同人戦記φ(・_・ 桜美林大学漫画ゲーム研究会

パソコンノベルゲーム、マンガを創作する同人サークル

一年くらい前の小説を発掘【律氏】

2012年09月29日 | 短編小説



 ニートというものをやっていると、突然目の前が真っ暗になる時がやってくる。個人差にもよるが五年目か六年目。それはキリスト教というところのアセンション、つまり昇天というものだ。肉体は腐った生ゴミの匂いを放ち始めるが、精神は次のステージに上ることが出来る。それは性的快感からも、経済至上主義社会からも解き放たれ。
 そして、願いを一つ叶えることが出来る。


「――――君に訪れた有余涅槃の時。さぁ、願うがいい。消滅の時はすぐにやってくる」


 僕は、時間を戻して欲しいと言った。高校時代の初恋の時。
 春に戻してくれ。桜が舞い散っているあの時に。
 最初で最後の恋、と決めていたから。
 彼女を助けたい。
 ――僕は走っていた。学生服がはだけているのも気にせず、ただひたむきに走っていた。胸が苦しい。走るのが久しぶりすぎて腿の筋肉に電気を送る所作がわからないのだ。右左だったか、左右だったか。両方だったかな?
 でも、この頃の僕はすごかった。全力疾走してもあまり体にがたが来ていない。スーパーマンだ。僕はバレー部のエースで、頭は丸坊主で、体からは生ゴミの匂いなんて出してなかった。エロゲとか、ロリとか、下乳より横乳なんて言ってなかった頃なのだ。
 清潔感のある汗の臭い。すごい男性ホルモン。
 コールドスリープするならこの時の僕で。そんな清廉潔白な僕は、彼女に追いついた。
 まだ夕焼け空が沈んでない頃だった。どうにか間に合ったらしい。
「有村さん」
 それは一つ先輩の有村先輩。女子バレー部で部長だった。背ぇ小さいのにいつも強気で、でも誰よりも打たれ弱くて、ショートカットがめっちゃ似合ってる人。笑顔がとても輝いている人。
「焼津君? どうしたの?」
 有村先輩は市民体育館に向かおうとしていた。
「俺、先輩のことが好きでした!」
「……え?」
「先輩、俺に部長のこと相談してくれましたよね。めちゃくちゃ嬉しかったっす。んでもってめちゃくちゃ悔しかったっす」
「……ごめんなさい」
「いえ。でも、最後に俺、先輩を救いたいっす」
「え? 焼津君。どこに?」
「――先輩は何が起きてもそのままでいて下さい。そんな先輩にネバーフォーリンラブ!」
 走り出した俺は、ぽかんと立ち尽くす先輩を見て、僕はヨッシャとガッツポーズをした。十数年未練たらしく妄想していた決め言葉だ。絶対に言ってやる、いつか。ずっとそう思っていたのだ。
 ――言えた!
 有村先輩に。
そして僕は有村先輩を思い浮かべて涙を浮かべた。走るのをやめた。どっかの家の石塀を殴る。涙が溢れてきた。あの時もそうだった。先輩が死んだと聞いたあの日。先輩の笑顔が見れないと聞いたあの日。この世界をぶっ壊してやろうとか思った。できなくて教師に叱られ、親に叱られ。僕は大人が嫌いになった。ずっとこのままでいるんだ。先輩と同じ中学生のままで。
でも、そんなことは無理だった。
僕は体育館に着いた。中から光が漏れている。誰かいるのかキュッキュというシューズと床がこすれる音がしていた。
「部長!」
「ん、焼津じゃないか。どうしたんだ焼津? お、自主練か。よし、一緒にやるか」
「先輩」
「ん?」
 そのバレーボールを持った好青年、我が弱小男子バレー部を県北の優勝まで導いた稀代の主将は、爽やかな顔で笑っていた。この顔に騙された女の子はいくらほどいたのだろうか。
 僕はまず殴った。
「リア充は死ね! 爆発しろ!」
 は? と言う顔で床に尻餅をついた部長。
バレーボールがコロコロと転がっていく。
「そっか、ははは、そうだよな、この時代にはないよなそんな言葉」
 でも、構わなかった。いつの時代だってリア充は敵であり、憎むべき相手なのだから。
 俺は尻餅をついたままの部長を見下ろす。
「あんたさ、有村先輩のことどう思ってた?」
「有村って、女バスの? いや」
「別に何とも思ってなかったんだろ。……俺はあんたがわかんねえよ。学校では好青年でよお、裏では不良グループと連んでクスリとかレイプとかしまくりなんだろ!」
「……なんでお前がそれを。いや、違うんだ、有村」
 部長の手には携帯電話が握られていた。十数年前のまだPHSから切り替わったばかりの頃の折りたたみでもない携帯電話。どこかへ連絡しようとしてる。きっと不良グループだろう。
「ざけんなよ」
 蹴り飛ばす。すげえ、俺ってこんなこと出来たのか。感心。
「俺は童貞でよ、どうすりゃこの差埋まるんだよ。一回くらいおっぱい揉みしだきたかったぜ。……俺、有村先輩に言っちゃったんだよ、部長のことが好きなら告白してみればいいって」
「焼津。お前、クスリきめてんのか、なんかおかしいぞ」
「やってねえよ」
 俺は近所の中華料理屋のキッチンから拝借してきた良く切れる文化包丁を取りだした。
「お、お前、本気なのかよ」
「ずっと前から本気だよ。あんたが警察に捕まって無けりゃ、殺ろうと思ったさ。もう十数年前のことだけどな」
 
