シャワーを浴びて一日の疲れを汗や汚れと一緒に洗い流すと、気持ちがとてもスッキリとした。腰にバスタオルを巻いたまま階段を下りてキッチンに行って冷蔵庫に入れておいた6パックのビールの取り出すと、僕はそれを勢いよく飲み込んだ。ビールの炭酸とよく冷えた水分がのどを過ぎて一気に胃袋に流れ込んだ。
「あー、気持ち良いなぁ。」
リビングのソファに寝転んで、ビンに残った半分くらいのビールをゆっくりと飲みながら何を考えるでもなくぼんやりとしていると、古い車の大きなエンジンともにアッキィーが帰ってきた。僕の車もアッキィーの車も同じフォードのファルコンで、どちらも大きなエンジン音がするけれど僕の72年型に比べるとアッキィーの88年型のほうが高いエンジン音がする。アッキィーと僕のどちらが帰ってきたのか、車のエンジン音を聞いただけですぐに分かるとケンはいつも言っている。
「おかえりーアッキィー。」
「ただいまっ、あっ!永住ライフさん、裸でソファに寝るのは止めてくださいよ。それに玄関の窓も全開ですよ。そんなかっこでだれか急に入ってきたら、どうするんですか?」
「裸じゃないよ、ちゃんとバスタオルを巻いているよ。それに、こんな時間に誰もたずねてこないよ。」
僕はアッキィーに怒られたので仕方なく2階に上がり自分の部屋で短パンとタンクトップに着替えてから、またリビングに降りていった。アッキィーはキッチンで顔を洗いながら、さっき僕が買ってきたビールを当然のように飲んでいた。
「ねぇ、アッキィー。ケンもニックもまだ帰ってきてないのかな?」
「えっ、多分帰ってきていると思いますよ。僕が帰ってきた時にニックの部屋の電気がついてましたからね。ちょっと落ち着いたら呼びにくるんじゃないんですか。それまで、二人で飲んでいましょうよ。」
僕は2本目のビールを冷蔵庫から取り出して、キッチンの流しの脇に置いてあるアッキィーのビールにカチンと乾杯をした。二人でソファーに座り、今日マークに言われてサーフボードラックを作り始めたことをアッキィーに話すと、まだサーフボードもないのにサーフボードラックを作るなんておかしいと笑われた。そして、マークが言っていた「準備ができていないところに物事はおきない」という話をするとアッキィーはさらに笑った。
二人でお互いに今日あった出来事を話しているとすぐに一時間位が過ぎていた。僕らの家にもテレビはあるけれどオーストラリアのテレビ番組を純粋に楽しめるほどの英語力も、興味もないので、僕らはとにかくよく話をした。アンドレアスと暮らしていた頃もそうだったけれど、テレビを見ないとたくさんの時間ができる、なんとなくテレビをつけてなんとなく時間が過ぎていくということがないからだ。いつのまにか、お互いの家族や恋人以上に相手のことを深く知るようになる、子供の頃の話やお互いの夢、そして普段は心の中にしまってあるような悲しみや心の内側についてまで話すようになるからだ。
僕はオーストラリアに来てから僕らの生活を便利にしているいくつもの物が、本当は僕らの生活を便利だけど少し寂しいものにしていると感じていた。そして、本当に大切なものはそんなに沢山必要ないことにも気がついてきた。それは大切な人と大好きなものだけでいい。
「それにしてもニックもケンも全然、呼びにこないね。もしかしたら向こうも待っているかもしれないからそろそろ行ってみようか?」
「そうですね。ちょっと声をかけてみましょうか。」
このままだと二人だけで先に酔っ払ってしまいそうだと思ったので、僕とアッキィーはソファから立ち上がり右手にビール瓶を握りながら玄関を出て、隣にあるケンとニックの家のドアを叩いた。
「おーい、ケン、ニック。いるんだろー、開けてくれよ、そろそろ一緒に飲もうぜ。」
「ケーン、ニック、早くしろよー。永住ライフさんと二人で勝手に酔っ払っちゃうぞー。」
もう一度、ドアを叩いても何も反応は無かった。でも、立て付けの悪いドアの隙間が少し開いてカギはかかっていないことが分かった。他の人の家なら、そんなことはしないのだけれどお隣さんで兄弟みたいに付き合っているケンの家なので僕は勝手にドアのノブを回して二人の家のドアを開けた。
