日本は「衰退途上国」に落ちぶれてしまうのか(時事通信フォト)

 新元号「令和」が始まったが、いざ日本の将来はというと決して明るいものとは言えない。1997年の消費増税が実施されてから、デフレに突入し、20年以上も日本の実質賃金は下がる一方で、可処分所得は年間50万円も減った。だからこそ、大胆な金融緩和と財政政策、成長戦略を掲げる第二次安倍政権への期待は高かった。しかし、ご存じのように大胆な金融緩和は成功したものの、デフレからは脱却できてはいない。こんなに長期間デフレに苦しめられた国は日本以外にない。なぜ、アベノミクスは失敗したのか。そして、日本の未来はどうなるのか。『令和日本・再生計画~前内閣官房参与の救国の提言』(小学館新書)を上梓した、6年にわたって安倍内閣のブレーンとして内閣官房参与を務めた著者の京都大学大学院教授の藤井聡氏に話を聞いた。

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 安倍内閣の1丁目1番地の政策は何をおいてもアベノミクスによるデフレ脱却と経済再生だった。デフレ脱却には大胆な金融政策と財政政策は当たり前の政策である。その点、「第1の矢」である金融政策は申し分なき対応が成された。金融政策とは、日本銀行が供給する資金量である「マネタリーベース」を増やしていく対策だ。第二次安倍政権発足から2018年時点で実に4倍までに膨らんでいる。そういう意味では金融政策は成功したといっていい。

 ところが、「第2の矢」である財政政策はまったく放たれていない。誤解している人も多いが、安倍政権は「積極財政」などではなく、超のつく「緊縮財政」なのだ。1998年や2009年頃にはGDPの10%程度、約50兆円程度を市場に供給していたが、安倍政権になってからは資金の供給量は年々減少していき、2017年には3%以下(11兆円程度)にまで縮小している。ここまで激しい緊縮内閣に変貌してしまったのは2014年に消費増税を断行したことによる。消費増税をして大量のマネーを市場から吸い上げている一方で、その大半(8割)を、事実上、政府の借金の縮小に回してしまい、市場にはほとんど環流させなかったため、急激に、市場への供給マネーが縮小してしまった。

 その結果、何が起こったか。実体経済から金融市場にマネーが逆流してしまったために、国民のポケットに供給するマネーは、増えるどころか逆に縮小してしまった。つまり、実質賃金は過去に類例のないスピードで激しく下落している。その落ち込みは、1997年の消費増税時よりも、2008年のリーマンショック時よりも、遙かに激しい。2012年の第二次安倍政権発足時よりも4.1%も国民は貧困化してしまったのである。すべては2014年の消費増税が諸悪の根源である。にもかかわらず、今年10月にはさらに8%から10%へと消費増税するというのだから理解に苦しむばかりだ。日本を再生させるためにも断固阻止しなければならない。

 GDPの視点からいえば、安倍政権下で敬愛は成長している。消費増税によって内需が冷え込み、賃金も下落しているにもかかわらず、経済が成長している理由──それはアメリカをはじめとする「世界経済が好調なおかげで、輸出が伸びているから」なのだ。もちろん、アベノミクスによる円安の影響もあるが、消費増税以降の「経済成長」は、他力本願に過ぎない。アメリカ等の好景気がなければ、安倍内閣機の日本経済は「ゼロ成長」だったのである。各種の経済指標が好調なのに、それが個人で実感できないのは、こういうカラクリがあったからだ。

 問題なのは財務省による緊縮財政に尽きる。

 前述の消費増税に規制緩和、そして緊縮財政はいずれもインフレ対策であり、デフレから脱却できないのは当然だ。しかも「プライマリーバランス黒字化」を閣議決定させてしまったため、科学技術や教育、防衛費、インフラ整備といった重要分野に大胆な財政出動が出来ない。そもそも「プライバシーバランス黒字化」とは日本の財政赤字を減らすというお題目だが、日本が財政破綻する可能性は限りなく低い。

 

 さらに言えば、現在アメリカで脚光を浴びている「MMT」(現代貨幣理論)というものがある。これは日本やアメリカのように独自通貨建て国債市価発行しない国は通過を少なくとも過剰なインフレになるまでは限度なく発行できるため、デフレ下の日本が債務不履行になることは現実的にはほとんどあり得ないという「事実」を明らかにしている理論だ。そのため、今の日本で国債の発行残高を含む政府負債を含む政府負債が増大しても問題などない。

 一方、国会で通過した法案は、「移民政策」をはじめとして、種子法の廃止、農協改革、IRカジノの解禁、水道の民営化……などいずれも、日本のマーケットへの諸外国の大企業の参入を促すばかりだ。まさに今、「日本が売られている」状況に至っている。一部の「政商」が日本の富を海外に売り渡し、自分の会社の懐を潤しているのだ。

 さらには日米FTAの交渉を始めるに至っている。トランプ政権は、アメリカの対日貿易赤字の存在を問題視し、この貿易不均衡を是正せよと激しい圧力を日本政府にかけている。今のTPPはアメリカ抜きで発効されたが、いざ日米FTAの交渉では、TPPで日本が「差し出した」もの以上のものを「差し出す」ことを前提としてとして、日米FTAの交渉が進められるのは必至だ。

 このままでは日本は30年後にはアジアの貧国の一つとなってしまうのは確実だ。試算したところ現状が続くと世界3位の先進国どころか、現在の6割程度の年間所得250万円(中央値)へと下落し、史上初の「衰退途上国」に落ちぶれる。他国は現在の2倍に成長するにもかかわらずだ。ではどうすればいいのか。まず今、日本が衰退しているのは、繰り返すが「緊縮」主義によってデフレが深刻化しているからだ。したがって、日本再生の第一歩として、「反緊縮」が必要不可欠だ。

 それと同時に日本において「グローバリズム」とそれと連動して進められる「構造改革」がもたらす過激な自由競争の帰結として、国内産業、そして社会が激しく疲弊している。だから、日本再生のためにはこれを食い止め、過剰な自由競争を強いる代わりに、自由主義経済体制を基調としつつも、それぞれの地域産業や地域社会、文化を適切に保護し、かつ、様々な主体の間の「連携」を奨励していくことが必要だ。

 すなわち、反グローバル化・反構造改革を通した「保護・連携」の強化が必要だ。そして、対米自立を起点とした「自律・独立の確保」が必要なのである。紙幅の都合上、残りはカットするが、筆者らは仲間と共に「令和八策」というものを作成した。これらが実現すれば、必ずや日本は立ち直ることが出来ると確信している。(『令和日本・再生計画』より)