Manaboo 電子政府・電子申請コラム 

電子政府コンサルタントの牟田学が、電子政府・電子申請、その他もろもろ、気まぐれにコメントしてます。

社会保障・税番号大綱案を読み解く(7)、番号制度に大切なリスクコミュニケーション

2011年07月17日 | 共通番号と国民ID
社会保障・税番号大綱案を読み解く(6)、「符号」(見えない番号)は一元管理のリスク要因にもの続きです。

今回は、「番号制度の可能性と限界・留意点」について見ていきましょう。


●番号制度に大切なリスクコミュニケーション

今回の大綱は、これまでの基本方針や要綱を踏まえた内容になっていますが、追加・修正されている箇所もあります。作者が最も重要な追加と考えているのが、「番号制度の可能性と限界・留意点」の部分です。

前回も述べましたが、番号制度を導入しても、既存のリスクをゼロにすることはできません。番号制度の導入に伴い発生する新しいリスクも同様です。ですから、上手にリスクとつきあっていくことが重要になります。

上手にリスクとつきあっていくための有効な手段と考えられているのが、リスクコミュニケーションです。番号制度について国や地域の行政、関連事業者、そして住民らが情報を共有し、リスクに関するコミュニケーションを行うことで、国民的な合意や理解を得ていくことが大切です。

関連>>リスク・コミュニケーション(Wikipedia)リスクコミュニケーション(経済産業省)

正直なところ、現在の番号制度は、まだリスクコミュニケーションを実施できる段階にまで来ていないと思います。ユースケースの分析はもちろんですが、コミュニケーションの対象者を決めたり、番号制度の必要性や費用対効果の根拠となるデータを示していく必要があります。今後に期待ですね。


●番号制度の可能性

番号制度の可能性については、

・制度や運営をより公平・公正で効率的なものに改善できる可能性
・既存の事務や業務そのものの見直しの可能性
・更に質の高い行政サービスを提供できる可能性
・これまで構想できなかったような改革を実施できる可能性

などを挙げています。番号制度を導入している国の中には、これらを実現している国もありますが、番号制度によって実現したというよりは、「行政改革・制度改革・規制改革などを進める中で、番号制度を有効に活用した」のだと思います。ですから、政府や国民に改革の意思が無ければ、番号制度が上手く機能することも無いのではないかと思います。


●番号制度の限界

番号制度の限界については、

・制度改革と併せても、全てが完全に実現されるわけではない
・全ての取引や所得を把握できるわけではない
・不正申告や不正受給をゼロにできるわけではない
・事業所得や海外資産・取引情報の把握には限界がある

などを挙げ、そのことに国民の理解を得ていく必要があるとしています。その上で、全てが完全には実現できないにしても、番号制度の導入と制度改革による一定の改善には大きな意義があるとしています。

これらを踏まえると

・番号制度を活用するには、どのような制度改革が必要なのか
・現在は、どのような取引や所得を把握しているのか
・現在は、取引や所得の把握にどの程度の漏れがあるのか
・番号制度により、新たに把握する取引や所得があるのか
・番号制度により、取引や所得の把握漏れがどの程度改善するのか
・現在は、不正申告や不正受給がどの程度あるのか
・番号制度により、不正申告や不正受給がどの程度改善するのか
・現在は、事業所得や海外資産・取引情報をどの程度把握しているのか
・番号制度により、事業所得や海外資産・取引情報の把握が改善するのか

などについて、根拠やデータの明確化・見える化を進めることが、国民的な合意や理解を得るために必要でしょう。


●番号制度のバックアップ体制

・バックアップ体制やバックアップシステムの整備を含め
・不具合等発生時に迅速に対応できる範囲内の業務等を想定しつつ
・番号制度の対象分野決定や制度設計を行う

としています。導入当初は特にですが、情報連携基盤にはあまり依存し過ぎない方が良いでしょう。情報連携基盤がダメになっても業務が止まることが無いように、制度設計しておくことが大切と思います。災害訓練等により定期的に見直していくことも有効でしょう。


●本人同意の取扱い

大綱では、

・番号制度の導入について、原則として本人同意を前提としない仕組みとする
・「番号」を付番する事務の範囲及び情報連携を行う事務の範囲を法律又は法律の授権に基づく政省令に規定する
・情報連携を通じた個人情報のやり取りに係るアクセス記録について、マイ・ポータル上でいつでも本人が確認できる仕組みを設ける
・機微性の高い個人情報のやり取り等あらかじめ本人の同意を得て「番号」の利用又は情報連携を行う必要がある個人情報については、その旨法律又は法律の授権に基づく政省令に記載する

としています。「原則として本人同意を前提としない」ことを明記したのは、大きな進歩だと思います。事前に法令等で定めておくことで、情報連携等で必要な「認可(許可)」と言われる処理を自動化できるからです。

ところが、「本人同意が必要」となると、
・本人宛に通知を行い
・内容を理解してもらった上で
・最終的な意思確認(同意)を行い
・その内容を事後に検証・確認できるようにしておく

といった複雑な処理が必要となります。本人宛の通知だけを考えても、オンラインだけで処理できるわけも無く、膨大な紙処理が増えてしまうでしょう。


●機微性の高い個人情報は「番号」と紐付けない方が良い

なお、機微性の高い個人情報については、「特に取扱いに配慮が必要な個人情報を指す」と注記があります。JISQ15001(個人情報保護マネジメントシステム-要求事項)では、「特定の機微な個人情報」について次のように分類し、「明示的な本人の同意」がある場合を除いて、取得・利用・提供を禁止しています。

・思想、信条、宗教に関する事項
・人種、民族、門地、本籍地(所在都道府県に関する情報を除く)、身体・精神障害、犯罪歴、その他社会的差別の原因となる事項
・勤労者の団結権、団体交渉、その他団体行動に関する事項
・集団示威行為への参加、請願権の行使、その他の政治的権利の行使に関する事項
・保健医療、性生活に関する事項

番号制度に特に関係がありそうなのは、「身体・精神障害」や「保健医療」でしょうか。個人的には、「機微性の高い個人情報」は「番号」と直接に紐付けるべきでは無いと考えています。不正な名寄せやマッチングをされた場合の被害がより大きいと考えられるからです。

他方、「番号」によって名寄せできる情報は、「原則として本人同意を前提としない」ものとして、法令で定める業務に必要な範囲内で、より効率的な名寄せ・マッチングをするべきでしょう。

官においても民においても「明示的な本人の同意」が必要になるような情報の連携については、緊急時の対応を除けば、番号制度における優先順位としては低くて良いと思います。

まずは、本人同意を前提としない仕組みの中で、番号制度の効果を上げて、その後で「機微性の高い個人情報」の活用を進めても遅くありません。その準備として、「機微性の高い個人情報」の整理を行い、社会保障・税の一体改革等を実現するために、どの「機微性の高い個人情報」の活用が有効なのかを明らかにして、国民の同意や理解を得ていくことが必要と思います。


最新の画像もっと見る