すると、少々潔癖症ぎみのケンがいつも綺麗に整理整頓しているはずのリビングが今日はずいぶんとちらかっていた。机の上には、何通もの請求書や手紙がバラバラにひろがっているし、いつも綺麗に壁に掛けられているはずのウェットスーツが床に無造作に放り投げられていた。
僕は一瞬で頭の中にあった嫌な記憶がよみがえってきた。数ヶ月前に僕らに起こった事件、それは空き巣だった。仕事から帰ってくると家の中がめちゃくちゃに荒らされていた。日本を出るときにおばあちゃんがティシュに包んで持たしてくれたお守りの1万円札やカメラや電子辞書、アッキィーが大切にしていたMDプレーヤーやビデオ、僕らの大切にしていたものを誰かが家に侵入して盗んでいった。警察に届けても相手にされず、保険屋に言えといわれたあの事件の記憶が鮮明によみがえってきた。
「ケン、ニック、どろぼうかっ。」
僕は灯りのついている二階に向けて階段をかけ上った。二階の廊下から見てみると、電気が付いている方の部屋はニックの部屋だった。ドアが大きく開けられて中にケンがうずくまっているのが見えた。僕は急いで部屋に入りケンの体を起こそうとした。
「大丈夫か、ケン。どうしたんだよ、どろぼうかっ、どろぼうが入ったのか。ケガはしていない。」
抱き起こそうとした僕の右手をケンの左手が振り払った。床につっぷしたまま僕の手を払いのけるケンの体には全ての物を拒絶するオーラが漂っていた。そして、すぐにケンの背中が小刻みに震えているのを感じた。全ての物を拒絶しながら、僕が弟みたいに思っているケンが泣いている。
「いったいどうしたんだよ。僕もアッキィーもいるから大丈夫だよ、ケン。」
それでもケンは何も応えなかった、怒りと悲しみに襲われた瞳でただ床の一点をにらみつけたまま、握り締めたこぶしを震わせていた。僕は、アッキィーにコップに水を汲んでタバコを持ってくるように頼んだ。水を飲めば感情は少し落ち着くし、タバコを吸えば今の床に突っ伏した状態から起き上がると思ったからだ。
アッキィーが僕らの家に戻りリビングでコップに水を汲んでタバコを取ってもどってくるころにはケンも少しずつ落ち着いてきた。僕が名前をよびかけると、「ああ。」とだけは応えるようになっていた。
「ケン、水を飲めよ。水を飲めばちょっと落ち着くよ。」
ケンは起き上がると床の上にあぐらをかいて座り目を閉じたまま一回天井を仰いでから、今度は息を大きく吐き出して下を向いてしまった。ケンはケンなりに激しくゆれてしまった心を少しでも落ち着かせようとしているようだった。そして、しばらくすると自分の前に置かれたコップの水を何も言わないで一気に飲み干した。
「タバコ吸おうか?」
僕とアッキィーは箱から順番にタバコを取り出して火をつけて、ケンの手にもライターとタバコの箱を手渡した。僕もアッキィーもそしてケンも大きくタバコを吸い込み、そしてゆっくりと吐き出した。白い煙がフワーッと広がって部屋の中を周り、僕は立ち上がってニックの部屋の窓を開けた。ニックの部屋には入ったことがなかったけれど、なにしろケンの家と僕らの家は隣同士で同じ造りになっているのでどこに何があって、どういう仕組みになっているか全部分かった。
窓を開けるとサーファーズパラダイスの夜の新鮮な空気が潮風と一緒に部屋の中にスーッと入ってきた。立ち込めていた部屋の重い空気が入れ替わってだんだん綺麗になっていくのを感じた。ケンも閉じていたいた目を開いて、だんだんと自分一人の感情の世界から帰ってきたようだった。僕もアッキィーも何も話し掛けなかった、無理に何が起こったのかを知ろうとするのではなくケンの心が僕らと同じところに戻ってくるのを待った。
「だまされてたんだ・・・」
ケンが突然、口を開いた。その声は小さく弱くてやっと聞き取れる程度の声だった。
「ずっと、だまされてたんだ。最初から全部。全部がうそで全部だまされてたんだ。」
ケンはゆっくりと話し始めた。傷ついた自分の心が壊れないように少しずつ守りながら、ゆっくりゆっくりと何があったのかを僕とアッキィーに話してくれた。
