だいずせんせいの持続性学入門

自立した持続可能な地域社会をつくるための対話の広場

篠島

2007-07-31 19:59:08 | Weblog

 家族で海水浴に三河湾に浮かぶ篠島(しのじま)に行った。前浜(なえば)は1kmほども続くすばらしい砂浜である。両脇に小高い森を従え(昔は松林だっただろう)、そのふところには鏡のようなおだやかな海が広がる。

 その海には漁船の活動が目につく。昼間でもたくさんの船がでている。夜には漁り火が美しい。私は研究で伊勢湾・三河湾の水質悪化と漁業の衰退を目の当たりにしているが、この光景には救われる気がする。宿ではもちろん、島でとれた新鮮な魚が振る舞われる。
 集落は、一歩中に入れば軽自動車も通れない細い路地が迷路のように入り組む。急坂の続く典型的な漁師町の風情だ。夕方散歩すると、どこの家からも暮らしの音や雰囲気が漏れだしている。私のように高度経済成長以前の暮らしをかすかに知っている者にはなつかしい。むこうでネコがないているかと思うとこちらのネコが応える。

 砂浜の正面は数キロメートルの海峡をはさんで渥美半島の先端部分に相対している。まず目につくのは巨大な火力発電所。中部電力がほこる大規模石油火力発電所である。そして、その両側に林立する大型風車。思い思いに優雅に羽を回転させている。こちらは21世紀の初頭の光景として典型的だ。
 石油火力発電所の巨大な煙突からは何もでていない。石油高騰のすすむ前から、すでに日本の電力会社はコストのかかる石油火力の運転を避けている。今は真夏の利用ピークに備える予備電源という位置づけだ。
 風車の方は、ここにこれだけの大型風車があるとは私はうっかり知らなかった(帰宅してから調べてみると、ここ数年の風車の建設はペースがおちてきたとはいえ健在である)。近づくと威圧感のある大型風車であるが、ここから見る風景はなかなかさわやかでいい感じである。夏の穏やかな風の中でも元気に回っている。
 とはいえ、大型風車には騒音や鳥の被害などの環境問題がある。渥美半島は鳥の渡りで有名なところだ。障害はないのか、ちょっと気になる。

 私は、どこに行っても風景を50年前から50年後へさらに未来へと早回しで想像してみる。50年前には、対岸は干潟が広がっていただろう。そこに巨大な発電所ができる。もくもくと白い煙を上げていたのが、いつのまにかあまり目にしなくなる。そのうち、風車が一つ、また一つと立ち上がりはじめる。そして数十年後には、火力発電所の高い煙突は解体されてあとかたもなくなる。風車が元気に回っている。そして、さらにずっと時間がたてば、風車も消えて、また干潟と後ろの低山を背景に、帆をたてた小さな漁船の群れが魚を追う光景が見えるだろう。

 島の町並みからは漁業と観光で生きていこうとする人々の明確な意思を感じることができた。この小さな島に投じられた公共投資は巨大であることが一目でわかる。島の面積を3割ほども増すほど埋め立てが行われて漁港が整備されている。砂浜を守るのは無粋な堤防ではなく、テラス状の構造物で景観を損なわないよう配慮されている。夕方になれば、集落の人々がテラスで涼みながらおしゃべりをする光景がみられた。
 しかし、あえて道路は拡幅せず車をむやみに乗り入れさせない方針のようである。道は人間(とネコ)が主人公だ。これが漁師町の雰囲気を守り、また島の南部の自然と祈りの場所(弘法様が立ち並ぶ)を守っている。お隣の日間賀島では島を一周する広い道路が雰囲気を台無しにしている(とヨソモノの勝手な感想をいだかせる)のとは好対照である。

