オーストラリア永住権取得は難しくない!

5つの目標を作り始まった、永住LIFEの幸せなオーストラリア永住権への道

幸せなオーストラリア永住権への道 92 なくしたもの

2007-03-27 18:44:01 | Weblog
シャワーを浴びて一日の疲れを汗や汚れと一緒に洗い流すと、気持ちがとてもスッキリとした。腰にバスタオルを巻いたまま階段を下りてキッチンに行って冷蔵庫に入れておいた6パックのビールの取り出すと、僕はそれを勢いよく飲み込んだ。ビールの炭酸とよく冷えた水分がのどを過ぎて一気に胃袋に流れ込んだ。

「あー、気持ち良いなぁ。」

リビングのソファに寝転んで、ビンに残った半分くらいのビールをゆっくりと飲みながら何を考えるでもなくぼんやりとしていると、古い車の大きなエンジンともにアッキィーが帰ってきた。僕の車もアッキィーの車も同じフォードのファルコンで、どちらも大きなエンジン音がするけれど僕の72年型に比べるとアッキィーの88年型のほうが高いエンジン音がする。アッキィーと僕のどちらが帰ってきたのか、車のエンジン音を聞いただけですぐに分かるとケンはいつも言っている。

「おかえりーアッキィー。」

「ただいまっ、あっ!永住ライフさん、裸でソファに寝るのは止めてくださいよ。それに玄関の窓も全開ですよ。そんなかっこでだれか急に入ってきたら、どうするんですか?」

「裸じゃないよ、ちゃんとバスタオルを巻いているよ。それに、こんな時間に誰もたずねてこないよ。」

僕はアッキィーに怒られたので仕方なく2階に上がり自分の部屋で短パンとタンクトップに着替えてから、またリビングに降りていった。アッキィーはキッチンで顔を洗いながら、さっき僕が買ってきたビールを当然のように飲んでいた。

「ねぇ、アッキィー。ケンもニックもまだ帰ってきてないのかな?」

「えっ、多分帰ってきていると思いますよ。僕が帰ってきた時にニックの部屋の電気がついてましたからね。ちょっと落ち着いたら呼びにくるんじゃないんですか。それまで、二人で飲んでいましょうよ。」

僕は2本目のビールを冷蔵庫から取り出して、キッチンの流しの脇に置いてあるアッキィーのビールにカチンと乾杯をした。二人でソファーに座り、今日マークに言われてサーフボードラックを作り始めたことをアッキィーに話すと、まだサーフボードもないのにサーフボードラックを作るなんておかしいと笑われた。そして、マークが言っていた「準備ができていないところに物事はおきない」という話をするとアッキィーはさらに笑った。

二人でお互いに今日あった出来事を話しているとすぐに一時間位が過ぎていた。僕らの家にもテレビはあるけれどオーストラリアのテレビ番組を純粋に楽しめるほどの英語力も、興味もないので、僕らはとにかくよく話をした。アンドレアスと暮らしていた頃もそうだったけれど、テレビを見ないとたくさんの時間ができる、なんとなくテレビをつけてなんとなく時間が過ぎていくということがないからだ。いつのまにか、お互いの家族や恋人以上に相手のことを深く知るようになる、子供の頃の話やお互いの夢、そして普段は心の中にしまってあるような悲しみや心の内側についてまで話すようになるからだ。

僕はオーストラリアに来てから僕らの生活を便利にしているいくつもの物が、本当は僕らの生活を便利だけど少し寂しいものにしていると感じていた。そして、本当に大切なものはそんなに沢山必要ないことにも気がついてきた。それは大切な人と大好きなものだけでいい。

「それにしてもニックもケンも全然、呼びにこないね。もしかしたら向こうも待っているかもしれないからそろそろ行ってみようか?」

「そうですね。ちょっと声をかけてみましょうか。」

このままだと二人だけで先に酔っ払ってしまいそうだと思ったので、僕とアッキィーはソファから立ち上がり右手にビール瓶を握りながら玄関を出て、隣にあるケンとニックの家のドアを叩いた。

「おーい、ケン、ニック。いるんだろー、開けてくれよ、そろそろ一緒に飲もうぜ。」

「ケーン、ニック、早くしろよー。永住ライフさんと二人で勝手に酔っ払っちゃうぞー。」

もう一度、ドアを叩いても何も反応は無かった。でも、立て付けの悪いドアの隙間が少し開いてカギはかかっていないことが分かった。他の人の家なら、そんなことはしないのだけれどお隣さんで兄弟みたいに付き合っているケンの家なので僕は勝手にドアのノブを回して二人の家のドアを開けた。

すると、少々潔癖症ぎみのケンがいつも綺麗に整理整頓しているはずのリビングが今日はずいぶんとちらかっていた。机の上には、何通もの請求書や手紙がバラバラにひろがっているし、いつも綺麗に壁に掛けられているはずのウェットスーツが床に無造作に放り投げられていた。

僕は一瞬で頭の中にあった嫌な記憶がよみがえってきた。数ヶ月前に僕らに起こった事件、それは空き巣だった。仕事から帰ってくると家の中がめちゃくちゃに荒らされていた。日本を出るときにおばあちゃんがティシュに包んで持たしてくれたお守りの1万円札やカメラや電子辞書、アッキィーが大切にしていたMDプレーヤーやビデオ、僕らの大切にしていたものを誰かが家に侵入して盗んでいった。警察に届けても相手にされず、保険屋に言えといわれたあの事件の記憶が鮮明によみがえってきた。

