ジェイソンからクレアを自分の暮らす街に行こうと誘ったという話を聞いてから、僕の心はずっとざわついていた。パーティーはまだ中盤で酔いつぶれてしまうわけにはいかないことは分かっているのに、なんだか落ち着かなくてチュックとマークが作ってくれたバーボンコークをすすめられるままに一気に2杯も飲んでしまった。
庭の芝生の上にはマサヤをはじめとした、チュックとマークのオールドサーファーズの作る濃いバーボンコークで撃沈されてしまったヤングサーファー達が、半ば意識を無くして転がっていた。そんな酔っ払いをながめながらでも、僕の目は人ごみの中から無意識にクレアの姿を探していた。
「おーい、永住ライフ。なんだよ、もう撃沈されちゃうのか?せっかくバーベキュー係から開放されたと思ったらケンはもうソファーの上でひっくりかえっているし、アッキィーはパンツまでビショビショに濡らしてそこらいじゅう走り回っているし、みんな完全にできあがっているじゃないか。俺もペースをあげないと追いつけないよ。」
「チアーズ、ミスターバーベキューおつかれさま。よくがんばってくれたね、ダニーの焼いたバーベキューを食べて、みんな喜んでいたよ。」
僕はスイミングプールから新しいビールのビンを2本持ってきて、ダニーに手渡して乾杯をした。ついさっきまで煙に包まれてバーベキューを焼いてくれていたダニーの長い髪は汗で濡れて光っていた。
「そういやジェイソンは見つけられたのか?ちゃんとパーティーを楽しんでくれていたか?俺の作ったラムチョップとホットドックを食べてくれたかなぁ。」
「ああ、ジェイソンはジェイソンなりに今日の夜を楽しんでいたよ。料理もちゃんと渡してきたから食べてくれていると思うよ。ああ、そうだ。そうだ。それはそうとミスティーは怒ってない?ダニーはずっとバーベキュー係をしていたからミスティーと一緒にいられなかったから。」
僕はジェイソンとクレアの間のことをダニーに話したくなくて、急に会話の流れを変えた。ダニーは一瞬不思議な顔をしたけれど、さりとて気にするわけでもなく次の会話に入っていった。ダニーと話しながらも頭の中ではさっきのジェイソンの言葉がぐるぐるとまわっていた。
もう夢の街を探して旅をする必要なんかない。
クレアもきっと俺の街が気にいるはずだ。
僕、自身なぜそんなにクレアのことが気になるのかさっぱり分からなかった。彼女はほんの数週間前までは、まったくの他人で僕の人生の登場人物の中にはいなかったんだ。僕は大好きな仲間達に囲まれて、オーストラリアで暮らすことができるように毎日、進んでいた。
実際、それ以外に仲間やサーフィンやシリンダーズよりも大切なことなんてなかったはずだし、気にかかることもなかった。ただ自分の目標に向かって進んでいることが実感できていればそれ以外には何もいらなかったのに、僕は自分の心の中に今まで住んでいなかった何かが入り込んできたことをこの時に始めて感じた。
それがいったい何なのかは僕にもよく分からないけれど、こんなに胸が落ち着かないのはマークに飲まされたバーボンコークのせいじゃないことは分かっていた。その時、ケンとダニーの家から大きな叫び声が聞こえた。
それは女性の叫び声と複数の人が何か大声で叫んでいる声だった。僕とダニーは声のするほうに振り返ると瞬間的に立ち上がり、同時に走り出した。
ドアの入り口からリビングには大勢の人垣ができていた。僕とダニーは必死にその人垣を掻き分けて騒ぎの中心を目指して進んでいった。みんな口々に色々なことを話したり、叫んだりしていたけれど、僕の耳にはそれはただの雑音としてしか入ってこなかった。人垣でできた大きな円を掻き分け、その中心にたどり着いたときに見た物は倒れたテーブルと、床の上で粉々に砕け散ったいくつものワイングラス、そしてその上で目を閉じたまま倒れているクレアの姿だった。
