森中定治ブログ「次世代に贈る社会」

人間のこと,社会のこと,未来のこと,いろいろと考えたことを書きます

”薄める”ということ

2013-09-19 19:47:14 | 国際問題

2013年9月7日,IOC総会のオリンピックの東京招致のためのプレゼンで,安倍首相が汚染水は完全にブロックされていると述べて以来,放射能汚染水の外洋への漏出が大きな話題になりました.この発言はどうも安倍首相の独断だったようですが,2週間近く経った現在,外洋に漏出している放射能は大量の海水で薄まって問題ないという論調が増えています.

汚染がれきの場合もそうでしたが,汚染がれきに非汚染の大量のがれきを加えます.そうすると,汚染濃度は全量で割るので非汚染がれきを加えれば加えるほど低下し,遂には基準値以下になります.何か釈然としません.汚染物は少しも減っていないのですが,濃度は下がります.直感的に,これで良いのか?という疑問が湧き上がります.

今回は,この“薄める”ということについて考えてみます.

大きなゴミ袋が一つあるとします.生ゴミが一杯入っています.口はぎゅっと縛ってあるけれど,多分一週間もすれば腐敗臭が漏れてくるでしょう.ミバエも湧くかもしれません.家は3LDK,100㎡とします.100㎡にゴミ袋が一つ置いてあります.もし,このゴミ袋を山にもっていって,橋の上から谷底へと放り投げたらどうでしょうか.仮に山は10km四方とします.そうするとこの山の面積は 10km x 10km = 100k㎡となり,3LDK,100㎡の実に100万倍になります.面積換算で100万分の1に薄まりました.この話を聞いて,薄まるから山にゴミを捨ててよいという日本人はおそらくいないのではないでしょうか.駅や道路,あるいは自宅の窓から外にゴミを捨てる日本人も殆どいないでしょう.落ち葉や枯れた草は,自然環境のなかで微生物によって分解し,翌年の新しい生命を育むための養分となります.これが自然のなかでの物質循環だと思います.しかし,もはや我々は自宅の庭から道路に飛んだ落ち葉すら丁寧に掃き集め,決められた日にゴミとして出すまでになりました.

考えるに,日本のように文明が進み,インフラが一定の範囲以上に整備された先進国の人間は,道路や広場,あるいは山,森,川,湖つまり陸地全体の有限性を強く意識し,ゴミを勝手に捨てる場としては徐々に認識しなくなっていったのではないでしょうか.

ここで頭に浮かぶのが中国です.日本人が中国人を悪く言う時に挙げる特徴的な事例の一つが,中国人はゴミを何処でも平気で捨てるというものです.しかし中国人だからということではなく,先に考えたように,中国は日本ほどの先進国ではなく,インフラ整備もまだまだだとすると,陸地を無限と見ているためではないかという仮説が成り立ちます.今朝の新聞に面白い記事が出ていました.2013年9月19日付毎日新聞,金子秀敏氏によるコラム「木語」で,大陸から台湾の観光地に遊びにきた中国人が道につばを吐きゴミをポイ捨てするので,それを見た台湾の青年が注意し,それで殴る蹴るの騒ぎになったというのです.我々から見れば両者とも中国人です.中国人だからつばを吐いたり,平気でゴミをポイ捨てするのではなくて,社会環境が変われば認識も変わることが,この記事から分かります.逆に,日本人自身も,まだ文明がそれほどではなく,インフラも今ほど整備されていない時代・・,例えば私が子どもの頃を思い出すと,道につばを吐いたり立ち小便は当たり前,子どもやお年寄りの女の人も時には道端でしゃがんで用を足していたような記憶があります.他国の人を,見た目の印象だけで判断するのは誤解を生むと思いました.

次に,大気について考えてみます.大気は有限ですが,我々日本人も陸地よりはまだまだ余裕をもって見ているように思います.世界が炭酸ガスの排出量をコントロールしようとします.1997年にそのための国際会議が開かれ京都議定書が批准されました.炭酸ガスは人間自体が日常放出し,それは比較的均一に気中に拡散します.大気は場所によって成分が違い日本は炭酸ガスに覆われたなんてことはありません.逆に,決められた場所に捨てろと言われても無理です.でも,人間はそれぞれの物質の特徴を踏まえた基準を作り,その必要性について議論し合意し,そしてその取り決めを守っていこうと努力します.この姿勢が私は大事だと思います.人類が今後も,科学を発展させ,その利便性を享受するのなら,自然環境を維持しようと努力すること,それが必須だと思います.