「ケン、ニック、どろぼうかっ。」

僕は灯りのついている二階に向けて階段をかけ上った。二階の廊下から見てみると、電気が付いている方の部屋はニックの部屋だった。ドアが大きく開けられて中にケンがうずくまっているのが見えた。僕は急いで部屋に入りケンの体を起こそうとした。

「大丈夫か、ケン。どうしたんだよ、どろぼうかっ、どろぼうが入ったのか。ケガはしていない。」

抱き起こそうとした僕の右手をケンの左手が振り払った。床につっぷしたまま僕の手を払いのけるケンの体には全ての物を拒絶するオーラが漂っていた。そして、すぐにケンの背中が小刻みに震えているのを感じた。全ての物を拒絶しながら、僕が弟みたいに思っているケンが泣いている。

「いったいどうしたんだよ。僕もアッキィーもいるから大丈夫だよ、ケン。」

それでもケンは何も応えなかった、怒りと悲しみに襲われた瞳でただ床の一点をにらみつけたまま、握り締めたこぶしを震わせていた。僕は、アッキィーにコップに水を汲んでタバコを持ってくるように頼んだ。水を飲めば感情は少し落ち着くし、タバコを吸えば今の床に突っ伏した状態から起き上がると思ったからだ。

アッキィーが僕らの家に戻りリビングでコップに水を汲んでタバコを取ってもどってくるころにはケンも少しずつ落ち着いてきた。僕が名前をよびかけると、「ああ。」とだけは応えるようになっていた。

「ケン、水を飲めよ。水を飲めばちょっと落ち着くよ。」

ケンは起き上がると床の上にあぐらをかいて座り目を閉じたまま一回天井を仰いでから、今度は息を大きく吐き出して下を向いてしまった。ケンはケンなりに激しくゆれてしまった心を少しでも落ち着かせようとしているようだった。そして、しばらくすると自分の前に置かれたコップの水を何も言わないで一気に飲み干した。

「タバコ吸おうか?」

僕とアッキィーは箱から順番にタバコを取り出して火をつけて、ケンの手にもライターとタバコの箱を手渡した。僕もアッキィーもそしてケンも大きくタバコを吸い込み、そしてゆっくりと吐き出した。白い煙がフワーッと広がって部屋の中を周り、僕は立ち上がってニックの部屋の窓を開けた。ニックの部屋には入ったことがなかったけれど、なにしろケンの家と僕らの家は隣同士で同じ造りになっているのでどこに何があって、どういう仕組みになっているか全部分かった。

窓を開けるとサーファーズパラダイスの夜の新鮮な空気が潮風と一緒に部屋の中にスーッと入ってきた。立ち込めていた部屋の重い空気が入れ替わってだんだん綺麗になっていくのを感じた。ケンも閉じていたいた目を開いて、だんだんと自分一人の感情の世界から帰ってきたようだった。僕もアッキィーも何も話し掛けなかった、無理に何が起こったのかを知ろうとするのではなくケンの心が僕らと同じところに戻ってくるのを待った。

「だまされてたんだ・・・」

ケンが突然、口を開いた。その声は小さく弱くてやっと聞き取れる程度の声だった。

「ずっと、だまされてたんだ。最初から全部。全部がうそで全部だまされてたんだ。」

ケンはゆっくりと話し始めた。傷ついた自分の心が壊れないように少しずつ守りながら、ゆっくりゆっくりと何があったのかを僕とアッキィーに話してくれた。

「仕事から帰ってきたら家の中が散らかっていたんだ。だから最初はニックが帰ってきたのかと思ったんだ、でも良く見るとニックのサーフボードや僕のサーフボードが無いことに気がついた。リビングにあったCDプレーヤーもデジカメもない、すぐに永住ライフとアッキィーの家に泥棒が入った時のことを思い出した。急いで2階の自分の部屋に入ってみると、やっぱり部屋の中も荒らされていた。何かなくなっているものがないかと思ってしらべてみると机の引き出しの中に入れてあった200ドルがなくなっていた。

でも、それ以外は何もなくなっていなかったんだ。ニックの部屋も荒らされているかもしれない、そう思って心配になってニックの部屋に入ってみると、やっぱり荒らされていた。よく見てみるといろんな物がなくなっているんだ。ギターやコンポ、洋服、いつも壁にかけてあった穴の開いたウエットスーツ、そしてニックがサーフィンの大会で優勝した時のトロフィー・・・その時、気がつきたくないことに気がついた。

伸びきったTシャツや、穴の空いたウエットスーツ、そして他人のトロフィーを盗む泥棒なんていない。

泥棒は・・ニック。

一瞬でパニックになった、そんなはずないって。だって僕とニックは3ヶ月以上も一緒に暮らしてサーフィンをして、一緒に飯を食べて酒を飲んで、たくさん話をしたんだ。

そんなはずないってニックの部屋を探したんだ。泥棒はニックじゃないって、なにかニックが戻ってくるものがあるはずだって、そうしたらベットの下からでてきたんだ。この家の家賃の催促状が何通も何通も、最後の1枚に書いてあった。今月末までに未払いの家賃を払わないと出て行ってもらうって、それを見てハッキリした。