僕はクレアのそばにかけつけ肩を両手で抱きながら、何度も名前を呼んだ。それでも返事は無かったし、閉じられたままの二つのまぶたはピクリとも動かなかった。よく見ると砕けたグラスで切ったのか腕からは真っ赤な血液の線が流れていた。
「ここから動かさなきゃ、割れたガラスで体を切るよ。」
誰かが大きな声で叫んだ。その声に反応するように周りの人垣から誰かがでてきてクレアの足首を掴んだ。そして同じタイミングでクレアの頭の方から別の誰かがでてきてクレアの両腕を掴んで一気に上に持ち上げた。
それでもクレアの体はぐったりとしていて、足首と手首を持たれて持ち上げられた様子はまるで生きている人間のようには見えなかった。そして、まるで物を運ぶようにクレアの体を運ぼうとしている様子を見ると、考えるより先に僕の体が動いていた。
僕はクレアのそばに走りより、持ち上げられたクレアの首と太ももに両手を廻して抱きかかえ、一気に立ち上がった。立ち上がるときに割れたグラスの破片が裸足の僕の足を傷つけたけれど、そんなことは一瞬の痛みだけですぐに忘れてしまった。
さっきまでまるで人形のように持ち上げられていたクレアの体は僕の腕の中でぐったりとしながらも、息をしている人間であることを感じさせてくれた。2階のベットルームに連れていって休ませようとクレアを抱き上げたまま歩き始めると、いっせいに大きな人垣が割れて道ができた。そばではダニーが心配してずっとついて来てくれた。クレアの体は僕が考えていたよりも、ずっと軽くて、そして折れてしまいそうなほどに華奢だった。
階段を上がりきり、ケンの部屋のベッドの上にそっとクレアの体を横たえて、うすいシーツで体を覆った。僕は床の上にひざまずいて何度もクレアの名前を呼んだ。何度目かに彼女の名前を呼んだときにゆっくりとクレアがまぶたを開いた。
「永住ライフ、わたし、、、。」
「大丈夫、無理して話さなくてもいいよ。今、お水を持ってくるからね。」
水を取りに行くために立ち上がろうとすると、それまで力の入っていなかったクレアの手がぎゅっと僕の手を掴んだ。そして、何も言わないで僕の目をじっと見ながら首を2回、横にふった。そばについていてくれたダニーが、自分が水を持ってくるからクレアのそばについていてやれと言い残して、階段を静かに下りていった。
僕はベットの脇に座りなおし、クレアの手を握ったまま心配ないよって言って笑って見せた。クレアはうなずくと目を開けてずっとこっちを見ていた。
「永住ライフ、わたし。」
「なんだいクレア?大丈夫かい、落ち着いてからでいいんだよ。」
「わたしね、、、ううん。ありがとう、わたし大丈夫だから。たまに目の前が真っ暗になって意識がなくなっちゃうだけだから、小さな頃からたまにあることなの。」
「落ち着いたら一緒に病院に行こうか?救急車を呼んでもいいし、タクシーを呼んでもいい。」
「ううん、本当に大丈夫。いつも、病院に行っても点滴をして一人で横になっているだけだから。このままここにいるほうがさみしくないわ。」
ダニーが心配そうな顔をしながら、大きなグラスに水を入れてストローを挿して持ってきた。クレアがゆっくりと水を飲み、僕が事情を話すとダニーは少し安心したようだった。
「クレア、何にも心配しなくていいから横になっていないよ。集まっているみんなにも俺から大丈夫だと伝えておくし、パーティーはまだ続くから、もし元気になったら降りておいで。それまで永住ライフがそばにいるから。」
ダニーはクレアに心配をさせないように明るく言うと、ゴールデンリトリバーのような大きな目でウィンクをして部屋を出て行った。
僕はクレアの手を壊れないようにそっと握り、もう一度クレアの顔を見て微笑んだ。クレアも一度優しく微笑んでから、どこかとても遠くを見つめていた。
「永住ライフ、ごめんね。わたしも永住ライフに話したいことがあるの。」
