ギリシャ神話あれこれ:レトの出産

 
 出産というのは、ホントに痛い。痛いとは聞いていたけど、実際に経験すると、もう二度と産めるものか、と思うくらい痛い。
 私の場合、受験勉強の無理な姿勢が祟って、3ヶ月も入院する切迫早産となり、そのせいで超安産だったのだけれど、それでもバカ痛かった。例えると、でっかい漬物石がお腹のなかに入っていて、それがだんだんに膨張してくる感じ。
 
 分娩室に入る前の浣腸が痛い。陣痛はもちろん痛い。赤ん坊の頭が出てきた頃に、麻酔なしで、ハサミで産道の出口辺りをチョキンと切られるのも痛い。産まれた直後に、その切り込みを麻酔なしで縫うのも痛い。その抜糸がまた痛い。おまけに、母乳を多く出すために乳腺を開く、そのマッサージまで痛い。痛いことずくめ。
 よく、お腹を痛めて産んだ子だから可愛い、と言うが、これは真っ赤な嘘だと思う。そんなら虐待なんて、起きるはずがない。象というのは超難産で(でっかいもんね)、産んだ途端に母象は、自分を苦しめた赤ちゃん象を踏み潰そうとするらしい。それを止めるために、象は群れで暮らすのだとか。 

 私は、痛いのがイヤなので、もう二度と産まないだろうな。坊はブーブー言うけれど。
 
 あるとき、例によってゼウス神は、ティタン神族である夜闇の女神レト(ラトナ)を見初めて、口説き落とす。結果、レトは身籠るが、このときゼウスは、「最も輝かしい双子神を産むだろう」と予言する。
 この予言を耳にしたヘラ神は猛烈に嫉妬し、そんなものを産ませてなるものかと、凄まじい出産妨害に出る。

 ヘラは、一度でも太陽の当たったことのある地は、レトに産所を貸してはならない、と厳命を下す。ヘラのこの呪詛によって、レトは産褥の地を奪われ、身重の身体でさまよい歩く。
 もうダメポと思われたとき、産所を与えるため、浮島であるデロス島が海から浮上する。

 さてさて、この浮島の正体は実は、レトの妹、星の女神アステリア。ゼウスはその昔、レトに手を出す一方で、アステリアにも求愛した。彼女は拒絶し、ウズラに変身して逃げたが、ゼウスも鷹になって追いかける。逃げられなくなった彼女は、海に飛び込み、今度は岩に姿を変えてしまった。
 以来、海中を漂っていたこの島は、今まで太陽が当たったことがない。で、レトは出産の地をここに決める。

 が、ヘラの妨害はそれだけでは終わらない。今度は自分の娘、出産の女神エイレイテュイア(ルキナ)を、オリュンポスの金の雲のなかに閉じ込めてしまう。エイレイテュイアが来なければ、世の女性は誰も出産することができない。で、レトは9日9晩も陣痛に苦しみ続ける(痛いだろーな)。
 レトを囲んでいた女神たちが、見かねて、虹の女神イリスを使いにやって、エイレイテュイアを呼ぶ。エイレイテュイアがヘラの眼を盗んで、デロス島にやって来ると、ようやくレトは、無事赤ん坊を出産できた。

 これが、光明の双子神アポロンとアルテミス。彼らはゼウスの予言どおり、輝かしい、優秀な神となった。

 超難産に耐えて双子を産むなんて、レトは偉いねえ。

 画像は、ヤン・ブリューゲル(父)「レトとリュキアの農民」。

  ヤン・ブリューゲル(父)(Jan Bruegel the Elder, 1568-1625, Flemish)
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