僕は毎月毎月僕の分の家賃をニックに渡していたんだ、そういう面倒なことはオージーの自分がやるってニックが言っていたから。ニックは最初の1ヶ月目から家賃を不動産屋に渡していなかったんだ。

ボクはだまされていた・・ニックはドロボウだった・・
ボクはだまされていた・・・ボクはだまされていた・・。」

ケンの目に涙があふれて、今度は声をあげて泣き始めた。心が壊れてしまわないように、抑えていた感情はまた大きなうねりになってケンの心を深く飲みこんでいった。

ニックは一番大切なものをケンから盗んでいなくなった。

僕も悲しくて、くやしくて、胸の中があつくなって涙が止まらなかった。

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幸せなオーストラリア永住権への道 91 準備ができたときに

2007-03-20 18:37:48 | Weblog
日本からやってきた僕らのお姫様がいなくなるとビーチハウスは、またいつもどおりの乱雑な状態にもどった。ソファにかけてあった水色のシーツはくちゃくちゃにまるまって、アッキィーが朝の子供番組を見るときの枕になっているし。綺麗に棚の上に並べられていたシャワー室のシャンプーやトリートメントも、また元のように床の上にころがっている。

ただ、またいつの日かお姫様が僕らのビーチハウスに遊びにやってきた時に困らないように、アッキィーが彼女のために買ってきた専用のマグカップや小さな鏡台は部屋の隅に大切に置かれている。彼女が確かにここにいたと知ることができるるものはテレビの上のフォトスタンドに入った、3人で撮った写真だけになっていった。

「おはよう永住ライフ。」

隣に住んでいるケンが開けっ放しになっている玄関のドアの脇から顔だけだして声をかけてきた。僕らの部屋とケンの部屋は真ん中の壁を中心にして全てが左右対称に作られていた。外から見ると二つのドアが並んでいて、そのすぐ内側に2階へと続く階段が見える。僕らの部屋もケンの部屋もたいていドアは開きっぱなしにしているので、お互いの玄関から顔だけ出せば、相手の家の中が良く見えて、そのせいもあって何の気兼ねもなく付き合っている。

「おはよう、ケン。今日の朝はどこでサーフィンした?」

僕は、キッチンでインスタントコーヒーを入れたマグカップに熱いお湯を注ぎながらいつもどおりの挨拶をした。このサーファーズパラダイスの街では「今日、どこで入った?」というのが日常の挨拶になっている。今日はストラディーで入って最高だったよとか、朝の正面はよかったとか、いつも、そこから会話が始まるんだ。

「今日は寝坊して入らなかったよ。まぁ、そんな日もあるよ。それより、今日ニックが帰ってくるはずなんだ。良かったら仕事の後にウチで飲まないか?」

「あー、ニックが今日帰ってくるんだ。たしか、ニックが旅行に行ってから2週間くらいたつもんね。それじゃあ、僕も仕事が終わったらビールを持って遊びにいくよ。」

ケンのシェアメイトのニックはオージーで、ずいぶん前からこのサーファーズの街でサーフィンをしながら暮らしている。数年前までは地元のサーフショップからスポンサーを受けていて、そのお店の名前が書かれたウエットスーツやサーフボードをタダで貰っていたそうだが、お店のオーナーと問題を起こしてしまってスポンサーを降りられてしまった。

それでもニックは今でも、古くなって肩やわき腹が破れてしまったそのお店のウェットスーツを着てサーフィンをしている。ケンから聞いた話では、ニックはお金がないわけじゃなくてまたそのお店にスポンサーを受けたいと考えて、わざと、そうしているということだった。

「じゃあ、夜ね。」

ケンが玄関のドアから顔を引っ込めた。僕は2階で歌を歌いながらシャワーを浴びているアッキィーにもケンの家に夜集まってビールを飲むという話を伝えて仕事にでかけた。今日は土曜日で学校はお休み、担任のジョシュが金曜日になると必ず授業の終わりに3回続けて大きな声で「TGF、TGF、TGF」と言うのを思い出しながらシェブロンアイランドの橋を渡り、サーファーズの街を歩いていった。

TGFとは「サンキュー、ゴット、フライデー」の略で「今日は金曜日、明日と明後日はお休みだ嬉しいなぁ。」という意味だった。ゴットがせっかく週末にお休みを与えてくれても、僕は早くシリンダーズブランドのサーフボードを売ってチュックに次のオーダーをしたいので、今週はお休みはとらずに働くことにした。

お店に着くと、まだマークは来ていなかったのでサーフショップサイドのカギを開けて壁の脇についている電気のスイッチをオンにして開店のための準備を始めた。レンタル用のボディーボードのラックを外に出して外の看板に電気を入れると今日もシリンダーズがオープンした。新しい朝の光がお店の中に差し込んで、これから素敵な1日が始まるのを教えてくれた。

午前中は、あまり人手も多くなく買い物客はあまり入ってこなかった。その分、海に遊びに行く前にレンタルボディーボードを借りに来る人が多くて、レンタル用のノートはすぐに名前でうまってしまった。レンタルのボディーボードを借りに来る人は、どこか海の無い街や海外から遊びにきた人で、みんなこれから挑戦する海の遊びにワクワクとしていた。そんな楽しそうな表情や、少し興奮して早く海に飛び込みたいという気持ちの人達の応対をするのは僕にとっても楽しかった。