 ――そして、俺は硬直が始まってきた部長の体を、十数年前、有村先輩が身を投げた市民体育館の最上階ベランダから投げ落とした。部長はごつんと潰れた。……なんだか眠くなってきた。体が重い。

 目を覚ますと、そこは暗かった。
 俺には二つの記憶がある。中学生の時に捕まり少年刑務所送りにされた記憶と、ニートとして鬱屈な人生を歩んでいた記憶だ。どちらも真実である。だから、あの時「俺が殺しました」と自供した。
 ――でもこれで有村先輩を助けることが出来たんだ。
 俺はそれだけを胸に秘めて、これから暮らしていくだろう。
 社会の檻に閉じ込められるのと、刑務所に閉じ込められるのじゃあまり大差ないしな。
「八十五番」
 そう呼ばれて返事をすると、ガラスが挟まれた面会室に通される。
 生ゴミみたいな匂いは出ていないか、無精髭は無いか、そんなことは気にしなくても規則正しい生活を送っているから大丈夫だ。対人恐怖症でもなくなった。あの世界でのことは夢か何かではないかと最近では、そう思うようになった。
「また来たんですか」
「うん」
 にこりと笑ったその微笑みはどこか中学生時代の面影があって、とても輝いていた。


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ちょっと暇つぶしで、昔どんなものを書いていたのか探していたら見つけた掌編の小説です。更新が滞っていたので上げてみました。
この時に比べて今の自分が変化しているところと言えば、いよいよ追いこまれてきた、人生的に。ちょっと本気にならないといけないですね。
夏期から秋期の境目とあって、これから始まるアニメが楽しみということもありますが、それを語る場はどこかにあるでしょう。
最後に、ハヤテのごとく32巻で、とあるキャラが言っていた名言を載せたいと思います。僕は「漫画」と言う単語を「小説」と置き換えて読んでました。


「非常識な夢が常識的な方法で叶うと思うな
 怖れを抱いて夢を下方修正するな
 人の顔色を覗って漫画を描くな
 努力しろ。努力とは、迷い無く自分を信じるためにするものだ
 有象無象の言うことに耳を貸すな
 雑音にいちいち心を揺らすな
 孤独を恐れて光にすり寄るな
 他人の物差しで自分の大きさを測り直すな
 味方がいなくなっても気にするな
 ざわめく声が大きいならもっと大きな声で黙らせろ
 世界の中心はここだと教えてやれ
 
 ――ねじふせろ すべてを

 それがお前の目指している漫画家だよ」