どんぴ帳

チョモランマな内容

続・くみたてんちゅ(その12)

2010-04-30 11:01:57 | 組立人

 私と赤城の叫び声と共に落下するパネル、そして轟音…。

 一瞬、現場に静寂の時が流れ、あちこちから声が聞こえて来る。
「大丈夫か!?」
「どうした?落したのか?」
「怪我はしてないか!!」
 呆然と下をみると、落したパネルがやや斜めになり、下回りのパネルに刺さっているように見える。
「大丈夫です、怪我は、してません…」
 現場では基本的には上下作業は厳禁なので、下に人が居ないことは分かっていたが、改めて背筋が寒くなる。
「・・・」
「・・・」
 私は防音パネルの天井で、何本もの視線を漠然と感じていた。

 佐野がすぐさま中に入り、状況を確認する。
「とりあえずパネルを引き上げるぞ、上にフックをかけろ」
 こういう時、
「何やってんだこの馬鹿野郎!」
 と顔を真っ赤にして叫ぶ親方も居るが、佐野は正反対のタイプの人間で、冷静に、そして的確に指示を出す。
「掛かったか?じゃあ巻き上げるから、他の部分に接触しないように気を付けろよ」
 赤城と二人でパネルを押さえながら、慎重に介添えする。
「どうだ、パネルの傷は?」
 縦に吊られたパネルを、赤城と二人で目視する。
「…ほとんど無い…のか?裏側に数箇所擦ったような跡がありますけど、ほとんど目立たないです」
「右下のベロ(パネルの掛かりの部分)がちょっとだけ曲がってるけど、叩けば直るね…」
 意外にも落下したパネル自体にはほとんど損傷が無い。
「よし、とりあえず仮置きするぞ、そのまま橋みたいに渡して置いちゃってイイから」
 赤城と二人でパネルに手を掛け、慎重にパネルを置きにかかる。
「他のパネルに傷をつけるなよ」
 佐野が細かく指示を出す。
「フィいいいいいん…」
 天井クレーンのモーターがスロー回転をして、パネルがゆっくりと下ろされ、ようやくパネルは安定したポジションに仮置きされた。
「…ふぅうううう…」
 体中からドバッと疲労物質があふれ出し、同時に、
「やっちまった…」
 という思いで心が一杯になる。
「おい、被害状況を確認しろ、本体の損傷箇所は?」
 佐野は淡々と作業を継続する。
「はい…」
 落下したパネルを受け止めた下回りのパネルは、内側のメッシュに十数センチの裂けたような穴が開き、内部の吸音用グラスウールが顔を覗かせている。
「交換、かな…」
 ぼうっとした頭で、私は裂け目から見えるグラスウールの黄色を見つめる。
「どうだ?」
 佐野の声で我に返り、私は本体の被害状況の確認作業に意識を戻す。
「…こっちから見た範囲では、大丈夫みたいです」
「赤城ちゃん、そっちは?」
「うーん、こっちも大丈夫そうだなぁ…」
「その辺のメーター類は?」
 赤城と二人で何度も確認をするが、接触した跡すら確認できない。
「やっぱり大丈夫みたいですね…」
 落下したパネルの内側には、数本のとても薄い跡があるのだが、機械本体にはその痕跡がみられないのだ。
「と言うことは、あのパネルの穴だけなのか?」

 どうやら不幸中の幸いとでも言うのか、パネルが落下したのは機械本体で唯一空間が下まで空いている部分で、しかも落下したパネルを受け止めたのは、アルミのパンチングメタル(無数の穴が開いた薄い板)と吸音用の分厚いグラスウールだったらしい。


さようなら、Nobbyさん

2010-04-26 00:10:21 | 北海道一周(その後)
 北海道自転車一周から約三年、自宅に葉書が届いた。

 それは『稚内北防波堤ドーム』で知り合った自称『Nobby(ノビー)』さんの息子さんからの葉書です。
 4月12日(月)、自宅療養中だったNobbyさんがお亡くなりになったという内容でした。
 享年73歳、あれだけ元気だったNobbyさんだけに、正直今でも信じられません。

