学問空間

【お知らせ】teacup掲示板の閉鎖に伴い、リンク切れが大量に生じていますが、順次修正中です。

佐藤進一氏「歴史認識の方法についての覚え書」

2014-05-04 | 石母田正の父とその周辺
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2014年 5月 4日(日)11時10分20秒

>筆綾丸さん
佐藤進一氏はウェーバーの影響は特に受けていませんね。
歴史学者としてのウェーバーの特徴は、第一に社会科学的分析の基本的方法としての理念型的認識であり、第二に比較史的方法です。
堀米庸三氏「歴史学とヴェーバー」(『マックス・ウェーバー研究』、東京大学出版会、1965年)の簡潔なまとめに従えば、「類型的な手段による、ないしは類型的な方法によるところの歴史的事物の個別検証」ですね。
ウェーバーが「社会科学と社会政策にかかわる認識の『客観性』」を書いたのは1904年ですが、その54年後の1958年に佐藤進一氏が書いた「歴史認識の方法についての覚え書」という論文(?)は、佐藤氏がいかに素朴な「歴史認識の方法」論を抱いていたかを示しています。
冒頭を少し紹介してみます。(『日本中世史論集』、岩波書店、1990年、p253以下)

----------
 現代の歴史学には色々の学派や傾向が認められるわけであるが、これを歴史認識の方法─一般に歴史理論とよばれる─に注目して分類すると、歴史の中に法則を求め、歴史学を法則科学として体系づけようとする行き方と、歴史を個性的なもの、特殊具体的なものとして認識しようとする行き方との二つに大きく分けられる。今日における前者の代表はいうまでもなく唯物史観である。後者は、唯物史観の側からは観念論の立場として退けられるけれども、歴史学の伝統と歴史の中に深く根を下したものであり、また現在においても極めて多くの歴史家の依って立つところであることは疑いをいれない。以上二つの立場の対立は、しばしば言われるように、歴史家のもつ世界観の相違に立脚するものではあるけれども、歴史学が過去の事実を基礎として、それら事実の総合の上に歴史の実体を明らかにする学問である以上、そして実体は一にして二ならざる以上、上記の対立は結局、事実を明らかにし、それらの事実を総合して、その奥にひそむ実体を探り出す上に、どちらがより適合的であるか、という問題の上に争われなければならない。しかし、歴史の実体はもちろん、その素材をなす個々の事実すら、最初からわれわれに与えられていないのであるから、両者の争いの場は歴史事実と実体にあるといったところで、問題は少しも明らかにはならない。問題は、二つの立場の間に共通な方法論上の基礎がないかどうか、という形で設定しなければならない。もしそれがないとすると、歴史認識の素材である個々の事実の認識そのものが、立場によって違ってくることになり、立場の対立は最初から平行線上あってあい交わらぬもの、争いのための共通の場を最初からもち得ないものとなる。(後略)
-------

「歴史の中に法則を求め、歴史学を法則科学として体系づけようとする行き方と、歴史を個性的なもの、特殊具体的なものとして認識しようとする行き方との二つに大きく分けられる」とありますが、分類が大きすぎますね。
特に二番目は殆ど無内容なほど広大です。
佐藤氏はマルクス主義者による歴史学の政治利用への嫌悪感が昂じて、歴史理論を「輸入」すること自体にも嫌悪感を感じるようになり、結果として非常に素朴な実証主義の殻に閉じこもってしまった人ではないかと私は疑っています。
今はまだ結論を保留していますが、もしこれが正しければ、「主従制的支配権」・「統治権的支配権」という概念の由来を海外の学説に求めることも無意味になってしまいますね。
少なくとも佐藤氏の主観では、「主従制的支配権」・「統治権的支配権」という概念は、佐藤氏が数多くの古文書に虚心に取り組み、石母田氏の『日本の古代国家』における表現を借りれば、「問題に無概念、無前提に接近」した結果、自然に浮かび上がってきた概念だったのかもしれません。


東島誠氏「非人格的なるものの位相」
http://6925.teacup.com/kabura/bbs/7287

「マックス・ウェーバー年譜」(Zarathustra氏のサイトより)
http://www.geocities.jp/existenzerhellung/eccehomo/weber/weber_nenpu.html
社会科学と社会政策にかかわる認識の「客観性」
http://www.geocities.jp/existenzerhellung/eccehomo/weber/objektivitat.html

※筆綾丸さんの下記投稿へのレスです。
http://6925.teacup.com/kabura/bbs/7328
コメント    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 緩募(ゆるぼ)-佐藤進一氏... | トップ | 堀米庸三氏「歴史学とヴェー... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

石母田正の父とその周辺」カテゴリの最新記事