「仕事から帰ってきたら家の中が散らかっていたんだ。だから最初はニックが帰ってきたのかと思ったんだ、でも良く見るとニックのサーフボードや僕のサーフボードが無いことに気がついた。リビングにあったCDプレーヤーもデジカメもない、すぐに永住ライフとアッキィーの家に泥棒が入った時のことを思い出した。急いで2階の自分の部屋に入ってみると、やっぱり部屋の中も荒らされていた。何かなくなっているものがないかと思ってしらべてみると机の引き出しの中に入れてあった200ドルがなくなっていた。
でも、それ以外は何もなくなっていなかったんだ。ニックの部屋も荒らされているかもしれない、そう思って心配になってニックの部屋に入ってみると、やっぱり荒らされていた。よく見てみるといろんな物がなくなっているんだ。ギターやコンポ、洋服、いつも壁にかけてあった穴の開いたウエットスーツ、そしてニックがサーフィンの大会で優勝した時のトロフィー・・・その時、気がつきたくないことに気がついた。
伸びきったTシャツや、穴の空いたウエットスーツ、そして他人のトロフィーを盗む泥棒なんていない。
泥棒は・・ニック。
一瞬でパニックになった、そんなはずないって。だって僕とニックは3ヶ月以上も一緒に暮らしてサーフィンをして、一緒に飯を食べて酒を飲んで、たくさん話をしたんだ。
そんなはずないってニックの部屋を探したんだ。泥棒はニックじゃないって、なにかニックが戻ってくるものがあるはずだって、そうしたらベットの下からでてきたんだ。この家の家賃の催促状が何通も何通も、最後の1枚に書いてあった。今月末までに未払いの家賃を払わないと出て行ってもらうって、それを見てハッキリした。
僕は毎月毎月僕の分の家賃をニックに渡していたんだ、そういう面倒なことはオージーの自分がやるってニックが言っていたから。ニックは最初の1ヶ月目から家賃を不動産屋に渡していなかったんだ。
ボクはだまされていた・・ニックはドロボウだった・・
ボクはだまされていた・・・ボクはだまされていた・・。」
ケンの目に涙があふれて、今度は声をあげて泣き始めた。心が壊れてしまわないように、抑えていた感情はまた大きなうねりになってケンの心を深く飲みこんでいった。
ニックは一番大切なものをケンから盗んでいなくなった。
僕も悲しくて、くやしくて、胸の中があつくなって涙が止まらなかった。
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「あー、気持ち良いなぁ。」
リビングのソファに寝転んで、ビンに残った半分くらいのビールをゆっくりと飲みながら何を考えるでもなくぼんやりとしていると、古い車の大きなエンジンともにアッキィーが帰ってきた。僕の車もアッキィーの車も同じフォードのファルコンで、どちらも大きなエンジン音がするけれど僕の72年型に比べるとアッキィーの88年型のほうが高いエンジン音がする。アッキィーと僕のどちらが帰ってきたのか、車のエンジン音を聞いただけですぐに分かるとケンはいつも言っている。
「おかえりーアッキィー。」
「ただいまっ、あっ!永住ライフさん、裸でソファに寝るのは止めてくださいよ。それに玄関の窓も全開ですよ。そんなかっこでだれか急に入ってきたら、どうするんですか?」
「裸じゃないよ、ちゃんとバスタオルを巻いているよ。それに、こんな時間に誰もたずねてこないよ。」
僕はアッキィーに怒られたので仕方なく2階に上がり自分の部屋で短パンとタンクトップに着替えてから、またリビングに降りていった。アッキィーはキッチンで顔を洗いながら、さっき僕が買ってきたビールを当然のように飲んでいた。
「ねぇ、アッキィー。ケンもニックもまだ帰ってきてないのかな?」
「えっ、多分帰ってきていると思いますよ。僕が帰ってきた時にニックの部屋の電気がついてましたからね。ちょっと落ち着いたら呼びにくるんじゃないんですか。それまで、二人で飲んでいましょうよ。」
僕は2本目のビールを冷蔵庫から取り出して、キッチンの流しの脇に置いてあるアッキィーのビールにカチンと乾杯をした。二人でソファーに座り、今日マークに言われてサーフボードラックを作り始めたことをアッキィーに話すと、まだサーフボードもないのにサーフボードラックを作るなんておかしいと笑われた。そして、マークが言っていた「準備ができていないところに物事はおきない」という話をするとアッキィーはさらに笑った。