「海を楽しんでね。いってらっしゃい。」

そう声をかけると、ほとんどの人がニッコリと笑って、どこまでも広がる白いビーチとキラキラとまぶしく輝く海に向けて足早に向かっていった。

太陽が真上に上がって時計の針が12時を回ると、独特の排気音がするボロボロのピックアップトラックに乗ってマークが出勤してきた。マークの車は、これが本当にサーフショップのオーナーで二人の子供を持つ男の乗る車とは思えないほどボロくてきたなかった。マークに言わせると車は移動するために乗るもので、荷物と人が乗せられて走ることができれば、それで十分なんだそうだ。

「おはよう、マーク。今日はどこで入った?」

「いやー、今日はジャスミンを小学校に送りにいった後でカランビンで入ろうと思ったのだけれど、その後に思い立ってホームセンターに行って木材を買ってきたんだよ。」

「それって今日はサーフィンしてないってことでしょ、素直にこたえなよ。でも、なんで木材なんて買ってきたの?」

「それは、いつものアレだよ。お前が得意な仕事があるだろ。」

マークは僕の顔を見ながら誰かにクイズを出した子供みたいな、ちょっと得意げな顔ししてニヤッと笑った。

「僕、ちょっと見てくる。」

お店の外に出て、ハイウェイ沿いに停められたマークの車の荷台を見てみると3本の2,3メートの木と数枚の薄い板、そしてパイプなんかに巻きつけるクッションの効いたウレタンみたいなシート。僕は、以前これとまったく同じ材料を使って、マークと一緒にある物を作ったことがあった。急いでお店に戻りマークの出したクイズの答えを言いに言った。今度は僕がクイズの答えが分かった子供の顔になった。

「わかったマーク。今度はサーフボード用のラックを作るんだね。前にボディーボードのラックを作った時と同じ材料が積んであったよ。でも、ラックを作ってもそこに並べるサーフボードがまだ無いよ。今、お店にある板はオーダーサンプル用の1枚とマークの板しかないじゃないか。もしかして、もうチュックに新しい板をオーダーしたの?」

「いや、まだだ。すくなくとも最初の1枚が売れて、その後、お客さんから数枚の注文が入ってからその報告と合わせて次のオーダーを出したい。それにまだそんな余裕もないしな。」

「じゃあ、なんで今からラックを作るんだよ。じゃまになるし、その分ボディーボードを並べることができるスペースが減るじゃないか。店に常時、10枚くらいのサーフボードが並べることができるようになってからでいいんじゃない。」

「すぐにオーダー用のサンプルのサーフボードじゃなくて、店置きでその場で売ることができるサーフボードを並べることができるようになるさ。永住ライフ、その為にはまずは先に準備をしなければならないんだ。並べるサーフボードを注文できる金がないのに先にラックを作っちまうなんてことは普通に考えたらおかしなことに感じるかもしれないけど。結構、正しいことなんだ。

いいか、サーフボードがあるからラックを作るのじゃなくて、ラックを用意したからサーフボードを注文できるような状態になっていくんだ。準備ができていないところに物事は起きないんだ、不思議だろ永住ライフ。」

僕はマークが言っていることの意味がよく分からなかった。サーフボードを並べることができるラックを用意したらサーフボードを注文できるようになる?マークの言うことはよく分からないけれど、ラックを先に作るというマークの気持ちは嬉しかった。必要になるかどうかわからないものをマークは作ろうとは言わないはずだ、マークの中では僕らのお店に何枚ものサーフボードを並べることができるようになるのは、もう当たり前のことですぐに実現することだと考えているからだった。

「よし、午後から俺が店番をするから、永住ライフはいまボディーボードが並べられている左側の壁に収まるようにサーフボード用のラックを作れ。やり方は、もう何度も作っているから教えなくても分かるだろ。」

「えっ、また僕が一人でやるの?ずるいよマーク。」

「二人で作業したら誰が接客をするんだ。日本人やお前が接客したほうが良いと思うような若い客がきたら、お前に頼む。それまではがんばってラックを作るんだ。」

1時間ほどするとターニーがやってきて水着屋サイドはターニーが、サーフショップサイドはマークがと二人で分かれて接客をした。最初はふざけて文句を言いながら作業をしていた僕もすぐに夢中でラック作りに集中していった。途中でちょっかいを出しにやってくるターニーの声が聞こえないほどだった。

結局、夜の九時まで作業をしてだいたいの形ができあがった頃に今日のシリンダーズの営業が終了になった。あと数時間残って一人で作業をすれば完成することができそうだったけれど、今日はケンの家で4人でビールを飲む約束をしていたので諦めて帰ることにした。

マークとターニーと一緒にお店のカギをかけて、大きく手を振って別れた。ハイウェイの反対側にあるボトルショップによって6パックのXXXXビールを1つ買った。いつも誰かの家に集まるときは、BYOといって自分が飲む分の酒は自分で持ち寄るので6パックを一つ持っていけば今日は十分だと思った。

