世界をスケッチ旅行してまわりたい絵描きの卵の備忘録と雑記
魔法の絨毯 -美術館めぐりとスケッチ旅行-
ムルナウの日々
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ドイツ表現主義のグループ「青騎士(Der Blaue Reiter)」の女流画家、ガブリエレ・ミュンター(Gabriele Münter)の夫がヤウレンスキーだと勝手に勘違いしていた私。カンディンスキーじゃないの? と最近相棒に指摘されて、確かめてみたらやっぱりカンディンスキーだった。
つまりこの数年間、私は、ミュンターを自分の都合であっさり捨て去った不実の罪を、間違えてヤウレンスキーに押しつけていたわけ。ゴメンね、ヤウレンスキー。
自由を愛する裕福な両親のもとで、乗馬やダンス、音楽を愛して育ち、やがて絵を学ぶようになったミュンター。後の彼女の絵に見られる伸びやかさ、心地よい諧調とリズムは、彼女生来のものだったと思う。
両親の死をきっかけに、2年に渡るアメリカ外遊に出た後、ミュンヘンで絵の勉強を再開した彼女は、画塾「ファランクス」で、11歳年上のロシア人画家、ヴァシリー・カンディンスキーと出会う。師と教え子は次第に親しくなり、塾生たちに隠れて交際、やがて婚約へ……
が、カンディンスキーにはモスクワから連れてきていたロシア人妻アーニャがいた。妻のもとを去った彼(それでも妻を訪れ続けるが)と共に、ミュンターは長い旅に出る。5年ものあいだ、制作を続けつつ転々と放浪する日々。
やがて再びミュンヘンへと戻り、ミュンターは二人のためにムルナウに家を買う。「ロシア人館」と呼ばれたこの家で、以降、ミュンターはカンディンスキーとともに毎夏を過ごす。ヤウレンスキーやヴェレフキン、クレー、マルク、マッケらも集うようになり、カンディンスキーは、マルクとともに「青騎士」を結成。
当初から師カンディンスキーの強烈な影響を受けていたミュンターだったが、ムルナウのガラス絵や木彫り像などの民俗工芸から霊感を得て、独特の、力強く鮮やかな色彩を用い始める。彼女の絵自体はあまり評価されていないのかも知れないけれど、私は昔っから好きだったんだ。
そして今度はカンディンスキーが、ミュンターのそうした画風から学ぶようになる。
が、第一次大戦が勃発すると、カンディンスキーはあっさり、故郷モスクワへと去ってゆく。再会を願ってスウェーデンで待ち続けるミュンターだが、カンディンスキーは会おうとしない。そして数年後、彼がロシア革命の渦中、27歳も年下のロシア人ニーナと再婚していたことを知る。
失意のなか、ミュンターはミュンヘンへ戻る。カンディンスキーもまた、妻を連れてドイツへと戻るが、二度と再びミュンターに会うことはなかった。それどころか、絵筆の取れない彼女に、自分の作品を返せ、と弁護士を寄こす……
結局は故国ロシアへと帰り、ロシア人妻へと帰ることが自分でもおそらく分かっていた、野蛮と精神美を併せ持つ“ロシア的”なカンディンスキーを、才走り、理屈っぽく、女の教え子に諭されるのをおそらく快しとしなかったカンディンスキーを、なぜミュンターはあんなに一途に愛したのだろう?
再び伴侶を得て、共にナチス迫害からカンディンスキーの絵を守ったミュンター。が、あのムルナウの家で一人晩年を送ったと聞くと、長生きはしたくないな、と思ってしまう。
画像は、ミュンター「鳥たちの朝食」。
ガブリエレ・ミュンター(Gabriele Münter, 1877-1962, German)
他、左から、
「黒い仮面とバラ」
「雪のなかのコッヘルの小屋」
「人形を抱いた少女」
「無題」
「自画像」
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