 療養中であることはNobbyさんからのメールで知ってはいましたが、僕の中のNobbyさんは、ギヤチェンジも出来ないのに礼文島を自転車で走る、めちゃくちゃ元気な女性でした。
「私、オーストラリアじゃモテモテだったのよ!」
 なんて屈託の無い笑顔で言うだけあって、全身から女性として生きるエネルギーが満ち溢れていました。
 稚内から網走までの約340kmを、バスを利用しながらも自転車で走破したと聞いた時は、正直、
「す、すげぇオバチャンだなぁ…」
 と驚愕したものでした。

「どんぴ君はタバコは吸わないの?」
 私は唐突に彼女に訊かれました。台風の通過を防波堤ドームで待っている時でした。
「ええ、吸いませんけど…」
 意味が分からず答えました。
「絶対にタバコはダメよ、私の亡くなった主人は肺がんで苦しんで死んで行ったの、だからダメよ、吸っちゃぁ…」
「ええ、僕はタバコは好きじゃありませんから」
「そう、偉いわね」
 彼女はそう言うと、嬉しそうに笑いました。

 昨年の暮れに届いたメールには、彼女の闘病生活の様子が記されていましたが、自分の現状をしっかりと受け止め、それを受け入れる強さを感じさせる、いかにも彼女らしい内容のメールでした。
 僕が同じ病名を告知されたとしたら、果たして彼女と同じ様に受け止めることが出来るのだろうか…。

 世界中を飛び回り、自分の人生を謳歌し、そして多くの人々へのボランティア活動に従事した素晴らしい女性Nobbyさんに、哀悼の意を表したいと思います。


稚内北防波堤ドームにて…(2007年8月2日)
 真ん中の赤い服の女性がNobbyさんです。

 どうか安らかに、いや、彼女のことだから天国でもめっちゃ元気に飛び回っているかな…。

 

 

続・くみたてんちゅ(その11)

2010-04-25 22:58:33 | 組立人

 翌朝、どよんとした気分で目覚める。

 昨晩は鍋の終わり際に睡魔に襲われる有様だった。
 しかし今回の鍋には中華鍋奉行『ダン』の存在がなかったので、鍋の〆にしっかりと麺を投入して満足した記憶が残っている。
 もっとも新鍋奉行の赤城が汗にまみれた頭を掻きあげた両手で、麺を手づかみで入れるのだけは頂けなかったが…。

「うー、マジで身体が重いぞ…」
 ベッドから身体を起こすと体中の筋肉がパンパンに張っていて、悲鳴を上げている。
「運動不足とか、そういうレベルじゃないなこりゃ…」
 私は徐々に自分の身体の異変を認めるような気分になっていた。


朝から頻繁に表示されるNHKの画面
 色々と権利の制約があるらしく、音声のみで妄想を掻きたてて視聴するしかありません。


ホテルの朝食バイキング
 右の皿:ベーコン4枚と目玉焼き
 左の皿:サラミハム2枚、サラミ1枚、ソーセージ2本、豚足2つ、キャベツ炒め、春巻2本、プチトマト2個、キンカン3個
 左上の器:中華スープ
 右上の器:お粥にピータンとザーサイを投入
 中上のグラス:リンゴジュース

 非常に偏っています。圧倒的に肉類が多いのですが、自分の肉体がタンパク質を求めているみたいなので、素直に従います。
「食わなきゃ動けなくなる!」
 そんな言葉が頭をかすめて行きます。


