世界をスケッチ旅行してまわりたい絵描きの卵の備忘録と雑記
魔法の絨毯 -美術館めぐりとスケッチ旅行-
ドイツ表現主義と「頽廃芸術」
ドイツ表現主義は20世紀初頭、フォーヴィスムやキュビスムと並んでドイツで起こった、絵画を中心とした芸術運動のこと。
一般に表現主義(Expressionism)というのは、外界の印象を表現しようとする印象主義(Impressionism)に反抗する形で起こった流れで、外界の印象によって引き起こされる内面の感情のほうこそ表現に値する、という思想にもとづく。ドイツでは特にそれが社会を席巻する一大運動として広がったために、絵画史上、「表現主義」というタームは「ドイツ表現主義」と同義で扱われることも多い。
ドイツ表現主義の代表的なグループとしては、キルヒナー率いるドレスデンの「ブリュッケ(Die Brücke 橋)」、カンディンスキー率いるミュンヘンの「青騎士(der Blaue Reiter)」の二つがある。このうち前者は、キルヒナー色が圧倒的に強すぎる。不協和音のようなぎすぎすした、神経に残る線描と色彩は、キルヒナーなしでは多分あり得なかった。
一方、後者のほうは、画風の幅に広がりがある。理由としては、国際的に多くの前衛画家たちが多彩に参加していたから、男性画家だけでなく女性画家もいたから、何より、主催画家カンディンスキーよりもその周辺画家たちのほうが才能豊かだったから、等々。なので、画壇への影響としては、より大きいものがあった。
急速に発展し、第一次大戦へと突入していった当時ドイツの世相を反映して、人間社会の危機、頽廃、崩壊、喪失といった予感への不安や疑念、焦燥、苦悩等々、こうしたものが、描き手の内面を通して描かれたドイツ表現主義の絵。あるいは意図的に主情的に表現され、あるいは自然と表出した、それらの絵が、既存社会への叛逆と映ったとしても、まあ不思議ではない。
原色を多用した激しい色彩にも関わらず暗影を帯び、非現実的な造形のなかに暗喩を込め、実際にその前に立つ人々を動揺させるビジュアル・イメージというのは、考えてみれば凄いものがある。
大時代的で狭量な古典美しか理解しないヒトラーは、そりゃあ毛嫌いするだろう。ナチス権力はこれらの絵を、ドイツ民族感情を害する「頽廃芸術」とレッテルを貼り、大々的なキャンペーンを張って一掃した。
古典美以降の著名な画家たちが晒しものにされた「退廃芸術展」。その歪んだ意図を捨象すれば、豪華絢爛な展覧会だっただろうな、と思う。
画像は、シェーンベルク「赤い凝視」。
アルノルト・シェーンベルク(Arnold Schönberg, 1874-1951, Austrian composer)
他、左から、
カンペンドンク「横たわる裸婦」
ハインリヒ・カンペンドンク(Heinrich Campendonk, 1889-1957, German)
マルク「二人の立つ裸婦と緑の岩」
フランツ・マルク(Franz Marc, 1880-1916, German)
キルヒナー「日本傘の下の若い女」
エルンスト・ルートヴィヒ・キルヒナー
(Ernst Ludwig Kirchner, 1880-1938, German)
ミュラー「横たわる女」
オットー・ミュラー(Otto Mueller, 1874-1930, German)
ペヒシュタイン「鏡のある静物」
マックス・ペヒシュタイン(Max Pechstein, 1881-1955, German)
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