安藤昌益(1703-1762)は,江戸時代の医師であり,思想家です.
彼の残した書物「自然真営道」のなかで“男女ヲ人ト為ス.一人ヲ以テ人ト為ル則ハ失リナリ.“転定ハ一体ニシテ上無ク下無ク,統ベテ互性ニシテ二別無シ”と言っています.
男女6才にして席を同じくせずとされた,男女差別の非常に激しい時代,身分差別が厳然とあった時代に,なんと“男女”と書いて“ひと”と読ませたのです.そして人間には上も下もなく,身分の違いはないと世間に断言したのです.“転定”は“てんち”と読み,天も地も,いわゆる天の身分をもつ人も地の身分の人も人間として何ら差はないという意味です.
日本の民主主義の原点として,今見直されています.
この人を発見したのは,狩野亨吉という人で京都大学の初代学長を務めた人です.夏目漱石と仲が良く,漱石の「我輩は猫である」に出てくる“苦沙弥先生”のモデルといわれ,ものすごく優秀な人だったそうです.
その後,再び埋もれてしまいました.再発見したのはカナダ人で在日カナダ大使を務めたE・ハーバート・ノーマンです.この人は太平洋戦争直後に,進駐軍(GHQ)として日本に来ました.進駐軍は,野蛮な国日本を人間らしい民主主義国家に導いてやるといってやってきたのです.ところが日本には,米国よりも早く真に人間の平等と民主主義に目覚めた人がいたのです.吃驚仰天したノーマンの顔が目に浮かびます.
そして現代が第三のブームです.今年の10月25日に「現代を生きる安藤昌益」(御茶の水書房)が出版されました.私も「日本のヘーゲル 安藤昌益」と題した小論を啓上しています.そして11月4日に「3.11と安藤昌益の集い」と題した大きなシンポジウムが東京電機大学・丹羽ホールで開催され,500名の会場が超満員でした.講演のなかでは,竹下和男氏の食育のお話が大変面白く心を打ちました.子どもがどう生きていくかというテーマは人の心を打ちます.これはに日本だけではなく世界に普遍でしょう.そして,12月21-24日には,千住ミルディスI番館(北千住マルイ)内のシアター1010で「自り伝」と題した安藤昌益の劇が催されます.
“ヒト”は生物のひとつです.男女が未来に命をつなぎます.私は生物学者として,“男女”ともって人とした安藤昌益に驚きます.さらに,空間的に離れた別個体を併せて一つのものとした安藤昌益に驚きます.安藤昌益は仏教を否定したけれども,唯識(仏教)と共通するものがあるのではないかと私は思います.
ヘーゲルは彼の著作「大論理学 有と無の統一」において,“むしろ両者が同一のものではないということ,両者は絶対に区別されるが,しかしまた分離しないものであり,不可分のものであって,各々はそのままその反対の中に消滅するものだということである”と述べています.
生命(ここではヒトと同じですが)とは,個々に識別でき決して同じではないが,同時にまた一つであって分離できないものであるということに気づいているように,私は思います.ヘーゲルは,現実には男と女つまり性による社会的な役割を固定的に捉えた,封建的な面をもっています.しかし,それらの封建的な面にとらわれて彼を除外してしまえば,彼の人類に残した大きな遺産をも捨ててしまうことになるでしょう.
この生命(人間)について12月1日(土)に,東大(駒場)で開催される日本人間進化学会(会長 長谷川眞理子)で発表し,参加者と議論する予定です.生命とは何かという問いかけに対する人間の深い理解が,人間を成長させ,核兵器の廃絶,全世界の戦争の放棄や地球環境の破壊から人類を解放する力になるのではないかと私は思います.
PS. 11月25日(日)は私の歌の発表会です.「遥かなるサンタルチア」と「アヴェ・マリア(マスカーニ)」の2曲を歌います.12月4日(火)は横浜みなとみらいホールで第66回全日本学生音楽コンクール全国大会(声楽)です.キップを買いました.初心者で大変僭越ではありますが,可能であれば前回のようにそれぞれお聴きした率直な感想をブログに上げるつもりです.あくまでも一人の観客(素人)としての印象ですので,誤解のないようにお願いいたします.
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