック。バーレーヘッズのサーファー達の間ではキングのようにふるまっているわ。」
「ありがとう、かおる。あのキングコングの名前はチュックというんだな。」
「キングコングじゃなくてキングよ。あなた、そんなこと言ってるのをこのあたりのサーファーに聞かれたら、バーレーヘッズでサーフィンなんてできなくなるわよ。」
かおると名乗るその女の子は俺に注意をすると軽く手を振って部屋から出て行った。胸の中の悔しさがチュックというさっきの男の名前を俺に何度もつぶやかせた。
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階段の周りには順番待ちのサーファーが3人ほどいて、俺が黙って近づいていくと話していた会話を急にストップして全員がじっと目をそらさずに俺の顔を見た。敵意こそ感じなかったが、その視線は俺には冷たく感じられてひどく居心地が悪くなった。
さっき後ろから俺を怒鳴りつけたサーファーとそいつらは友達らしく、後ろにいたはずのキングコングのような体格をして海の反射で色素の抜け切った薄いブルーの瞳のその男が声をかけると、急にやつらは嬉しそうに話を始めて、そのキングコングと軽く手と手を叩きお互いの手をギュッと握りあっていた。見たことのない挨拶だが、きっここの辺のローカルサーファー達の挨拶なのだろうと俺は思った。
ジャンプオフロックの頂上に立っていた男がタイミングをはかっているのが見えたその瞬間にキングコングと一緒になって、そこにいたローカルサーファー全員が大きな声でゴーと叫んだ。その掛け声とほぼ同時か、少し早いタイミングで頂上に立っていたサーファーはサーフボードと一緒に大波に向かって飛び立っていった。
その瞬間にやはり自分がかなりハードコアな場所に来てしまったことに気がついた。岩に打ち付ける大波のパワーもはかりしれないものがあったが、この海でサーフィンをしているサーファー達はおそらく全員が顔みしりのローカルサーファー達で自分は彼らからしたら、そこに迷いこんできたよそ者のエイリアンだということだ。
俺がいつもサーフィンをしていたピーハーのビーチにもローカルと呼ばれるサーファー達はいたが、ビーチがかなり田舎にあることとサーファーの数もそこまで多くはなくポイントが込み合うこともなかったので雰囲気ものんびりとしたものだった。それに自分は週に2,3回はピーハーに顔を出していたしサーフィンの腕前も彼らにひけをとってはいなかったのでいつも自由にサーフィンをすることができた。
しかし、ここの雰囲気は決してそんなのんびりとしたものではなく、ぶち切れる寸前ギリギリまで引っ張られた弦のようにピリピリとした緊張感が漂っていた。先に待っていた3人のサーファー達が一人、一人ジャンプオフロックの頂上に続く階段を上っていくところを見るとロックの頂上には一人のサーファーしか立てないルールがあるようで、ロックの下で待っているサーファー達が打ち寄せられる大波を見ながら飛び立てるタイミングで合図を送るのも、同じくここでのルールになっているようだった。
自分より先にロックの下で待っていたサーファー達全員がジャンプオフロックの頂上から飛び立ち、とうとう俺の順番になった。ロックの周りにはキングコングの他にも後からやってきたサーファー達が2、3人待っていたが、俺が順番どおりに階段を上ることには別段、不満はないらしく振り返るとキングコングが少し突き出した自分のアゴを手のひらでなぜながら挑発的な笑顔で、俺に行けよと目で合図をした。
俺は挑発には応えずに積み上げられた岩の階段から足を滑らせないようにゆっくりと上っていった。背中にはそこにいる全員の視線が突き刺さるように感じられた。一段、一段高くなる岩の階段を上りきり頂上まで来るとジャンプオフロックの上は一人が足を開きふんばって立つことができるギリギリの広さしかなかった。
岩を登っている間は足を滑らせることがないように注意をして自分の足元しか見ていなかったが、いざ上りきって正面を見ると3メートルの高さに自分の身長が合わさってかなり高い位置から岩だらけの海に飛び立たなければならないことが分かった。大波が打ち寄せた瞬間は白く荒れ狂った海水が引きずり込むかのように足元をさらおうとするし、波が引いた時にはずっしりと海底に身を置いた2メートル以上もある黒い岩が地上に顔を出す。
飛び込むタイミングを間違えればダイブした次の瞬間には海底の大岩に3メートルの高さから体を打ちつけて重症を負うか、もし打ち所が悪ければ命さえ落とすこともあるだろう。
下から大波に向かって飛び立つタイミングを教えてくれると言えば親切に聞こえるが、逆を返せば自分のタイミングではなくどんなに危険や恐怖を感じていても合図と一緒に飛び立たなければならないという意味合いも含まれていた。
俺は狭いジャンプオフロックの頂上で、できるだけ足を開きふんばりながら沖から、つぎつぎに押し寄せる大波を見つめて波が押し寄せるタイミングと引いていく時のリズムをはかった。体の中にはアドレナリンが排出され心音が耳で聞き取れるのではないかと感じるほどドコドコと脈打った。
俺は波を見つめながらリズムをつけて体でカウントをとった。大波が打ち寄せるときには体を引き、引いていくときには前に傾け大きなメトロノームのようになりながら飛び立つタイミングを計った。そして、次の大波が打ち寄せるタイミングで飛び立とうと思った瞬間に恐怖が黒い影をだして急に俺を飲み込んだ。