シェブロンの橋を渡り家の前に着くと、リビングの電気も部屋の電気も付いていなかったのでアッキィーはまだ仕事から帰ってきていないことが、すぐに分かった。ケンの家の電気も付いていなかったので日本食レストランでの仕事が長引いているのかもしれない。そして、旅行から帰ってくるはずのニックの車もそのまま停まっていた。

僕は家のカギを開けてシャワーを先にあびることにした。そのうち、みんな帰ってくるだろう。
このときは、まだ僕らはこの後に知ることになる。とんでもない事件を知るよしもなかった。

それはケンの心に深い傷を作り、僕らには激しい怒りと喪失感を与えた。



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幸せなオーストラリア永住権への道 90 握った手を離さない

2007-03-13 20:31:40 | Weblog
サーファーズパラダイスの街から、土ボタルまでの道のりは山道で街灯のない暗い道をひたすら真っ直ぐ進んでいく。狭い1本道を一直線に走るだけなので1,2度行ったことがあれば簡単に覚えることができた。途中でツアー客を乗せた大きなバスと狭い橋ですれちがいながら、僕らは土ボタルのいる国立公園の駐車場についた。もう少し早い時間だとサーファーズパラダイスからの団体ツアーの人のために、駐車場のトイレの脇の休憩用のテーブルに電気が灯っているのだけれど今夜はもう時間も遅いので車のヘッドライトを消すと、そこはもう真っ暗闇の世界だった。

持ってきた懐中電灯の一つを僕が持って先頭を歩き、アッキィーがもう一つの懐中電灯を右手で持ち、反対の方の手でアミチャンの手を強く握ぎりながら僕らは森の中を奥へ奥へと進んで行った。人が二人すれ違うのも大変なくらいの細い山道の両脇には、もう樹齢何百年かわからないくらいの大きな木が何本も生えていて、僕らが生まれるずっとずっと前から、同じようにこの世界を見守っている。

「すごーい!信じられないくらい大きな木がたくさんある。あの少し道が広くなったところにある一番大きな木に触ってきてもいい?」

「いいけど、とりあえず土ボタルを見に行ってからにしよう。山道が続くから帰りにあそこで少し休憩をしようね。」

アッキィーがそう言うので僕らは、そのまま土ボタルのいる場所を目指して進んで行った。土ボタルがたくさんいる、あの場所が近ずくにつれて水が流れ落ちるゴォーっていう音がどんどん大きくなってきた。途中でアミチャンが、どこかに川があるのと聞いてきたけれど、その質問には僕らは答えなかった。

20分くらい真っ暗な森の中を抜けて、僕らはとうとう土ボタルのいるあの場所についた。

「着いたよ、アミ。ここのすぐ近くで土ボタルが見えるんだ。」

「えっ、でも周りの木にも葉っぱにも光る虫なんていないわ。」

「すぐ先に洞窟に下りれる場所があるんだ、永住ライフさんがまず最初に下に降りて、その次に僕がアミの手を握って降りていくから、僕がハイって言ったら目を閉じてね。そして次に僕がいいよっていうまで絶対に目を開けちゃだめだよ。」

僕はアッキィーがアミチャンに何を見せたいのか、よく分かったので、先に行って洞窟に続く石でできた自然の階段を降りて待った。しばらくするとアミチャンの手を握ったアッキィーが少しずつ自然の階段を降りてくるのが見えた。

「ハイ、アミ目を閉じて。僕が次にいいよって言うまでは目を開けちゃだめだよ。」

「でも、こんな真っ暗な階段みたいなところで目を閉じるなんて恐いわ。」

アッキィーはもう一度、アミチャンの手を強く握りなおして。

「僕はアミの手を絶対に離さないから大丈夫。僕を信じて、何も恐いことはないから。」

「絶対に、絶対に、私の手を離さないでね。目を閉じるわよ、ハイ。」

そこは階段の最後の3段目で、洞窟の中の景色が見えないギリギリの場所だった。あと一段降りてしまうと、あの素晴らしい世界を本当の意味で感じることはできないし、あと1段上では段差がきつすぎて手を握り続けることができないんだ。

僕は二人がバランスを崩したときにすぐに抱え込むことができるようにアミチャンとアッキィーにむけて大きく手を開いて立っていた、僕の力が必要な時はすぐに二人をささえることができるように。

「アミ、僕はここにいるから。大丈夫、ゆっくり一緒に進もうね。」

二人は石でできた自然の階段の最後の1段を無事に降りきって、地下に広がる大きなドーム状の洞窟の広場の入り口にまでたどり着いた。洞窟の広さは30メートル四方に広がっていて天井までの高さは一番高いところでは4,5メートルもの高さがある、大きな暗闇のドームだ。

僕は洞窟の中心に向けて二人の少し先をゆっくりと歩きながら、懐中電灯で二人の足元を照らして進んでいった。洞窟の中心へ近ずくにつれて、この暗闇のドームの一番奥で頭上から地下深くにむけて流れ落ちる激しい滝の音が洞窟の中一杯に響いてきた。

「アッキィー、もう目を開けてもいい?大きな水の音がするし、目を閉じているから何も見えないの。私、本当に不安で・・・もう、恐いの。」

アッキーに手をひかれながら少しずつ進んできたアミチャンが立ち止まってしまった。不安でいっぱいでもう歩くことができない。片方の手を自分の胸の前でギュッと握りこんで、しっかりと握られていたもう片方の手も同じように握りこみ、今にもアッキィーの手を離してしまいそうだ。

