Manaboo 電子政府・電子申請コラム 

電子政府コンサルタントの牟田学が、電子政府・電子申請、その他もろもろ、気まぐれにコメントしてます。

電子政府におけるクラウドと共通番号制度、その背景「縦割りの解消」を理解しよう

2010年03月19日 | 電子政府
現政権における電子政府の方向性が少しずつ明らかになりつつある中で、マスコミや電子政府関係者(官、学、民)から質問を受けることが増えてきました。特によく聞かれるのが、「クラウド」と「税と社会保障の共通番号(国民ID)」についてです。

関連>>新たな情報通信技術戦略の骨子(案)

「クラウド」と「税と社会保障の共通番号(国民ID)」は別途詳しく解説する予定ですが、今回はその背景について簡単に整理してみたいと思います。


●世界の潮流

まず、世界の潮流としてグローバル化、ボーダレス化、ネットワーク化があり、インターネットによりこの流れが加速していることを理解する必要があります。

関連ブログ>>日本の電子政府が良くならない本当の理由(9):第6の欲求「公益志向」の流れに乗れ

グローバル化、ボーダレス化、ネットワーク化を日本的に表現すれば、「縦割りの解消」ということです。

つまり、世界的に「縦割りの解消」が進んでおり、この流れに逆らうことは無駄だということです。

もちろん、縦割りや利権にしがみつくことで、一時の延命は可能でしょう。しかし、長い目で見れば、縦割りにしがみつく組織や制度は「中抜き」されるか「整理・統合・廃止」される運命にあります。

そして、「クラウド」と「税と社会保障の共通番号(国民ID)」も、「縦割りの解消」の流れにあるツール(手法)です。

ですから、「縦割りの解消」を目指して「クラウド」や「税と社会保障の共通番号(国民ID)」を使う場合、有効に機能してくれます。

しかし、「縦割りの維持」や「過度の囲い込み」のために利用する「クラウド」や「税と社会保障の共通番号(国民ID)」は、上手く機能しないだけでなく、逆効果となるでしょう。


●日本における縦割り社会

日本には、多くの縦割りが存在します。

(1)制度の縦割り

税、年金、医療、介護、子育て、教育、雇用、経済などが縦割りのため、税金や人的資源の無駄遣いが発生しています。

(2)組織の縦割り

国の機関は、1府12省庁に加えて、多くの外局や出先機関があります。地方分権とセットにした霞ヶ関改革をすれば、仕事量と組織数を半分以下にできるでしょう。

地方の機関は、47都道府県、1728市町村、出先機関があります。日本の人口を考えると、基礎自治体が1700もあるのは非常に非効率です。500以下に減らし、より効率的に行政サービスを提供できるようにしましょう。

これ以外にも、外郭団体(独立行政法人、公益法人等)が存在し、縦割りで権益を分け合っています。

(3)ITシステムの縦割り

各省庁ごとのシステム、各自治体ごとのシステムが存在し、関連する業務システムの連携が不十分です。特に組織間のシステム連携に問題があります。

(4)情報・データの縦割り

組織ごとのデータベース、システムごとのデータ形式が存在し、関連する業務データが連携していません。


●今後は、統合・連携・再生の社会へ

今後の流れは、「縦割りの解消」であり、次のような方向に進むでしょう。

(1)整理・統合が進む

外郭団体の統廃合、出先機関の統廃合、道州制による自治体整理、ITシステムやデータベースの統廃合などが進みます。

(2)連携・つながり・共同利用が進む

省庁間の業務連携・データ連携、国と地方の業務連携・データ連携、ITシステムの共同利用などが進みます。

(3)個人の生産性が向上し、初期・挑戦コストが劇的に下がる

クラウドコンピューティングでITサービスの無料化・低価格化が進みます。ITサービスを活用できる個人の生産性が格段に向上し、共同作業も効率化・迅速化します。

(4)チャレンジが増え、何度でも再チャレンジできる

週末起業、社会起業、仕事以外の社会活動など、少ないリスクで事業や社会活動にチャレンジ・参加できる環境が整備されていきます。

(5)新しいサービス、価値、イノベーションが生まれる

チャレンジや参加が増えると、新しいサービス、価値、イノベーションが生まれる可能性も高まります。

そこには、楽しい、便利、使ってみたい、喜んでもらって役に立って嬉しいといった気持ちがあり、徹底した利用者中心の考え方があります。

(6)ストレスや環境変化に強い社会へ

疎結合:ゆるやかなつながり
冗長性:心にもゆとりのある生活
拡張性:得意なこと、楽しいことを広げる
柔軟性:多様な価値感や生活スタイルに対応
機動性・流動性:状況に応じて素早く行動・変化


こうした背景や潮流を知っておくことで、電子政府、クラウド、共通番号を理解しやすくなると思います。

クラウドに関して言えば、未成熟の分野であり、民間も含めてまだ初期段階にあると言えます。ですから、本格的なクラウド型サービスが登場するのは、しばらく先になるでしょう。Facebookやツイッターに見られる、利用者中心のデータ連携やリアルタイム双方向性なども、その片鱗に過ぎないように思います。

「縦割りが解消した社会」は、日本はもちろん世界においても未発達・未到達なわけですから、そうした社会においてどのようなサービスが出現するのかを予測するのは正直難しいと感じています。私達にできるのは、そうした流れに逆らわず、新しい動きを邪魔しないということでしょう。

最後に、共通番号に関連して「政府が保有する個人情報」について簡単に整理しておきましょう。

●保護が不十分・不適切

・多量・大規模:全住民の情報など、質はそれほど良くないが信頼性は高い
・電子化された情報:でも流通・連携していない
・業務のコンピュータ処理化:業務変更=ITシステムの変更=費用の発生
・名寄せ・マッチングは通常業務:データやID連携が不十分なので非効率
・職員による覗き見・不正閲覧・持ち出し:国民IDや職員ID管理が不十分なので防げない
・誤操作、うっかりミスで漏洩・廃棄:ITや不正アクセスと関係ない原因が大半

●共通番号制度とデータ連携が進むと

・名寄せ・マッチングが効率化する
・年金記録等の情報管理が適正化する
・国民サービスが向上する(面倒な手続が不用になる)
・職員による不正行為を監視・抑制しやすくなる
・国民自身や第三者機関で監視・管理しやすくなる


共通番号制度の導入や官民におけるデータ連携(情報共有)は、多くのメリットがあり、実際に諸外国で多くの成果を上げています。

その一方で不安に感じる人もいますが、情報公開や監視制度などにより、そうした不安を緩和すると共に、より良いサービスを提供することで多くの国民が納得しています。

個人的には、日本においても「共通番号制度の導入」と「官民におけるデータ連携・情報共有」をセットで進めて、少なくとも他の先進国レベルにした方が良いと思います。

しかし、最終的には日本国民が決めることなので、多くの国民が理解不足のまま感情論で反対するようであれば、無理に導入しない方が良いと考えています。その場合は、潮が満ちるのを少しだけ待てば良いのです。

民主主義の成熟度が低いまま、「共通番号制」を形だけ導入しても、コストばかりかかって上手に使いこなせないでしょう。「役所任せ・他人任せ」の無責任&他人事体質では、不正利用される可能性も高まります。

ただし、日本の将来や若者の負担に対して無責任でコスト意識に欠ける大人たちが、感情論や無理解や自己権益維持により「共通番号制度の導入」や「官民におけるデータ連携・情報共有」に反対するようなことがあれば、それを見過ごすことはできません


最新の画像もっと見る