『無意味の祝祭』 ミラン・クンデラ ☆☆☆★
再読。今のところクンデラが書いた最新の小説である。間を空けて二回読んだが、正直、『存在の耐えられない軽さ』『不滅』の頃のあのパワー、エネルギー、豊穣感はもはやない。あの刺激的な小説的思考、知の饗宴ともいうべき強靭な思索の冒険もない。すべてがますます軽く、上機嫌に、そして些末になった。
かつてクンデラの小説の「重たさ」を担っていたテーマ、つま . . . 本文を読む
『キャプテン・アメリカ シビル・ウォー』 アンソニー・ルッソ/ジョー・ルッソ監督 ☆☆☆
ITunesのレンタルで鑑賞。キャプテン・アメリカなんてなじみもないし名前もコスチュームもダサいし、いかにもアメリカンな大味なヒーローだなと思ってまったく関心なかったが、前作『ウィンターソルジャー』がイイと聞いて観てみたら非常に面白かったので驚いた。アイアンマンやバットマンみたいな派手なヒーローは一人 . . . 本文を読む
『夜歩く』 横溝正史 ☆☆☆☆
横溝正史『夜歩く』を再読。これは『犬神家の一族』や『獄門島』のような映画化作品ほど有名じゃないが、なかなか良い。金田一耕助ものである。例によって全篇を覆う不気味な雰囲気、不可能興味、謎の複雑性、解決の合理性、事件解決後の余韻など、どれをとってもハイレベルにまとまっている。他の有名作品のようにいきなり不気味な因習渦巻く田舎が舞台ではなく、まずは都会の豪邸で犯 . . . 本文を読む
『無実』 ジョン・コラピント ☆☆☆★
全米を論争に巻き込んだ問題作、という宣伝文句のミステリを読了。なぜ問題作かというと、近親相姦及び未成年への性欲を扱った作品だから、ということらしい。未成年への性欲というとロリコンのことと思う人も多いだろうが、本書を読むとちょっと違っていて、幼女に対する性欲ではなく15歳から17歳ぐらいのティーンエイジャーにいいおとなが欲情することのようだ。厳密にいう . . . 本文を読む
『あん』 河瀬直美監督 ☆☆☆☆☆
iTunesレンタルの「外国映画」ジャンルで発見し、「おや、河瀬直美監督の映画だ」と思って予備知識皆無の状態で鑑賞。樹木希林主演で、他に永瀬正敏、内田伽羅などが共演。素晴らしかった。世界の残酷と崇高をぎゅっと凝縮したようなフィルムだ。最初から最後まで、ひりひりするような濃密な時間が流れ続ける。
どら焼き屋の話である。不愛想な店長(永瀬正敏)が一人でや . . . 本文を読む
『特別料理』 スタンリィ・エリン ☆☆☆☆
大昔にハヤカワから出ていたハードカバーを持っていたがいつの間にかどこかへ行ってしまい、文庫も出ているし、また読みたくなって購入した。「特別料理」と「決断の時」以外の短編はほとんど覚えておらず、新鮮な気持ちで読むことができた。覚えていないってことは大して面白くないんじゃないかと言われそうだが、実のところ十代に読んだ時より面白く読めた。
要するに . . . 本文を読む
『高校教師』 ヴァレリオ・ズルリーニ監督 ☆☆
『帰らない夜明け』に続きアラン・ドロンの映画を鑑賞。これは日本のドラマ『高校教師』の元ネタとも言われる映画だが、うーむ、こういう映画だったか。惜しい。設定や雰囲気は悪くないと思う。無精ひげのアラン・ドロンもかっこいいし、イタリアの街並みもいい感じだ。ヒロインのソニア・ペトローヴァもミステリアスな美しさがある。冒頭しばらくはなかなかいいじゃない . . . 本文を読む
『物が落ちる音』 ファン・ガブリエル・バスケス ☆☆☆★
コロンビアの作家バスケスの『者が落ちる音』を読了。読み始めてすぐ思ったのは、なんだかボラーニョに似てるな、ということだった。私が最近ボラーニョにハマっているからそう思えたのかも知れないが、ある人物の肖像を描く小説であること、人生のダイジェストであること、脈絡ない感じに逸脱していくディテール、かっこ書きが多いこと、犯罪者やローライフが . . . 本文を読む
『裏窓』 アルフレッド・ヒッチコック監督 ☆☆☆☆
ヒッチコックの名作『裏窓』をブルーレイで再見。ヒッチコックにはものすごく大雑把にいうとストーリー重視の作品と映像重視の作品という二つの方向性があり、映像重視作品の極端な例はたとえば『ロープ』だが、この『裏窓』もその方向性の作品である。ある夫婦の殺人疑惑を核にしたストーリーも巧みだが、なんといってもアパートの窓から覗くというスタイルで全編押 . . . 本文を読む
『もっと厭な物語』 ☆☆☆★
ニュージャージーにある旭屋書店で見かけて、ふと購入したアンソロジー。『厭な物語』というアンソロジーの第二弾のようだが、『厭な物語』は未読。タイトル通り、古今東西の後味が悪い短篇を集めたものである。前に『居心地の悪い部屋』というアンソロジーをご紹介したことがあるが、あれと似た趣向だ。収録作品は以下の通り。
夏目漱石「『夢十夜』より 第三夜」
エドワード・ケアリ . . . 本文を読む