アッキィーは片手に持っていた懐中電灯をズボンのうしろポケットに突っ込むと、アミチャンの一人できつく握りこんでしまいそうな手を、空いたもう片方の自分の手で包み込むようにやさしく覆った。

「あと少しだけ一緒に歩こう。もう、あとほんの少しだから。」

「分かった。本当にもうそんなに遠くないのね。恐いけど・・私、信じる。」

立ち止まってしまっていた二人が、またゆっくりと歩き始めた。あの場所までは本当にあと数メートルなんだ。僕はアミチャンが不安と恐怖に負けて、二人で握った手を離してしまわないで嬉しかった。アミチャンは不安な気持ちを乗り越えて、アッキィーを信じてくれた。

僕らは、とうとう洞窟の中心の「あの場所」にたどりついた。僕もアッキィーも進むのをやめて、二人で目を合わせて静かに二つの懐中電灯の灯りを消した。

「アミ、着いたよ。目を開けて空を見てごらん、ハイ。」

アミチャンはゆっくりと目を開けて、上を見上げて絶句した。
そこには何も言葉を発することができない美しい世界が広がっていて僕らの周りを包んでいた。

真っ暗闇の岩で作られた自然のドームの空には、宝石箱をひっくり返して夜空に流し込んだような沢山の星々が輝いていた。それはキラキラと明るく輝く光やどこまでも青く澄んだ光、オレンジ色の暖かい光のいくつもの輝きが作り出す幻想的な世界だ。余計な音は一切なくて僕らの耳に聞こえてくるのは、滝の水が頭上から滝壷へと流れ落ちる大地のリズムだけ。まるで、この瞬間に世界中に僕ら3人しかいないような、どこまでも澄みきった美しさが洞窟の中、いっぱいに広がっている。

「これが土ボタルなの?沢山の星が輝いている自然の夜空みたい。私、こんなに綺麗なもの今まで見たこと無い。ありがとう、ありがとう。」

アミチャンがいま立っている場所が、この洞窟のちょうど中心で一番土ボタルが綺麗に見える場所だった。洞窟に降りた場所からも壁や天井に少しずつ土ボタルは光っていて、ここまで歩いてくるまでに少しずつ見ることはできる。でも、本当に綺麗なのは滝からの水が小さな薄い霧になって届き、沢山の土ボタルが頭上一面に輝くこの場所なんだ。

アッキーも僕もアミチャンのすぐとなりでこの洞窟の中の夜空を見上げていた。しばらくしてふっと隣を見てみるとアッキーの横で天井を見つめているアミチャンのほっぺたに細い涙がつたわっていた。僕は何も言わないで二人が十分な時間を過ごし終わるまで、自然が作ったプラネタリウムをただ見つめていた。時間が一瞬にも永遠にも感じられた。

「そろそろ、戻ろう。」

アッキィーがそう言うと、アミチャンは深く一回深呼吸をしてから黙ってうなずいた。僕らは懐中電灯の灯りをつけて足元を照らしながら洞窟の出口へと戻っていった。天井や壁に光をあてないのは土ボタルが細い短い糸のような弱い生き物で、光をあてると死んでしまうと言われているからだった。綺麗な星々は美しい星のまま、この洞窟の中で輝いていてほしいと思った。

洞窟を出るとまた静かな森が僕達の帰りを待っていた。さっき来た道をころばないように気をつけて帰っていく、そして歩いている間中、誰も話しをしなかった。しばらく歩くと、さっきアミチャンが触りたいと言っていた大きな木がある場所についた。

「アミ、さわっておいで。僕も永住ライフさんもちょっと休憩するから。」

アミチャンが大きな木の方へ歩き出したので僕とアッキィーは草むらに倒れてしまっている木に座って休みながら待つことにした。大きな木のところまで行くと、アミチャンはすぐに戻ってきてアッキィーの隣に座った。

「ずいぶん早かったねアミチャン。本当に木に触ってきたの?タッチだけしてすぐに戻ってきたんじゃない。」

僕はあまりにも早くアミチャンが戻ってきたので、そう言ってアミチャンをからかった。

「もう私は大丈夫だから、ありがとうと長生きしてねって、それだけ言って戻ってきたの。土ボタルを見せてもらうまでは本当は不安だったの。明日、日本に帰らなければならないし、さっきは子供の時みたいに木に抱きついて「助けて」って言いたくなったの。でも、もう大丈夫。アッキィーがあんなに素敵な物を見せてくれたんだもん。ありがとう、アッキィー、永住ライフさん。」

「アミ、僕もありがとうって言いたいよ。最後まで目を開けないで手を握ったままついて来てくれて、アミが不安でこれ以上進めないって言ったときは、僕もすごく不安になった。最後まで僕を信じて一緒に歩いてくれるかって。
だからアミがあの場所で始めて目を開けて、綺麗な土ボタルを見てくれた時は嬉しかった。ああ僕達、大丈夫だって思ったんだ。」