 泊まった宿は前浜を目の前にした絶好のロケーションだ。もっと素朴なもてなしかと思っていたら、洗練された設備とホスピタリティで、世界的な水準でみても満足できるものと思う。前浜を一望できる屋上の展望露天風呂は最高である。水着のまま浜に行き、そのまま帰ってこられるよう、玄関口に足洗の蛇口が用意されているなど、細かな工夫もされている。食事は奇を衒わず、その日にとれたよい魚介類が食卓を埋める。食事や寝具の世話など、いろいろと世話をやいてくれる仲居の若い女性(この宿の娘さんか?)の対応がすばらしく、興味津々でまとわりつく子どもたちにもいつも笑顔でていねいな言葉づかいで楽しませてくれる。ホスピタリティというものをちゃんと理解している。彼女の姿から島のリズムというのだろうか、そういうものを感じた。

 子どもたちは、砂浜に出たとたん、海のこどもになった。最初はこわごわと浅いところでばしゃばしゃしている。そのうち浮き輪にしがみついて、足の届かないところに冒険に出たかと思ったら、波打ち際で砂の堤防を作って波と対決している。突然、砂浜を走り出す。海と砂浜が次々に新しい遊びを誘いかけてくれるようだ。そういえば私もこどものころには一年365日毎日欠かさず浜に遊びに行って飽きることがなかった。街での暮らしはこういうとっておきの遊び相手がいないのだと改めて思い知った。

 迫りくる巨大な公共投資をうまくコントロールして、島らしさを見失わない。そのことが時代から取り残されることになると島民は危惧したこともきっとあったと思うが、ここにきて時代の最先端に躍り出ている。過疎の村や島とはちがい、若いおにいちゃんたちが狭い路地をミニバイクに二人乗りして走りすぎるのを見ると、なんだかとても頼もしく思えた。

 しかし、この島の将来が三河湾の汚濁と海洋生態系の破壊によって脅かされているのは無視できない事実である。毎年のように貧酸素水塊が広がり、漁船はそれを避けてせまい海域に集中する。それが篠島周辺の一見活発な漁船の活動なのかもしれない。魚がとれなくなれば観光の魅力も半減する。海が汚くなれば海水浴客も遠のく。
 そして、三河湾の汚濁の問題は、島の人々にはどうしようもなく、本土側の人間の選択にかかっているのである。この島を過疎の島にするようであれば、それはこの地域から人々の幸せのカタチがまたひとつ失われることを意味するのである。
 
コメント (4)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« どこから来てどこへ行くのか | トップ | ひとりが変わる・地球が変わる »
最新の画像もっと見る

4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
篠島 (「あいちの海」グリーンマップ)
2007-08-01 22:19:06
篠島も日間賀島もかつて名鉄の洗礼を受けたとはいえ、島に渡れば、ゆったりとした島時間が流れていますね。砂浜の端っこの岩場には熱帯魚もたくさん泳いてとてもきれいです。自然海岸は水もきれいにし、とても豊かな生態系を見せてくれます。今年はまだ行ってないけど、行きたくなりました。・・・血がさわぎだしました!
篠島いってきます (jimt)
2007-08-25 12:45:28
ひさしぶりです。元気そうでなによりです。
この記事に影響されたわけではないのですが、30日に篠島のこのホテルに宿泊することになりました。
島の空気と露天風呂にゆったり浸ってこようと思います。
THANKS! (daizusensei)
2007-08-25 19:33:57
jimtさま>おや、たいへんごぶさたしています。
20年ぶりですね~お元気そうでなにより。(ブログ拝見しましたが、どうやってコメントすればよいのかわからず・・・)
篠島ではぜひ南部の弘法めぐりをしてきては。
ホテルのお嬢さんによろしくお伝えください。
20年。。。 (jimt)
2007-08-26 01:00:48
そんなに経ちましたか。
コメントしにくいブログをあちこちに散乱させて遊んでます。(笑)
弘法めぐりですね。それとお嬢さんね。了解しました。

コメントを投稿

Weblog」カテゴリの最新記事