今朝も発見
 高速道路掃除人…。真横をアウディが時速120km以上の速度で通過します。


ゴミ焼却
 他人が所有するであろう壁を、勝手に火で炙っています。

 この日、残りのパネルの設置作業に入った私は、思わぬ失態を犯します。

 それは天井パネルを設置していたお昼前のことでした。
「お、そろそろ昼飯か…」
 佐野が呟き、私は時計を見ました。
「もう12時か…」
 一瞬、集中力が切れかけます。
「よっしゃ、このパネルだけ入れるか!」
 佐野が天井クレーンでパネルをさらに吊り上げます。
「まだやるの!?」
 一瞬私はそう思いました。
「赤城ちゃん、コイツだけ入れちまうぞ!」
「ハイよ!」
 赤城は返事をして、私と一緒に機械の上でパネルの到着を待ち構えています。
「平行にしろよ、平行にすりゃあ下には落ちないからな!」
 佐野が指示を出します。
「ハイよぉ」
 赤城は返事をしながらも、なぜかパネルを斜めに下ろします。
「???」
 疑問に思いながらも赤城は本職なので、それに従います。
「なんでこんな危ない置き方をするんだ?佐野さんが言った平行って、俺の思ってる平行と違うのか?」
 私は集中力が切れかけた頭で考えます。目の前にはすでに二枚のパネルが入っていて、最後の三枚目を真ん中に落とし込むだけです。
 平行に置きさえすれば、たとえパネルが滑り落ちても、下に落下する事はあり得ません。しかし赤城は三枚目のパネルを見事に斜めに置いてしまいました。
「これって危なくない?」
 一体どうやってパネルを落とし込むつもりなのか、赤城からの指示を私はじっと待っていました。
「!」
 その時、いきなり赤城が無言のままパネルを動かし始めました。
「あっ!」
 私は条件反射的に手が出ました。
「パネルを平行にしなければ落下する!」
 そう思ったからでした。
「そっちはそのまま!」
 赤城が叫びますが、すでに手はパネルを押し出しています。
「ああっ!」
「うわっ!」
 現場に私と赤城の叫び声が響きます。
「ドドッ、ガガンっ!」

 無情にも重さ約20kgの天井パネルは、隙間から下へ落下しました。

 


続・くみたてんちゅ(その10)

2010-04-16 00:55:39 | 組立人

 行き返りのバスの車内からですが、まだまだ中国を観察します。


大海原を飛ぶ旅客機
 実は大海原は道路沿いにある看板です(笑)


徒歩
 何かを二人で運んでいます。


ベンツ


なぜか道端に迷彩野郎が二人…


そして三輪自転車


炸裂する『中華式運転術』!
 くどいようですが、インター入口は2車線分で、並んでいるのは5車線分…。
 みなさん、毎日飽きもせずに繰り返してます。


高速道路本線もこの有様
 3車線は4車線で…。


対向車線では…
 第二車線に四駆が完全停止!
 この車を避けて、ビュンビュンと他の車が通り過ぎて行きます。

 高速道路を下りると、さらなる中華式運転術を目にする事ができます。


『中華式運転術小套路(型)』展開拳!
 大袈裟な名称を付けてみましたが、単なる横断歩道上でのUターンです(笑)
 この技は基本中の基本で、コツは歩行者を蹴散らすようにハンドルを切ることです。もちろん対向車線の車なんて気にしてはいけません。あくまでも自己中心的にサクッと行いましょう。

 この日、私は機械の防音パネルをハンドパワーで大量に運んだので、不調だった肉体が完全に悲鳴を上げ始めました。
 もう夕食に向かうのに歩くのも辛くて仕方がありません。

 ついに私は、鍋屋で食後に居眠りをするほどダメダメになりました。
  


続・くみたてんちゅ(その9)

2010-04-13 05:18:57 | 組立人

 ほぼ全ての中国人が習得している『中華式運転術(私が勝手に銘々)』は、何も車だけの技術ではありません。


自転車にも適用
 交差点は気合勝負!


こちらは『中華式節約術』
 エンジ色のヤッケのオバサンが、ゴミの中を検索中。


『中華式焼却術』
 どー見ても勝手に道路脇で燃やしてるだけ…。


工業地区の出勤風景
 若い女の子たちの出勤時間です。なぜかピンク色のシャカシャカしたダウン?ジャケットを着ている子が多い。


工業地区の出勤風景2
 やっぱりペラペラの原色ダウンジャケットが多い。


真ん中の子はちょっとカワイイ
 薄着の子もいます。


中国産の梨?
 中国人スタッフの昼食メニューに含まれていた果物。たぶんジョーが持って来て放置している物。
「うへへへ、ウォルター、こいつは『魔法の梨』なんだぜ!」
「本当か?」
「ああ、食べると空を飛べるんだ、イエェー!」
「ハッハッハッ!」
 壊れてきている私は、休憩時間にアメリカ人技術者と非常に馬鹿な会話をしています(笑)