「私もすごく不安だったの。あの洞窟の中でも、本当は日本で離れている時も。不安で恐くて、もうアッキィーも自分も信じられなくなりそうな時が何度もあった。だから確かめようって思ったの、オーストラリアにアッキィーに会いにきて。もう分かった、大丈夫。私、不安よりも信じられる、もうだめって思ったすぐ先にあんなに素晴らしいものがあったんだもの。あの時、アッキィーを信じて手を離さないでよかった。」

僕はアッキィーとアミチャンの気持ちが本当に繋がった気がした。そして、二人で時間を過ごせるように「二人のこれからを信じることができて、よかったね。」と言ってタバコを吸いに先に車に戻った。「不安よりも信じることができる」と言ったアミチャンの言葉を思い出しながら、きっと二人がこれからもずっと握った手を離すことなく一緒に歩いていけると思った。

次の朝早く、アミチャンは日本に帰って行った。空港では税関へと向かう最後の最後、もうこれ以上は飛行機に乗る人以外は入ることができないギリギリまで一緒に列に並んでアミチャンを送り出した。

アミチャンが手荷物の検査を受ける列の先頭まで来たときに空港の職員さんが二人に「ラストキス」と言った。もうこれ以上は中に入れないよ、最後のキスをしなさいという意味で職員さんは言ってくれたはずだ。

そして、アッキィーとアミチャンは今回のオーストラリアでの最後のキスをした。それから、アミチャンは何回も何回も振り返って「ありがとう」って言いながら搭乗ゲートへむけて見えなくなっていった。アッキィーはいつまでも、もう見えなくなってしまったアミチャンの方を見つめていた。

「アッキィーよかったね、今回、アミチャンに会えて。不安よりも信じるってさ、アッキィーも手を離しちゃだめだよ。」

「不安よりも信じるほうが強いんですね。これからも綺麗なものを見せてあげられるように、がんばんなくっちゃなぁー。さぁ、永住ライフさんサーファーズに帰りましょう。急いで帰れば仕事の前に1ラウンド海に入れますよ。」

僕はアッキィーが元気でいてくれて嬉しかった。二人の中の不安は信じることで、これからも前に進んでいくんだ。

「帰りはアッキィーが運転だよ。途中で有名なヤタラのミートパイを買って食べながら帰ろうよ。それで、そのまま海に直行しよう。」

「ずっと運転してたら僕はミートパイを食べれないじゃないですか。ひどいな永住ライフさん。」

「今日は僕が助手席でアミチャンの代わりに、アーンってアッキィーに食べさせてあげるから、だまって海まで運転しなよ。」

僕らは大声で笑って、そして急いで空港の駐車場まで走っていった。なりたい自分になるために、誰かをもっと幸せにできるようになるために、僕らのオーストラリアでの冒険はまだまだ続いていく。


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幸せなオーストラリア永住権への道 89 空に飛び出した水玉は・・

2007-03-06 19:51:17 | Weblog
オーストラリアでのアッキィーとアミチャンの時間は、「彼女が日本に帰るまでの残りの日にちをカウントしたくない」といっていたアッキィーの言葉どおり毎秒、毎秒、少しずつ最後の時へと向けて近ずいていた。それでも、アッキィーが働く牧場に3人で遊びに行った日から、いつものアッキィーの生活をアミチャンに知ってもらおうと思って、観光のお客さんが来たとき用のお決まりのコースではなく、普段僕達がサーフィンをしに行っている海に行ったり、近所のスーパーで買い物をして一緒に料理を作って食べた。

バレーヘッズの丘から眺める青い海と、サーファーズパラダイスの街を見てアミチャンは綺麗だって言ってくれたし、スーパーで買い物をする時に僕らが棚に並べられたブドウやナッツを勝手に取って食べているのを見て、「怒られないの?」って笑いながら、測り売りのチョコレートの台から手のひら一杯のチェリーチョコレートを取ってきて店員さんの目を気にしながら、アッキィーと僕の手のひらの上に分け前をくれた。

「お客さん」だと思っていたアミチャンが、僕らのビーチハウスに新しくやってきた仲間のように感じられてアッキィーも僕も嬉しかった。最初は使い方がまったく分からなかった僕らの家の2層式のオンボロ洗濯機も、うまく使いこなせるようになったらしくアッキーの部屋と僕の部屋のシーツをガタコトと大きな音をさせながら洗ってくれたりした。

そんな僕らの共同生活も今日で本当に終わりを迎えようとしていた。明日の朝早くアミチャンは日本に向けてブリスベン空港を飛び立つ。たくさんの楽しい時間と、想いを胸の中に残したまま。

いつもどおりにアッキィーと一緒にサーファーズの正面の海に早朝のサーフィンに出かけて、あまり大きくはない腰くらいの波を二人並んでサーフボードの上で浮かびながら待っている。朝日が海全体に反射して輝いている、ずっとずっと沖を眺めていると、まるで時間が止まってしまったような感覚になった。

「ねぇ永住ライフさん。明日になったらアミはこのサーファーズの街にも僕らが暮らすオーストラリアからもいなくなっちゃうんですね。最初から分かっていたことだけどホント、寂しいなぁ。僕、なんでここに来たんだろうってあらためて考えちゃいましたよ。」

