ファン・マヌエル・ロペス対ロジャース・ムタグワ(2009/10/10)

WBOスーパーバンタム級タイトルマッチ

ニューヨークMSGのPPV興業のメインに登場したのはプエルトリコの若き新スター、ファン・マヌエル・ロペス選手(Juan Manuel Lopez)。タンザニア出身のロジャース・マタグワ選手(Rogers Mtagwa)を挑戦者に迎えてスーパーバンタム級王座5度目の防衛戦に臨みましたが、あわや大番狂わせという大激戦の末にロペス選手が際どく生き残って命拾いした一戦でした。(体格比較)

ダニエル・ポンセ・デレオン選手を初回で粉砕したセンセーショナルな戴冠劇を含む5度の世界タイトルマッチをすべてKOで片付けて一気にスターダムにのし上がってきた26歳のサウスポー王者ファンマ・ロペス選手。この日の相手ムタグワ選手は昨年の年間最高試合候補に推す声もある対ビジャ戦での派手な倒し合いの大激闘で名を知られた選手でしたが、正直昇竜の勢いのファンマ選手とは格の違う選手で王者の圧勝での防衛を確信していた試合前だったのですが、ファンマ選手があと一歩のところまで追い詰められる大熱闘でした。

試合の立ち上がりは戦前の予想通りロペス選手が圧倒的にペースを支配する展開。じわじわ出てくる挑戦者のプレスを軽く踏むステップワークでいなしながら機を見て鋭く叩きつける右フックのリードブローが冴え渡ります。初回に2度マタグワ選手がスリップダウンしたシーンがあったのですが、いずれもファンマ選手のタイミングばっちりの右フックカウンターによって転ばされたものでした。
冴えに冴えるパワフルなカウンターの右フック、挑戦者のボディ顔面に正確に強く突き刺す左ストレートで圧倒的にペースを支配するファンマ選手のボクシングはハットン選手を蹂躙したパッキャオ選手の姿も重なりました。

驚異的にも思えるタフさで前進を続けるマタグワ選手が、ファンマ選手の攻撃に相打ち覚悟で放つ右フックや右ストレートを決める場面も何度かあって、ファンマ選手がムキになってラフになりペースを乱すラウンドもあったものの(3回とか)、5回にファンマ選手の右フックでムタグワ選手がノックダウンを喫したように、常に強く正確な攻撃を決め続けていた王者がリードしていた試合でした。(この5回のノックダウンは初回の2度のスリップダウンと同じ形でのもので、パンチが正確にヒットしていたようには見えませんでした。それゆえムタグワ選手のダメージもないように見えました。)

しかし強い攻撃を決めても決めても止まないタンザニアンの前進が王者のリズムを少しづつ確実に乱していきます。ムタグワ選手のビッグパンチが入る場面が中盤以降増えていきます。
ムタグワ選手の会心の攻撃をまともに直撃されても全く怯んだ様子を見せずに応戦するロペス選手のタフさにも大いに感心させられましたが、相手のバッティングに対して明らかに故意のバッティングでお返ししてみせた場面のように、徐々に思い通りにならなくなっていった試合展開にフラストレーションの色も濃くなっていったロペス選手。そしてその苛立ちからか、その攻撃はラフで力みが感じられるものになっていきました。さらに序盤からハイペースで飛ばしていた王者は、8回から急激にその動きに疲労の色を滲ませるようになってしまいます。
疲れて動きが落ちながらもその強気な姿勢は変える事がなかった王者。10回のノーガードでフックを応酬し合った場面などはかなりヒヤヒヤさせるものでした。

11回のラウンド前半にムタグワ選手の強い左フック、右ストレートを浴びて初めてパンチによるダメージを感じさせたロペス選手でしたがここでも強気の攻撃、強い攻撃はまだ生きていて、ラウンド中盤には形勢を逆転させる攻勢を見せるのですが、ラウンド終了間際に再びムタグワ選手の左フック、右ストレート右フック攻撃に捕まって棒立ちになった王者。ここはラウンド終了のゴングに救われたロペス選手でしたが、この11回でスタミナを完全に消費し尽くしさらに深刻なダメージも負ってしまった王者にとっては絶体絶命の大ピンチでした。
12回に入ってもダメージと疲労から身体が動かないロペス選手に対してムタグワ選手の強い攻撃が次々に襲います。
しかしムタグワ選手のほうも一気に攻撃を集めたせいで疲労が激しくなってしまい立っているのがやっと、というほど疲労困憊に見えるロペス選手を詰め切れず、フラフラになりながらも3分間を生き抜いたロペス選手が試合前半戦での大きな貯金を守る判定を得る勝利でした。

公式のスコアは116-111,115-111,114-113のユナニマス。シロート採点は最終回を10-8としての115-111ロペス。(公式スコアシート画像)

CompuBox Punch Stats: The Juanma vs Mtagwa War

かなり熱いファイトで興奮させられました。2008年のビジャ戦に続いてこの試合も年間最高試合候補に挙げられるのは確実でしょう。ロペス選手にとって最後は本当に苦しい状況でしたがよく生き残ったものです。ブテ対アンドラーデ戦のブテぐらいフラフラでした。
世界タイトルマッチでは初の大苦戦。ロペス選手にとってはプロキャリアにおいても最も敗北に近付いた試合なのは確実ですが、私個人の印象ではロペス選手のキャリアにおける最高のパフォーマンスに見えました。初回KOを連発していた時にはピンと来なかった「強打者」の称号もこの試合では確信できました。
このハードな経験がロペス選手をより大きなものにするはずです。ビッグファイトの実現に期待です。

ロペス選手は27勝(24KO)。ムタグワ選手は25勝(18KO)13敗2分。

動画ダウンロード(megaupload)796.11MB,avi
password: unifiedchamp.com

Juanma survives Mtagwa(Matt Richardson, Mariano A. Agmi and Alex Dombroff /Fight News)
Lopez shows heart, power(Dan Rafael/ESPN)
Lopez Survives Mtagwa and Gamboa Cruises(411mania)
LOPEZ SURVIVES TOUGH TEST WHILE GAMBOA DOMINATES(Ben Thompson/FightHype)
Juanma: "I Want Caballero, Top Rank Has Other Plans"(Mark Vester/boxingscene)
写真
Lopez-Mtagwa Photo Report(Mariano A. Agmi and Alex Dombroff,Photos: Ed Mulholland/FightWireImages.com/fightnews)
Photos: Lopez-Mtagwa, Gamboa-Garcia Huge Gallery(boxingscene)


ファン・マヌエル・ロペス対オリビエ・ロンチ(2009/06/27)
ファン・マヌエル・ロペス対ジェリー・ペニャロサ(2009/04/25)
ファン・マヌエル・ロペス対セルジオ・メディナ(2008/12/06)
ファン・マヌエル・ロペス対セサール・フィゲロア(2008/10/04)
ダニエル・ポンセ・デ・レオン対ファン・マヌエル・ロペス(2008/06/07)
ファン・マヌエル・ロペス対ウーゴ・ディアンゾ(2007/08/04)
ファン・マヌエル・ロペス対ジョバンニ・アンドラーデ(2007/06/22)
ファン・マヌエル・ロペス対クアテモク・バルガス(2007/01/19)

トマス・ビジャ対ロジャース・マタグワ(2008/11/07)