宇宙空間はどうでしょうか.宇宙は無限です.何でも,いくらでも,無限に捨ててよい? いえいえ,そうではありません.地球を取り巻く大気圏外には,既に多くの人工衛星やロケットなどの残骸が捨てられ,新しく宇宙に出て行く場合の危険な障害になっているようです.やはり,無限の宇宙といえども,人間がよく考え,議論し合意して自ら身を律して行かねばならないでしょう.

最後に海です.海の規模は宇宙空間や大気に準ずるのでしょうか.それとも,陸地に準ずるのでしょうか.先に書いたように,日本は世界のトップを行く先進国のひとつです.何を捨てようと無限の海水で薄まるからよいと見るのは,途上国ならともかく,トップの先進国として胸を張れるでしょうか.それは,ある意味山に行ってゴミ袋を谷底に投げれば無限に薄まるからよい,と考えるのと同じではないでしょうか.

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慰安婦問題,竹島問題

2012-09-10 12:17:16 | 国際問題

以下は言論プラットフォーム”アゴラ”に「日韓関係を値踏みする米国の態度」と題して掲載されました.http://agora-web.jp/archives/1484066.html

2012年8月10日に韓国の李明博大統領が竹島に上陸しました.そして慰安婦の問題で日本政府の姿勢に失望して竹島上陸の最終決断につながった可能性が高いと報じられました(朝日デジタル国際,2012.8.25).

一方,米国の代表的知日家であるアーミテージ(元米国務副長官)への日経新聞のインタビューで,同社編集委員,春原剛氏の従軍慰安婦や歴史認識についての問いに対して,「条件に応じて取り組まなければならない.事実はただ一つ.それは悪いことであり,実際に起こった.そして日本人の何人かが責任を負っている.それで話は終わりだ」と答えています(日経,2012.8.25).

このアーミテージの見解は,韓国の主張そのままです.「事実はただ一つ.それは悪いことであり,実際に起こった」とアーミテージが断定する根拠はどこにあるのでしょうか.その証拠はあるのでしょうか.それは起こっていないというのが日本の歴史認識であり,このアーミテージの発言を見る限り,米国は日本の主張を全く考慮していないと言わざるを得ません.日本の盟邦である米国が,どうしてこういう発言をするのでしょうか.

日経新聞の記事を読むと,米国は,北朝鮮問題に対し日韓の協力を強く希望しています.それこそが大事なのであって,日本軍による慰安婦の強制連行があったかなかったか,真剣に突き詰め真実を知ろうとする姿勢は,その記事から全くうかがうことができません.誤解を恐れず端的に言えば,米国にとってそんなことどうでもよいし,何十年も昔のこと,実際真実など分かる筈がないでしょう.橋下大阪市長が,それがもし事実ならその証拠を出せと言っていますが,たとえ生き証人を探し出しても,年寄りの妄言だとか,でっち上げだとか言って認めなければ証拠にはなりません.それが真実であると証明することは殆ど不可能でしょう.相互に相手の主張を認めようとする前向きの姿勢がなければ,相互の納得と合意はできません.そんな過去のまだらっこしいことより,米国は,イージス艦の情報共有のために日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)が必要なのであり(毎日新聞,2012.8.30),それを切望しているようです.野田首相はこの協定を拒絶しました.

李大統領は,この協定を道具に使って慰安婦問題の真実などどうでもよい米国を味方に付けたのではないのでしょうか.そして米国が味方についたことを確認したうえで,竹島上陸を行ったのではないのでしょうか.いろんなことがまことしやかに言われます.李大統領を取り巻くスキャンダル,選挙に向けて不人気の挽回,ポピュリズム・・それらもあるのでしょうが,米国が後ろ盾になれば韓国は日本には絶対に負けません.逆に日本は絶対に勝てないでしょう.李大統領は,ポピュリストどころか,非常にクールな思考の基に一連の行動を行ったと,私には十分推測ができます. こういう視点から,もう一度上記のアーミテージの言葉を考え直してみると,「我々は,慰安婦や竹島に関する真実などどうでもよい.韓国は自国の正義のために我々に○○を支払った.日本が韓国よりもっと高く支払えば,いつでも正義は日本のものだ」,こう言っているように聞こえます.

米国の誘いに乗って,韓国と日本が正義の買い値をつり上げてゆく.それが両国民にとって本当に望ましい結果を生むかどうか,それはよく考えてみる必要があります.しかし,いずれにせよ,近視眼的な視野ではなくて,上記のアーミテージの言葉からこういったメッセージを読み取り,そのうえで冷静で俯瞰的,かつ人間らしい対処を日本の著名な政治家や外務省に求めることは,木に登って魚を求めるようなものでしょうか.

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