二人でお互いに今日あった出来事を話しているとすぐに一時間位が過ぎていた。僕らの家にもテレビはあるけれどオーストラリアのテレビ番組を純粋に楽しめるほどの英語力も、興味もないので、僕らはとにかくよく話をした。アンドレアスと暮らしていた頃もそうだったけれど、テレビを見ないとたくさんの時間ができる、なんとなくテレビをつけてなんとなく時間が過ぎていくということがないからだ。いつのまにか、お互いの家族や恋人以上に相手のことを深く知るようになる、子供の頃の話やお互いの夢、そして普段は心の中にしまってあるような悲しみや心の内側についてまで話すようになるからだ。
僕はオーストラリアに来てから僕らの生活を便利にしているいくつもの物が、本当は僕らの生活を便利だけど少し寂しいものにしていると感じていた。そして、本当に大切なものはそんなに沢山必要ないことにも気がついてきた。それは大切な人と大好きなものだけでいい。
「それにしてもニックもケンも全然、呼びにこないね。もしかしたら向こうも待っているかもしれないからそろそろ行ってみようか?」
「そうですね。ちょっと声をかけてみましょうか。」
このままだと二人だけで先に酔っ払ってしまいそうだと思ったので、僕とアッキィーはソファから立ち上がり右手にビール瓶を握りながら玄関を出て、隣にあるケンとニックの家のドアを叩いた。
「おーい、ケン、ニック。いるんだろー、開けてくれよ、そろそろ一緒に飲もうぜ。」
「ケーン、ニック、早くしろよー。永住ライフさんと二人で勝手に酔っ払っちゃうぞー。」
もう一度、ドアを叩いても何も反応は無かった。でも、立て付けの悪いドアの隙間が少し開いてカギはかかっていないことが分かった。他の人の家なら、そんなことはしないのだけれどお隣さんで兄弟みたいに付き合っているケンの家なので僕は勝手にドアのノブを回して二人の家のドアを開けた。
すると、少々潔癖症ぎみのケンがいつも綺麗に整理整頓しているはずのリビングが今日はずいぶんとちらかっていた。机の上には、何通もの請求書や手紙がバラバラにひろがっているし、いつも綺麗に壁に掛けられているはずのウェットスーツが床に無造作に放り投げられていた。
僕は一瞬で頭の中にあった嫌な記憶がよみがえってきた。数ヶ月前に僕らに起こった事件、それは空き巣だった。仕事から帰ってくると家の中がめちゃくちゃに荒らされていた。日本を出るときにおばあちゃんがティシュに包んで持たしてくれたお守りの1万円札やカメラや電子辞書、アッキィーが大切にしていたMDプレーヤーやビデオ、僕らの大切にしていたものを誰かが家に侵入して盗んでいった。警察に届けても相手にされず、保険屋に言えといわれたあの事件の記憶が鮮明によみがえってきた。
「ケン、ニック、どろぼうかっ。」
僕は灯りのついている二階に向けて階段をかけ上った。二階の廊下から見てみると、電気が付いている方の部屋はニックの部屋だった。ドアが大きく開けられて中にケンがうずくまっているのが見えた。僕は急いで部屋に入りケンの体を起こそうとした。
「大丈夫か、ケン。どうしたんだよ、どろぼうかっ、どろぼうが入ったのか。ケガはしていない。」
抱き起こそうとした僕の右手をケンの左手が振り払った。床につっぷしたまま僕の手を払いのけるケンの体には全ての物を拒絶するオーラが漂っていた。そして、すぐにケンの背中が小刻みに震えているのを感じた。全ての物を拒絶しながら、僕が弟みたいに思っているケンが泣いている。
「いったいどうしたんだよ。僕もアッキィーもいるから大丈夫だよ、ケン。」
それでもケンは何も応えなかった、怒りと悲しみに襲われた瞳でただ床の一点をにらみつけたまま、握り締めたこぶしを震わせていた。僕は、アッキィーにコップに水を汲んでタバコを持ってくるように頼んだ。水を飲めば感情は少し落ち着くし、タバコを吸えば今の床に突っ伏した状態から起き上がると思ったからだ。
アッキィーが僕らの家に戻りリビングでコップに水を汲んでタバコを取ってもどってくるころにはケンも少しずつ落ち着いてきた。僕が名前をよびかけると、「ああ。」とだけは応えるようになっていた。
「ケン、水を飲めよ。水を飲めばちょっと落ち着くよ。」
