『座頭市あばれ凧』 池広一夫監督 ☆☆☆★
座頭市シリーズ7作目。わりと特色がある一本だ。まずタイトルバックで気づくが、音楽が伊福部昭ではない。『続・座頭市物語』のところでも書いた通り、シリーズ初期を多く担当した伊福部さんの音楽は重厚で、荘重で、品格に溢れ、しかも叙情的で、なんとも言えずいいのだが、本作は全然雰囲気が違う。タイトルバックに流れる音楽はまるで『サイコ』である。
本編のクラ . . . 本文を読む
『モンス・デジデリオ画集』 谷川渥 ☆☆☆☆☆
こんなものが発売されているとは露知らず、Amazonで見つけてびっくりし、あわてて購入した。いつ絶版になるか分からない。買える時に買っておかないと。
日本でモンス・デジデリオの名前を知っている人の大部分は渋澤龍彦のエッセーで知ったんじゃないかと思うが、私もそうだった。『幻想の画廊から』の中で紹介されているが、幻想絵画好きならこのエッセーを . . . 本文を読む
『The Thing』 John Carpenter監督 ☆☆☆☆
DVDを購入して久しぶりに鑑賞。邦題は『遊星からの物体X』といかにも派手だが、原題は「The Thing」、つまり「モノ」とか「ソレ」とか「アレ」とかで、シンプルこの上ない。これを初めて観たのは大学の時で、先輩の家に集まって数人でわいわい言いながらビデオを観た。「うおお~」「すげえ」「なんじゃこりゃあ」「わはははは」など言 . . . 本文を読む
(前回の続き)
これもクンデラが書いていることの紹介になるが、この小説は列車事故で始まり列車事故で終わるというシンメトリックな構成になっている。この構成美を人は小説ならではの人工性、つくりごとと思うかも知れないが、それは間違っている、とクンデラは言う。なぜならば人生はまさにそのように構成されているからであり、人は小説の人工性を非難するのではなく、そのようなシンメトリーを人生の中に見ず、発見でき . . . 本文を読む
『アンナ・カレーニナ(上・中・下)』 トルストイ ☆☆☆☆☆
トルストイの『アンナ・カレーニナ』を再読。言うまでもなく『戦争と平和』に並ぶトルストイの代表作であり、世界文学史上に燦然と輝く金字塔である。
しばらく前に読んだリョサの評論集『嘘から出たまこと』に、かつて文学作品はわくわくするような面白さと斬新な芸術性を同時に持ち合わせていたのに、現代ではこの二つは両立しがたくなり、それぞれ . . . 本文を読む
幽霊灯台
考えただけでも気がめいる話だが、数年前にこの港町の灯台守が自殺した。夜、目もくらむ光を四方に投げかける灯台の中で、何かにとりつかれたように床の上にガソリンをふりまき、火をつけ、首を吊ったのである。灯台は積み上げた落ち葉のようにぱっと燃え上がり、一晩かかって黒ずんだ燃えかすになった。灯台守の死体は黒こげになって発見された。それからというもの、穏やかだったこの町もすっかり変わ . . . 本文を読む
『続・座頭市物語』 森一生監督 ☆☆★
座頭市シリーズ二作目。あの名作『座頭市物語』の次でありながら、妙に評判が悪い作品である。座頭市シリーズはここまでモノクロで、次の『新・座頭市物語』からカラーになる。
評判が悪いのでこれまで観ていなかったが、やっぱり観てみたいというのでついに観た。そして納得した。確かに出来が悪い。部分部分がうまく噛みあってないし、プロットは痩せている。オマケばかり . . . 本文を読む
『樽』 F.W.クロフツ ☆☆☆☆
本格推理史上名高いクロフツの『樽』を読了。初読である。黄金期の名作と言われるものはわりと読んでいると思うが、これはまだだった。クイーンやクリスティーと違って地味な印象があるせいだ。
『黒いトランク』と似ているというのは聞いていた。設定は確かに似ている。港に着いた樽から死体が出てくる。警察が捜査を開始し、ロンドンとパリを行き来しながら捜査が展開する(樽 . . . 本文を読む
『アウトレイジ』 北野武監督 ☆☆☆
北野監督の新作をレンタルDVDで鑑賞。このところかつてのマジックをすっかり失ってしまった感のある北野監督、久々のバイオレンスものということでちょっと期待したが、やはり昔の輝きは戻らなかった。エンタメとしてはそつがなく、無難にできていると思うけれども、心に残るようなものは何もない。
ストーリーは簡単で、ヤクザたちが互いに騙し合い殺し合う。それだけであ . . . 本文を読む
『骨の袋(上・下)』 スティーヴン・キング ☆☆
いつの頃からかうちの本棚に存在するが、読んだ記憶がさっぱりない『骨の袋』のハードカバー上下巻二冊。私が買ったに違いないし、読んだことは読んだはずだが、内容をまったく思い出せない。よっぽど急いで斜め読みをしたのだろう。これじゃ読んでないのと同じである。
しかし今回じっくり読んで、私ばかりの責任ではないことに気づいた。めちゃめちゃ印象薄い話 . . . 本文を読む