クレアはしばらく天井を見つめた後に、僕の手を握り直し、静かにまぶたを閉じた。
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庭の芝生の上にはマサヤをはじめとした、チュックとマークのオールドサーファーズの作る濃いバーボンコークで撃沈されてしまったヤングサーファー達が、半ば意識を無くして転がっていた。そんな酔っ払いをながめながらでも、僕の目は人ごみの中から無意識にクレアの姿を探していた。
「おーい、永住ライフ。なんだよ、もう撃沈されちゃうのか?せっかくバーベキュー係から開放されたと思ったらケンはもうソファーの上でひっくりかえっているし、アッキィーはパンツまでビショビショに濡らしてそこらいじゅう走り回っているし、みんな完全にできあがっているじゃないか。俺もペースをあげないと追いつけないよ。」
「チアーズ、ミスターバーベキューおつかれさま。よくがんばってくれたね、ダニーの焼いたバーベキューを食べて、みんな喜んでいたよ。」
僕はスイミングプールから新しいビールのビンを2本持ってきて、ダニーに手渡して乾杯をした。ついさっきまで煙に包まれてバーベキューを焼いてくれていたダニーの長い髪は汗で濡れて光っていた。
「そういやジェイソンは見つけられたのか?ちゃんとパーティーを楽しんでくれていたか?俺の作ったラムチョップとホットドックを食べてくれたかなぁ。」
「ああ、ジェイソンはジェイソンなりに今日の夜を楽しんでいたよ。料理もちゃんと渡してきたから食べてくれていると思うよ。ああ、そうだ。そうだ。それはそうとミスティーは怒ってない?ダニーはずっとバーベキュー係をしていたからミスティーと一緒にいられなかったから。」
僕はジェイソンとクレアの間のことをダニーに話したくなくて、急に会話の流れを変えた。ダニーは一瞬不思議な顔をしたけれど、さりとて気にするわけでもなく次の会話に入っていった。ダニーと話しながらも頭の中ではさっきのジェイソンの言葉がぐるぐるとまわっていた。
もう夢の街を探して旅をする必要なんかない。
クレアもきっと俺の街が気にいるはずだ。
僕、自身なぜそんなにクレアのことが気になるのかさっぱり分からなかった。彼女はほんの数週間前までは、まったくの他人で僕の人生の登場人物の中にはいなかったんだ。僕は大好きな仲間達に囲まれて、オーストラリアで暮らすことができるように毎日、進んでいた。
実際、それ以外に仲間やサーフィンやシリンダーズよりも大切なことなんてなかったはずだし、気にかかることもなかった。ただ自分の目標に向かって進んでいることが実感できていればそれ以外には何もいらなかったのに、僕は自分の心の中に今まで住んでいなかった何かが入り込んできたことをこの時に始めて感じた。
それがいったい何なのかは僕にもよく分からないけれど、こんなに胸が落ち着かないのはマークに飲まされたバーボンコークのせいじゃないことは分かっていた。その時、ケンとダニーの家から大きな叫び声が聞こえた。
それは女性の叫び声と複数の人が何か大声で叫んでいる声だった。僕とダニーは声のするほうに振り返ると瞬間的に立ち上がり、同時に走り出した。
ドアの入り口からリビングには大勢の人垣ができていた。僕とダニーは必死にその人垣を掻き分けて騒ぎの中心を目指して進んでいった。みんな口々に色々なことを話したり、叫んだりしていたけれど、僕の耳にはそれはただの雑音としてしか入ってこなかった。人垣でできた大きな円を掻き分け、その中心にたどり着いたときに見た物は倒れたテーブルと、床の上で粉々に砕け散ったいくつものワイングラス、そしてその上で目を閉じたまま倒れているクレアの姿だった。
僕はクレアのそばにかけつけ肩を両手で抱きながら、何度も名前を呼んだ。それでも返事は無かったし、閉じられたままの二つのまぶたはピクリとも動かなかった。よく見ると砕けたグラスで切ったのか腕からは真っ赤な血液の線が流れていた。