ケンは起き上がると床の上にあぐらをかいて座り目を閉じたまま一回天井を仰いでから、今度は息を大きく吐き出して下を向いてしまった。ケンはケンなりに激しくゆれてしまった心を少しでも落ち着かせようとしているようだった。そして、しばらくすると自分の前に置かれたコップの水を何も言わないで一気に飲み干した。
「タバコ吸おうか?」
僕とアッキィーは箱から順番にタバコを取り出して火をつけて、ケンの手にもライターとタバコの箱を手渡した。僕もアッキィーもそしてケンも大きくタバコを吸い込み、そしてゆっくりと吐き出した。白い煙がフワーッと広がって部屋の中を周り、僕は立ち上がってニックの部屋の窓を開けた。ニックの部屋には入ったことがなかったけれど、なにしろケンの家と僕らの家は隣同士で同じ造りになっているのでどこに何があって、どういう仕組みになっているか全部分かった。
窓を開けるとサーファーズパラダイスの夜の新鮮な空気が潮風と一緒に部屋の中にスーッと入ってきた。立ち込めていた部屋の重い空気が入れ替わってだんだん綺麗になっていくのを感じた。ケンも閉じていたいた目を開いて、だんだんと自分一人の感情の世界から帰ってきたようだった。僕もアッキィーも何も話し掛けなかった、無理に何が起こったのかを知ろうとするのではなくケンの心が僕らと同じところに戻ってくるのを待った。
「だまされてたんだ・・・」
ケンが突然、口を開いた。その声は小さく弱くてやっと聞き取れる程度の声だった。
「ずっと、だまされてたんだ。最初から全部。全部がうそで全部だまされてたんだ。」
ケンはゆっくりと話し始めた。傷ついた自分の心が壊れないように少しずつ守りながら、ゆっくりゆっくりと何があったのかを僕とアッキィーに話してくれた。
「仕事から帰ってきたら家の中が散らかっていたんだ。だから最初はニックが帰ってきたのかと思ったんだ、でも良く見るとニックのサーフボードや僕のサーフボードが無いことに気がついた。リビングにあったCDプレーヤーもデジカメもない、すぐに永住ライフとアッキィーの家に泥棒が入った時のことを思い出した。急いで2階の自分の部屋に入ってみると、やっぱり部屋の中も荒らされていた。何かなくなっているものがないかと思ってしらべてみると机の引き出しの中に入れてあった200ドルがなくなっていた。
でも、それ以外は何もなくなっていなかったんだ。ニックの部屋も荒らされているかもしれない、そう思って心配になってニックの部屋に入ってみると、やっぱり荒らされていた。よく見てみるといろんな物がなくなっているんだ。ギターやコンポ、洋服、いつも壁にかけてあった穴の開いたウエットスーツ、そしてニックがサーフィンの大会で優勝した時のトロフィー・・・その時、気がつきたくないことに気がついた。
伸びきったTシャツや、穴の空いたウエットスーツ、そして他人のトロフィーを盗む泥棒なんていない。
泥棒は・・ニック。
一瞬でパニックになった、そんなはずないって。だって僕とニックは3ヶ月以上も一緒に暮らしてサーフィンをして、一緒に飯を食べて酒を飲んで、たくさん話をしたんだ。
そんなはずないってニックの部屋を探したんだ。泥棒はニックじゃないって、なにかニックが戻ってくるものがあるはずだって、そうしたらベットの下からでてきたんだ。この家の家賃の催促状が何通も何通も、最後の1枚に書いてあった。今月末までに未払いの家賃を払わないと出て行ってもらうって、それを見てハッキリした。
僕は毎月毎月僕の分の家賃をニックに渡していたんだ、そういう面倒なことはオージーの自分がやるってニックが言っていたから。ニックは最初の1ヶ月目から家賃を不動産屋に渡していなかったんだ。
ボクはだまされていた・・ニックはドロボウだった・・
ボクはだまされていた・・・ボクはだまされていた・・。」
ケンの目に涙があふれて、今度は声をあげて泣き始めた。心が壊れてしまわないように、抑えていた感情はまた大きなうねりになってケンの心を深く飲みこんでいった。
ニックは一番大切なものをケンから盗んでいなくなった。
僕も悲しくて、くやしくて、胸の中があつくなって涙が止まらなかった。
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