2013年9月7日,IOC総会のオリンピックの東京招致のためのプレゼンで,安倍首相が汚染水は完全にブロックされていると述べて以来,放射能汚染水の外洋への漏出が大きな話題になりました.この発言はどうも安倍首相の独断だったようですが,2週間近く経った現在,外洋に漏出している放射能は大量の海水で薄まって問題ないという論調が増えています.
汚染がれきの場合もそうでしたが,汚染がれきに非汚染の大量のがれきを加えます.そうすると,汚染濃度は全量で割るので非汚染がれきを加えれば加えるほど低下し,遂には基準値以下になります.何か釈然としません.汚染物は少しも減っていないのですが,濃度は下がります.直感的に,これで良いのか?という疑問が湧き上がります.
今回は,この“薄める”ということについて考えてみます.
大きなゴミ袋が一つあるとします.生ゴミが一杯入っています.口はぎゅっと縛ってあるけれど,多分一週間もすれば腐敗臭が漏れてくるでしょう.ミバエも湧くかもしれません.家は3LDK,100㎡とします.100㎡にゴミ袋が一つ置いてあります.もし,このゴミ袋を山にもっていって,橋の上から谷底へと放り投げたらどうでしょうか.仮に山は10km四方とします.そうするとこの山の面積は 10km x 10km = 100k㎡となり,3LDK,100㎡の実に100万倍になります.面積換算で100万分の1に薄まりました.この話を聞いて,薄まるから山にゴミを捨ててよいという日本人はおそらくいないのではないでしょうか.駅や道路,あるいは自宅の窓から外にゴミを捨てる日本人も殆どいないでしょう.落ち葉や枯れた草は,自然環境のなかで微生物によって分解し,翌年の新しい生命を育むための養分となります.これが自然のなかでの物質循環だと思います.しかし,もはや我々は自宅の庭から道路に飛んだ落ち葉すら丁寧に掃き集め,決められた日にゴミとして出すまでになりました.
考えるに,日本のように文明が進み,インフラが一定の範囲以上に整備された先進国の人間は,道路や広場,あるいは山,森,川,湖つまり陸地全体の有限性を強く意識し,ゴミを勝手に捨てる場としては徐々に認識しなくなっていったのではないでしょうか.
ここで頭に浮かぶのが中国です.日本人が中国人を悪く言う時に挙げる特徴的な事例の一つが,中国人はゴミを何処でも平気で捨てるというものです.しかし中国人だからということではなく,先に考えたように,中国は日本ほどの先進国ではなく,インフラ整備もまだまだだとすると,陸地を無限と見ているためではないかという仮説が成り立ちます.今朝の新聞に面白い記事が出ていました.2013年9月19日付毎日新聞,金子秀敏氏によるコラム「木語」で,大陸から台湾の観光地に遊びにきた中国人が道につばを吐きゴミをポイ捨てするので,それを見た台湾の青年が注意し,それで殴る蹴るの騒ぎになったというのです.我々から見れば両者とも中国人です.中国人だからつばを吐いたり,平気でゴミをポイ捨てするのではなくて,社会環境が変われば認識も変わることが,この記事から分かります.逆に,日本人自身も,まだ文明がそれほどではなく,インフラも今ほど整備されていない時代・・,例えば私が子どもの頃を思い出すと,道につばを吐いたり立ち小便は当たり前,子どもやお年寄りの女の人も時には道端でしゃがんで用を足していたような記憶があります.他国の人を,見た目の印象だけで判断するのは誤解を生むと思いました.
次に,大気について考えてみます.大気は有限ですが,我々日本人も陸地よりはまだまだ余裕をもって見ているように思います.世界が炭酸ガスの排出量をコントロールしようとします.1997年にそのための国際会議が開かれ京都議定書が批准されました.炭酸ガスは人間自体が日常放出し,それは比較的均一に気中に拡散します.大気は場所によって成分が違い日本は炭酸ガスに覆われたなんてことはありません.逆に,決められた場所に捨てろと言われても無理です.でも,人間はそれぞれの物質の特徴を踏まえた基準を作り,その必要性について議論し合意し,そしてその取り決めを守っていこうと努力します.この姿勢が私は大事だと思います.人類が今後も,科学を発展させ,その利便性を享受するのなら,自然環境を維持しようと努力すること,それが必須だと思います.
宇宙空間はどうでしょうか.宇宙は無限です.何でも,いくらでも,無限に捨ててよい? いえいえ,そうではありません.地球を取り巻く大気圏外には,既に多くの人工衛星やロケットなどの残骸が捨てられ,新しく宇宙に出て行く場合の危険な障害になっているようです.やはり,無限の宇宙といえども,人間がよく考え,議論し合意して自ら身を律して行かねばならないでしょう.
最後に海です.海の規模は宇宙空間や大気に準ずるのでしょうか.それとも,陸地に準ずるのでしょうか.先に書いたように,日本は世界のトップを行く先進国のひとつです.何を捨てようと無限の海水で薄まるからよいと見るのは,途上国ならともかく,トップの先進国として胸を張れるでしょうか.それは,ある意味山に行ってゴミ袋を谷底に投げれば無限に薄まるからよい,と考えるのと同じではないでしょうか.
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