サーフボードと一緒に岩に叩きつけられる自分の映像が頭のスクリーンに闇とともに映り、それと同時にロックの下からは大きな叫ぶような声が聞こえた。
「ファッキン ゴーォッ!」
その声を聞いた途端に俺の両足は固まってしまい少しも動くことができなくなってしまった。飛び立つために深く屈むことも、岩を蹴りこんで空に舞うこともできずに腑抜けのようにただその場に立ち尽くしてしまった。すぐに我に返ってサーフボードを握る汗だらけの手のひらを片手づつすばやく穿いているボードショーツでぬぐって握りなおし、再び飛び立つことができるようにひざを曲げた、その時に俺の背中にコンクリートのブロックで殴られたような激痛がはしった。
振り返ると、さっきのキングコングが鬼のような表情をして俺の腕を大きなグローブのような手でつかんで無理やりにジャンプオフロックの頂上から引きずり降ろそうとしていた。
俺は殴られたんだ。
背中に残る痛みと激しく腕を引っ張るキングコングの表情から俺は奴に殴られたことが分かった。胸の中央から頭に向かって血が上りはじけそうになったがこのままここで抵抗したらジャンプオフロックの上からバランスを崩して落とされることに気がついてキングコングの腕を振り払って自分の力で下に降りようとした。しかし、俺のそんな最後のプライドを打ち砕くかのようにキングコングはさらに強い力で握りこみ俺を下まで引きずり降ろした。
「どこから来たのか知らないが。バーレーの海には腰抜けは入れないことになってんだよ。お前みたいな奴がいるとこの海のリズムが狂うんだ。ボードを持ってさっさと小屋に帰りなチキン野郎。」
キングコングはほとんど色のついていない瞳で俺をしばらくにらみつけると、仲間に持たしていた自分のサーフボードを受け取り片手を挙げて振り返りもしないで仲間に合図をしながら悠々とジャンプオフロックの頂上へと続く階段を上っていった。俺は奴のまるでキングのような態度にむかついたが、奴の叫ぶ声と同時にびびってしまい飛び立つことができなかった自分の臆病さにさらに落ち込んだ。
俺は、その場にいることが居たたまれなくなり悔しい気持ちを胸の中に押し込みながら後ろを振り返りさっき来た道をすごすごと歩いて戻った。悔しさと恥ずかしさと自分自身に対するいらだちで後ろから聞こえる笑い声に対して振り返ることも、キングコングや奴の仲間達の顔を見ることさえできなかった。
俺が今まで持っていたプライドはズタズタに引き裂かれた。シティーで一番のサーファーだと言われていい気になってナイトクラブで女の子に声をかけていた俺。見送りに来てくれた仲間達にプロサーファーになると冗談半分でおどけて見せた俺。両親に止められても何か最高なものをオーストラリアで見つけてくるといいはった俺。外に出たことの無い小さな池でいい気になって調子に乗っていた俺がひどくこっけいで恥ずかしい男に感じられた。
俺はすれ違うサーファー達と目を合わせないようにして地面を睨み付けながらエディーと待ち合わせをしている、さっきのカフェに戻った。人目を避けるようにそっとバックルームに戻ると、さっきの背の高いチャイニーズの女の子が着替えを済まして帰る用意をしているところだった。
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「いや、今日はここで友達と待ち合わせだからやっぱり海に入るのは次の機会にすることにしたんだ。」
彼女は俺の返事には別段、興味があったわけではなくテーブルの隅に置いてある白い皮でできた自分のバックを取ると部屋を出て行こうとした。
「あっ、ちょっと待って。君に聞きたいことがあるんだ、このあたりにいる奴でキングコングみたいな大きな体をして色素の抜けた薄いブルーの瞳のサーファーを知らないかい?」
「ああ、知っているわよ。でも、あなたさっきから自分の名前を名乗りもせず目の前にいる私の名前を聞こうともしないで他の誰かの名前を教えてくれなんてちょっと順序が逆じゃないの。」
彼女は意志の強そうな黒い瞳で俺のことをにらみつけると、腰まで伸びたまっすぐな黒髪を手で払いながらそう言った。
「ああ、すまない。俺の名前はマーク。ニュージィーランドから来たんだ。君の名前と、もし知っていたら俺が質問した男の名前を教えてくれないか?」
「オーケー、あなたの名前はマークね。人にものを尋ねる時はまず自分から名乗るのが礼儀なのよ。ニュージィーランドではどんな礼儀があるか知らないけどね。いいわ、教えてあげる。私の名前はかおる。出身は日本。そして、あなたが探している男の名前はチュック。バーレーヘッズのサーファー達の間ではキングのようにふるまっているわ。」
「ありがとう、かおる。あのキングコングの名前はチュックというんだな。」
「キングコングじゃなくてキングよ。あなた、そんなこと言ってるのをこのあたりのサーファーに聞かれたら、バーレーヘッズでサーフィンなんてできなくなるわよ。」
かおると名乗るその女の子は俺に注意をすると軽く手を振って部屋から出て行った。胸の中の悔しさがチュックというさっきの男の名前を俺に何度もつぶやかせた。
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