「ここから動かさなきゃ、割れたガラスで体を切るよ。」
誰かが大きな声で叫んだ。その声に反応するように周りの人垣から誰かがでてきてクレアの足首を掴んだ。そして同じタイミングでクレアの頭の方から別の誰かがでてきてクレアの両腕を掴んで一気に上に持ち上げた。
それでもクレアの体はぐったりとしていて、足首と手首を持たれて持ち上げられた様子はまるで生きている人間のようには見えなかった。そして、まるで物を運ぶようにクレアの体を運ぼうとしている様子を見ると、考えるより先に僕の体が動いていた。
僕はクレアのそばに走りより、持ち上げられたクレアの首と太ももに両手を廻して抱きかかえ、一気に立ち上がった。立ち上がるときに割れたグラスの破片が裸足の僕の足を傷つけたけれど、そんなことは一瞬の痛みだけですぐに忘れてしまった。
さっきまでまるで人形のように持ち上げられていたクレアの体は僕の腕の中でぐったりとしながらも、息をしている人間であることを感じさせてくれた。2階のベットルームに連れていって休ませようとクレアを抱き上げたまま歩き始めると、いっせいに大きな人垣が割れて道ができた。そばではダニーが心配してずっとついて来てくれた。クレアの体は僕が考えていたよりも、ずっと軽くて、そして折れてしまいそうなほどに華奢だった。
階段を上がりきり、ケンの部屋のベッドの上にそっとクレアの体を横たえて、うすいシーツで体を覆った。僕は床の上にひざまずいて何度もクレアの名前を呼んだ。何度目かに彼女の名前を呼んだときにゆっくりとクレアがまぶたを開いた。
「永住ライフ、わたし、、、。」
「大丈夫、無理して話さなくてもいいよ。今、お水を持ってくるからね。」
水を取りに行くために立ち上がろうとすると、それまで力の入っていなかったクレアの手がぎゅっと僕の手を掴んだ。そして、何も言わないで僕の目をじっと見ながら首を2回、横にふった。そばについていてくれたダニーが、自分が水を持ってくるからクレアのそばについていてやれと言い残して、階段を静かに下りていった。
僕はベットの脇に座りなおし、クレアの手を握ったまま心配ないよって言って笑って見せた。クレアはうなずくと目を開けてずっとこっちを見ていた。
「永住ライフ、わたし。」
「なんだいクレア?大丈夫かい、落ち着いてからでいいんだよ。」
「わたしね、、、ううん。ありがとう、わたし大丈夫だから。たまに目の前が真っ暗になって意識がなくなっちゃうだけだから、小さな頃からたまにあることなの。」
「落ち着いたら一緒に病院に行こうか?救急車を呼んでもいいし、タクシーを呼んでもいい。」
「ううん、本当に大丈夫。いつも、病院に行っても点滴をして一人で横になっているだけだから。このままここにいるほうがさみしくないわ。」
ダニーが心配そうな顔をしながら、大きなグラスに水を入れてストローを挿して持ってきた。クレアがゆっくりと水を飲み、僕が事情を話すとダニーは少し安心したようだった。
「クレア、何にも心配しなくていいから横になっていないよ。集まっているみんなにも俺から大丈夫だと伝えておくし、パーティーはまだ続くから、もし元気になったら降りておいで。それまで永住ライフがそばにいるから。」
ダニーはクレアに心配をさせないように明るく言うと、ゴールデンリトリバーのような大きな目でウィンクをして部屋を出て行った。
僕はクレアの手を壊れないようにそっと握り、もう一度クレアの顔を見て微笑んだ。クレアも一度優しく微笑んでから、どこかとても遠くを見つめていた。
「永住ライフ、ごめんね。わたしも永住ライフに話したいことがあるの。」
クレアはしばらく天井を見つめた後に、僕の手を握り直し、静かにまぶたを閉じた。
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