洗車屋
 相当な数の店があります。


ポルシェ・ボクスター


三輪バイク


東北餃子館
 日本人でも簡単に読めます。


たぶん広告代理店
 前にも載せた?気が…


地面の穴
 これは…


自動車整備屋の必需品、『整備用リフト(厳密にはリフトしないけど…)』!
 これではお世辞にも自動車整備工場とは呼べません…。
「車を持ち上げるよりも、穴掘って自分が入った方が早いアルヨ!」
 的な考えみたいです(笑)
 でも、雨が降ると冠水するので、晴れたらバケツで泥水を掻い出すらしい…。
「すげーな、『中華式整備術』は…」
 自宅に整備用リフトが欲しいと思っている走り屋の方、これなら今すぐに手が届きます。なんたって、
「穴を掘るだけっ!」
 今すぐ駐車場にGo!
 尚、賃貸契約を交わしている駐車場の場合、必ず貸主さんの許可を得てから掘って下さい。

 絶対許可なんか出ないと思いますけど(笑)
 


続・くみたてんちゅ(その8)

2010-04-11 08:20:12 | 組立人

 今朝も40人乗りのバスに8人、いや9人で乗り込み仕事に向かいます。

「あれ?一人増えてる…」
 いつの間にか中国人スタッフが一名増えています。
「レイです、よろしく!」
 テンションの高い中国人が、朝から甲高い声で握手を求めて来ます。
「また一人勝手に増えてるよ…」
 B社責任者の新垣は聞いていないらしく、やれやれというポーズをとります。


車窓から見える高層ビル群


工事中のビル群
 よく見ると非常に不思議です。
「佐野さん、どう見ても柱と床しかありませんよね」
「後から壁はレンガでも積むんじゃねぇの?」
「れ、レンガですか…、柱が異常に細く見えるけど、強度計算とか大丈夫なんですかね?」
「ん?さあなぁ…、とりあえず建てばイイんじゃないの?ここじゃあ」
「パッと見には地震に対する備えなんて皆無に見えますね」
「そんなこと全然考えてねぇべ」
「・・・」
 日本では最近、通常の制震技術や免震技術に加え、長周期地震動(一回の振幅が大きいタイプの地震、高層ビルの固有振動数に共鳴しやすく、倒壊の危険がある)に対する制震ダンパーを備える(後付する)ビルもあるそうです。果たしてあの柱と床だけのビルにそういう備えが装着されるのかは、甚だ疑わしいです…。

 ちなみに阪神大震災は短周期の突き上げが二回連続して起きた地震です。
 長周期地震動は近年ではメキシコシティで観測されたタイプの揺れで、震源から400kmも離れていましたが、高層建築物が倒壊しました。
 日本では東海・南海・東南海連動型地震で発生すると考えられ、東京を長周期地震動が襲うと予想されています。実際、過去の安政の大地震では、東京を長周期地震動が襲ったそうです。
 

安全確認と掃除は人力
 安全通路なんてありません。自己責任でどーぞ!


でも街路樹は大切なの…
 だから根元を白く塗っちゃいます(笑)


高級住宅街
 こんなおしゃれな住宅街もあります。外人専用エリアらしいけど、詳細は分かりません。


住宅街の出入口ゲート
 24時間ガードマンが常駐しています。


建築中の高級住宅
 またしても柱と床と…、
「ん?や、屋根?屋根もコンクリート?」
 壁面もコンクリートで、その壁面が『構造壁』としての機能を持ち合わせているのならともかく、柱と床だけの構造で屋根がガッシリとコンクリートとは恐れ入ります。
「うーむ、微妙な家作りだなぁ、これは『コンクリート打ちっぱなし』でもないよなぁ…」
 やっぱり壁面は中国人が大好きなレンガ積みになり、さらに重量が増加する可能性は大です。
「地震の時、持つのかなぁ、この家は…」
 四川での苦い教訓(四川大地震)は、まだまだ首都北京で活かされているよーには感じることが出来ませんでした。

 ちなみに別件で、A社中国人責任者の金さんに、
「地震が来たらどーするの!」
 と言ったら、
「大丈夫ダヨ、北京は地震来ないヨ!」
 と笑顔で、且つ本気で答えられました。

 うん、来ないんなら仕方ないな(笑)
 ちなみに北京市には、『北京市地震局』なる部署が存在しますけど、来ないんじゃないの?




