アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

Seven Days of Falling

2016-11-01 00:32:22 | 音楽
『Seven Days of Falling』 Esbjörn Svensson Trio   ☆☆☆☆☆

 「エスビョルン・スヴェンソン・トリオ」と読む。略してE.S.T.と表記されることも多い。と思っていたら、WikipediaにはE.S.T.が正式バンド名と書いてある。まあいいだろう。スウェーデンのジャズトリオで、構成はピアノ、ベース、ドラムである。1993年に結成されて活動していたが、2008年に中心人物である鍵盤奏者のエスビョルン・スヴェンソンが死亡する。休暇中のスキューバダイビング中の事故によるものらしい。

 従ってもはやこのピアノトリオは存在しないわけだが、彼らが残したアルバムはどれも珠玉という言葉がふさわしい音楽が詰まっている。ジャズに分類されているが、クラシック音楽やロック・ポップスやアンビエント音楽の要素もある。ピアノがメインであることは言うまでもないが、スヴェンソンのピアノの音にはキース・ジャレットと共通する清涼感、静謐感があり、またメロディアスでロマンティックな旋律を特徴とする。エレクトロニカ風のノイズもかなり入っていて、特にベースの音を歪ませたりするのが得意だ。そういうところがアンビエントっぽい。そうした実験性やロック・ポップとの近親性含め、日本のリスナーには坂本龍一を連想させるところがあるんじゃないだろうか。メロディが漂わせる哀愁や静謐感も、どこか似ている。ただし、こちらはあくまでピアノ主体の音楽というところが違う。

 このディスクは2003年に発表されたものだが、これまで書いたようなE.S.T.の特徴と美点がバランス良く発揮された、とても充実した作品集だ。ざっとアルバムの流れを辿ってみると、まずは静かでメロディアスな「Ballad for the Unborn」で幕を開け、二曲目のタイトルチューンではリラックスした緩いテンポの中、美しくきらめく硬質のメロディが印耳に残る。三曲目「Mingle In the Mincing-Machine」はアップテンポで軽快。かなりノイズも入り、長いベースソロがフィーチャーされている。一分に満たない静かな「Evening In Atlantis」を挟んで、「Did They Ever Tell Cousteau?」では更に軽快なドラムに乗せてきめ細かくスリリングな演奏が繰り広げられる。6曲目「Believe Beleft Below」はクールダウンしてしっとり聴かせ、次の「Elevation of Love」では再び軽やかに、かつドラマティックに聴かせる。8曲目「In My Garage」もそのままの勢いで爽快感溢れる演奏。

 9曲目の「Why She Couldn’t Come」は前半は美メロのスローバラード、後半は瞑想的でダークな展開となる。こういう曲の気品溢れる美しさと瞑想的な雰囲気は、やっぱり坂本龍一を想い出してしまう。隠し味的に使われているノイズも、音楽に清潔なインスタレーションのような抽象性とオブジェ性を与えている。ラストの「O.D.R.I.P」は重厚かつダークな感触の、パワフルな曲。ゆったりしたテンポだが一つ一つの音に気迫がこもっている。ピアノのコードの響きもドラマティック。トータルで14分もあるが、途中でいったん終わって隠しトラックが入っている。ところどころで演奏者のうなり声も入っている。

 E.S.T.のアルバムは何枚か持っているが、どれもレベルが高くて甲乙つけがたい。どれをとっても珠玉のアルバムだ。初期の方がまだトラディショナルなジャズで、後期になるとだんだんノイズ性が増してくる程度である。先に書いたようにどっぷりジャズというわけではないので、どんな好みのリスナーにも訴えるものがあると思う。音楽が好きな人なら聴いてみて欲しい。



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