「それで?」

僕はアッキィーの方は向かないで、そのままずっとずっと沖を見つめたまま海面の水を手のひらで空にかき上げながら応えた。手のひらですくって飛ばされた海水は空でたくさんの水玉に別れて、まぶしいほど金色に輝いてから、またもとの海の上に静かに戻っていった。

「前よりもっと色んなことができるようになるために、自分の胸の中にあったことを実現できるようになるために・・そして、自分や周りの人をハッピーにすることができるように、ですかね。今はまだまだ、その途中で、日本には帰れません。僕自身にも、アミにもウソはつけませんから。」

「あっ!アッキィーうねりが入ってきたよ。つかまえろっ、ゴーゴー!」

叫びながら沖から入ってくるうねりに向けて僕自身も大きくパドリングを始めて海水を漕ぎ出した。アッキィーも少し遅れてパドリングをはじめて、同じ波に向けてタイミングを合わせてテイクオフしようとした。右側から入ってくる綺麗なレギュラーサイドの波だったので、本当はトップに近い位置にいたアッキィーの波だったのだけれどテイクオフする瞬間に合ったアッキィーの目が、優しく笑っているように感じたので僕も同じ波にテイクオフした。

後ろから波の上を走ってくるアッキィーにつかまらないように、僕は思いっきりスピードをつけて波の上を走り抜けた。波のボトムからトップへとアップスとダウンスを上下に繰り返していくと、僕のサーフボードはぐんぐんとスピードがついて加速していった。これで、もう追いつけないかなと思って、後ろを振り返ってみるとアッキィーはほんのすぐ後ろにいた。

「永住ライフさんひどいよー。完全な前乗りじゃないですかぁ。」

「いやー、ごめん、ごめん。まだ、追いつけないかとおもってさ。」

「もう、僕は前にみたいに遅くないんですよ。この前の大会でも僕のほうが勝ったじゃないですか。」

僕はアッキィーの言葉を聞いて嬉しかった。だから、ただ何も言わないで同じ波に乗った、いつも僕の後ろを走っていて、追いつかれることのないと思っていたアッキィーは振り返ると、すぐ後ろにいた。そして、今はもう自分の波には僕よりきっと上手に乗ることができるんだろう。

「アッキィー、帰ろう。そろそろ学校に行く時間だ。」

僕とアッキィーは海から上がって、裸足でサーファーズパラダイスの街を駆け抜けて家に帰った。僕は家に帰ると急いでシャワーを浴び短パンをはいて、少し襟首のくたびれたお気に入りのTシャツを着て学校に行った。その日の授業はいつもより少しだけ真剣に取り組んだ。僕のやることも今、ここにあると思ったからだった。

学校が終わり、お店に行くと、いつものようにマークとターニーがふざけあいながら水着のディスプレイをしていた。マークに明日、アミチャンが帰るので帰る前に、もう一度マークに挨拶に来ると伝えると「おお、いよいよかぁ。」と言いながら少し寂しそうな顔をした。マークは数日前にアッキィーがアミチャンを始めて連れてきたときに「次はアッキィーと一緒にハネムーンでおいで。」と冗談を言って二人を困らせていた。

その日は夜までにボディーボードが2枚とフィンが3セット、そしてターニーが宣伝用に着ていた花柄のワンピースが3枚売れた。外を歩く観光客もまばらになって街がいくぶん落ち着きを取り戻し、ターニーの彼氏がターニーを迎えにきた。そして、しばらくするとマフラーが錆びて穴の開いたアッキィーのフォード・ファルコンに乗って二人はやってきた。

「おーい、マーク!明日、アミが日本に帰るよ。それで、マークにもありがとうって。」

「おお、アミチャン会いに来てくれてありがとう。また必ずサーファーズの街に戻っておいで。俺達はもう仲間だからな。」

そう言うとマークはアッキィーの隣に立っていたアミチャンの手を引き寄せてハグをした。アッキィーも一瞬、ムッとしたけれど、あまりにも大げさなマークの表情とオーバーなアクションを見て、僕と目を合わせて「仕方が無いな」という顔をして笑った。

「永住ライフさん、最後に土ボタルを見にいきましょう。あそこだけは帰る前に見せてあげたいんです。」

土ボタルとはサーファーズの街から1時間ほど山の奥に入った場所にある自然公園の中にいるグローワームという名前の昆虫のことだ。真っ暗な闇の中で、まるで日本の蛍のように綺麗な光で輝くんだ。

「いいね、アッキィー。行こう、行こう。それじゃあ懐中電灯は用意してきた?」

アッキィーはニッコリ笑ってズボンのおしりのポケットから2本の懐中電灯を取り出した。グローワームのいる国立公園の中は電気がまったくなく、何十種類もの木達が自由に育つ森の中を、足元を照らしながら進んで行かなければならないので懐中電灯は必需品なんだ。

話を聞いていたマークがグローワームを見にいくのならサーファーズから距離もあるし、お店の片付けは自分がやるから今からすぐに僕も一緒に行っていいと言ってくれた。時間は大切だろって言いながらニコッと笑うと、マークはいつまでも手を振って僕らを見送ってくれた。

アッキィーが最後にアミチャンに土ボタルを見せたいと言った気持ちが僕には分かった、あそこには僕やアッキィー、そしてアミチャンにとっても特別な思いになるはずの素敵な物が待っているからだった。



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