日曜に鹿児島に行く。昨年末孤独死した叔母の預金残高確認が取れたので来てくださいとのメールが入り、毎月仕事が中休みになる二十日前後の今の時機を逃すと先々人間の様々な欲望の糸が延びて、絡み付いて動きががとれなくなる。サッと動いて、求められている金額を処理するにしくはない、ということで日曜の朝鹿児島に降り立った。
協力者の姪御さんと落ち合い、叔母の係累の同意書を取り付けるまでの苦労をお聞きする。
「取りあえず家に行って、金庫探しましょ。」大事なものは金庫に入れてると既に縁切り状態になっていた親族に叔母は語っていたという。私も土地の権利書を探し出さないと先の作業が思いやられる。
しかし昨年末結構丁寧に探したがに見つけられなかった。従って今度も見つけられる可能性はそんなに高くないと思っていたが、私が洋服ダンスの服が畳んで重ねてある奥に手を突っ込んだ処、固いものに触れた。手提げ金庫だった。「良かったですね~、でも開かないですね。鍵無いし。」
しばし二人で思案したが、私は「取りあえず元の所に戻して、金庫業者にあたって簡単に開けてくれるもんだか何らか資格証明の書類がいるもんだかどうだか、調べましょう」と提案してその日の捜索作業を終えた。
既に名寄せ作業の済んだ預金はすぐにでも現金化出来るというので私は「これから何年か固定資産税の支払いが続くだろうし、私の名義で相続関係の管理口座を作ります」と提案。
彼女と別れてから、地銀に口座を開設しようと決めた。翌朝には地銀本店に並び口座を開設し、税の自動引き落としの手続きもとる。
金庫業者に電話すると「ハイ、開けますよ、費用は5000円位です。」とあっさり言ってくれたので翌日持ち込む予約をする。
当初は当日朝に叔母の家までタクシーで行き、車を待たせて金庫を運ぼうかと考えていたが、常識的に考えて手提げ金庫をさげて道を歩いていても、タクシーに乗っても、降車後運転手が警察に通報するかもしれない。
と言う事で私はアウトドアショップに行ってリュックを買えばいいと発想した。好日山荘で小型のリュックを買う事にしたが口の部分がこの幅と大きさだったら入るだろうというギリギリ小振りなものを選んでしまい、もし入らなかったらどうしようと途中気が気で無い。
冷静に考えてリュックなんぞ買わずキャリータイプのゼロ・ハリバートンでも買っておけば先々使えて重宝するのに思いつかなかった。「つくづく器の小さい人間だ。」とこじつけておかしくなる。
でも家に入って金庫をいれると思惑通り丁度収まった。しめしめ、これで金庫もって市電に乗っても怪しまれない。ということで前日夕方にホテルまでの移送作業は終了。
ここらの顛末を早速行きつけの和食店に行っておもしろおかしく話す事にした。
この店では大体、最初の数品は私の顔をみて、主人が貴男はこれで良いよね。と勝手に決める。
シマアジが出た。「シマアジは今日は鹿児島で一本しか上がらんだったよ。少し小さいけどね」。私はショーケースを見て「この左端の魚がシマアジだよね。という事は何かい?こいつの裏側はすっからかんな訳ね?」「面白い事言うね、そんな事言われたの初めてだよ」「でもそうだよね」シマアジはうまかった。
「アオリイカも食わんとね?」というから「いいよ」と応えておもむろに彼が分厚いまな板の上で細かい筋目を入れるのを見ている。普通筋目は切る方向と直角にさっと刃を渡すんだけど、彼は横長に置いたイカの包丁の下半分を使って下半分に筋を入れ、もう一度今度は刃先を使って上半分に筋を入れた。「なんでこんな面倒な下処理するの?」「いやあアオリは身が厚いから真ん中で膨らんでる、だから真ん中の前と後ろで別々に包丁入れてやった方が年寄りには食べやすいから」「そりゃ良いね、という事は私はその年寄りに区分された訳ね」「いやそういう訳でもないけど」
主人は明日金庫空けると、「何が出てくるか楽しみだね、インゴットでも入っとらんかね?」「そんなもの入っているわけないけど、軽い訳でもなくてゴソッゴソと音するんですよ」
他の客はすぐに居なくなったので主人夫婦と四方山話をしていい気分でホテルに戻る。
今日は姪御さんと落ち合い預金を全ておろし、親族が求めている供養料その他を即振り込み手続きして、「あ~これで肩の荷がおりましたね」「金庫の中から又国債でも出ると面倒だよね」とお互いいいながら金庫業者に向う。持ち込むと業者はちょっと触ってほんの10秒で開けた。「鍵はかかっていませんでしたよ」「千円頂いたら充分です」あっさり3分で用事は終わってしまった。
という事で当初予定していた作業は順調に終わる、金庫の中からは蛇は出なかったが思いがけないものが一点、これは後で処理を考えますと言う事にし、不動産と家財の処理は涼しくなる秋口にやりましょうという事でお開きにした。
そして鹿児島の友人に電話して「お茶するのに出て来れる?」と聞くと「すぐ行きますよ。」ということで鹿児島の代表ホテル、城山観光ホテルでお茶する事にした。「地ビールのんでみたら?」と勧められ小さな器に2杯飲んだ。友人をいつまでも引き止める訳に行かないので「後はホテルの温泉で俺はぐたっとするよ。」といって別れる。
晴れておれば桜島が望める展望温泉で「あ~片付いてよかった」と骨休めして帰路につきました。