続・くみたてんちゅ(その7)

2010-04-08 06:14:56 | 組立人

 夕食の火鍋を食べ終えた我々は、店の外に出た。

 私自身はそのままホテルに帰りたい気分だったが、全員の足がセブンイレブンの脇に向かっている。
「だよね…」
 佐野と私が前回通っていたスナック『Happy』、もちろんこのまま六人でご入店だ。

「イラサイませー!」
 見たことの無い女の子が店の入口から飛び出して来る。
「ママは?」
 佐野が問いかける。
「スミマセン、もうすぐ来ますので…」
「ママはまだ金さんがやってるの?」
「はい、ソウです」
「うん、なら大丈夫だな」
 どうやらまだこの店は、勝手知ったる行きつけの店らしい。
「こちらのお部屋でイイですか?」
「ああ、いいよ」
 何度も案内された大きなカラオケ部屋に通されると、三人のボディコン系ワンピを着た女の子たちが入って来た。
「ん?」
 その内の一人は私が気に入っていた新垣結衣に似たホステスだ。
「佐野さん、この子ですよね、僕が気に入ってたのって」
 新垣結衣が無反応なので、佐野に同意を求める。
「おお、キーちゃんのお気に入りなんじゃないの?」
 彼女はキョトンとした顔をしている。
「まあ一年経っていないとは言え、仕方ないか…」
 どうやら彼女は私と佐野を見ても何も思い出さないらしい。
「佐野さんのお気に入りは?」
 佐野のお気に入りは原田知世に似た清純そうな娘だ。
「小△はやめちゃったの?」
 前にも見たことのある別の女の子が、ウンウンと頷く。
「キーちゃん、なんかやめちゃったらしいよ」
「そうですか、まあ僕も忘れ去られてるみたいなんで同じですけどね」
 私はとりあえずメモ紙に新垣結衣の名前である『小○』と書くと、彼女の前に突き出してみた。
「…?どうしてアナタ知ってるの、私の名前?」
 どうやら多少は日本語が出来るようになったらしいが、ホステスとしては失格な気がする…。
「六月に来たでしょ」
「・・・」
 必死で新垣結衣は脳内の記憶を探っているらしい。
「!!」
 彼女の目がクリッと開かれる。さすがにその表情は文句なしにカワイイ。
「ちょ、チョト待っててね!」
 そう言うと部屋から出て行き、すぐに戻って来る。
「これ、アナタの名前ね!」
 見るとメモ紙に『木田☆☆』と書いてある。どうやら自分の手帳か何かを見て来たらしい。
「ま、一文字間違ってるけど、ほぼ正解だね」
「ちゃんと憶えてたよ!」
「・・・」
 前に会ったときにはまだ普通の女の子の様な雰囲気がしていたのだが、9ヶ月ぶりに会った彼女は全身にホステスのオーラを身に纏っている様な気がした。
「忘れてたじゃん」
「ちゃんと憶えてたよ」
「ま、イイけどね」
 とりあえずは彼女と楽しく会話を交わすのだが、どこかに醒めた自分を感じていた。
「こういう店で馬鹿になれないってことは、もしかして俺、精神的にやられてるのか?」
 どこかで感じていた不安が、ゆっくりと自分の中で膨らみ始める。自分のことを憶えているかどうかとか、そういう問題ではない。
「お、木田さん結構やりますねぇ、ラブラブじゃないですか!」
 わざわざB社の若手、佐藤が隣に来てニヤニヤしている。
「まあね、カワイイでしょ、この子」
 私は新垣結衣の頭を撫でる。
「イイっすねぇ」
「別に俺の女って訳じゃないんだけどね」
 二人で声を出して笑う。
 相変わらず部屋のテレビモニターからは、怪しい中国人歌手が歌い上げる『ソーラン節』が流れている。
「ハァアアイ、ハァアアアアアイ!」

 私は左手で新垣結衣の髪の毛を触りながら、どこか焦点が定まらない目で、そのモニターをずっと眺めていた。
 


続・くみたてんちゅ(その6)

2010-04-02 02:55:04 | 組立人

 中国では車だけではなく、人間も道路を我が物顔で使用しています。


驚異!『中華式歩行術(勝手に銘々)』の使い手
 ここはスクランブル交差点ではありませんが、犬を連れたオジサンが道路の真ん中を信号に関係なく進行して行きます。


こちらは『中華式歩行術』VS『中華式運転術』
 横断歩道上も油断は出来ません。油断をしていると右から来る左折車輌に轢かれます…。


こちらは『中華式饅頭』
 別名『肉まん(笑)』です。セブンイレブンで購入、味は日本の物と大差ありません。


興味本位で購入
 『中華式ベビースターラーメン』?


中身
 見た目はベビースターと同じですが、味はやや薄いです。パンチの無いべビースターラーメンとでも言いましょうか…。

 今日も夕食は日本人が集まって行くことになりました。
「たまには個人的に行きたいなぁ…」
 などと自分では思いましたが、私も和を重んじる生粋の日本人なので、大人しく従うことにします。


今夜は『火鍋』の店へ
 ホテル直近のセブンイレブンの並びにあります。

 この日は六人で行ったのだが、なぜか二階に案内されます。
「おいおい、二階はいいけど、なんで二階は店員が全員男なんだ?」
「一階の方がイイよねぇ…」
 一階はスリットスカートの女性店員が大勢居るのに、二階は黒い制服の男性店員が5、6人で接客するみたいです。
「む、むさ苦しい…」
 仕方がありません。


またしても『燕京(ヤンジン)ビール』で乾杯
 今回のツケダレは練り胡麻をチョイス、でもネギとパクチーの薬味は一緒です。


火鍋登場
 もちろん赤色は辛いスープ、白色は辛くないスープです。


具材投入
 さすがに佐野、新垣、私はこの二色鍋に慣れて来て、新鮮味はありません。
「どんなスープなの?」
 赤城がいきなり鍋の赤いスープに指をつっこみ、そして舐めます。
「お、辛ぇ!」
 私は内心、
「指を入れるな、指を!」
 と思いましたが、黙っています。
「どれどれこっちは?」
 赤城は、今度は白いスープに指を突っ込みます。
「なるほど…」
 私は内心、
「なるほどじゃないでしょ…」
 と思いますが、これも黙っています。

 赤城は『はくりんちゅ』に登場した『小磯』に非常に似ており、顔、体形、仕草、言動、癖、どれをとってもまるで小磯の親族みたいです。気持ち悪いほど類似点が多く、私は真剣に、
「きっと小磯の遠縁に違いない」
 と勝手に思っています。


まずはエビから
 胡麻油ダレよりも、練り胡麻ダレの方が食べやすいことが判明、胃腸にもやさしいみたいです。

 食べ進むと、赤城がおしぼりで顔の汗を拭い始め、続いて上着を脱いでTシャツ姿になります。
「いやぁ、熱いね!」
 そう言いながら、赤城は何度も髪の毛を両手でしっかりと掻き上げます。どうやらそれは彼の癖らしい。
「お、じゃあシイタケも入れちゃいますか!」
 赤城はこの場でこそやや控えめだが、どうやら『鍋奉行』タイプらしく、率先して鍋を進めようとします。
「うぉ、コイツ素手で…」
 汗をダクダクと掻いている頭を何度も掻き上げていた素手を使用して、赤城はシイタケを鍋に投入し始めた。
「うーむ…」
 だんだん食欲が無くなってくる。
「キーちゃん、あんまり箸が進んでないんじゃない?」
 佐野が心配して声を掛けてくれるが、
「い、いや、食べてますよ」
 とだけ答える。
「この青菜も入れますね!」
 またしても赤城が頭を掻き上げた直後の両手で、青菜を丁寧に千切りながら鍋に投入している。
「・・・・・」
 なんだかお腹がいっぱいな気分だ。食事前に肉まんとベビースターを食べたせいもあるが、それ以上に食欲がすっかり減退してしまっている…。
 おまけに異常に暑がっている日本人たちを見て気を利かした店員が、こともあろうに至近距離にある業務用エアコンの冷房を全開にしてくれたので、だんだん体が冷えて寒くなって来ていた。
「早くホテルに帰りたい…」

 体調のせいもあるのだろうが、恐ろしく覇気の無い自分がそこに居ることが分かっていた。